No.106724

真・恋姫†無双 臥竜麟子鳳雛√ 2

未來さん

『もしも一刀が最初に~』のタイトルを変更しました。
一刀を真面目に書きすぎたかもしれません。もっとチ○コ太守らしさを出したいんですが……。
あと、公式とは一部呼称を変えています。ご了承ください。
相も変わらず未熟な点ばかりですが、よろしくお願いいたします。

2009-11-12 23:06:28 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:32542   閲覧ユーザー数:23211

 

 

彼女たちと共に歩むことを決めた一刀。彼の言葉に呼応して、3人が改めて自己紹介を始める。

 

 

「わ、私はえと、姓は諸葛!名は亮!字は孔明で真名は朱里です!朱里って呼んでください!」

「んと、姓は鳳で名は統で字は士元で真名は雛里って言います!あの、宜しくお願いします!」

「徐庶と申します。字は元直で、真名は「あのー」はい?」

 

 

 

 

 

「まなって何??」

 

そこに水を差したのは一刀のそんな何気ない一言だった。

 

 

 

 

 

真名とは自分が認めた人以外には呼ばせてはならない神聖な名。安易に口にすれば刀を向けられてもおかしくないのだと教えられる。

 

「ですから、北郷様も気をつけてくださいね」

「う、うん(この世界では名前を呼ぶのにも命懸けなのか……)」

 

徐庶の忠告に心なしか背筋が寒くなる。

しかしここで1つの疑問が浮かぶ。

 

 

「あれ、でも2人は元直ちゃんって」

「あ、それはですね」

「朱里ちゃん、それは私から話すよ。ちゃんと自分の言葉で言わなきゃ」

「…うん!」

 

諸葛亮は本当に嬉しそうに笑いながら答える。

 

 

 

「私は物心ついた頃から、自分の能力を自分が君主として師事する方の下で発揮したいと思っていました。ですから、私の真名も私の主となる方に1番に知って頂きたいと考えていました。もちろん、私の家族は知っているんですけどね」

「ですから私たちはもちろん、水鏡先生ですら元直ちゃんの真名を知らないんです」

「でもでも!元直ちゃんが真名を教える程の方が現れて、その方に私も雛里ちゃんもお仕えすることが出来るってことが、すごく嬉しいんです!!」

 

小さく笑いながら語る鳳統と、自分のことのように喜ぶ諸葛亮。

 

 

「今まで真名を教えても構わないと思える方はいました。朱里ちゃんも雛里ちゃんもその1人です。ですが、1番は我が主にと幼い頃から願っていましたので……。私のわがままでみんなには不快な思いをさせてしまいました」

「そんなことないよ、元直ちゃん。みんなそれを知った上で、元直ちゃんの想いを大切にしたいって言ってた。もちろん私も、朱里ちゃんも」

「ありがと、雛里ちゃん……」

 

親友を思う心からの笑顔を見せる鳳統に、徐庶は心から感謝する。

彼女たちのやり取りを聞いていて、改めて思う。

 

「……そんな大切なもの、本当に俺に教えちゃっていいのか?」

 

 

 

 

「………北郷様はご自分が住んでいた世界とまったく異なるこの世界に、突然いらっしゃいました。……おそらく北郷様自身が望んでもいないのに、です」

 

「そして北郷様は、自分は天の御遣いなどではないと言いました。であれば、この世に安寧をもたらすという責務など、ないと思います。もちろん、私たちの願いを無理に押しつけるなど、あってはなりません」

 

「それでもあなたは、天の御遣いを名乗り、私たちと共に進むとおっしゃってくださいました。1人でも多くの人を幸せにしたい…と。……例えあなたが天の御遣いでなくとも、その御心は『天の御遣いという存在』と同等……いえ、それ以上のものです」

 

 

 

 

「「「ですから私たちは、北郷様にお仕えしたいんです!!」」」

 

 

 

 

あまりに真っ直ぐな瞳。見つめられる方が、思わずたじろいでしまうような……。

しかし、それほどに強い決意を宿した瞳だからこそ、一刀も真っ直ぐに彼女たちを見つめ返す。

 

