No.1001574

真・恋姫†無双-白き旅人- 第十五章

月千一夜さん

十五章です
できれば、今日明日中には既存の話は載せていきたいですね

はやく皆さんの前に、新しい話を見せられるよう頑張ります

続きを表示

2019-08-11 22:48:03 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1663   閲覧ユーザー数:1491

「疲れたぁ・・・」

 

 

酒場の中、“グッタリ”と机に突っ伏したのは雪蓮だった

その表情には見えるのは“疲れ”

まぁ今の今まで、ずっと街を走り回っていたのだから、無理もないことなのだが

そんな彼女の姿に、彼女を見つめる青年

“司馬懿”こと、一刀は苦笑を浮かべる

 

 

「お疲れ様、雪蓮

どうだった?」

 

「どうだったって・・・な~んにも、わかんなかったわよ

むしろ、最初のころよりもわかんなくなっちゃった感じがする

こう、なんか“モヤモヤ”するっていうかさ」

 

 

“そっか”と、一刀

彼は苦笑を浮かべたまま、次に華雄と雛里に視線をうつした

 

 

「そっちは、どうだった?」

 

「残念ながら・・・いや、違うな

“一刀の言っていた通り”、こっちも何も情報はない」

 

「華雄さんの仰る通りです

特筆すべきことはありませんでした」

 

 

そう言って、2人も苦笑を浮かべる

“一刀の言っていた通り”という言葉に

若干の、やるせなさを感じさせながら

 

 

「あとは・・・」

 

「此方も、進展はありませんでした」

 

 

等と、言葉を重ねたのは法正である

彼女はその両隣に春蘭と秋蘭を見つめ、“はぁ”と深い溜息を吐き出していた

 

 

「仲達殿の“大袈裟に”という指示も空しく、夏候惇様や夏侯淵様のお力を借りているにも関わらず・・・この始末

私、ちょっと外で埋まってきます」

 

「そんな“ちょっと、外の空気吸ってきます”みたいなノリで言う台詞じゃないよね、それ!?」

 

「頭から首のあたりまで、埋まっていますので

見かけたら、豪快に踵でも落としてやってください」

 

「何ソレ、すごいシュール!

ていうか、そんな酷いことしないよ!?」

 

 

通常運転・・・というよりも、まぁ

自身の力不足に対し、彼女は若干(普通は、“若干”という言葉から“埋まる”という言葉には直結しないのだが)ショックを受けているようだった

そんな彼女の隣、秋蘭が軽く咳き込んでから話を始める

 

 

「まぁ、法正が言ったとおり

一刀の指示通りには動いてみたものの、結果はこのザマだ

すまなかった」

 

 

と言って、頭を下げる秋蘭

その様子に、彼は慌てて“ちょっと、勘弁してよ”と苦笑する

 

 

「全然、気にしてないって

ていうか、こう言っちゃなんだけど・・・多分、“そうなるなぁ”って予想して

俺は、あんな指示を出したんだから」

 

 

この一言に、秋蘭は

いや、この場に集まった者は皆・・・目を見開き、“ポカン”といった様子で彼を見つめていた

その視線に、その内に込められた意味に“気付き”

 

彼は、静かに笑みを浮かべる

 

 

「あ、けど誤解しないでほしいんだ

あの法正さんの出した指示には、確かに“意味”はあったんだ

勿論、雪蓮のやつにもさ」

 

 

言って、彼は懐から何かを取り出した

それは今よりも、だいぶ前

華雄と雛里の前で取り出した、あの古ぼけた一冊の本だった

相変わらず、これまた古く白いカバーのせいで

その、本の“タイトル”までは見えなかったのだが

それでも、やはり、というよりも当たり前のことだが

その本が、かなり年季の入ったモノだということは容易に予想できた

彼はその本を、ゆっくりと開いていく

 

 

 

 

「全部・・・“繋がっていくんだよ”」

 

 

 

 

それが、“彼”の

いや・・・“司馬懿仲達”の、策の始まりを告げる合図だと

 

誰一人、気付くことはなかったのだが

 

 

 

 

 

 

 

≪真・恋姫†無双-白き旅人-≫

第十五章 つまるとこ、成都!!~メタァァァアアアアアアアア~

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「繋がっていく・・・?」

 

 

