No.1077833

紙の月22話

ブルメたちとの邂逅。しかしデーキスたちは再び、同じ超能力者同士で戦うことになる。

2021-11-23 00:51:47 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:501   閲覧ユーザー数:501

「畜生、弾が出ないぞ!」

「これが紛い者の超能力なのか!?」

 狼狽える治安維持部隊の前にはブルメとスタークウェザー、そしてもう二人の紛い者の姿があった。

「やって頂戴、ブライアン、ロジャー」

 二人の紛い者の少年が前に出る。すると突如炎が、氷が地を這って治安維持部隊の隊員たちを襲う。

「ひいいいい!!」

「うわあああ!!」

 炎に包まれ悶える者、足元から凍らされて氷像のようになる者、そんな阿鼻叫喚の様子をスタークウェザーが一人退屈そうな表情で見ていた。

「やれやれ、虫みたいに湧いてくるな」

「時間の無駄だってのが分からないのかね? 旧人類どもは」

 ブライアンとロジャーはブルメやニコと同じ、フライシュハッカー直属の紛い者だ。同じで仲間になった者でも、特に強い力を持つとして選ばれ、ブルメの護衛としてスタークウェザーとこの二人が選ばれた。

 治安維持部隊の銃は電子制御されている。それをブルメの力で狂わせて、残りの二人で始末する。その繰り返しで治安維持部隊を追い払いながら、地下を目指していた。

 そこら中に彼らに葬られた治安維持部隊の隊員が転がっている。

「スタークウェザー、お前も手伝え」

「普段のお前なら、こういうのは喜んでしてただろう。何でこんな奴がフライシュハッカー様に選ばれたんだか」

 フライシュハッカー、様ね……フライシュハッカーの人形になって、他の紛い者よりも自分たちは優れていると勘違いしてるだけの単純な奴ら。どうせフライシュハッカーが何を考えているかも本当は知らないくせに……。 

 彼にとってこの二人は数多いる紛い者の一人にすぎない。ブルメもそうだ。視界から消えれば顔も思い出せなくなる。その程度の存在。

「いた! ようやく見つけた!」

 聞き覚えのある声。スタークウェザーが記憶している数少ない者のだ。喜びで思わず背筋がぞくぞくと震える。

 やっぱり、絶対来ると思っていた。一体今度はどんなことをするつもりだい? デーキス!

 デーキス・マーサーとその仲間たちの姿が見える。

「あいつは確か、フライシュハッカー様に歯向かった奴……」

「あの双子たちもそうだ。どうしてここに?」

 二人の背後でスタークウェザーの顔が喜びに変わるのと反対に、ブライアンとロジャーの顔が曇る。そしてブルメは、困惑しているのか胸の辺りを手で押さえながら、デーキスを見ていた。

「あなたたち、今頃何しに来たの?」

「この争いを止めに来たんだ」

 デーキスが答えると、ブルメを押しのけブライアンとロジャーの二人が答える。

「お前正気か?」

「同じ超能力者の癖に、人間どもの味方をするとはな……」

「そうじゃない。そもそも、僕たちだって同じ人間じゃないか。それなのに、こんな風に殺し合うなんておかしいじゃないか!」

 二人は鼻で笑った。デーキスの言葉は彼らにとってただの戯言でしかなかった。

「同じ人間だって? フライシュハッカー様が言っていただろう。僕たちは人類の進化、新人類だって」

「それに、この原因を作ったのは奴らの方だ。その狂った世界を壊すためにフライシュハッカー様は戦うことを選んだのだ」

「だけど……こんな事しても、たくさんの人が傷つくって……」

「だから何だっていうの」

 ブルメが言い放つ。

「人を傷つけておいて、自分たちがよければそれでいいっていうの? そんなの、絶対許せない……!」

 ブルメの表情から、並々ならぬ憎悪が感じられた。

「もし、邪魔をするというのなら例え同じ紛い者でも許さないわ」

 敵意や憎悪、そういった負の感情が自分たちに向けられる。この負の感情を現象として引き起こす。それが超能力者、紛い者なのだと、かつて学校に通っていた時に学んだのをデーキスは思い出した。

 それは魂が汚れているから。そんなはずはない! ヴァリスは言っていた。紛い者も人間も同じじゃないか。

 証明するためにも、デーキスはブルメたちと戦う決意を固めた。

 執政室の扉を開ける。鍵は掛かっておらず、市長の姿も見当たらない。ここまでくる途中で遭遇する可能性もあったが、太陽都市の管理者のような者は一人も見なかった。やはり、専用の避難経路があるのだろう。

 やつらの一人でもいなくなれば、もっと敵意を煽れたがそこは重要ではない。フライシュハッカーは市長の椅子に腰を下ろした。自分がこの太陽都市の王であるかのように。

 

 執政室のドアが開かれ、何かが投げ込まれる。フライシュハッカーは目を閉じた。瞼の裏からでも強い閃光を感じ、耳鳴りのような音が響く。それでもフライシュハッカーは全く意に介さなかった。

 目を開けると目の前には治安維持部隊の連中が驚いた様子でこちらを見ていた。既に何発も撃たれたようだが、一発もフライシュハッカーには届いていない。

 彼らを超能力で押し出す。ようやく聴覚が戻ってきた。生き残った治安維持部隊の連中がわめきながら逃げてゆく。

 後はブルメが管理コンピュータを支配するだけ。それまでここで待つだけだ。もし失敗したとしても、太陽都市が消えることには変わりない。そしてそれが火種となって超能力者と人類は争う事となり、やがて……。

 太陽が沈み、夜がくる。そして再び日が昇ることはない。一刻また一刻と滅びへ向かうだけだ。


 
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