五章 響くサンダーフォール
リョウたちが森に入っていた同時刻。
魔連南支部の屋上ヘリポートでは、和装姿の女性が腕を組み、輸送ヘリの前で立っていた。
その女性は、長い髪を後ろで縛り、両腰に一本ずつ二本の刀を提げているといった、この世界では、珍しい格好をしている。
すると急に、屋上に設けられていたエレベータの扉が開いた。
そこから、ウエーブのかかった長い金髪のスーツ姿の女性が現れた。
その女性は袴の女性に気付くと、歩み寄った。
その姿に、袴の女性はイライラしながら、その女性を睨みつけた。
「遅い! 遅刻だぞ! セリーヌ」
「ごめんなさい。サクヤ。遅くなったわ」
セリーヌと呼ばれた女性は、サクヤに謝るが、その顔は笑みを浮かべていた。
その顔にサクヤはさらに苛立ち、
「ほんとに申し訳ないと思っているのか? お前は」と突っ込んだ。
「そんなことより。良いの? 急がなくて?」
と、サクヤの突っ込みを軽くかわして、ヘリに乗り込んだ。
サクヤも「お前のせいだろ!」と突っ込み、あとを追って、ヘリに乗った。
その瞬間、ヘリは大空に上がると、目的地向かって飛びたった。
そのヘリの中、セリーヌがサクヤに向かって話しかける。
「そういえば、貴女と同じ任務に就くの久しぶりね」
「そうだな。所属する支部は同じでも、お前は特殊機動隊でいろんなところに飛び回っているし、私は教導隊の実習中だしな。なかなか遭えないのは当たり前だな」
と、サクヤは言った。
「リリもマリアさんの横で、忙しくしてるから、なかなか会えなくて寂しいわね」
と、セリーヌも寂しそうに付足した。
そんなセリーヌの姿に、サクヤは呆れると、
「お前、任務前にやる気の下がること言うんじゃない」と言った。
その言葉に、セリーヌはすぐに笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。でも、今回は大丈夫でしょ。〝竜(ドラゴン)殺し(キラー)〟のサクヤ」
セリーヌが茶化すと、サクヤはウンザリしたような表情を浮かべた。
「……その名で呼ぶんじゃない。あんまり好きではないんだから」
そんな会話をしながら、二人を乗せたヘリは目的地に向かう。
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森の中でドラゴンは大きな咆哮あげた。
その声で空気は震え、四人を威圧する。
その姿に、各々感想がもれた。
「・・・おおきい・・・」
「これがドラゴン・・・」
「おもしれェ! どう料理してやろうか?」
そんな三人の中、リョウは一人だけ、無言でドラゴンを眺めていた。
その姿に気付いたリニアは、楽しそうな笑みを浮かべて、
「おいおい! まさか、リョウ君はビビッたのかな?」とバカにしたように言った。
それをリョウは「・・・いや」と否定すると、両目を瞑った。
そして「久しぶりに・・・面白くなってきた」と楽しそうに言うと、両目を開けた。
その目の色は赤く染まっていた。
「・・・そうじゃねーと」
リニアも口の端を上げ、笑みを浮かべた。
そんな二人とは違い、リリは慌てていた。
「二人とも何笑ってるの! こんな近くにこんな大きなものがいるのに」
そんなリリの姿に、サブは後ろ頭をかきながら、
「リリはあきらめろ。こいつらはただの戦闘バカなんだから」と言うと、ドラゴンに向かって構えた。
その言葉に、リリも諦めたようにため息をつくと、構える。
ドラゴンはもう一度、咆哮をあげると翼を羽ばたかせ、飛び上がった。
すると、大きな口を開け、そこから〝炎弾〟をリリとリョウに向かって、吐き出した。
その瞬間、リリはリョウの前に出ると、防御魔法〝聖(アイ)盾(ギス)〟を発動させ、見えない壁を展開させて、防いだ。
それを合図に、三人は飛び出した。
リニアは大きな木に飛び乗ると、それを台にして、ドラゴンに向かって、飛び上がった。
そのままドラゴンに向かって、魔力によって右拳に重くする〝重力拳〟を叩き込んだ。
そのリニアの攻撃に、ドラゴンが一瞬よろけるが、すぐに立て直した。
そのことに、リニアは驚いたが、ドラゴンが腕を振り上げたのに、すぐに気付き、ガードの体制をとった、
ドラゴンの振り下ろされた攻撃に、リニアは地面に叩きつけられた。
「リニア――ッ!」
リョウは叫ぶが、すぐさま刀に魔力を溜めると、炎の斬撃〝炎刀斬〟を放った。
その攻撃はドラゴンに直撃したが、あまりダメージはなかった様だった。
その追撃で、サブはドラゴンに向かって右手を突き出し、短い詠唱すると、手の平から魔方陣が現れた。
その魔法陣から水でできた竜が飛び出した。
その魔法〝水竜弾〟はドラゴンに直撃すると、その衝撃でそのまま墜落した。
墜落地点から砂埃が巻き上がる。
サブは落下地点を見つめながら「やったか?」と言った。
だが、ドラゴンは立ち上がり、怒ったのか、高らかと咆哮をあげ、巻き上がる砂埃を吹き飛ばした。
リニアはその姿を見ながら起き上がると、
「・・・マジかよ。バカみてぇに頑丈じゃねぇか」
と言い、苦笑いを浮かべた。