恐る恐るといった口調で、ようやく言葉を絞り出したのは

漆黒の髪を揺らし、蝶を模した眼帯を身に着ける女性

夏候惇こと、春蘭である

そんな彼女の言葉に、いや“問いかけ”に

彼は、ニッと笑みを返した

 

 

「さて、と・・・春蘭に質問

“言葉”っていう言葉の意味を知ってるかな?」

 

 

“ちょっと、ややこしくなっちゃったけど”と、一刀

その問いに対し、彼女は心外とばかりに表情を歪める

 

 

「馬鹿にするな

“言葉”とはつまり、今我々がこうして使っているものだろう?」

 

「うん、正解

その通りだよ、春蘭

さっすが、魏武の大剣!」

 

 

そう言って、彼は“パチパチ”と手を叩く

その姿に、一瞬凄まじく馬鹿にされている気がして、彼女は苛立ちを感じてしまう

が、それはまた一瞬で消え去った

彼が浮かべた表情によって、だ

 

 

 

「ーーー“言葉”

おれ達が日常生活の中、“普通”に使っているものなんだけどさ

これが・・・結構、“難しいんだ”」

 

「“難しい”?」

 

 

“うん”と、彼は頷く

そして、それから見つめたのは・・・法正だった

 

 

「今回の事件

俺が感じた、違和感の一つ

“街に住む人々と法正さんの間にある、この一連の事件に関しての温度差”

これに、この“言葉”ってやつが大きく関係しているんだよ」

 

「えっ・・・」

 

 

驚く、法正もよそに

彼は辺りをグルリと見渡し・・・まずは、雪蓮を見つめた

 

 

「雪蓮は淳于瓊と一緒に色々と話を聞いて回った時さ

もしかして、こう聞いて回ったんじゃないかな?

“つい最近、この辺りで何かおかしなことはありませんでしたか?”

又は、“この辺りで、変な人は見ませんでしたか?”って

そんな感じで」

 

「ええ、そうよ

全く持って、その通りだわ」

 

 

驚いたような、雪蓮の言葉

次いで彼は、法正へと視線をうつす

 

 

「お城の方でも、同じようなことを、兵に聞かせて回ったんじゃないかな?」

 

「え、ええ・・・そのような、報告を受けてます」

 

 

と、法正は言う

そして、彼が次に見つめた先

華雄と雛里は、静かに頷いていた

 

 

「此方は、一刀が“そのように聞いて回れ”と言ったからな

そのように、聞いて回っていたぞ」

 

「うん、ありがとう」

 

 

礼を言って、彼はフッと息を吐き出す

それから、少しだけ笑みを浮かべ話を続けた

 

 

「さて、ここまでの話を纏めると

皆、同じようなことを聞いて回った

その結果、まぁ何も収穫はなかった、と」

 

 

“そうなるよね?”と一刀

その言葉に、皆が悔しげに頷く

だがそんな中、彼はクッと笑ったのだ

 

さながら・・・“悪戯”が成功した子供のような、そんな笑顔を浮かべて

 

 

 

「うん、ごめん

まず、皆に謝っちゃうけどさ

これは・・・“俺のせいなんだ”」

 

 

 

なんの悪びれた様子もなく

そんなことを、平気で言ってのけたのだ

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

「一刀さんの、せい?」

 

「うん、まさか・・・こんな上手くいくとは思わなかったけどね」

 

 

そう言って、彼は笑う

それから、人差し指をピッとたて・・・言ったのだ

 

 

「朝にさ、俺は酒場で言ったよね

“攫われた、またはいなくなった人が何処に行ったのか”

これに、焦点を絞るってさ」

 

「はい、確かに言いました」

 

「この言葉を聞いて、皆は無意識のうちに“ある一言”に囚われてしまったのさ」

 

 

“ある一言”

この一言に、皆が一様に首を傾げている

そんな中、彼は“簡単な話だよ”と呟く

 

 

「“攫われた”っていう、この一言にだよ」

 

 

“攫われた”

彼は、その一言に、

この場にいる皆が、囚われた・・・そう、言っているのだ

 

 

「それって・・・どういうこと、なのだ?」

 

「そのまんまの意味だよ

皆は唯、その言葉を“強く意識”しちゃってたのさ」

 

「意識・・・」

 

