「おかしいわねん・・・」
それは、賑やかな街の一角
そこに建つ、一軒の綺麗な造りの店の前に立つ男から発せられた言葉だった
スキンヘッドでサングラスをかけており、その額には何故か“愛”の文字
そして着ているゴスロリ服がはち切れんばかりにパツンパツンになるほどの筋肉の男
名は淳于瓊、愛称は“淳ちゃん”だった
彼は先ほどからその店の扉をコンコンと叩き、中にいるであろう人物を呼んでいる
しかし、その結果はご覧のとおり
一向に、その扉が開くことはなかった
「んもう、本当にどうしたのかしらん」
呟き、淳于瓊は深く溜め息を吐き出した
そもそも、おかしいのだ
この店は淳于瓊がその弟子に任せていた店で、この時間帯ならば開いているはずなのである
しかし店は開いておらず、扉には鍵までかかっているのだ
「やっぱりん、何かあったのかしらん」
“どうしようかしらん”と、淳于瓊
因みに、その間ずっと腰をクネクネとさせている為・・・周りからの視線は、非常に冷たい
「ん~・・・もうん、しょうがないわん
アチシってば、貧弱なんだけどン」
やがて、何かを決めたのか彼は閉ざされた扉に手を当てる
それから・・・
「ふんっ・・・ぬぅぅぅううう!!!!」
“ドゴン!!”と、派手な音をたて扉を吹き飛ばしたのだ
いや、もうわかっていたことだが
どこが貧弱だ、コイツ
「さてっとん・・・心配だからん、早く様子を見に行きましょうかしらん」
言って、彼は開け放たれた入口から店内へと入っていくのだった・・・
≪真・恋姫†無双-白き旅人-≫
第十二章 暴走だぜ、成都で!?~じゃあ皆仲良く、半分こ(真っ二つ)にしよっか?~
ーーーー†ーーーー
「お前・・・北郷、なのか?」
「ぅ・・・」
さて、ところ変わってここは酒屋の前
其処にある、店外の席でのこと
現在彼・・・司馬懿仲達こと、北郷一刀はピンチだった
「おい、何か言え・・・お前、北郷だろっ!?」
「姉者・・・!」
それも、そのはず
彼の名を叫び、彼の座る机を思い切り叩いたその女性
長い黒髪に、片目に眼帯をつけたその美女を・・・彼は、知っているのだから
夏候惇、真名を春蘭
霞と同じく、魏にいた頃の大切な人であり
彼にとって、華琳と同じくこの世界に着いた頃からの付き合いだったのだ
「北郷!!」
「姉者・・・一度、落ち着け!」
そんな彼女を、必死に止めようとする女性
水色の髪をした、これまた美しい女性のことも知っている
夏侯淵、真名を秋蘭
春蘭の双子の妹で、やはり彼女もまた彼が愛した女性の一人だ
その二人が今、自分の目の前にいる・・・
「はぁ・・・」
“仕方ない、か”と、お決まりの台詞
だがその中には、何処か“温かな想い”が込めらていた
「久しぶりだね、2人とも」
「っ・・・やはり、北郷、なのか?」
秋蘭の言葉
彼は軽く頬を掻き、苦笑を浮かべながら頷く
それに、彼女は“そうか”と・・・“安堵”の表情を浮かべ笑った
「北郷、なんだな
本当に・・・」
「うん、そうだよ
正真正銘、北郷一刀さ
だから、そんな“泣きそうな顔”しないでよ」
「無茶、言うな・・・この、大ばか者が」
それが、“限界”だった
「北郷っ!」
「・・・っと」
秋蘭はボロボロと涙を流し、彼に抱き着いたのだ
そして、声を出して泣いた
場所など気にせずに、彼女は大声をあげ泣いたのだ
そんな彼女のことを、一刀は優しくあやす様受け止めていた
無理もない
三年ぶりに、こうして再会できたのだから
「北郷・・・」
そんな妹の姿を見つめ、春蘭は小さく呟いた
その瞳は、大きく揺れていた
「北郷・・・北郷っ!」
そうして、彼女もまた抱き着いたのだった
三年前
彼女達の前から、その姿を消した
愛しい・・・彼の、その胸の中へと
ーーーー†ーーーー
「さて、と・・・」
呟き、フゥと息を吐き出す