「ありがとう。みんなの真名、預からせてもらうよ。さっき聞き逃しちゃったから、もう1回教えてもらっていいかな?」

 

「は、はい!私の真名は朱里って言います!が、頑張りましゅから、よろしくお願いします!!」

 

「私はひ、雛里って言いましゅ!雛里って呼んでください!」

 

「私の真名は麒里(きり)と言います。北郷様、よろしくお願いします。朱里ちゃんも、雛里ちゃんも!」

 

「うん!よろしく麒里ちゃん!」

「これから頑張ろうね、麒里ちゃん!」

 

 

 

3人が嬉しそうに笑うのを見て、一刀も笑いかける。

「朱里、雛里、麒里。頼りない『天の御遣い』だけど、これからいろいろと支えてほしい。俺もみんなの力になれるように頑張るから」

 

 

 

「はわわー…(初めて真名で呼んで頂いたぁ。嬉しいよー!)」

「あわ、あわわっ(北郷様に真名で………えへへ)」

「ふわわー(こ、これは予想以上です……自分が主と認めた方に真名を呼んで頂くのが、こんなにも……)」

 

三種三様、思わず感慨に耽る3人。

 

 

「??どうかした、3人とも?」

「い、いえ!何でもありません、北郷様!」

 

 

『北郷様』と聞いて少し考え込んだ後、一刀はある提案をする。

 

「んー……、そうだ。俺のことも一刀って呼んでくれないかな?」

「へぅっ?」

「な、なぜですかっ?」

「俺がいた世界では、親しくなった人同士は姓じゃなくて名で呼び合うことが多いんだよ。だから、北郷じゃなくて一刀って呼んでくれた方が嬉しいな。俺には真名みたいに神聖なものはないから、その代わりとして、ね」

 

真名という大切な名を預かることが出来たのだ。少しでも彼女たちと距離を近くしたいという想いが言葉に出る。

 

 

「そういうことなら……よろしくお願いいたします、一刀様」

「様もいらないんだけどなー」

「そこは譲れません。一刀様は私たちの主なのですから」

「いや、俺はみんなとは主従関係じゃなくて、仲間だと「それでもです!」うぅ…」

麒里の声に一刀がたじろぐ

 

「一刀様が私たちを『仲間』だと仰ってくださるのは、大変嬉しく思っています。それでも、私たちにとって敬愛すべき主であることには変わりないのですから、そこはお譲りできません」

「うぅ……分かったよ…。様付けなんて恥ずかしいんだけどな-。

そういう訳でいいかな?朱里、雛…里?」

 

 

一刀と麒里が押し問答(麒里が一方的に押していたが)している間、2人はずっと顔を赤らめながらぼそぼそ何かを呟いている。

 

 

 

「か、か、かず、かず…。ふー……か、かずとさま…うん!大丈夫よ、朱里。ちゃんと言えるじゃない!」

「かかかず、かずー……うぅー、恥ずかしいよ-。北郷様ならちゃんと言えるのにぃ……」

 

 

 

 

「朱里も雛里もどうかしたのか、麒里??」

「えーと……」

思わず答えるのに戸惑う麒里。

「(一刀様が『親しい人』や『仲間』なんておっしゃるから、余計に意識しちゃってる……。単なる主従関係としてなら割り切れるんだろうけど…)」

悲しいことに、学院時代からの付き合いである親友たちの考えが手に取るように分かってしまう。

 

 

「朱里。そんなに呼びにくいかな?」

「いいいいいえ、そ、そんなことないです!!えと……一刀様」

「おぅ。これから頼むな、軍師様」

「は、はい!!!」

 

笑いかける一刀に対して、満面の笑みで応える朱里。

 

 

「雛里は呼びづらいかな?」

「いいいいえ!そそそんあことないです!ただ……その…は、恥ずかしくて……」

顔を赤くして思わず俯く。

 