「うん、それに・・・唯でさえ昨日、“たすけて”って血で書かれた紙を見ているしね

意識しない方が、無理な話だったんだ」

 

 

“だからこそ”と、彼は溜め息と共に言い放つ

 

 

 

 

「探すのは、“いなくなった人たち”のはずなのに

無意識のうちに、“この事件に対する日常とは違った異変、又はこの事件を起こしたであろう犯人”を皆は探していたのさ」

 

 

 

 

“シン”と、其の場が静まり返った

彼のその一言に

唯々、皆は納得していたのだ

 

 

「・・・つまりは、どういうことなのだ?」

 

 

・・・唯、一名を除いて

まぁ、名前は言うまでもないだろうが

本当に、余計なことかもしれないが

 

春蘭、その人である

 

 

「それと、“言葉”の話が・・・いったい、どう関係するというのだ?」

 

 

と、続けざまに声をあげる春蘭

そんな彼女の姿に、彼は微かに笑みを浮かべつつ・・・見つめるのは、先ほどから店内を忙しく動き回る

一人の店員だったのだ

 

 

「だから、“難しい”というお話さ

“簡単”なようで、凄く難しいんだ」

 

「だから、それがわからんのだ

いったい、お前は・・・結局、“何が言いたいのだ”?」

 

「まぁ、見ててよ」

 

 

と、そこで彼は見つめていた店員に向かって声をかける

それによりやって来たのは、小柄な少女であった

 

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「実は、ちょっと聞きたいことがあるんですけど・・・」

 

 

“いいでしょうか?”と、一刀

それに対し、店員は人懐っこい笑顔を浮かべ頷いていた

 

 

「この近くに、仕立て屋さんがあるじゃないですか?

最近、その近くで何か変わったことはありませんでしたか?

又は、妙な人を見かけたとか・・・」

 

 

一刀の言葉

ソレは、雪蓮たちが何度も尋ねて回っていたことだ

その一言に対し、店員はしばし考えた後に・・・首を、横に振った

 

 

「そういうのは、見ていないですね

あのお店には、実はけっこう足を運んでいたんですけど

そんな話、聞いたこともありませんでしたし」

 

「そうですか・・・」

 

 

“やっぱりか”と、皆はそう思った

因みに、近くの仕立て屋さんとは

淳于瓊の弟子が経営するという、件の仕立て屋である

 

しかし、聞けば常連らしいが・・・そんな少女でさえ、“何も知らない”のだ

これでは、どう手を打てばいいのかわからない

そんな表情を、皆は浮かべている

 

しかし・・・彼は違ったのだ

 

 

 

「言ったろ?

“言葉”は、難しいんだ

だからこそ、ここは・・・“視点を変えてみるんだよ”」

 

「一刀・・・?」

 

「まぁ、見ててよ」

 

 

と、そう言ってから

彼はふたたび、店員を見つめる

 

それから、こう言ったのだ

 

 

 

「なら・・・その店で働いている人が、“何処に行ったのか知りませんか?”」

 

 

紡がれたのは、今までとは“違う言葉”

“攫われた”という言葉から離れた

唯々、他愛ない一言

 

その一言に対し、店員は・・・

 

 

 

 

「それなら、確か・・・“荊州のあたりまで、仕事に行っているらしいですが”」

 

 

 

 

親切かつ、丁寧に

そう言ったのだった

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

「なっ・・・!?」

 

 

と、声をあげ立ち上がったのは秋蘭だった

次いで、淳于瓊が焦りながら声をあげる

 

 

「そんなの、アチシ聞いてないわよん!?

初耳だわん!!」

 

「だろうね・・・ああ、すいません

どうも、ありがとうございました」

 

「は、はい・・・」

 

 

店員にお礼を言い、再び見つめた先

其の場にいる皆の表情は、驚きに染まっていた

 

そんな彼女達を見つめ、彼は再び笑う

 

 

「ね?

“難しい”だろ、“言葉”って」

 

「これはいったい・・・どういうことなのだ、一刀」

 

「そのまんまの意味さ、秋蘭

後で、他の街の人にも聞いてみればいいよ

皆、同じようなことを言う筈さ

“あの人なら、何処かへと出かけてる”ってね」

 

 

言いながら、一口水を飲む

それから、彼は法正を見つめ呟く

 

 

「そして、これこそが“温度差の原因”だよ

だってそうだろ?

