No.105129

真・恋姫†無双~天空より降臨せし白雷の守護者~6話

赤眼黒龍さん

 遅くなって申し訳ない。最近やたら忙しかったので執筆ができない状況でした。

 今回は各個人ルート及びあるルートが新しくスタートします。お楽しみに。

それでは第6話どうぞ。

2009-11-04 01:38:51 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5639   閲覧ユーザー数:4063

個人ルート・真 その2

 

 ある日の午後、真、春蘭、秋蘭、季衣の4人は中庭の訓練スペースに集まっていた。3人が真に訓練に付き合ってほしいと申し出て真がそれを引き受けたからだ。

 

真「それじゃあ訓練を始める。まずは3人の実力を知っておこうかな」

 

 そう言って真は3人から少し距離をとり向き直る。そしてゆっくりと武器をかまえた。

 

真「殺す気で来い」

 

 目がスッと細められ、その身体から闘氣があふれ出す。3人は眼で合図し合うと武器をかまえ、

春蘭と季衣が少し前に出る。秋蘭はその後ろで弓をかまえ真に狙いを定める。そして秋蘭の攻撃で火ぶたが切られた。

 

秋蘭「はっ」

 

 矢が放たれると同時に春蘭と季衣が走りだす。秋蘭は2人の間を縫ってさらに矢を放つ。真はそれを見ても一切動こうとしなかった。その場に立ち止まり飛来する矢を冷静に打ち落とす。

 

春蘭「はああぁぁっ!!」

 

 真正面から斬りかかる春蘭を冷静に見つめる真。迫りくる刃を目の前にして真は小さく呟く。

 

真「・・・・・・・クズが・・・・・・・」

 

 真は戟の柄で斬撃を受け流すと流れるように横に回り春蘭の耳元で小さく囁く。

 

真「剣の軌道が正直すぎる」

 

春蘭「え?」

 

 声を発した瞬間秋蘭は今まで感じたことのない衝撃に襲われる。まるでトラックに轢かれたかのように弾き飛ばされる。何度もバウンドしながら5メートルほど飛ばされたところでようやく止まった。

 

秋蘭「姉者ぁ!」

 

季衣「おおぉぉりゃぁぁぁ!!」

 

 唸りを上げて飛来する鉄球。真はそれをしゃがんであっさりとかわすと鎖をつかむ。

 

秋蘭「季衣、急いで鎖を切れ!!」

 

 季衣が秋蘭の言葉に反応することはできなかった。とんでもない力で引っ張られたと思った時には既に身体は宙を舞っていた。そのまま立ち上がろうとしていた春蘭にぶつかる。2人はもつれ合いながら倒れる。

 

秋蘭「姉者! 季衣!」

 

真「他人の心配をしていていいのか?」

 

秋蘭「くっ」

 

 バックステップで後退しながらさらに矢を放つ秋蘭。

 

秋蘭(近づかれればやられる)

 

 近づかせまいと必死に矢を放つが真はそれをものともせずゆっくりと距離を詰めていく。秋蘭はさらに下がりながら距離を保ちつつ矢を放ち続けた。

 

秋蘭(このまま何とか耐えて姉者と季衣の加勢を待つ)

 

 さらに矢を放つ秋蘭。だがここで異変が起こる。矢が空中で何かにぶつかったかのように弾け飛ぶ。

 

秋蘭「またあの技か! ・・・・・・いや、違う」

 

 秋蘭は以前自分の矢を弾いた真の技を思い出す。しかしその時とは様子が違う。あの時のように空間にゆがみが見えない。しかも矢が弾かれる寸前に真の腕が一瞬ぶれていた。

 

真「戦闘中に考え事か? 余裕だな、秋蘭」

 

 真の声で戦闘に意識を戻したときには、真は秋蘭の目の前にいてその右腕は秋蘭の腹部に添えられていた。

 

秋蘭「しまっ!」

 

 身体を襲う今まで感じたことのないほど強大な力。一瞬の浮遊感の後、秋蘭の背中を強烈な痛みが襲う。どうやら吹き飛ばされて木にぶつかったようだった。

 

真「俺は言ったはずだ。殺す気で来いと」

 

 ゆっくりと近づく真の手がさらにぶれる。すると何かが飛んできて秋蘭の右腕の袖を木に縫い付ける。

 

真「連携攻撃をするのでもなくただ個人で好き勝手に攻撃を仕掛けるのがお前たちの本気か?」

 