それから、一刀は笑みを浮かべ口を開いた
「落ち着いた?」
「うむ・・・」
「ああ・・・」
一刀の言葉
春蘭と秋蘭は少し名残惜しそうに、彼の胸元から顔を離す
それから、涙の後を拭う
「すまない・・・見苦しいところを、見せてしまったな」
「いや、いいよ
もとはと言えば、俺のせいなんだし」
「はは・・・そう言ってもらえると、助かるな」
言って、秋蘭は笑う
それにつられ、一刀も笑っていた
「それにしても・・・まさか、こんなに早く再開できるとは思わなかったな」
秋蘭はそう言うと、一刀のことを見て
それからその視線を、一刀以外の2人・・・雪蓮と霞へと向ける
「成都に向かったのではと・・・そう、予想はしていたのだが
流石は冥琳、彼女の言うとおり
雪蓮も、一緒だったか」
「ああ、まぁね」
“それよりも”と、一刀
彼は秋蘭を真っ直ぐと見据えると、深く息を吐き出し言ったのだ
「秋蘭が此処に来たってことは・・・俺のことは、もう魏の皆にばれちゃったんだね」
「ああ、その通りだ」
頷き、秋蘭は言った
一刀はというと、その一言に対し・・・再び、溜め息をついていた
「ちょっと、早すぎる気がするんだけど
あのオッサン送ったのって、俺らが建業を出た日と同じはずなんだけどな」
「なに・・・少々、あったのだ
こう、なんていうか、言葉では上手く説明できないようなことが」
秋蘭の言うとおり
色々あったのだ
建業から魏国までの間を、たったの三日で駆け抜けてしまう
ガチな益荒男たちとの出会いが・・・
『女は帰れ』
「ま、いいけどさ
とりあえず・・・元気そうで、良かったよ」
「お前もな、北郷
それと三年前に比べ、少々顔つきが大人びてきたな」
「そうかな?」
「ああ、そうだ
ふふ・・・随分と、カッコよくなったじゃないか」
茶化す様、けど本当に嬉しそうに
彼女は、また笑った
その笑顔を見て一刀は・・・“笑えなかった”
「は、はは・・・」
心から、笑えなかった
彼女にそう言って貰えて、嬉しいはずなのに
彼女とこうして話せて、嬉しいはずなのに
(ああ、ちくしょう
そんなの、当たり前だろうが・・・)
“当たり前”
彼は心の中、そう呟き・・・“嗤う”
そんなこと、自分が一番わかっていた
そんなこと、自分以外の誰も知るはずがなかった
何故なら彼は・・・
~俺は・・・“嘘つき”なんだから~
「北郷・・・どうか、したのか?」
「いや、なんでもないよ」
“だから、気にしないで”と、一刀
秋蘭はその言葉に一瞬、眉を顰める
が、すぐに小さく息を吐き出し苦笑した
「なら、いいのだが」
「それよりさ、何か・・・話があったんじゃないの?
俺を、こうして探しにきたってことはさ」
「うむ
そのことなのだがな・・・姉者」
ふと、そこで秋蘭は姉に向い声をかける
しかし・・・その表情が、微かに歪んでいた
“いったいどうしたのか”と、疑問に思う一刀
瞬間・・・彼のすぐ前を、“何か”が通り過ぎた
「え・・・?」
と、一刀
同時に、響く“轟音”
舞い上がる粉塵
何が起こったのか、軽く理解できない彼だったが・・・やがて、彼はようやく気付いた
自分のすぐ目の前・・・その足元に、大きな大きな穴が出来ているのを見つけて
「あ、あはは・・・あ、あの、春蘭、さん?」
ドッと、流れる冷や汗
合わせて、ガクガクと体が震える
そんな彼のすぐ目の前、彼女は・・・春蘭は、たった今振り下ろした剣を肩に担ぎ直した
「やってしまった、かじゅとの前で・・・かじゅとなんかの目の前で、子供のように泣いてしまった」
「あ~、えっと・・・」
どうやら、先ほどのことを気にしているようだった
まぁ、プライドの高い彼女のことだ
よほど恥ずかしかったのだろう
それにしたって、これは少々・・・いや、だいぶやりすぎではあるが
「あのさ、春蘭?