「そっか。まぁ俺も様付けされて恥ずかしいからなー。呼びにくいようなら、雛里の好きなように呼んでいいぞ?」

「で、では、呼べるようになるまでは、ご…ご主人様で……」

上目遣いでそんなことをおっしゃる鳳雛さん。

 

 

「ご、ご主人様?!」

「あわわっ。だ、駄目ならいいんです。が頑張って……か、か、かず「あーいいよ、いいよ」あぅ」

「強制するつもりなんてないから。好きなように呼んでくれて構わないよ、雛里」

「は、はい。…申し訳ありません、ご主人様」

「謝る必要なんかないってば。

それで、これからどうしようか?」

「ひとまず今日は日も暮れてきましたし、この村の宿で休「グ~~~」むのがよろしいかと……」

 

 

一瞬の沈黙。

 

 

「……ごめん。ここ何時間か腹に食べ物入れてないんです…」

部活が終わってから何も食べていないことにいまさら気づく一刀。

 

「フフ。それでしたら、まずはこちらのお店で食事にしましょうか」

「そういえば、私たちもずっと食べてなかったね……」

「いろいろあったから、なおさらお腹空いちゃったね」

こうして4人はひとまず己の空腹を満たすことにしたのだった。

 

 

 

 

 

食事中、朱里が口を開く。

「あ、明日から水鏡先生のところへ向かいませんか?」

「水鏡先生のところ?」

「はい。幸いここからさほど離れてはいませんし、一刀様のこともお伝えしておきたいんです」

 

彼女たちは水鏡先生のところを離れてまだ2週間ほどしか経っていないのだという。

 

「私も『私たち、この方にお仕えすることになりました』って、ご報告したいですっ」

「私個人としては、もう1つ目的があるんですけど、ね」

意気込む雛里と、自分の師にやっと真名を預けられることを思い無意識に微笑む麒里。

 

 

「みんなの先生に会うのか-。プレッシャーだな―」

「ぷれっしゃー?」

雛里が可愛らしく小首を傾げる。

 

「あー英語とかも通じないのか。これから気をつけないとな。俺がいた世界の言葉で重圧、とかそういう意味。

何たって可愛がってた生徒の主?になるんだから、重圧もかかるよ」

「先生はお優しい方ですし、私たち学院生の意志を尊重してくださる方です。ですからきっと、一刀様のことも認めてくださいますよ」

 

一般的な教養から軍師としての知識、臣下としてのあり方など多くのことを彼女の下で学んできたからこそ、朱里は自信を持って言う。

 

 

「ああ。認められるように、しっかりやらないとな」

 

 

 

そうしているうちに食事も終わり……

 

「それでは宿に向かいましょう。昨晩も同じ宿に泊まりましたが、快適な所でしたし安心だと思います」

「よしっ、それじゃ案内よろしくな、3人とも」

 

 

 

 

こうしてこの村に1軒しかしかない宿に着いた3人。空き部屋はあるようだが……

 

 

 

「ひ、1部屋しかないんですか?!」

「はい。商人の方々が団体でいらっしゃったものですから……」

「ど、どうしよー麒里ちゃん……」

 

顎に手を添えしばし考えた後……

 

「……その部屋で結構です。4人で泊まれますか?」

と答える麒里。

 

「はいっ。問題ありませんよ、最後の1部屋が運良く大部屋でしたので。ただいまご案内いたします」

麒里の希望に気持ちのよい笑顔で応える店主。

 

「はわわっ?!き、麒里ちゃん?!」

「あわわわわっ。麒里ちゃんーそれはー……」

「あ、あのー麒里さん?それはさすがに……」

 

動揺する3人に反して、淡々と説明する麒里。

 

「これから先、しばらくは4人で旅をするわけですから、このような事態は度々起きうることだと思います。常に部屋が2つ余っているわけではありませんし……」

「だったら俺が外で「自分の主にだけ野宿させる臣下などいません!」そ、そんなに強く言わなくても」

「それにお金も無限にあるわけではありませんから……」

「うぅーん。だけどなー。女の子が寝る部屋と一緒っていうのは……」

 