 さらに今度は左腕の袖が木に縫い付けられる。よく見ると長さ10センチ、刃渡り5センチほどの小さな刃物が刺さっていた。そして秋蘭の目の前まで来た真は戟の刃を首に突き付け吐き捨てるように言った。

 

真「やる気がないなら消えろ。目ざわりだ」

 

 そこによろよろとしながら春蘭が歩いてくる。自慢の大剣を杖代わりになんとか歩いているといった感じだ。

 

春蘭「貴様こそ・・・隠し・・武器などという卑怯な物を・・・使っておきながら・・・」

 

真「戦う前に己の手の内を明かす馬鹿がこの世界のどこにいる。それともお前は戦場で隠し武器を持っているなどとは卑怯とでも言って死んでいくか? なら軍人などやめろ。無駄に兵や仲間を死なせるだけだ」

 

 そう言い残し真は歩き去ってしまった。

 

秋蘭「大丈夫か、姉者、季衣」

 

春蘭「なんとかな」

 

季衣「真兄ちゃん、手加減してくれたから」

 

春蘭「それにしての真の奴、あの言い方は何だ!!」

 

秋蘭「姉者、それは「いいか加減になさい、春蘭」」

 

春蘭「華琳様!」

 

明雪「3人とも見事にやられたもんだな」

 

秋蘭「明雪様も。見ておられたのですか」

 

華琳「あれはあなた達が悪いわ、春蘭。素直に反省なさい」

 

春蘭「しかし華琳様」

 

明雪「真のいったことに一つも間違いはないでしょう? 1対3だから、訓練だからと気を抜いたあなたたちの落ち度よ」

 

華琳「それに稽古をつけてもらおうという相手に手を抜いて戦うなど、その人物に対する侮辱以外の何物でもないでしょう。違うかしら?」

 

 言い返すことのできない春蘭。将軍という立場にあり、日々兵たちに訓練を行う立場にある春蘭には下の者に侮られることかどれほど腹立たしいことかよくわかった。

 

華琳「殺す気で来いとまで言われたにも関わらず、たいした連携もせず、個人個人で好き勝手に戦って、負ければ隠し武器を使ったからと言って卑怯呼ばわり。これじゃ真でなくても怒るのは当然よ」

 

明雪「相手に殺す気で来いと言ったということは真もある程度本気を出すつもりだったんでしょう。あの場で殺されていても文句は言えない状況ね」

 

 3人は真剣に教えようとしてくれていた真の気持ちを踏みにじったことを深く悔やんだ。

 

華琳「いまの私たちは弱い。この先覇道を歩んでいくためには大きな力がいるのよ。そんなときに卑怯だなどと言っている場合なのかしら?」

 

明雪「早く真に謝ってきなさい」

 

3人「「「はっ(はいっ)」」」

 

 一礼して走っていく3人。真の部屋に行くと真はそこで書簡に目を通していた。

 

真「自分たちのしたことがどんなことだかわかったか?」

 

 3人が入るなり真はまるで3人が来ることがわかっていたかのように告げた。

 

春蘭「真・・・あの・・・」

 

真「言い訳も謝罪もいらん。誤られたところで今日は続きをする気はもうない」

 

 真の言葉に俯く3人。

 

真「明日だ」

 

秋蘭「え?」

 

真「明日もう一度だけ訓練を見てやる。もし本当に申し訳ないと思うならその時に行動で示せ。それでも変わらんなら俺はもう知らん」

 

 真は書簡に何か書きこむと机の上に置いた。

 

真「明日は本気で来い」

 

 立ち上がり3人の肩を軽くたたくと部屋を出ようとする。

 

季衣「真兄ちゃん」

 

真「街の見回りだ」

 

 出ていく真を見送った3人。

 

秋蘭「姉者、季衣、わかっているな」

 

春蘭「おう」

 

季衣「はい」

 

秋蘭「私の部屋へ行こう。作戦を立てねば」

 

 秋蘭の言葉に春蘭と季衣は頷くと急いで移動し夜通し作戦を立てるのだった。

 

 

 翌日真が中庭に行くと魏の武将が勢ぞろいしていた。

 

真「今日は5人か」

 

華琳「ええ。私もあなたの力、見てみたいからね」

 

 華琳は不敵に笑いながらそういった。各々武器をかまえすでに戦闘態勢に入っている。真はそれを見てニヤッと笑う。武器を持つ手は下げられ構えをとる気配はない。

 

真「内容は昨日と同じだ。殺す気で来い」

 