そんな、気にすんなって
ホラ、誰にも言わないからさ」
「うるしゃいっ!!
しょんな言葉、信じりゃれるか!!」
「うひぃ!?
ちょ、おまっ、街中で剣を振るんじゃないっ!!」
“ていうか、ちょっと待て”と、彼はコメカミをヒクつかせる
彼女は今、何と言った?
『うるしゃいっ!!
しょんな言葉、信じりゃれるか!!』
おわかりいただけただろうか?
一刀は、勿論わかっていた
彼女の双子の妹である、秋蘭も恐らくわかっていただろう
「おいおいおい、よく見たら春蘭さん・・・顔、真っ赤じゃないっすか
しかも、ものっそいフラフラしてますよね」
“あれ、もしかして?”と、彼が思ったのと同時に
彼に向って、二人の女性が
さっきまで酔い潰れていたはずの霞と雪蓮が、ニコニコと微笑みながら手を振っているではないか
(^ω^)・・・
「おい、ちょっと待て
もしかして、君たち・・・」
「いや~、やっぱあれやん?
泣いた後って、水分欲しくなるかなって・・・」
「だから、ホラ
丁度お酒はあったしさ・・・」
「「飲ませてあげちゃいました、テヘペロ♪」」
「なんてことをしてくれたんだぁぁぁああああ!!!!!!」
最悪だ
ハッキリ言って、これは最悪だ
つまり現在、春蘭は・・・
「春蘭
お前今、酔ってるだろ!?」
「う~、しょんにゃことないのりゃ、ヒック!!!!」
「完璧に酔ってんじゃねーか!!!!」
酔っぱらっていた
それはもう、見事なまでに、言い訳が効かないほどに
彼女は、酔っぱらっていたのだ
「とにかく、かじゅと!!
その記憶ごと、真っ二つなのりゃ!!!!」
「うおわっ!!?
あぶな、危ない、危ないってば!!!?」
「えぇい、避けりゅんじゃにゃい!!!」
「だが、断るっ!!!」
酔った彼女は、もはや見境がなくなっていた
言うやいなや、思い切り愛刀を振り回し始めたのだ
それらを、一刀は必死に避けまくる
“ああ、不幸すぎんだろ”と、避けながら一刀は泣きそうになっていた
そんな二人の様子を、霞と雪蓮は酒の肴に
秋蘭はどこかウットリとした目で
それぞれ、見守っていたのだった・・・
ーーーー†ーーーー
「落ち着いたか?」
「は、はい・・・申し訳ありません」
さて、場所は変わって・・・ここは、成都城のすぐ傍
そこで、華雄は一人の少女の頭に包帯を巻きながら声をかける
その言葉に、少女は・・・“法正”は、もう殆ど使い物にならなくなった眼鏡をクイッとあげ頷いた
彼女の“奇行”から、だいぶ時間が経っていた
あのときは、華雄が必死に止めに入り事なきをえたのだ
しかし彼女は額からけっこうな量の血を流し、おまけに眼鏡がボロボロになるほどのダメージを負っていた
その応急処置などで、このような時間までかかっていたのだ
「あわわ、本当に大丈夫ですか?
その・・・凄い勢いで、ぶつけてましたけど」
「大丈夫です
こう見えても私って、けっこう頑丈なんですよ」
そう言って、法正は笑う
そんな彼女の言葉に、二人はひとまず安堵の溜め息をついた
「それにしても、鳳統様が戻ってきてくれてよかったです」
法正の、その一言
雛里は、僅かに首を傾げる
「どうか、したんですか?」
「はい
実は、私じゃ判断しかねる“問題”が起こりまして・・・」
「問題、ですか?」
“はい”と、法正
彼女はそれからボロボロの眼鏡をおさえながら、溜め息を吐き出した
「いえ、これはもう“事件”と言ったほうがいいでしょう」
「事件・・・」
“事件”
この一言に、雛里と華雄の表情が変わった
同時に、胸の奥
意味の分からない、“妙な感覚”が広がっていく
“嫌な予感”とでも言うのだろうか
ともあれ、法正の表情を見る限り・・・穏やかな話じゃないことだけは、確かであった
「それは、いったいどのような“事件”なのですか?」
「はい、それが・・・」
「法正様っ!!