法正さんにとっては“事件”でも、実際に街にいる人達からしたら

いなくなった人たちはみんな、“出かけてるだけなのだから”」

 

 

“いなくなった”のではない

唯、“出かけているだけ”

だからこそ、街に住む人々からしたら、そこに異常はなく

 

 

 

 

ーーー“異変”は、起こっていない

 

 

 

 

 

「しかし、実際にでかけている筈はないだろ?」

 

「そうだよ

これは、れっきとした“事件”だ」

 

 

“事件”

そう言って、彼は“フゥ”と息を吐き出した

 

 

「法正さんが言うには、最初は“あの人が、いなくなった”という報告があった

にも関わらず、数日で街は静かになったんだ

それはつまり、街で“あの人は、仕事で何処かへと行ったのです”と言った人物がいることになる

この温度差を作り出した人・・・いや、“人たち”かな」

 

「つまりは、その“人達”というのが・・・」

 

 

 

この一連の事件の・・・“犯人”

言わずとも、皆理解していた

 

 

「まぁ、でもさ

此処まで来ると、あとは“簡単”さ

残った“疑問”なんて、もうないようなものだから」

 

「残った疑問、というと・・・“どうやって、職人を攫ったのか?”ということか」

 

「そうだね

どうやって怪しまれずに、痕跡も残すことなく

職人たちを、連れ去ることが出来たのか」

 

「それについては、わかってるんですか?」

 

 

そう言ったのは、雛里だった

その彼女の一言に、彼は頷いた

唯、少しだけ表情を歪めながらだが

 

 

「わかってるよ

わかってるんだけどね・・・」

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、まぁ

これについては、もう“考えるまでもないんだ”」

 

「考えるまでもない?」

 

 

華雄の言葉

一刀は、バツの悪そうな顔のまま頷く

そして開かれた本を見つめたまま・・・真剣な、声色で

彼は、ゆっくりと言葉を紡ぐ

 

 

「うん、考えるまでもないよ

ただこの先は、ちょっと辛い話かもね

特に・・・」

 

「“私たち”には、ですか?」

 

「あ~・・・うん」

 

 

“私たち”

そう言ったのは、雛里だった

そのすぐ傍では、法正もわかっていたのであろうか

複雑そうな表情を浮かべている

 

 

「一刀さんのお話を聞いているうちに、私も“気付いてしまったんです”

この事件・・・法正さんとの“温度差”を作るにあたって、絶対に必要な事柄があることに」

 

「そっか・・・気付いたんだね

なんて、そんな言い方は失礼だよな

雛里ちゃんや法正さんが、“気付かないはずがないもんな”」

 

「どういうことだ?」

 

「だからね、“考えるまでもないんだ”

そもそも、俺はさっき言ったよね?

此処にいる皆は、“攫われた”という言葉に縛られてるってさ」

 

「ええ、言っていたわね」

 

「けど、考えてもみなよ

おれ達は人数が少ないから、俺一人で皆を上手く誘導できたけどさ

これが五十人、百人になったらどうだろうか?

果たして、皆が皆・・・そんな、決まりきったことを聞くと思う?」

 

「それは・・・そうね

もしかしたら、途中から“此処の人が何処に行ったのか、知らないか?”と聞く人だって出てくるはず」

 

「むしろ、初めの方は法正さんだって“事件だとは思っていなかったんだ”

十中八九、そう聞いたはずだよ

けど・・・法正さんのもとに、この“現状”は耳に入らなかった

それに、最初に言っただろう?

“こんなに上手くいくとは思わなかった”ってさ

この人数でさえ、途中からそんなふうに聞いてしまう可能性があったのさ

ハッキリ言ってしまえば、おれ達は相当“運が悪かった”

まぁ、半分以上は俺の言い方のせいなんだけどさ」

 

 

“つまり・・・”と、彼は溜め息を吐き出す

それから、本に目を通しながら呟いたのだ

 

 

「誰かが・・・街と法正さんの間で、“意図的に情報を切っている”としか考えられない」

 

「そう、ですか・・・」

 

 

呟き、雛里は俯いていた

“やはり”という・・・そんな、表情を浮かべながら

 

 

 