 言い終えるのを合図に一斉に動き出す。やはり初撃は秋蘭だった。秋蘭の武器「餓狼爪」から放たれた矢が真を襲う。ここまでは前回と同じ。違うのは矢が当たるのと同時に右から春蘭の「七星餓狼」、左から明雪「鳳凰嘴翼」、上からは季衣の鉄球「岩打武反魔」が一斉に襲いかかる。

 

真「なかなかだが、甘い!」

 

 3人の挟撃をバックステップでかわしながら矢を打ち落とす真。

 

華琳「それはどうかしら?」

 

真「!!」

 

 下がった先には愛武器の大鎌「絶」を振り上げた華琳が待ち構えていた。鋭く振りかぶられた鎌をしゃがんでかわすとそのままの姿勢で横に跳ぶ。しかしすぐさま着地直後を狙って春蘭が襲いかかる。その一撃を戟で受け止める真。その視線の片隅に盾をもまっすぐ真に向けてかまえる明雪と盾の下で輝く何かをとらえた。とっさに春蘭を力で押し返しその場を離れる真。移動した直後にさっきまで真がいた場所を何かが通過する。

 

真「針、か」

 

明雪「初見で見切ったのはあなたが初めてよ、真」

 

 気に何本か刺さる針。それは明雪の持つ盾に仕込まれた隠し武器だった。

 

真「偶然だ。さっき春蘭の攻撃を受けた時に偶然視界にとらえたのさ」

 

華琳「よそ見している暇があるの?」

 

 死角から攻撃を仕掛ける華琳。真は華琳の上を飛び越えてかわすが、空中で襲いかかる季衣の鉄球をかわせず吹っ飛んだ。

 

季衣「油断大敵だよ、真兄ちゃん」

 

 すぐさま華琳、明雪、春蘭、季衣の4人で真を半包囲する。秋蘭はその後ろで倒れる真に狙いを定める。

 

春蘭「・・・・・死んだのか?」

 

明雪「この程度で死ぬようなら苦労しないわ」

 

季衣「でも全く動きませんよ。結構手ごたえあったし」

 

華琳「・・・どうやら、まったく効いてないようね」

 

 何事もなかったようにゆっくりと立ち上がる真。5人は再度警戒を強める。

 

真「・・・・・合格だ。それでいい」

 

 その一言で真の纏っていた気配が一変する。純粋な闘氣を纏い表情も戦士のそれへと変わる。さっきまでの試すような態度は微塵もなく武人としての真がそこに立っていた。

 

真「俺にとって本来お前たちなど獰猛な人食い狼に挑もうとする生まれたての赤子同然だ。まずはそのことを胸に刻め。今から世界最高峰の強さの一端を見せてやる」

 

 どんどん密度を増していく闘氣。それは一歩でも踏み込めば確実な死が待つ、絶対領域のように5人の前に広がっている。ここでようやく真が構えをとった。

 

真「行くぞ・・・・・」

 

 訓練は日が暮れるまで続き、真によって動けなくなるギリギリまでしごかれまくった5人は翌日そろって寝込んだのだった。寝込んだ5人の分の仕事を桂花に丸々押し付けられた真はその日大忙しだったのは自業自得だろう。

個人ルート 春蘭&秋蘭

 

真「どうして俺はこんなところにいるんだ?」

 

 街でそう呟く真。真の両隣りには春蘭と秋蘭がいる。

 

春蘭「何をしているのだ真。早くせんか!」

 

真「はぁ。わかった、今行く」

 

 わけも分からぬまま春蘭についていく真。話は朝、真の部屋までさかのぼる。

 部屋で眠っていた真は誰かが走ってくる気配で目を覚ました。とりあえず布団から出て寝台に腰かけて待っていると夏候姉妹がものすごい勢いで戸を開けてはいってきて有無を言わさず半ば強制的に連れ出されたのだ。

 

真「秋蘭、いい加減訳を話してくれないか?」

 

秋蘭「何がだ?」

 

真「俺が街に連れてこられた理由だ」

 

春蘭「何を言っている。買い物に来たにきまっているだろう。今までの流れで分からんか?」

 

 真の問いに至極当然のように答える春蘭。真はこめかみを押さえながらこう言い返した。

 

真「今朝から今までの流れのどこに買い物に行くと理解できる要素があったのか是非とも説明してほしいもんだな」

 

春蘭「・・・・・・秋蘭。私は何か間違っているのか?」

 

秋蘭「いや、ごく普通だと思ったが・・・・・・・?」

 

春蘭「ほら! 秋蘭が間違っていないと言うのなら、私は間違っておらん! おかしいのは貴様の方だ真!」

 

