No.1119325 椰子の実のきもちかいらのんこさん 2023-04-27 12:14:58 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:231 閲覧ユーザー数:231 |
乾いた音を立てて、目の前に木片がはじけた。
「わりい、大丈夫か?」
「大丈夫。避けるのももう慣れたし。」
「……。」
「何本目?」
「17本目。」
木刀だった木片を拾いながらヒューザが言う。
よく覚えてるなあ、と思う。
「またかヒューザ。お前、スジはいいが、
力の加減がなっちゃおらんの。
木刀使うてるうちに木刀に教えてもらうんじゃな。」
いつの間にか横で見ていたバルチャ爺の声。…と、いうことは。
「さてそろそろ稽古は仕舞いじゃ。先に火は起こしておくからの。
夕飯の準備にしておくれ。ほれヒューザ、そいつは貸せ。薪にするでな。」
「……ああ。」
一瞬、微妙な表情を浮かべて、ヒューザは木片を渡す。
いつも、こうだ。
知ってる。
ヒューザは、自分の前から自分のものが消えるのを、人一倍嫌う。
----------
「よかったの?」
「何がだよ。」
「薪にしたくなかったんでしょ?」
「……別に。とっといたって仕方ないだろ。」
夕食のあと。
洗ったお皿を隣でふいていたヒューザに聞いてみる。
「まあ、あの薪で焼いた魚、おいしかったからいいか。ね。」
「……お前、いつもそうだよな。」
「そう?」
ああ、そういえば。
孤児になってつらくないかと聞かれたときにも、
ここでみんなに会えたのはよかったと答えたっけ。
「オレはそんな風には思えねえな…。」
ヒューザは、もう手の中にないものの事を、いつまでも心に留める。
小さい頃に拾った貝殻、折れた木刀、……血のつながった家族との絆も。
たぶん、ヒューザも辛いんじゃないかな。全部心に置いておくのは。
だから、あまり自分から、何かに入れ込んだりしない。
親を恨んでいないのかと聞かれたこともあった。
ヒューザは、ヒューザを孤児にした親を、憎んでしまっているのかも。
でもきっと、…いつまでも、心の中で大事にしていることの裏返し。
「お前ほんとマイペースだよな。」
そうだね。
ヒューザがかわりに怒ってくれるけど。
「何本目?」
「17本目。」
「またかヒューザ。」
バルチャ爺さんの忠告も17回目だ。
木刀が薪にされちまうのもな。
……なんでこんなに執着しちまうのか。
ガキの時、初めての「自分のもの」だった最初の木刀なら、まあ大事にしてたけどな。
爺さんが、問題しか起こさなかったオレに、
『これで正しい力の使い方を知れ、そうすればその力で世界を回ることだってできるんだぞ』
とかなんとか、大仰なこと言ってくれた木刀だったな。
オレには……オレ達には、自分のもの、が少ないからかな。
なくなってしまうもの……二度と手に入らないものが、いつまでも頭から離れてくれねえ。
こんなに執着するなら、自分のものなんか、ない方が身軽かも知れないけどな。
----------
「薪にしたくなかったんでしょ?」
片づけついでにさらっと聞いてくる。こいつはいつもこうだ。
「まあ、あの薪で焼いた魚、おいしかったからいいか。」
……こいつは、いつもこうだ。
辛いことも経験にしちまう。いつもマイペースに笑ってな。
この村でキツいことがあっても、……親のことを思い出しても。
でも、本当にどう思ってるかはわからないのかも知れない、とも言ってた。
だから、親に会いに行くって。
オレはお前みたいには思えねえよ。
だから、自分からはなるべく、執着しないで生きてくしかない。
大事なものは、自分からは持てない。
追えない。
……そう、思ってた。
----------
この後オレは、シェルナーになれず、一人前の証も持たずに旅立つことになる。
この腕一本で世界を回る方が、自分らしい、なんて思ってた。
何もわかってなかった。
「オレも、この孤児院でみんなと、お前と過ごせたこと、」
そのことは、よかったかも知れない……とも、伝えないまま。
オレと「独り」を分け合ってくれた奴を
この手で、この世からなくしてしまうことになるなんて。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
【ネタバレ】 DQX
3.4を前にうちの魚たちを衝動的に掘り下げてみただけのテキスト、なので
作者的にはバレのつもりないんですが、3.4バレみたいになってます……
【その他】 1ページ目がいわゆる「器」、2ページ目がヒューザ視点です
続きを表示