No.106753

~世界一の思春~

ユングさん

久々に真・恋姫†無双の呉が舞台です。
今回は主役は思春です。

主役の名前は伏せてみましたが......我慢できなくなりました^^;

2009-11-13 00:44:26 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:3604   閲覧ユーザー数:3073

 

(1)

 

「はぁ...なぜこのようなことに...」

 

---ねぇ見て?あんな顔初めて見るわね?

 

---あぁ。私もあの表情は見たことがないな。

 

「一体あやつに何と言えば...そもそもこのようなもの私に似合う筈がないだろうに。」

 

---ふふっ。でも昨日までは何度姿見の前に立ったか分からないわよね?

 

---全くだ。その内「この世で一番美しいのは誰?」とでも言い出すかと思ったわ。

 

ことの発端は今日の朝議の終わりに一刀に言われたことから始まる。

 

 

「もう用意して貰っているから後で引き取ってきてくれ。」

 

「全く。何用で引き止めたかと思えば使い走りとはな。

 今日はちょうど町に行くつもりであったから良いが。」

 

「ごめんな。戻ったら声を掛けてくれ。」

 

「あぁ。」

 

思えばあの時安易に応えなければ良かったのだ。

 

 

(2)

 

「良くお似合いですよ。流石御遣い様がお見立てしただけのことはある。

 女性の装いの中では1、2を争うのだとか。

 いやはや、まさかここまでぴったりとは。」

 

そういってニコニコと笑いかけてくるのは、ここ最近町で評判の服屋の店主だ。

 

なんでも『天とのこらぼ』が売りとのことで若い女性には大人気の店だ。

 

遠く西の都からも、さる将軍様が遠乗りにかこつけてお忍びで買いに来るほどだそうだ。

 

この服に似合うものが"ここにいるぞ!!"と言わんばかりに。

 

「~~~~~ッ。」

 

なんだこれは?

 

やたらヒラヒラした誂えが実際は裸なのではと錯覚するほどだ。

 

服と同じ布を使っているのだろうか、頭部の飾りまで付いている。

 

だが正に自分の為に作られたかのように違和感と呼べるものは何一つない。

 

「ではそちらをお持ちになって下さい。

 御遣い様からもそのように言付かっております。」

 

「分かった。手間をかけたな、店主。」

 

「とんでもございません。

 またのご来店を心よりお待ちしております。」

 

中々の装飾のある木箱に服を戻し、それを手に店を出た。

 

 

(3)

 

「全く、このような使い番など私でなくても...」

 

木箱を脇に抱え、城への帰途に着きつつ一人ごちた。

 

「それにしても何と平和なことか。

 一人で街を歩くなどいつ振りだろうか。」

 

活気のある声が飛び交い、どこを見ても笑顔ばかりだ。

 

往来はこれまでとは比べ物にならないほど広く、子供達が飛び回っている。

 

「これがあやつの望む世界か。なんと心地よい。」

 

自然と頬が緩むのを感じたがふと背後に妙な気配を感じた。

 

「暴れ馬だ~~~!!!」

 

 

(4)

 

鞍も何も付いていない一頭の馬が猛然とこちらに走ってきていた。

 

真っ直ぐに...逃げ遅れた子供に向かい...

 

「ッ!!!」

 

体はすぐに反応することが出来た。

 

大きな戦はないものの時折起こる野盗の決起などに備え、日頃から鍛錬は欠かしていない。

 

子供と暴れ馬の間に立ち、今にもぶつかりそうな瞬間にふわりと馬の背に乗り、尾を引っ張りあげた。

 

ガクンッと前足が何かに取られたように体制を崩しかけたが、馬自身の興奮も収まりつつあり速度を落とすことに成功した。

 

「お姉ちゃん。ありがとう。」

 

馬を通りがかった警備兵に預けて終わると先程の子供がパタパタと近寄ってきた。

 

「怪我は無いか?痛いところは?」

 

「大丈夫。どこも痛くないよ。」

 

「そうか。良かったな。」

 

「うん!」

 

友達を見つけたのだろう、幾人かの子供の輪に向かって走っていった。

 

