太陽都市の地下フロアは阿鼻叫喚の有様だった。ナパーム弾でも使われたのか、治安維持部隊の焼け焦げた死体がある一方で、氷に閉じ込められ氷像となった死体がそこら中に見受けられた。この異常な死に方はどれも紛い者が原因だ。何の道具も使わずたった二人の子供が、このような事をやってのけた。紛い者はそういう事が可能な存在なのだ。
「どうしても邪魔をするというなら、貴様たちも敵だ」
さらに地下のフロアで、紛い者の集団がにらみ合っている。治安維持部隊を葬ってきたブライアンとロジャーたち、そして紛い者たちの暴走を止めるために来たデーキスたち。
「同族と言えど、容赦はしない」
「それは、こっちのセリフだぜ!」
そう叫んでウォルターが前に飛び出た。
一方ブライアンが念じると彼の周りに火柱が生じ、ウォルターへ向かっていく。飲み込まれそうになった瞬間、ウォルターはホバーボートで天井すれすれまで高く飛び上がり、波のように迫りくる炎を飛び越えた。
「早い!」
「どうだ!」
そのまま無防備なブライアンへ突撃するつもりだったが、ロジャーが前に出ると、氷の壁が足元からせりあがって、ウォルターの正面に立ちふさがった。
「うわっ!」
危うく衝突しそうになったところで、ウォルターは身を翻した。炎と氷の超能力。その連携は予想以上の脅威だった。
「残念だったな。俺たちには隙はない」
「くそっ……!」
フライシュハッカーに選ばれただけあって、超能力の強さも使い方も他の超能力者と一味違う。
「お前たちのちんけな力じゃ、この壁を壊すことも俺たちを止めることもできまい。大人しくそこでじっとしているんだな」
壁の向こうから彼らのあざ笑う声が聞こえる。だが、デーキスが一人、氷の壁の前に出た。
「何をするつもりだ?」
「僕は…僕たちは、こんな足を止めるわけにはいかないんだ」
デーキスが両手を伸ばして氷の壁に触れる。
「はっ! 治安維持部隊の銃弾だって止められるこの壁を、どうにかできると思っているのか!」
超能力者はクオリアという原子を介して超能力を使う。ならば、この氷もクオリアの力で生み出されたものだ。それならばできるかもしれないとデーキスは考えていた。頭でイメージする。目の前にある氷の壁をクオリアの壁だと。そのクオリアに自分の超能力を反応させる。
すると、デーキスの触れた部分から音とともに亀裂が入る。
「おい、お前一体何を……!」
ビシッと大きな音とともに氷の壁全体がひび割れて、ロジャー達も起きている異常に気が付く。
「そんな! 俺の氷の壁がどうして……」
ガラガラと氷が砕けて再びデーキスとブライアンたちが対面する。
「貴様、何をした!」
ブライアンが発生させた火柱をデーキスへ飛ばす。
「逃げろデーキス!」
ウォルターが叫ぶも、デーキスはその場から動かない。先ほどと同じように向かってくる火柱に手をかざす。
デーキスの手から電撃の閃光が走って、炎とぶつかり合う。
「何で……使えるようになったばかりの超能力なんかに止められるんだ!?」
驚いているのは敵だけじゃなかった。味方であるウォルターたちも、デーキスがこれほど強い超能力が使えるのか驚いていた。もしかしたら、あのフライシュハッカーに匹敵するほどの力があるのではないか?
激しい超能力同士のぶつかり合いはすぐに終わることになった。背後から受けた衝撃でブライアンが倒れた。力をぶつけ合っていたデーキスは驚いて超能力をひっこめる。
「そうだ。お前たちでは彼に勝てないよ」
横やりを入れたのはスタークウェザーだった。仲間であるはずのブライアンに、背後から超能力をぶつけたのだ。
「スタークウェザー! お前何をしている!」
「あんた、ブライアンを……!」
ロジャーとブルメの二人がスタークウェザーをにらみつける。仲間であるブライアンを攻撃したのだから当然だが、本人はまったく気にしていないそぶりだった。
「あのままやり合ってたらどっちにしろ負けていたよ。ブルメはそれでいいの? そうなったら、フライシュハッカーに捨てられるよ?」
スタークウェザーの言葉に、ブルメはびくりと体を震わせた。
「ボクの言うとおりにしろ。フライシュハッカーに捨てられたくないなら」
スタークウェザーは悪魔のようにブルメに囁く。
「スタークウェザー、貴様まさかフライシュハッカー様を裏切るつもりか!」
ロジャーが超能力でスタークウェザーを捕えようとするが、ブルメを盾にするように身体を近づける。
「裏切る? そんなことしないよ。ちゃんとフライシュハッカーの目的のために行動しているさ」
「スタークウェザー! ブルメから離れろ!」
デーキスが近寄ろうとすると、頭上から突然水が降り注いだ。建物の消火装置が作動したようだが、これはブルメの力だろう。
「ボクは手伝うよ。彼の目的、この世界をめちゃくちゃにすることをね」
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超能力者同士の戦いが再び。その陰でスタークウェザーが怪しくほくそ笑む。