「そうか・・・だから、お前は“当てにしなかったのか”」

 

「姉者・・・?」

 

 

“ポツリ”と、春蘭は呟く

それから彼女は、彼を見つめ複雑そうな表情を浮かべていた

 

そんな彼女の視線に対し、彼は力なく笑うのだった

 

 

 

「法正さんと、街との間の情報を切り離し

街の人々に、そのような情報を流し

何の疑いもなく、職人を連れ去っていく

しかも、攫われたのはみんな・・・“蜀の重鎮御用達の店を経営する職人たち”

こんなこと出来る人間は、大分限られてくる」

 

 

 

“もう、わかるだろう?”と、一刀

この言葉に

その一言に

 

皆は、気付いてしまう

いや・・・もう少し前から、理解はしていたのかもしれない

 

このような、“おかしな状況”を作れる者など

本当に限られているのだから

 

そんな中、彼はフッと笑みを浮かべ

開いている本の一ページに、そっと手を添える

 

そして・・・

 

 

 

 

「それじゃ、そろそろ・・・“線を、引くとしようか”」

 

 

 

 

 

スッと、横に“線を引いたのだった”

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

「法正様、お呼びでしょうか?」

 

 

そう言って執務室に入ってきたのは、今朝に法正から指示を受けて働いていた兵士のうちの一人だ

そんな彼の来室に、彼女は“はい”と笑顔のまま返事をする

 

 

「少々、お聞きしたいことがありまして」

 

「はい、構いませんが

もしや、朝のことについてですか?」

 

 

“兵”の言葉

彼女は、笑顔のまま頷いた

それから、彼に近くに来るよう促す

しかし・・・彼は、それを躊躇ってしまう

 

無理もない

彼女の両脇には、夏候惇と夏侯淵

春蘭と秋蘭が、控えていたのだから

 

その迫力は、唯一言・・・“恐ろしい”である

 

 

 

「どうか、しましたか?」

 

「い、いえっ!」

 

 

慌てて声をあげ、近くへと寄る兵士

彼はそれから、その場で頭を下げた

 

 

「それで、どのようなことをお聞きになりたいので?」

 

「まぁ、そう慌てないでください

貴方には、日頃から苦労をおかけしていますから

お茶を用意しておきました

それを呑みながら、ゆっくりとお話をしましょう」

 

「しかし、それは、その・・・やはり、申し訳ないといいますか」

 

「いいではないですか

貴方とは私が内務を任せられる以前・・・“未だ蜀の王が劉璋様だった頃からのお付き合いではないですか”」

 

「っ!!?」

 

 

 

一瞬

本当に、“刹那”の瞬間であった

驚愕の表情を浮かべる男の首もとに、春蘭は剣を宛がっていた

そのすぐ背後では、秋蘭が弓を構えている

 

 

 

「ほ、法正様!

これは、いったい・・・」

 

「いえ、気にしないでください

私が、本当におバカさんだっただけですから」

 

 

と、ゆっくりと男へと歩み寄る法正

彼女はそれから、本当に・・・本当に悲しそうな表情を浮かべたまま

男へと、顔を近づけた

 

 

「貴方のことを、確かに私は見たことがあります

そうです・・・私は“頭に血がのぼっていて”、貴方のことに目がいっていませんでした」

 

「ほ、法正様・・・?」

 

 

恐る恐るといった様子で

兵士が見つめる先

その瞳の中・・・彼女は、法正は今まで見たこともないような表情を浮かべたまま

 

 

「教えてください・・・」

 

 

こう、言ったのだ

 

 

 

 

 

「“師父”は、今・・・何処にいるのですか?」

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

深夜

現代の時刻で言えば、二時を廻ろうかという頃だろうか

街から城へと向かう道のりを、足早に駆けて行く集団があった

 

暗闇に紛れ込むように、溶けいるように

真っ黒な外衣に、身を包んだ集団だ

 

その数は、ゆうに百を超えるであろう

 

やがて、その集団は城の門前へと辿り着いたのだった

 

“門番はいない”

 

そのようなことは、誰よりも彼ら自身が知っていたのだから

 

 

 

 

「ーーー様、このまま城内に突入するのですか?」

 

「いや・・・二手に分かれよう

一方は、“攫ってきた者達”の身柄を伴い城内へと入ってこい

なに・・・ここの連中は、人質には滅法“弱い”」

 