三人が再び飛び出そうと構えたとき、不意にリリが「みんな聞いて!」と大声を出した。
「これから大きな魔法のために長い詠唱に入るわ。だがら、みんなに相手を引き付けてほしい・・・」
と、リリは三人に同意を求めた。
リニアは「おもしれェ。良いぜ。のった」と笑みを作って答えた。
サブも「いいぜ。ここはリリに任せる」と笑顔を向けて答えた。
リョウはリリに背中を向けたまま「安心して詠唱に集中しろ」と言った。
リリはその言葉に「うん」と頷いた。
すると、三人はドラゴンに向けて、同時に走り出した。
リリも〝飛行〟の魔法で、空に上がり、詠唱を始めと、足元から魔方陣が表われた。
ドラゴンが何かしようと、口の中を燃やし始めた。
すると、リリ向けて、炎弾を吐こうと狙い始めた。
だが、リョウが間合いに入るのが速かった。リョウは勢いのまま、上段から刀を振り下ろし、ドラゴンの頭に叩き込んだ。皮膚が硬く斬ることができなかったが、顔が下がり、炎弾が森の方へ飛んでいった。
すると、ドラゴンはすぐに顔を上げ、リョウを睨みつけると、右腕を振った。
リョウはぶつかる瞬間、刀でガードするが、そのまま横に吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。
ドラゴンが体勢を立て直す前に、サブとリニアが左右同時に攻撃をしかけた。
しかし、ドラゴンの鱗は思ったより硬く、ダメージはあまり与えられない。
次の瞬間、ドラゴンは尻尾でけん制するが、二人は距離をとってかわした。
「硬てェーなぁ。分厚い鉄板を殴ってるみてェだ」
「さすがドラゴンか」
と言うと、サブは剣に魔力を溜め始めた。
「これでも、喰らえ!」
と掛け声とともに剣を振り上げた。剣からは細い水柱が現れ、地面を抉りながら、ドラゴンに向かっていった。
その魔法〝水柱斬〟が直撃すると、ドラゴンの胴体に大きな切り傷が付け、血しぶきが舞った。
その攻撃を喰らい、ドラゴンはよろけたが、倒れることなく、サブを睨み付けた。
その姿に、サブは顔を引きつらせながら、
「・・・おいおい。どれだけタフなんだよ」
と苦笑いを浮かべながら言った。
ドラゴンはサブに向けて、炎弾を三連続で吐き出した。
それをサブはシールドの魔法を張って、防ごうとするが、二発までしか受けきれず、シールドが破壊され、残り一発をもろに喰らい、吹き飛ばされてしまった。
「うらあぁぁぁぁ・・・」
リニアは叫びながら、ドラゴンに飛び込むが、尻尾をあしらわれてしまった。
「・・・我が前に・・・」
一方、詠唱が続くにつれ、リリの頭上に黒い雲が現れ、空を覆った。
ドラゴンは転がっているリニアに向かって、ゆっくり歩み寄る。
リリの周りの黒い雲がどんどん範囲を広げていく。
ドラゴンは倒れているリニアの前まで来ると、右足を上げ、踏み潰す体制に入った。
「・・・なせ!」
詠唱が終わり、リリは左手を高らかと上げた。
「リニアさん! 離れて!」
その掛け声に反応したリニアは、すぐに跳ね除け、ドラゴン攻撃をかわした。
「サンダー」
リリの足元にあった魔方陣から電流が流れ、足元から左手に流れると、頭上の黒い雲に向かって放った。
「フォールッ!」
その掛け声ともにドラゴンに向けて左手を振り下ろした。
すると、黒い雲から数発の雷が、ドラゴンに向かって落ちた。
雷を喰らったドラゴンは、すごい声を上げ、感電する。
周りに砂埃が立ち上った。
それを見たサブは寝転んだまま、
「よっしゃあ! これじゃあさすがに立っていられねぇだろ」
と小さくガッツポーズを作って言った。
誰もが倒したと確信した。
雷が止み、リリはゆっくり降りた。
リニアはその姿を見ながら、
「リリ! やるじゃねぇか!」と言った。
「・・・うん・・・」
リリはかなりの魔力を消費したのか、その場にへたり込んでしまった。
でも、リニアに笑顔で返した。
だが、その笑顔はすぐに凍りついた。
砂埃からものすごい咆哮を上げ、砂埃を吹き飛んだ。
四人は驚き、一斉にその方向を向く。
そこにいたのは、ドラゴンがボロボロの姿でまだ立っていた。
その姿に、リリは驚くと、
「う・・・うそでしょ?」と呟いた。
すると、ドラゴンと目があってしまった。
次の瞬間、ドラゴンは大きな口を開けると、炎が現れた。
すぐにリョウは「リリ! 早く離れろ!」と叫ぶ。
だが、リリは逃げようにも魔力を消費しすぎて動けない。
そして、ドラゴンはリリに向かって、炎弾を吐き出した。
リョウはすぐにリリの方へ向かうが、ダメージと距離がありすぎて、間に合わない。
放たれた炎弾は、リリの所で爆発してしまった。
その場に砂埃が巻き上がる。
リョウは足を止め、その様子を唖然と見ているしかなかった。
徐々に砂埃が収まっていく。
そこから現れたのは、二人の女の子だった。
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4の続きです。どっかで聞いたことがある言葉があるかもしれません。すみません。思っている通りです。