大変でございますっ!!」
「「「っ!!」」」
突如、響いたのは・・・兵士の声だった
どうやら、法正のことを探していたのだろう
兵は慌てて彼女の傍まで駆け寄ると、おおきく頭を下げ言ったのだ
「街中で、少々・・・いえ、結構な問題が起こりまして」
「なにが、あったんです!?」
「それが・・・」
街中で起こったという問題
“もしかして”と、三人の表情が険しくなっていく
しかし・・・そんな三人の予想は
「街中で現在・・・“眼帯をつけた女性が白昼堂々と剣を振り回し、真っ白な外衣を身に纏う杖を持った怪しい男を追い掛け回しているのです”!!!!」
あっさりと、外れてしまうことになる
しかし、その反応は違う
法正は、“そうですか”と腕を組み何かを考えているようだ
対して、雛里と華雄はというと・・・
「ひ、雛里
その“真っ白な外衣を身に纏う杖を持った怪しい男”ってのは、もしかして・・・」
「あ、あわわ
それと私、“眼帯をつけた女性”というのにも心当たりがありましゅ」
“ああ、もう絶対アイツだ”と、二人は頭を抱え込んだ
まだこの成都について、半日も経っていない
だというのに、もうトラブルを巻き起こしている
まぁ彼らしいといえば、それでお終いなのだが
「わかりました
ひとまず、様子を見に行ってみましょう
貴方は、何人か兵を呼んできておいてください」
「はっ!」
そんな中、法正は真剣な表情を浮かべ兵に指示を出す
その様子を見つめ、雛里と華雄は一度互いに顔を見合わせると・・・苦笑を浮かべ、頷き合ったのだ
「法正さん
私たちも行きます」
「え、本当ですか?」
「うむ、まぁそのな・・・その、白い外衣には心当たりがあってな」
“十中八九、アイツだろうし”と、華雄
雛里はその言葉に、思わず笑いを零してしまう
「その、そういうことで
それに今まで留守にしていたぶん、お力になりたくって・・・」
「あ、あぁ・・・私としたことが
この成都の地を任されたというのに、このような事態に鳳統様のお手を煩わされてしまうなんて・・・」
「あ、待て、ちょっと待て
なんかこの流れ、ついさっきと同じような感じがするぞ
あれだ、一刀のとこの言葉で確かデジャb・・・」
「もう私なんて、埋まってしまえばいいんだ!!!!
この大地に還ってしまえばいいんだっしゃらああぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!」
「ほ、法正ぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!!!??」
“ズガンッ!!”と、鈍い音と共に頭を叩きつける法正
折角華雄が巻いた包帯も空しく、彼女は再び額から真っ赤な血を流していた
悲劇、再び
「ほほほほ、法正しゃん!?
おち、落ち着いてくだしゃい!!」
「ば、雛里!
お前が噛んだら、また・・・」
「あぁぁぁあああ、また鳳統様が私のせいでお噛みになったぁぁああ!!!
埋まれ愚かな私、そして生まれ変わるのよ!!!
母なる大地に、おんどりゃあぁぁあああああああああ!!!!!!」
「ほら見ろ、やっぱなぁぁぁああああああ!!!!!???」
“言わんこっちゃない”と、華雄は法正のことを必至に止めながら思う
その様子を見て、雛里は“あわわ、あわわ”言いながら走り回っていた
因みに・・・法正の眼鏡は、初撃でログアウトしました
眼鏡「解せぬ・・・」
ーーーー†ーーーー
一方、その頃・・・
「ちねぃっ!!」
「うっひゃぁ!!?」
街中では、未だ春蘭さんは暴走中でした
フラフラとする足取りで、思い切り剣を振り回しているのだ
ハッキリ言って、もう完全に危ない人である
「えぇい、何故避けりゅ!!!!