 胸を張り自信満々に言い放つ春蘭。真はそんな春蘭の隣で、無表情なようでこめかみや口元をわずかにピクピクせる秋蘭を見逃さなかった。

 

真「・・・・・・秋蘭」

 

 真がジト目で秋蘭を睨むと、秋蘭は馬鹿な姉を愛おしそうに見ながら嬉しそうに言った。

 

秋蘭「ふふふ、こんな姉者もかわいいだろう?」

 

 真は「このシスコンが」と思いながらため息をつく。

 

真「では言い方を変えよう。いったい何を買うんだ?」

 

秋蘭「まずは軍事関係の品だな。馬具や保存食を見ようかと思っている」

 

真「なるほどな。それで俺を連れて来たわけか」

 

秋蘭「うむ。お主の意見も聞いておきたくてな」

 

真「了解した。何か意見が欲しい時は言ってくれ」

 

春蘭「最初からそう言っていればよいのだ! 手間をかけさせよって」

 

 その後3人は馬具や保存食を見て回った。真は店に並ぶ馬具や保存食を見て改善点や更にいい保存方法などをこの時代で再現可能かつ歴史的に影響のあまりない程度に意見を述べて行った。秋蘭や各店の店主たちはその話を興味深く聞いていた。

 

春蘭「あれはなかなかに掘り出しものだったな、秋蘭」

 

秋蘭「だな。真の意見も聞けてかなりいいものも手に入りそうだ。さっそく次の会議にかけて華琳様の判断を仰ぐとにしよう」

 

真「役に立てたならなによりだ」

 

 春蘭と秋蘭は満足げで、かなり有意義なものとなったようだ。

 

春蘭「おお、秋蘭。あんな所にあったぞ!」

 

秋蘭「ほほぅ。これはなかなか・・・・」

 

 今度は何かと2人の視線の先を見ると、そこには今まで見てきたものとは明らかに毛色の違う品々が並んでいた。

 

真「・・・・・・秋蘭」

 

秋蘭「なんだ真?」

 

真「これは・・・・・服、だよな」

 

秋蘭「そうだが?」

 

 秋蘭たちが入った店には女性物の服が並んでいた。

 

真「てっきり次も軍事関連のものかと」

 

秋蘭「いや、さっきまでのは実はついででな。こっちが今回の主目的だ」

 

春蘭「・・・・・どう見る? 似合うか?」

 

 春蘭が手にしていたのは大量のフリルがあしらわれた何とも可愛らしい服だった。

 

真「ほぅ。春蘭がこんな服が趣味とは。正直意外だな」

 

春蘭「何がだ?」

 

真「ん? だってそれ、春蘭が着るんだろう?」

 

春蘭「な・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!?」

 

 服を持ったまま顔を真っ赤にして固まる春蘭。そんな姉を見た秋蘭は顎に手を当てながら真剣な面持ちでいった。

 

秋蘭「ふむ。それも悪くないな・・・・・・・」

 

春蘭「しっ! ししししししっ! 秋蘭まで・・・・・っ!」

 

真「でもサイズが少し小さいな。店主よ。もう少し大きいのはないか?」

 

店主「もちろんありやすよ。お出ししましょうか?」

 

秋蘭「ふふっ、どうする姉者。出してもらうか?」

 

 悪戯っぽく言う秋蘭に怒ったように言い返す春蘭。

 

春蘭「くぅぅっ! 秋蘭まで馬鹿にして・・・・っ!」

 

真「違うのか?」

 

春蘭「ち、違うにきまっているだろう! 私の服などどうでもいいのだ!」

 

真「それは残念。ぜひ見てみたかったのだがな」

 

春蘭「この服は、華琳様のだ!!」

 

真「まあ、そうだろうな」

 

 実は春蘭がいま彼女の持っている服を手にとった時点でこれが華琳のためのものだと思っていた。何故ならサイズが明らかにおかしいし、第一彼女の趣味ではない。さっきのはたんに春蘭をからかってみただけだ。

 

真「つまり、俺から見て華琳に似合いそうな服を探してくれ・・・・ということでいいのか?」

 

秋蘭「そういうことだ。いつもは私と姉者で選んでいるのだがたまには男の視点からの意見が聞きたくてな」

 

真「それで手近なところで俺、というわけか」

 

春蘭「私はそんなものは必要ないと言ったのだぞ。だが秋蘭がどうしてもというから・・・・・だな! 華琳様の服を選ぶなど・・・・男としてこんな名誉なことはないのだぞ? 光栄に思えよ?」