そうやって一刀は「麒里の言い分も……」とか「…いやいやいや!」とか言いながら考え始めてしまう。

 

 

 

 

 

コソコソコソ……

 

「き、麒里ちゃんっ。麒里ちゃんの考えも分かるんだけど、でもー…」

「実際にこの村唯一の宿に部屋が1つしかないんだから、しょうがないよ朱里ちゃん。それに……」

「それに??」

 

雛里の合いの手に声をさらに小さくして麒里が答える。

 

「こういうことに今のうちから少しずつ慣れておかないと、いざって時に失敗しちゃうと思うの」

「い、いざ?」

「分からない訳じゃないでしょ?………鞄の奥の艶本」

「「っ!!?」」

「いざそういうことになった時、はわあわ言ったり鼻血なんて出しちゃったら、目も当てられないでしょ?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「くしゅん!」

 

「どうしましたー?稟ちゃん?」

 

「風邪でも引いたか、稟?」

 

「い、いえ。何でもありません。少し鼻が「急に鼻血ですかー?」違いますよ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ででででもそれをご主人様相手になんて……」

「雛里ちゃんは嫌なの、一刀様に愛されるの?」

「そそそそそそんな!おおおお恐れ多いことっ…!」

「私も恐れ多いと思うよ。一刀様に抱いている念も、いまはまだ敬愛のそれだし。でも臣下として仕える方と女として愛する方が同じだったら、とても素敵なことだと思うの」

 

言ってる本人が潤んだ瞳で遠くを見つめているのは、気のせいである。

 

「う、うん……」

「だから、一刀様に女として愛されたいと思った時のために、今のうちに同じ床の上で寝るくらいのことは慣れておいた方がいいと思うの」

「そ、そうだよねっ!いつまでも恥ずかしがってちゃダメだよね!」

「が頑張ろうね、朱里ちゃん!」

「うん!雛里ちゃん!」

 

本当に真っ直ぐな彼女たちの気持ち。1人の男へのその想いを、ある人は『懸命』と言い、ある人は『暴走』と言う。

もちろん一刀は、少女たち3人の間でこんな密談が交わされていることなど、いざ知らず………

 

 

 

 

 

「や、やっぱり男女が同じ部屋で寝るのはどうかと……」

などと言うが、時既に遅し。

 

「では、多数決で決めましょう」

「へ?」

「一刀様と私たち、同じ部屋で構わないと思う人」

 

麒里だけでなく、朱里と雛里までもが手を挙げる。

 

「しゅ、朱里さん?!」

「仕方ないんですっ。この村で空き部屋はここここ1つしかないわけですしっ」

 

「ひ、雛里さん?」

「そそそそれにっお金だって、よよ余裕があるわけではないですし……」

 

「3対1ですねっ一刀様っ♪」

「…………」

 

開いた口が塞がらない我らが御遣い様。

 

「それでは部屋に案内してくださいますか、店主さん」

「はい、こちらです」

 

 

若干挙動不審な男と全身真っ赤な少女が2人、そしてうっすらほおの赤い少女を見て、店主が頬の赤い少女にそっと耳打ちする。

 

「大きな声では周りのお客様に勘付かれてしまいますのでご注意くださいませ、お客様」

「っ……!!」

 

 

さすがの麒里も、そんな店主の言葉に全身を真っ赤に染めたのだった。

 

 

 

 

 

翌日、4人の体調は当然のことながら思わしくなかった。一刀・朱里・雛里の3名は緊張のため、寝られてたのはうっすら朝日が差した頃。堂々としていた麒里も店主の言葉が引き金になったのか、3人とほぼ同時刻に就寝した。

そんな体調ではあるが、決めたからには早めに行った方が良いだろうということで、陽が空の頂上に達する前に宿を出た。

 

 

 

ちなみに、予てからの一刀の疑問

『女の子3人の旅で危なくなかったのか?』

という問いには、麒里が答えた。

 

「賊相手ならば、4~5人の相手は出来ますから」

とのことらしい。

 