しかし喜びと同時に悲劇も起こっていた。

 

先程馬を取り押さえた場所には散らばった木屑と中からは、ほんの少し前に来ていた服が見えてた。

 

 

(5)

 

それからはどうやって帰ってきたのかは分からない。

 

慌てて砕けてしまった木箱ごと抱き抱え、走った。

 

気が付けば自分の部屋にいて枕に顔を埋めていた。

 

机に木箱を置き、そっと中を確かめてみたがそこには見たくない光景があった。

 

泥があちこちに付着している。

 

いや泥だけならば洗えば済むかもしれなかったが、それよりも踏まれたせいか裾が広範囲に破れてしまっている。

 

何と一刀に言えば良いのか。

 

そもそも会わせる顔も無いではないか。

 

考えれば考えるほど悪い方へ悪い方へと自分を追い込んでしまった。

 

---あら~。派手にやったわね~。

 

---いや、派手にやられたが正しいがな。

 

---でも大丈夫そうよ。

 

勢い良く開けられた扉の前には今だけは会いたくなかった一刀が息を切らせて立っていた。

 

 

(6)

 

「大丈夫かッ!?

 暴れ馬に襲われたって聞いたけど。」

 

そう言ってズンズンとこちらに向かってくる。

 

「怪我したのか?

 寝ていないと辛いのか?」

 

「どこも痛くはないし、私には怪我は無い。」

 

顔だけ一刀に向けて返事をするとホッとした表情を満面に浮かべていた。

 

「そうか~良かった~。

 ならなんで横になっているんだ?」

 

怪我も無く、どこも痛くはない人間が横になっていることに疑問を抱くのは至極当たり前のことだ。

 

だが口に出すのは少々気が引けた為、無言で机を指差した。

 

「ん?何を指している...あッ?」

 

机のものを確認した一刀はすぐさまこちらへと赴き、私を立ち上がらせた。

 

「ちょッ、何をする?ど、何所を触ってい...」

 

頭、顔、肩、背中、腹...体中を隈なく撫で付けた一刀は心底安心したようだった。

 

「良かった。さっきのがやせ我慢じゃなくて。」

 

「何?」

 

「いや、あれを着たまま馬と争っていたのかと思ったから。」

 

「そんな訳あるか!あんなヒラヒラしたものをいつまでも着ていられるか。

 そもそも何で私に...」

 

「あれ?おやじさん言ってなかった?

 あれは女の子が一番着たい服だって。」

 

「あぁ言っていた。詳細は言わなかったが。

 一体あれは何なん...」

 

「良いこと思いついたぞ。」

 

まるで楽しくて楽しくて仕方が無いといった子供のように

一刀はキラキラと目を輝かせながら木箱を持って走っていった。

 

 

(7)

 

「で、また性懲りもなくこれを渡すのだな。」

 

あれから二日たった日の午後、一刀はまるで壊れてなんかいなかったかのように綺麗な木箱を持ってきた。

 

「あぁ。これは君のだからね。」

 

「はぁ...」

 

やや溜息混じりながらも受け取るととんでもないことを言い放たれた。

 

「後でそれ着て玉座に来てくれ。

 そうだな、二刻後位で頼む。」

 

返事も待たずにそれだけ伝えると走ってどこかに言ってしまった。

 

「だから一体なんだというんだ...」

 

---いよいよね。

 

---あぁいよいよだ。

 

 

(8)

 

あれから二刻後、玉座に向かうとそこには主だった将が全員いた。

 

私と同じ服を着て。

 

「皆集まったかな?」

 

いつもとは違うがやはり白を基調とした服を纏った一刀もやって来た。

 

「おい、北郷よ。一体これは何なんじゃ?」

「そうですよ~。全然教えてくれないんですから~。」

「一刀~。シャオだけには教えてよ。」

 

口々に一刀に詰め寄ったがそれを制したのは呉王である蓮華だった。

 

「では皆集まったな。一刀から話があるそうだからしっかりと聞くのよ。」

 

視線で次を促すと応えるように一刀が口を開いた。

 

「まずは驚かせてごめん。

 今日集まって貰ったのは他でもない。

 今来てもらっている服はウェディングドレスというんだ。

 皆にお願いというか何というか...伝えたいことというか...」

 

ゴクッ!