「くく、御意・・・」

 

 

言って、何処かへと走っていく黒い影

その姿を見送った後、男はゆっくりと門を指さして言ったのだ

 

 

「さぁ、開門せよ

愚かな王が帰るまでに、この城を我らがものとするのだ」

 

 

その言葉に伴い、開いていく門

そして・・・

 

 

 

 

「なっ・・・」

 

 

 

 

開かれた門の先

立っていた少女の姿に・・・彼は、一瞬言葉を失ってしまう

 

 

「お久しぶりですね、我が師父」

 

 

キッと表情を強める少女に

男は、見覚えがあった

 

 

「“法正”・・・」

 

「はい、その通りです・・・我が師父」

 

 

“いえ・・・”と、彼女はスッと手をあげる

瞬間、辺りは一気に明るくなり

彼女の背後には、幾人もの兵と春蘭・秋蘭が各々の武器を構え立っていたのだ

 

 

 

「反逆者・・・“王塁”」

 

「なんと・・・まさか、お前が“答え”に辿り着くとはな」

 

 

 

そう言って、男は・・・“王塁”は笑う

そして、見えたのは

少し白髪の混じった髪をした、目つきの鋭い男の姿だった

 

 

「見違えたな

私の側で学んでいた頃よりも、ずっと成長している」

 

「ありがとうございます」

 

 

頭を下げ、微かに笑みを浮かべる男を睨み付け

彼女は、深く息を吐き出した

 

 

「貴方ならば、古くよりこの蜀で知を振るっていた貴方ならば・・・この蜀内の兵も、多く部下とし動かしていた貴方ならば

私の行動を把握し、そして“私を意地にさせることが出来る”

蜀内の情報だって、その懇意にしていた兵を通じて得ることが出来る

同じ“憤り”を抱えた者達を集め、このような行動に出ることだって

不可能なんかじゃない」

 

「ふむ・・・ああ、全く持ってその通りだ

これらの件は全て、この私の指示によるものだ

その様子だと・・・他の細かなことにも、気付いたようだな?」

 

 

“はい”と、法正は頷いた

 

 

「貴方達が連れ去った者達は皆、蜀の重鎮御用達・・・此処に、意味があったのです

蜀の重鎮が懇意にしていたのです

その職人が“呼ばれたって”、なんら不思議ではないのです

ーーー攫ったんじゃない

“呼んだだけだったんですよ”

ただ兵を使い、“~~様が呼んでいる”と、そう言って連れていけばいいだけなんです

その後、いなくなったと騒ぐ人には“あの人は、用事があって出かけている”と伝えればいい」

 

「はは、見事だ」

 

「そして、貴方は!

私に対しては、ワザと疑問に思うように仕向けたっ!!

私が知る限り、私が思う限り!

犯人は、貴方しか思い浮かばないから!!

私が自分の力で、意地になって追うよう、仕向けたんです!!

あの仕立て屋の紙は、“たすけて”という紙は・・・私を、精神的に追い詰める為に、置いたものだった!!!!」

 

 

叫び、彼女は腰に差していた剣を抜いた

その剣の切っ先を、男へと向けながら・・・

 

 

「だって貴方は、私の“師”であり!

そして・・・“劉玄徳”に対し、今の“蜀”に対し!

一切、“納得”なんてしていないのだからっ!!!」

 

 

 

 

 

 

~だから私は、貴方を追ったのだから・・・~

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

「本当に、成長したな

見違えた、本当に・・・昔とは、大違いだ

“劉備が帰ってくる”としつこく言ったのも、この為だったのか」

 

 

言って、男は笑う

いや・・・“嗤う”

 

 

「しかし、爪が甘いな・・・」

 

「っ!」

 

 

瞬間、今度は彼女が言葉を失ってしまう

男の後ろ

そこには、縄で縛られた何人もの人がいたのだから

 

 

「王塁様・・・連れてきました」

 

「うむ、ごくろう」

 

 

すぐにわかった

あれらは皆、連れ去られた職人達だ

彼女は唇を、強く噛み締める

 

 

「その様子では、方法はわかっていても場所まではわからなかったようだな

なに、簡単な話だ

この国の牢屋番は皆、この私の元部下たちだ

故に、誰に知られることもなく

罪人牢の中、長い間隠すことが出来たのだよ」

 