一刀がそのことを褒め称えると

「それでもそこが限界です。武での功績では……なれたとしても部隊長が精一杯です」

十分すごいと思うのだが、やはり麒里は自分は軍師向けなのだという。

 

 

 

そんな麒里に守られ(一刀もいざとなったら戦う気でいたが)、4人の共同生活にも慣れながらようやく辿り着いた水鏡女学院。一刀たちはある部屋に通され、外出中の水鏡の帰りを待っている。

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

現れたのは上品な物腰の婦人。歳の頃30前後、スラッとしたモデル体型の女性だ。

 

「お久しぶりです、水鏡先生!」

「ええ、久しぶりね朱里。雛里に元直も」

「は、はい!お久しぶりでしゅ!あ、それと…」

「私の真名は麒里です、先生」

 

 

水鏡は麒里の言に少し目を見開いた後、優しく微笑む。

 

 

「そうですか……。お帰りなさい、朱里、雛里、麒里」

「「「はいっ!」」」

 

3人の笑顔が弾ける。

 

 

「私は司馬徽と申します。ここでは水鏡先生などと呼ばれていますが…。あなたが3人の主となられる方ですか?」

「は、はいっ!北郷一刀と言いますっ」

 

見たこともない服装に変わった鞄。興味を惹かれる部分は多々あるが、水鏡は一刀の目ををゆっくり見つめる。

 

「ここに至るまでの経緯とか、良かったら話してくれるかしら?」

 

 

 

3人は学院を出てから今日までのことをゆっくり話し始めた。

 

 

 

 

「そうですか……」

 

4人の出会いから教え子たちの夢、一刀の素性など。それらを水鏡は疑うことなく聞き、反芻していく。

 

 

「北郷様」

「は、はいっ!」

 

急に話を振られた一刀は、若干声を高くする。

 

 

 

「あなたの目指すものは何ですか?」

 

 

 

問われた一刀は真っ直ぐに水鏡を見つめ返す。

 

「彼女たちと一緒です。誰もが希望を持って生きることの出来る世の中を作ること」

「…この大陸はすでに戦乱の兆候を見せています。その中であなたの目指すものを実現していくことは、生半可な覚悟ではできないことです。それでも……ですか?」

「はい」

 

 

 

「人を殺すことになってもですか?」

「っ!?」

 

 

「政略・戦略・謀略。3人には様々なことを教えてきました。それは多くの人々を救う術であると同時に、多くの人を死へと追いやる術でもあります。その術を知っている3人をあなたは従える。あなたの1つの決断で、多くの命が失われる可能性があるのです。

それでも出来ますか?」

 

 

戦争なんてものは悲劇でしかない。そんなこと、子供の頃から教わってきた。この世界が知識として知っているものと同じような道筋を辿るなら……。

だからこそ一刀は慎重に言葉を選ぶ。

 

 

「……1人の命も失うことなく、そんな世の中を築くことが出来れば、それが1番望ましいです。でも、それはきっと不可能です。元より、この大陸の人全員を救えるとも思っていません」

 

万人を跪かせる力も、屈服させる智謀もない。もちろん、人を惑わす仙術も。それでも、自分が持つ知識だって多くの人を救う術となるはずだから。

 

「……命を救う立場であると同時に奪う立場である人間は、それ相応の責任を負わなきゃならない。戦いの中で亡くなる人がいたとしても、それを嘆くだけじゃいけない……。

敵として死んでいった人には、自分たちの目指すものが正しかったってことを認めてもらえるように、前に進む。

味方として死んでしまった人には、共に戦ってくれたことを感謝して、これからを生きる人を幸せにしていく。

自己満足とか、偽善的だとか言われるかも知れないけど、それがこの世界で俺が為すべきことなんだと思います。」

 

 

「……………」

 

一刀の言葉に水鏡は目を閉じる。

 

 

 

「朱里、雛里、麒里」

「「「はい…」」」

 

 

 

 

「良き主に巡り会えましたね」

「「「はいっ!」」」

 

「北郷様。3人をよろしくお願いいたします、私の自慢の教え子ですから」

「は、はい!」

 