スパッとあたらにゃいか!!!!」
「嫌だよ!?
ていうか“スパッ”て、斬れてんじゃん!!
綺麗に真っ二つじゃん!!」
「うるしゃいっ!!」
「うおぅ!!!??」
“問答無用”とばかりに、再び剣を振るう春蘭
一刀はそれを、寸でのところで躱す
フラフラなはずなのに、ここまでの攻撃ができるのは流石と言うべきなのだが・・・
「くっそ・・・春蘭は、相変わらずだな」
「相変わらず、可愛いだろう?」
「・・・あの、秋蘭さん?
そんな優雅にお酒を飲んでいるお暇があるのでしたら、助けてくれませんかね?
わりと、ピンチなんですけど」
「だが、断る
私はここで、姉者の可愛い姿を満喫したいんだ」
「欲望に忠実ですね、秋蘭さん」
「褒めるな」
「褒めてない」
泣きそうになりながら、一刀は溜め息を吐き出した
どうやら秋蘭は、静観を決め込むつもりらしい
まぁ、彼女らしいっちゃらしいのだが
「ああ、そうだ
まだまだ聞かなくてはいけないことがあるからな
死ぬんじゃないぞ」
「そんな無責任な」
それでも、とりあえず“死ぬな”とは
無茶な話である
何せ、相手はあの・・・
「かじゅとーーーー!!!!」
「うっはぁ!!?」
“魏武の大剣”こと、あの隻眼の夏候惇なのだから・・・
「くっしょ、かじゅとの癖に・・・!!!」
「なんだ、その“のび太の癖に、生意気だぞ”みたいなニュアンス!!?
俺だって少しは、成長してるんだぞっ!?」
「にゃ、こんな時に、にゃにを“破廉恥”な話をおぉぉぉおおお!!!!」
「成長って、“ソッチ”じゃねーーーーよ!!!??」
“ドゴン”“バキン”“メキャ”と、様々な衝撃と音をたて振るわれる剣
どう考えても殺す気です、本当にありがとうございます
「いやいやいや、そうじゃないだろ!?
どうにかしないと、このままじゃ・・・!」
「一刀さんっ!」
「一刀っ!」
「っ!?」
ふいに、聞こえてきた声
その聞き覚えのある声に、一刀は微かに表情を緩ませた
「雛りん、華雄っ!」
見つめた先
彼のもとに駆けてくる、2人と・・・見知らぬ、少女の姿があった
「一刀さん、大丈夫ですかっ!?」
「大丈夫じゃない!!
殺されるっ!!」
「早いな!?
なんかもう、滅茶苦茶必死じゃないか!!?」
華雄の言うとおり
滅茶苦茶必死だった
こうして話している間も、春蘭の剣を避け続けているのだから・・・
「助けて、雛りん!
可及的速やかに!!」
「は、はい!」
一刀の言葉に、元気よく返事をする雛里
それから、春蘭へと視線をうつし・・・再び、一刀へと視線を戻した
「が、頑張ってくだしゃい!!」
「うぉい!!?
今、諦めなかった雛りん!?
春蘭を見て、諦めなかった!!?」
「あ、諦めないでくだしゃい!