 

真「なるほどな・・・・・」

 

 真は春蘭の持っている服や店内に並ぶ服を見て回り始める。その目つきは真剣で気になった服を一点一点手に取ってじっくりと吟味して時折秋蘭に話しかけている。

 

真「・・・・・・ふむ。なあ秋蘭」

 

秋蘭「なんだ?」

 

真「要するに、華琳に似合う服が欲しいわけだよな?」

 

春蘭「さっきからそう言っておるではないか」

 

 真は顎に手を当て何かを考えている。そしてなにかをおもいついたようで店主を呼びよせる。

 

真「店主、意匠用の紙と筆があったら持ってきてくれ」

 

店主「へ、へい。少々お待ちを」

 

 走っていく店主。すぐに戻ってきた店主から紙と筆を受け取ると店の一角で何やら書きはじめた真。秋蘭と店主はその様子を興味深くに覗きこんでいる。

 

秋蘭「ほう・・・・・」

 

店主「こりゃあ・・・・・」

 

 そこに描かれていたのは2人が今まで見たことのない服だった。

 

秋蘭「真、これは」

 

真「天の国の服だ」

 

店主「これが天の」

 

真「何かいい物がないかと探していた時に元いた世界の服で似合いそうなのがいくつかあったんでな。なら探しまわるより再現してもらった方が早いと思ったんだ」

 

 真はスカートやキャミソール、スーツといった一般的な服からメイド服、ゴスロリ服、浴衣などの趣味的な服まで20枚ほどを一気に書き上げた。その間店主に詳しい作り方も説明していく。春蘭はすることもなく取り残されただそこに立ちつくしていた。

 

真「俺に書けるのはこんなもんだが、どうだ?」

 

秋蘭「うむ。これだけあれば十分だ。どう思う姉者」

 

 やっと話の輪に入れた春蘭は真の書いた意匠を見て満足げに頷く。

 

春蘭「華琳様もこれならお喜びになるだろう。よくやったぞ真!」

 

真「店主よ。どうだ、作れそうか?」

 

店主「ここまでの物を見せていただいて、さらに詳しい説明までしていただいておいて出来ぬというのは職人の名折れ、いや恥です。職人魂にかけて作らせていただきやす!!」

 

 店主はそう興奮気味に力説すると急いで店の奥に飛び込んでいってしまった。大声で指示を飛ばしているところを見ると早速作り始めているようだ。真と秋蘭は気の早いことだと顔を見合わせ笑った。

 一番時間がかかると思われていた服選びも真の才覚であっさりと終了し3人は帰路についていた。

 

秋蘭「なあ、真」

 

真「なんだ?」

 

秋蘭「よくあんなに意匠が思いついたな。それにあの意匠の完成度と明確さ、かなり手慣れていたようだが」

 

真「ああ。それは秋蘭たちと似たようなことをよくしていたからさ」

 

 首をかしげる夏候姉妹。その見事にそろった動きに流石姉妹と思いながら真は詳しく話し始めた。

 

真「華琳と同じで天皇陛下もそうそう外には出られない。まして一つの州ではなく国を治める御方だ。その忙しさは並大抵のものではない。それでも陛下は年頃の少女、オシャレもしたいのは当然だ。そこで俺が情報を仕入れてきて陛下に見せ、それをもとに陛下の希望を取り入れた意匠を書きそれをもとに職人に服を作らせていたんだ。そんなことをしているうちに自然とうまくなった。まあ元々絵を描くのは得意だったというのもあるんだが」

 

秋蘭「なるほどな。それなら納得だ」

 

 その後も城に戻るまで2人は天の国の服の話で盛り上がっていた。春蘭はというと、そんな2人を見ながらただついてきているだけだった。

 明雪は真を探して城を歩いていた。

 

華琳「あら、どうしたの?」

 

明雪「華琳に桂花。いいところにいたわ。真がどこにいるか知らない?」

 

桂花「あの男なら出かけましたよ。2,3日は戻らないそうです」

 

 桂花の話では真は前日の夜少し出かけてくると言いだし、今朝早くに街を出たとのことだった。

 

華琳「何か用事があるなら秋蘭に言うといいわ。不在の間、真の仕事は秋蘭がやっているから」

 

明雪「別に急ぎはしないから構わないけど、真はどこへいったの?」

 

桂花「建業だそうです」

 

明雪「・・・・・・・は?」

 

 間の抜けた声で聞き返す明雪。しかしそれは当然のことだった。華琳の治めるここ陳留から建業までは馬でも数週間かかる道のりだ。まして2,3日で往復などできるわけがなかった。