 

緊張からだろうか、誰かの生唾を飲み込む音が聞こえるような気がする。

 

す~は~す~は~。

 

1、2度深呼吸をし、意を決した一刀が口を開く。

 

「皆、俺と結婚して下さい。」

 

 

(9)

 

頭を下げたままの一刀は誰からのリアクションも無いことに不安を覚えた。

 

そもそも『全員と結婚を』などととんでもないことを言っているのだ。

 

どんな顔をされているのか恐る恐る顔をあげると、

 

「/////」

 

全員顔が真っ赤だった。

 

うっすら涙を浮かべているものもいた。

 

思わず全員を抱きしめてしまいたかったが我慢した。

 

 

 

つもりだった。

 

 

 

無理だった。

 

 

 

思春を見るまでは。

 

 

 

「.....」

 

 

 

「おい、北郷?」

 

 

 

 

(10)

 

「おれの思春はせかいいち~~~~~!!!!!!!!!!」

 

「なッ!!!」

 

まさか自分が叫ばれるとは思ってもいなかった。

 

「いや~。最初思春にも皆と同じウェディングドレスを用意したんだけど色々あってな。

 思春を思い浮かべて仕立て直したらウェディングドレス ミニスカートば~じょんが出来てだな。

 まさかこんなに似合うとはな~。

 快活な思春にはピッタリだ。」

 

余程嬉しかったのか自分がいかに爆弾をばら撒いているか分からないのかグルグルと思春の周りを回りながらウンウンと頷く。

 

「貴様、それであの時あんなにも入念に私を撫で回したのだな。」

 

これまた爆弾発言だ。

 

「ドウイウコトカシラ?」

 

全員震えている。

 

一騎当千の将達がガタガタと...

 

蓮華を除いては...

 

 

(11)

 

その日から呉は国をあげての飲めや歌えやのお祭だった。

 

天の御遣いが呉王をはじめとする将と結婚するということは即ち呉の繁栄を意味するものだからだ。

 

町民や商人に限らず、蜀からも祝辞が届けられ、祭は三月続いた。

 

「・・・」

 

じっと左手を見ていた思春は横に一刀がいることに初めて気がついた。

 

「珍しいな。俺がいるのに気が付かないなんて。」

 

「ふん///」

 

照れ隠しか小さく鼻を鳴らした思春は一刀に問いかけた。

 

「おい、貴様の指輪はどこだ?

 左手が空いているではないか。」

 

そう言いながら一刀の左手を取った。

 

「あぁ、作るの忘れたんだ。

 皆にあげることばかり考えてたからね。」

 

「全く、とんだ馬鹿者だな。」

 

「ははッ。酷い言われようだ。」

 

苦笑いしながら頭を掻いていた一刀は突如訪れた痛みに一瞬声を失った。

 

「ッ!!」

 

そこには自分の左の薬指を噛んでいる思春がいた。

 

「これが私との婚姻の証だ。

 幾日かすれば消えてしまうかもしれないが今はこれだけだ。

 いつかちゃんとした指輪を用意しよう。」

 

顔を真っ赤にしてやや涙目に、少々ふくれっ面のように。

 

「これで十分だよ。

 一生大事にする。」

 

そっと一刀は思春の頭を抱いた。

 

 

 

---もう安心ね。

 

---そうだな。だがウェディングドレスといったか。着てみたいのではないか、雪蓮?

 

---ん~。そうね、なら愛しい私の為に用意してよ、冥琳。

 

---ふふ、いつかな。考えるだけは考えておこう。

 

---ぶ~ぶ~。

 

 

<了>

 

 

長々とありがとうございました。

 

今回は思春にスポットライトを充ててみた訳ですが仕事中にこんなことを考えている俺って...

 

 

誤字脱字等ありましたらご指摘お願い致します。

 

稚文・乱文失礼しました。

 

読んでくれてありがとうございましたm(_ _)m

 

 

 
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