「くっ・・・!」

 

 

よろりと、後ろへとさがる法正

その姿に、男は愉快そうに笑みを浮かべていた

 

 

「甘いな、相変わらず甘い

まるで、今のこの国のようで・・・虫唾が走る」

 

「・・・!」

 

 

“ギリッ”と強く歯軋りし

彼もまた、剣を抜いた

 

 

「さぁ、職人共の命が惜しくば道をあけよ」

 

「くっ・・・」

 

 

その剣を身近にいた者に突き付け・・・笑う

しかし・・・

 

 

 

 

 

 

 

「いやん♪

いきなり、激しいのねん♪」

 

「っ・・・!!!??」

 

 

 

彼は、咄嗟にその剣を離してしまう

すぐ傍から、もっと言えば自身が剣を突き付けたはずの者から発せられた

得体の知れない気配によって、だ

 

 

「な、なななな・・・なんだ、お前は!!!??」

 

「あらん、ちょっと驚きすぎよん」

 

「お、おい誰だ!?

“職人”と“化け物”を間違えたやつは!!?」

 

 

本来は絶対に有り得ない間違い

ていうか、あり得ない状況

 

攫ったはずの職人に、このような男がいただろうか?

 

このような・・・

 

 

 

「失礼ねん

これでもアチシ、れっきとした職人よん」

 

「き、貴様のような・・・スキンヘッドにグラサンかけて額には愛と書いた、なんかパツンパツンになった可愛らしい服を着た筋肉野郎が職人なわけがないだろう!!!??」

 

 

彼の叫び

 

それは、まったくもって当たり前

世間一般的に考えて、皆が皆同じように思うであろうほどに

まったく、彼の言う通りなのだが

 

だがしかし、残念ながら

メタなことを言ってしまえば、作者ですら認めたくないことではあるのだが

 

彼の目の前で、縄でグルんぐるんになっている筋肉野郎

“淳于瓊”は、間違いなく一流の職人なのである

 

 

「こ、これはいったいどういうことだ!!?」

 

「まぁ、こういうことよねん」

 

 

と、淳于瓊が言った直後だった

辺りが、さらに明るくなったのだ

 

その光りの源

彼の、遥か後方に見えたのは・・・

 

 

 

“劉”と書かれた、大きな旗だったのだ

 

 

 

 

「なん、だと・・・?」

 

 

力なく、声を漏らす王塁

そんな彼の視界の先

旗のすぐ傍にいた少女は、ゆっくりと言葉を紡いでいく

 

 

「初めまして、ですね・・・王塁さん」

 

「劉・・・玄徳」

 

 

劉玄徳

彼の目の前にいる少女の名前

つまり、彼女こそが・・・この蜀の王

 

 

「“あのお方”は、全て“わかっていたのです”

貴方が、何処に職人を連れて行ったのかも

貴方が、どのような時期に仕掛けてくるのかも

何もかも、お見通しだったのです」

 

「“あのお方”、だと!?」

 

 

言われて、彼は慌てて辺りを見渡した直後

彼は、確かに見たのだ

城の灯りではなく

あの、劉備玄徳の方からの灯りでもない

 

いつの間にか出ていた、月の光に照らされて

 

 

 

 

「こんばんわ、でいいかな?」

 

 

 

 

輝く、“白き光”を・・・

 

 

 

 

 

 

「貴様は・・・」

 

「司馬懿・・・仲達

まぁ、覚えなくっても別にいいよ」

 

 

言って、白き外衣を身に纏う男は不敵に笑う

それから持っていた杖を構え

彼は言う・・・

 

 

 

 

 

「さって・・・いいかげん、“シリアス”も疲れちゃったからさ

悪いけど、もう終わらせてもいいかな?」

 

 

 

 

 

 

“司馬懿仲達”

この男の登場が、この男の言葉が

 

この地での物語の終わりを

確かに、予感させていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・続く

 

★あとがき★

 

うわーーーーーん、一刀じゃないけれども

シリアス疲れたよーーーーーーー

 

 

 

 

と、上記がリアルな当時の僕の心境です

今も、思います

 

速く、ふざけたいと

 

 

では、さようなら


 
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