 

華琳「どうやるのかは知らないけど真1人でなら往復可能なのだそうよ」

 

明雪「そんな馬鹿な。いくらなんでも不可能だ」

 

 明雪の意見が常人の反応だろう。しかしそれを聞いた華琳はこう言い返した。

 

華琳「私もそういったのよ。そうしたら真はこういったわ。『ついでに孫家の情報も集めてくるから楽しみにしておいてくれ』ってね」

 

 そういった華琳の顔はとても面白そうだった。

 

 御遣いルート ~真、建業へ行く~

 

 華琳たちがそう話す頃、真はすでに建業に着いていた。

 

真「ここが建業。孫家所縁の地、後に呉の都になる街か」

 

 気配を完全に消し、街で一番高い楼閣の上から街を見下ろす真。眼下に広がる街にはさほど栄えているようには見えず、孫堅が治めていたころの繁栄は影をひそめてしまっていた。

 

真「しかし、孫文台が既に死んでいるとは。俺の知る歴史とは違う。知識の上の歴史はそう役には立たないのかもしれんな」

 

 ここに来る道中、真は孫家の現状を知らべていた。その中で孫堅の死を知ったのだ。しかしいまだ反董卓連合はおろか黄巾の乱すら起きていないこのときに孫堅が死ぬことは明らかに歴史から逸脱した出来事だった。さらに現在、孫家は袁家一族の1人、袁術に取り込まれており、孫堅の子たちはバラバラに暮らしているようだった。

 

真「確かこの建業には孫堅の次女孫仲謀と甘興覇がいるらしい。のちに呉の王になる孫権。どれほどのものか見定めさせてもらうとしよう」

 

 真はその場から姿を消す。屋根伝いに移動しながらところどころで情報を集めていく。そしてある通りにさしかかった時ある気配を感じて真は足を止めた。

 

真「この氣。常人のものじゃない」

 

 真は物陰に身を潜め様子を窺う。氣のする方向には2人の少女が歩いていた。1人は南方独特の褐色の肌とピンクのロングヘアーの生真面目そうな少女。もう1人は髪をまとめて団子にした少女だ。真の感じた氣はこの少女のものでもう1人の少女の護衛なのか一鋭い目つきで周囲を監視しながら歩いている。

 

真「特徴も聞いた話と一致する。あれが孫家の次女孫権か。隣にいるのは護衛の甘寧だな。ふふ、あれでは重要人物の護衛をしていると宣伝しているようなものだ」

 

 周囲に殺気を放出しまくる甘寧。真が感じた氣も彼女のものだった。真は2人の後方で不審な動きをする数人の男たちを捉えていた。そんな男たちに2人は全く気がついていない。

 

真「だからあんな輩が近づいてくるんだ。あれでは護衛の付いている意味がない」

 

 そして結局気づくことなく2人は街を出て近くの森に入っていった。当然男たちもそれに続く。やはり狙いは孫権で間違いないようだ。

 

真「仕方ない。力を貸してやるか・・・・・」

 

 真は頭に黒い布を巻いて顔を隠すと静かに動き出した。

 

 孫権と甘寧は森の中にある穏やかな川のほとりで水浴びをしていた。2人とも入っているわけではなく甘寧は川岸で周囲に注意を払っている。

 

孫権「思春。お前も入ったらどうだ?」

 

 思春こと甘寧は主人の誘いを首を振って断る。

 

甘寧「いえ。いつ賊が現れるかもしれませんので。蓮華様はゆっくりとお楽しみください」

 

 そう言う甘寧の顔は街にいたときより幾分か穏やかだ。やはり穏やかな時間が甘寧の心にも隙をつくっていた。それが彼女らにとっての仇となる。2人はすでに街にいた例の男たちによって周囲を取り囲まれていた。ここでやっと甘寧が異変に気づく。

 

甘寧「蓮華様。急ぎお上がりを。何か変です」

 

孫権「!! わかった」

 

 配下のただならぬ様子に孫権も警戒しながら服に手を伸ばす。しかし一足先に男たちが動いた。

 

甘寧「蓮華様! お気をつけ、くっ!」

 

孫権「思春!」

 

 いきなり倒れこむ甘寧。置いてあったタオルを巻き甘寧に駆け寄る孫権。彼女の足から細い針のようなものが生えていた。

 

甘寧「身体が・・・・痺れ・・・て。蓮・・華・様・・・・・お・・逃げを・・・・」

 

