No.110074

ガラクタロボット05 お姫様の話

イツミンさん

絵本みたいな感じ。
全部で五話の五つ目。
つまり最終回で大団円。

感想お待ちしております。

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2009-12-02 06:22:17 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:688   閲覧ユーザー数:669

 

 

 

 

 

 

 

 

                お姫様の話

 

 

 

 

 

 

 

               一

 

 ガラクタロボットがモデルを務めた写真が張り出されて、数週間が過ぎました。

 写真の隣には実物のドレスも飾ってあるのに、道行く人の視線は写真の方に寄せられています。

 写真の中には、純白のドレスを着て優しく微笑むガラクタロボットの姿があります。

 ガラクタロボットが、幸せそうな優しい笑顔で写真の中にいます。

 その写真の美しいロボットは、町の噂になりました。

 お陰で男性の洋服の売り上げは伸びましたが、洋服を買っていく人は皆決まって、

「あのモデルのロボットは、どこの製品だい?」

 と聞いてくるのです。

 ガラクタロボットはまだお店でお手伝いをしているので、本人に直接聞いてくる人もいます。

 だけれど、ガラクタロボットもわからないから、それを答えることは出来ません。

 ある日のことです。

「ありがとう、君のお陰で売り上げが上がったよ。だけど、君は本当に誰なのかな?」

 お店で洋服をたたむガラクタロボットに、男性は聞きました。

 男性は幾つものロボットのカタログを見ました。

 だけれど、その中にはガラクタロボットを見つけられなかったのです。

「わかりません。私はガラクタから生まれたので」

 ガラクタロボットは正直に言います。

「いや、それでも顔は既製品だろう?それなのに、どれにも載っていない」

 男性は放り出してあるカタログを手で指し示して言います。

 ガラクタロボットは首をかしげます。

「それならば、試作品か何かなのでしょうか?」

「かも知れないな…」

 ガラクタロボットが呟き、男性もつぶやきました。

 その時です。

 お店のドアが開きました。

「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ」

 男性とガラクタロボットが同時に言います。

 入ってきたのは中年の男性と、同じくらいの歳の女性です。

「あ!」

 男性が声を上げ、深々とお辞儀をしました。

「いい、頭を上げなさい」

 中年の男性がそう言うと、男性は頭を上げます。

「この店に美しいロボットがいると聞いたが、君だね?」

 中年の男性が、ガラクタロボットに言いました。

「美しいかどうかはわかりませんが、ここに居るロボットは私だけです」

 ガラクタロボットは言います。

 と、男性が大慌てでガラクタロボットに近寄ってきました。

「君、まずお辞儀だ。この人は王様だよ!」

 男性があわてて言います。

 そう、お店に入ってきたのは王様だったのです。

「いや、いい。親にそんなことをする娘もいないだろう」

 男性を手で制して、王様は一歩ガラクタロボットに近づきます。

「うん、確かに私たちの娘だ」

 王様の言葉に、ガラクタロボットは首を傾げました。

「ですが、私はロボットです」

「はは、それは知っている。だけど、君は私の娘だよ」

 ガラクタロボットの答えに、王様は笑いました。

 男性はぽかんとした顔で王様の言葉を聞いています。

「娘…。この子がお姫様ですか…?」

 男性はガラクタロボットの顔まじまじと見つめました。

 言われて見れば、気品ある表情をしているようにも見えます。

「私たちには子供が出来なくてね、それで、作らせたんだよ」

 王様は言いました。

 だけれど、ガラクタロボットはガラクタから生まれたからガラクタロボットです。

 ガラクタロボットは自分がガラクタから生まれたと思ってきたのです。

 周りの人間やロボットたちも、そう思ったから、ガラクタロボットなどと呼んだのです。

 ガラクタロボットの最初の記憶は、ガラクタ置き場から始まっているのです。

「ですが王様、私はガラクタ置き場から生まれました。棄てられていたのです」

 ガラクタロボットは胸に手を当てて言いました。

「私も気づかないうちに、妃が棄ててしまったのだよ」

 王様は言います。

 棄てられてということは、必要ではないということです。

 ガラクタロボットにも、それくらいはわかります。