力強く答える一刀を見て、自分の教え子たちは本当に良き人に巡り会ったと感じる。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「…少し待っていていただけますか?」

 

そう言って部屋を出る水鏡。

すぐ戻ってきた彼女の手にあるのは、鞘に収まった1本の剣。

 

「えと、それは?」

「あなたに差し上げます。別段特別なものではありませんが」

「え?い、いや俺真剣なんて握ったことすらっ」

「これであなたの武を示せ、人を殺めろ、と言っているわけではありません。あなたの覚悟は素晴らしいものです。ですが人は物事に慣れ、記憶を忘れていく生物です。『人の死』というものに決して慣れることなく、『命の重さ』を忘れることなく、歩みを進めてください」

 

 

水鏡の言葉の重み、真意が分かったからこそ、差し出された剣を一刀はしっかり受け取り、握りしめる。

 

「……分かりました。ありがとうございます、水鏡先生」

 

 

一刀の声と、表情と、決意に満足げに微笑む水鏡。

少女たち3人も一刀と水鏡のやり取りを見て思わず頬を緩めたのだった。

 

 

 

 

 

それから10日ほど、一刀たちは水鏡女学院で体を休めることにした。これから長い旅が始まるのだ。今のうちにそれなりの準備と英気を養う必要があったし、同時に……

 

「……読めん……」

 

一刀に字の読み書きを教える必要があった。主に朱里・雛里・麒里のうち1人が交代で教え、残りの2人がその間旅の準備や再び水鏡の下で勉学に励む。時間がある時は水鏡直々に教えてもらうこともあった。

『優秀すぎる人は、理解していない者に教えることを不得手とする』とは言うが、彼女たちは例外の様で、一刀はわずかな時間で民話程度のものなら読めるほどになっていた。

 

 

ちなみに、なぜか学院生の間で一刀の評価が急上昇していたことは、ここでは解説しない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

そして出発の日、早朝。一刀はまだ目を覚まさず……

 

「3人とも、ちょっと私についてきてもらえるかしら?」

 

そうして向かった先は……

 

「書庫…ですか?」

「可愛い教え子たちが素敵な主君に出会えたのですから、その餞別に…ね。……これを持って行きなさい」

 

 

「「「こ、これはっ?!」」」

「いい?あなたたち3人は北郷様に仕えることで『臣下』としての幸せは得られたと思っているでしょう。であれば、『女』としての幸せも掴み取るのよ」

 

水鏡はいつぞやの麒里と似たようなことを言う。若干本人のテンションが上がっているのは気のせいである。

3人は受け取った『何か』に目を通す。

 

 

「はわわ!す、すごいっ!」

「あわわわわわわっ!こここここんなの出来るのかなーっ」

「ふわわ~。こここれはっ今までのよりっ……!」

 

『こんなの』が『今まで』より、どう『すごい』のかは、彼女たちだけの秘密である。

 

 

「時間がある時に読んでおいて。きっとあなたたちの助けになるから」

「「「はい!頑張りますっ!」」」

 

 

 

教え子を想い、餞別を贈る師。教え子たちもその想いに応えんと、これからの活躍を誓う。

構図だけ見れば感動的なのかもしれないが、『ある物』を中心に話が展開されているため、何となく台無しである。

 

 

 

3人が再び『何か』に目を通したのを見て、水鏡は意識を自身の背後に向ける。

 

「(本当は朱里と雛里にはもう1冊渡してあげたかったけど………)」

 

自分の『それ』と麒里の『それ』を見比べて……

 

「(効果がなかったものは渡せないわね…)」

 

水鏡は心で泣くのであった。

 

 

 

 

 

そして旅立ちの時

 

 

「まずは義勇兵集めですか?」

「そうですね。騙すようで気が引けるんですが、『天の御遣い』の名を使って義勇兵を募りたいと思います」

「確かに騙すことになるかもしれません。ですがそうやって集まった人たちも、もちろんあなたたちも、目指すものは明るき未来です。その人たちが『希望ある生活』を営めるように努めてください。それが上に立つ者の責任というものです」