 麻痺した体で必死に主人を庇おうと剣を杖代わりにヨロヨロと立ちあがる。そんな甘寧を気遣いながら孫権も剣を抜いて構える。

 

??「美しい主従愛だな、孫権」

 

 声のした方に2人が顔を向けると男が一人立っていた。それと同時に周囲の森から10人の男たちが次々と出てくる。氣づけば2人は完全に取り囲まれていた。

 

孫権「何者だ!」

 

賊の男「これから死にゆく者に名乗る名はない。孫仲謀、その命貰い受ける」

 

孫権「くっ・・・・」

 

孫権の顔が歪む。絶体絶命の危機であるこの状態を打破する策が見つからない。甘寧を見捨てればあるいはとも考えたが、彼女にとってかけがえのない部下である彼女を見捨てることなどありえなかった。

 

甘寧「蓮・・華様・・・。私が・・・囮に・・なります・・・・。お逃げを・・・・」

 

孫権「そんなことできるわけないでしょう!」

 

賊の男「心配するな。仲良く冥土に旅立たせてやる」

 

 男がゆっくりと手を上げる。周りにいた男たちも攻撃態勢を整える。あの手が振り下ろされれば一斉に襲いかかって来ることは間違いないだろう。孫権たちも覚悟を決め一矢報いようと身構える。

 

賊の男「かかれ!!」

 

 勢いよく手を振り下ろす男。しかし周りの男たちは一向に動こうとしない。それどころか一斉に糸の切れた人形のように倒れ始めた。倒れた男たちの首や頭には細く小さな刃物が突き刺さっている。

 

謎の男「な、何だ!」

 

真「悪いが加勢させてもらった」

 

 いつの間にか両者の間に全身黒衣の男、真が立っていることに驚く3人。自分たちを庇うように立つその背中になぜか安心感と温かさを感じる孫権。

 

賊の男「何者だ!」

 

真「さっき自分が言っていたではないか。死にゆく者に名乗る名などない」

 

 そう言っていつの間にか持っていた小さな刃物、クナイを投擲した。

 

真「無事か?」

 

 男の死を確認した後孫権たちに問いかける真。

 

孫権「え、ええ」

 

真「これを飲ませろ。解毒剤だ」

 

 投げ渡された袋を見て中身が毒ではないかと疑う孫権。それを制したのは甘寧だった。

 

甘寧「蓮華様・・・・薬を・・・・」

 

孫権「いいのか思春。助けてもらって言うのも何だが、毒かもしれんぞ」

 

甘寧「こ奴・・の・・・・腕・・ならば・・・毒など用い・・・ずとも・・我らを・・・殺すことなど・・・・容易い・・ことです・・・・。毒を飲ませる・・・必要など・・・・・・・・ありません」

 

孫権「思春がそうまで言うなら。しかし思春に何かあった時にはっ!」

 

真「我が首を差し上げよう」

 

 その真剣な眼差しを見た孫権は偽りを言ってないと判断して甘寧に薬を飲ませた。飲んでしばらくすると甘寧の痺れが取れ始めた。真はそれを見て立ち上がる。

 

真「周囲をもう一度見回ってくる。その間に服を着ておいてくれ」

 

 自分の今の姿を再確認して顔を真っ赤にして胸元を隠す孫権。真はその様子を見てクスッと笑うと森の中へ消えていった。それを確認した孫権は急いで服を着始める。ある程度体の動くようになった甘寧がそれを手伝う。

 

孫権「思春。あの男をどう思う?」

 

甘寧「我らに害をなすものではないかと。捉えて詰問するほどではないと思います。しかしあの男、どこか気になります」

 

孫権「思春もか。私もあの男といるとどこか安心するのだ」

 

甘寧「奴は何者なのでしょうか?」

 

孫権「わからないわ」

 

 そう話していた時ちょうど真が戻ってきた。

 

真「薬は効いたようだな」

 

孫権「ええ。改めて礼を言う。お前のおかげで私の命は救われ、大事な部下を失わずに済んだ」

 

真「成り行きで助けただけだ。それにおかげで目的も果たせた」

 

甘寧「目的?」

 

 真は頷き、孫権の顔を真っ直ぐ見ながらこう告げた。

 

真「孫仲謀を見にきた」

 

 そう言った瞬間甘寧は孫権を庇うように立つと真に剣を突き付けた。真はそれに動じた様子もなくやんわりと制止する。

 

真「身体はまだ本調子じゃないだろう。無理はするな」

 

甘寧「うるさい! 貴様、なにが目的だ!」

 