「王様、王妃様が私を嫌っていたのならば、私はやはりあなたの娘ではありません」

 ガラクタロボットはそう言い、頭を深々と下げました。

「いいえ」

 ここで初めて、中年の女性が声を発しました。

「私はあなたを嫌って棄てたのではありません」

 女性は王妃様だったのです。

 王妃様は進み出て、ガラクタロボットをその胸に抱きました。

「よく帰ってきましたね」

 ガラクタロボットを離し、王妃様は言います。

「私はあなたを嫌ったのではありません。城で生まれ、城に育ったのでは、正しい教育が出来ないでしょう。外の世界を知ることが出来ないでしょう。私はそれを嫌ったのです」

 王妃様は続けます。

「あなたは私たちと違い、その命は永遠です。私たちの命が尽きた時、この国を統べるのはあなたになるでしょう。そうなっては、裕福な城の生活しか知らないようでは困るのです」

 王妃様は言いました。

 確かに、ガラクタロボットはいろいろなことを経験しました。

ロボットに使うには変な言葉ですが、人間として大変な成長が出来たことでしょう。

「あなたは立派に成長してくれました。立派な私たちの娘です」

 王妃様がそう言うと、王様が外にいた従者を呼びました。

 従者は豪華な飾り付けされた箱を抱えてきて、それを王様に差し出しました。

 王様はそれを開けて、中から綺麗に飾り付けされた冠を取り出します。

 冠はガラクタロボットの頭に載せられました。

 その時、拍手が起こりました。

 ガラクタロボットが拍手の方を振り向くと、男性が嬉しそうに手を叩いていました。

「すごいな、君がお姫様だったなんて、失礼なことをさせてしまったね」

 男性が言います。

 ガラクタロボットは首を振ります。

 王様も首を振りました。

「君がこの子をモデルにしなければ、私たちも噂を聞くことはなかった、君のお陰でもある」

 王様の言葉に、男性は頭を下げます。

「ありがたいお言葉でございます」

 男性はお辞儀から頭を上げると、ガラクタロボットに向き直りました。

「それではお姫様、店のドレスを、私からあなたにプレゼントいたしましょう」

 男性が言って跪き、

「ありがとうございます」

 ガラクタロボットもまた、男性に頭を下げました。

 かぶりなれていない冠が、少しずれました。

 

 

                二

 

 

 その事件はあっという間に町中に広がり、そしてあっという間に国中に広がりました。

 洋服屋のお店の女の子ロボットが、実はお姫様だったという嘘みたいな本当の話は、町から町へ、次々と伝わります。

 

 新聞には写真が載りました。

 

 真っ白なドレス

 女性らしい優しい笑顔

 破れてない綺麗な人工皮膚

 勝手に回ることのない左腕

 

 それはそれは美しい、そして優しい、ロボットのお姫様です。

 

 

「ああ!なんということだ!」

 おじさんは驚きました。

 その写真のお姫様は、確かにおじさんが肩を直して上げたあのガラクタロボットだったのです。

 おじさんはゴミ箱から二つに折れたねじを取り出すと、それを綺麗に洗い、お店に飾ることにしました。

 

 

 

「ママ、見て。あの子が写っているわ」

 女の子が写真を指差して言いました。

「本当ね」

 女性も女の子の肩越しに写真を見て言います。

 その写真のお姫様は確かに、女の子が仕草を教え、女性が人工皮膚を張り替えた、あのガラクタロボットだったのです。

 女性はガラクタロボットが人工皮膚を張り替えた時に使ったベッドを、これからは使わないで大切にしようと決めました。

 

 

 

「ドレスよりも綺麗だな」

 男性はディスプレイに飾られている服を見て、言いました。

 それはあの新作のドレスのモデルになったロボットが、ここに来たときに着ていた服です。

 そしてそのロボットは、お姫様だったのです。

 男性は誇らしげに頷くと、お店に入っていきました。

 

 

 

 やがて騒動は治まり、今日も一日が終わります。

 

 

 

 お城は新しいお姫様を、大歓迎で迎え入れました。

 

 ガラクタロボットは大歓迎の中、城内へと入っていきます。

 いえ、もうガラクタロボットは、ガラクタロボットではありません。

 

 

 きちんと固定された左腕。

 女の子らしい喋り方。

 可愛らしい笑顔。 

 真っ白いドレス。

 頭の上の、綺麗な飾りつけがされた冠。

 

 

 

 ガラクタロボットはきっと、これからはこう呼ばれるでしょう。

 

 

 

 

  素敵なお姫様 ―――と。

 

 


 
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