 

水鏡は諭すように言う。しかし、心配ないだろうと本心で思う。わずかな時間ではあるが、北郷一刀がどういう人間かをこの目で見てきたからだ。

 

「3人とも、しっかり北郷様を支えるのですよ。上に立つ者の苦しみを理解し、分かち合うこともあなたたち臣下の役目なのですから」

「「「はいっ!!」」」

 

 

「北郷様、どうか3人をお守りください。例え武では守れなくとも、あなたなら3人の『心』を守れるはずですから」

「はい。俺も彼女たちの支えになりたいと思います」

 

 

4人の答えに満足したのか、水鏡は優しく微笑み、別れを告げる。

 

 

 

 

「あなたたちがこの大陸の『希望』となることを、私はいつでも祈っていますよ。

 

……行ってらっしゃい朱里、雛里、麒里、北郷様」

 

 

 

旅立ちを祝福するかのような綺麗な青空。4人は北に向けて歩を進める。

 

 

 

 

 

きっと新作では真名が『星花』で、普段は一刀のことを『お兄ちゃん』って呼ぶんだけど、閨の時だけ『ご主君様』って呼ぶ健気なロリッ娘が…………え?出ない?ネタが危険?あ、そうですか……。

 

 

 

 

後書きという名の言い訳

 

 

――――タイトルについて――――

 

早速ですがタイトルを変えました。前作のみなさんのコメントもいろいろ参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

タイトルの由来ですが、3人の名前にちなんだものにしました。臥竜鳳雛に似た言葉はないかと探していたところ、麟子鳳雛という言葉を見つけたので、そのまま採用しました。

もちろん『臥竜麟子鳳雛』なんて言葉はありません。テストに出ることもありませんので、覚えなくて構いませんww

 

 

――――麒里(徐元直)について――――

 

上でも言っていますが、元直ちゃんの真名『麒里』は麒麟の麒です。wikiによると『龍』『鳳凰』『麒麟』『亀』を四大瑞獣と呼ぶ場合があるそうで。

朱里が臥竜の『龍』、雛里が鳳雛の『鳳凰』ということで、それに強引に合わせた格好となりました。さすがに『亀』ではw

しかし麒里では字面に可愛げがなくなってしまったかもしれません。当初作者の案としてあったのが

灯里(あかり)、茉里(まつり)、怜里(れいり)あたりです。あぁ「ボツ案の方がよくない?」とか言わないでつД`)・゚・。

前作のコメントでアドバイスくださった方も、本当にありがとうございました。

 

 

この娘の性格としては、いわゆる『委員長型』

恋姫では委員長と言えば愛紗の感じもしますが、愛紗は『クラス更正型頑張り屋』の委員長と作者は思ってます。麒里は『議事進行系お姉さん型』の委員長です。ちなみにこの委員長のタイプ分けも作者の妄想ですw

朱里と雛里がかなりアレなので、2人の前ではしっかりしなきゃと無意識に思っています。ですから宿屋での1件も積極的に動きました。でもそれを他(今回は宿の主人)から指摘されたりすると、普通に恥ずかしがります。2人がいなかったら、割と同じような性格かもです。

 

口調は一刀に対してはかなり丁寧なもの。でも、それ以外は落ち着いた普通の口調です。

彼女にも一応口癖?のようなもの「ふわわ」を付けました。麒里は朱里や雛里に比べて落ち着いているので「ふわわ~」と言う機会は多くありません。が、言う時は何かに驚いたり惚けてしまう時に出るものなので、しばらくポーッとしてしまいます。

前作の台詞「………はっ!えーと……あ、そうだ!」もこういう理由からです。分かりづらくてすいませんw

 

体型は前作書いた通りです。気に入ってくれれば幸いですw

あんまり可愛く書けた気がしませんが、これから精進していきたいと思います。

 

 

 

 

それでは、今回も拙作をご覧下さってありがとうございました。三国志をまったく知らない作者ですが、また次回よろしくお願い致します。

 

 

 


 
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