真「さっき言った通りだ。孫仲謀を見にきたんだよ甘興覇殿」

 

甘寧「! 貴様!」

 

 今にも切りかかりそうな甘寧。まさに切りかかろうとした瞬間、それを止めたのは孫権だった。

 

孫権「やめよ、思春」

 

甘寧「しかし蓮華様!!」

 

孫権「さっき自分で言っただろう。もしこの男が他国の間者か暗殺者ならとっくに私たちは殺されている」

 

 主人に宥められ渋々剣を引く甘寧。それを確認した孫権は改めて真に問いかけた。

 

孫権「私を見に来たと言ったがいったい何が目的だ?」

 

真「私は今主とすべき人物を探している。我が武と我が智、そして羽が魂のすべてをかけるに値する主を。故に諸国を回り有名な武将を見ているのだ」

 

孫権「そうだったか。で、私はお前の眼にはどう映った?」

 

真「街の治安はなかなかいいことや税制もしっかりしていることから政治力は高い。君主としても配下をきちんと統べ相手をきちんと見て判断できる高い資質を持つ。だが一点、武に関してはまだまだだな。さっきも孫権殿に甘寧殿と同等の武があればあの程度の敵どうとでもできたはずだからな」

 

孫権「本人を目の前にしてえらく率直にものを言うな」

 

真「問うたのはそちらだ。隠す必要がどこにある?」

 

孫権「ふふ。確かにそうね」

 

 自分の未熟な点をあっさりと看破され、孫権は怒りを通り越しておかしくなった。

 

甘寧「貴様から見て有力な武将はどの程度いる? そしてそれは誰だ?」

 

 そう問いかける甘寧。真は少し考えた後こう答えた。

 

真「孫権殿を除けば6人だな。まずは貴殿の姉で現孫呉の王の孫策殿だな。江東の虎の異名をとった孫文台殿の血を引き勇猛果敢な猛将と聞く。ただ感情で動くことが多く理性がきかなくなることがあると聞いたが軍師である周瑜殿がそれを補っている。今でこそ小勢力だが力を得ればこの地域では最強だろう」

 

 実の姉を褒められうれしそうな孫権。甘寧もどこか誇らしげだ。

 

真「次に曹操だ。曹操には実際会ったことがあるがあれは完璧に近い武将だ。政治、軍事の両方に優れ彼女を支える武将たちもかなり優秀で兵や民からの信頼も厚い。地位も財もありながらそれに溺れることはない。武も曹操軍最強と名高い夏候惇と同等と非の打ちどころがないとはまさにこのことだ」

 

 近い将来到来するであろう乱世。そこで天下を取るためにいずれ戦うことになるだろう有能な人物の話に2人は真剣に耳を傾ける。

 

真「あとは袁家の2大当主である袁紹と袁術。2人とも相当な馬鹿らしいが持っている兵力は侮れん。もし今後、優秀な軍師か武将でも加われば一気に力をつけるだろう。それに馬騰。騎馬を用いた戦術は平野では圧倒的だろうな。あとは董卓。あまり名は知られていないが素晴らしい治世を行う名君で配下には猛将知将がそろっていると聞く。有力なのはこんなところかな」

 

甘寧「貴様は誰に仕えるつもりだ?」

 

真「まだわからん。実際にあったのは孫権殿と曹操だけだからな。残りの武将達を見てから決めるさ。さて、俺はそろそろ行くかな」

 

そう言って立ち上がる真。そのまま立ち去ろうとするのを孫権が呼びとめる。

 

孫権「あなたの名は? まだ聞いてなかったけど」

 

真「御堂だ。縁があったらまた会おう」

 

 そう言って真は森の中に消えていった。

 

孫権「御堂、か。本当にもう一度会いたいわ」

 

 そう言い残し孫権たちも街へと帰っていった。

 

 その日の夕方、真は陳留の街まで帰ってきていた。門の前まで来て思いっきりのびをする。

 

真「流石に長距離の縮地は疲れるな。早く戻って華琳に報告してから休むとしよう」

 

 真が歩きだそうとしたら後ろから誰かに呼び止められる。

 

??「あの、天の御遣い様でいらっしゃいますか?」

 

 真が振り向くとそこに立っていたのは・・・・・・。

 

 いかがだったでしょうか?

 

 え? 最後の微妙な斬り方が気になるって?

 

 まあ今後の展開への伏線ということで期待しておいてください。

 

 ご覧のとうりの遅筆ですがコツコツがんばっていきたいと思いますのでこれからも応援のほどよろしくお願いします。


 
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