もっとあちゅく、あちゅくなってくだしゃい!!」
「ヤバい、可愛いよ、雛りん可愛いよ雛りんハァハァ・・・」
「ちね、かじゅとぉぉぉぉおおおお!!!!!」
「・・・けど今は、普通に助けてほしいかなぁぁぁああああ!!!??」
“こんな時に、何をやっているのだろうか?”と、華雄
辺りは、もう随分と悲惨なものである
散らばった破片は、恐らくは店の椅子や机“だったモノ”なんだろう
「ど、どうしましょう?」
と、言ったのは法正だ
彼女は自分では否定していたが、蜀の中では雛里や諸葛亮こと朱里に次ぐ軍師だ
故に政策関係で他国に向うことも多々あり、春蘭との面識もあった
その為、暴れている女性が春蘭だと一目見てわかったのだ
それ故に、彼女は悩んでいるのだ
まさかあの夏候惇が相手では、一兵卒では相手にもならないからだ
その言葉に、華雄は辺りを見渡す
見れば、霞と雪蓮は笑いながら酒を飲んでいた
あれでは、あてにはならないだろう
「仕方ない、私が・・・む?」
金剛爆斧を片手に、春蘭のもとへと向かおうとした矢先
彼女は、その視界の端に・・・見覚えのある人物の姿を発見した
「アイツは・・・」
その、“一度見たらしばらくは忘れられないような姿の男”を・・・
ーーーー†ーーーー
「はぁっ!!!!」
「くっ・・・!?」
凄まじい風圧と共に、放たれる一撃を
一刀は、なんとか回避する
それからすぐに放たれる攻撃は、間一髪で回避する
しかしそれでも、春蘭の攻撃は止まらない
止まることをしらない
「春蘭!!
ストップ!マジで!!」
「うるしゃい!!!!」
一刀の叫びも空しく、むしろ勢いを増していく剣戟
一刀は、疲れた体に鞭を打ち避け続けた
「くっそ・・・」
“このままだと、マズイ”と、一刀は思う
しかしそんな中・・・
「何故だ・・・」
“ピタリ”と、春蘭の攻撃が止まったのだ
小さく、か細い声で何かを呟きながら
彼女は・・・攻撃を、止めたのだ
「春蘭・・・?」
不思議に思い、声をかけた瞬間
彼女は、切っ先を彼に向け叫んだ
「何故だ、北郷!!
何故、すぐに我のもとへと帰ってこなかった!?」
「っ・・・!」
その言葉に、彼は言葉を失ってしまった
彼だけではない
秋蘭もまた、その言葉に目を見開いている
「お前のことは、わかっているつもりだ!
お前がすぐに、帰ってこなかったのには!
きっと、何か理由があるんだろう!!
しかし、それはっ・・・それはっ!」
強く、握りしめられた拳も
震える体も、そのままに
「我らでは・・・力になれないようなことなのか?」
「春蘭・・・」
彼女は、大粒の涙と共に・・・その言葉を吐き出したのだった
それは、ずっと彼女が思っていたことだった
彼が帰ってこないのには、なにか理由があるのだろう
しかし、それでもやはり
“帰ってきてほしかったのだ”
その想いが
彼の胸の奥・・・確かに、響く
しかし・・・
「春蘭、ごめん
でも、俺・・・」
「いいんだ、わかってる」
一刀の言葉に、彼女は苦笑を浮かべた
その姿に、彼は不覚にも安心してしまう
どうやら、もう酔いは・・・
「真っ二つにしてから、話しを聞いてやるから」
「春蘭んんんんんんんんんん!!!!!」
・・・全然醒めてなかった
言葉こそ戻ったものの、相変わらずフラフラと危ない足取りで
彼女は再び、剣を構えたのだ
“あ、これ死んだかな?”と、一刀
先ほどからの攻撃のせいで、足がもう限界だったのだ
「一刀っ!」
「っ!!?」
そんな中、誰かが彼を呼んだ
それが、華雄の声だと理解するのと同時に・・・
「へっ!?」
彼は、“見てしまった”
叫ぶ華雄、そのすぐ前に
見覚えのある男がたっていることに
彼は・・・
「淳于瓊っ!!?」
「あらん、仲達ちゃん♪
また会えたわねん♪」
等と、陽気に挨拶するのは淳于瓊
一刀としては、もう会いたくはなかったのだが・・・今は、そのような場合ではなかった
理解したからだ
彼女が・・・華雄が、何をしようとしているのか
だからこそ、彼は・・・
「死ね、北郷ーーー!!!」
「くっ・・・!!?」
振るわれる剣をよけ、其の場から飛びのいた
瞬間・・・
「「「必殺・・・“淳ちゃんバリアー!!!!!”」」」
「えぇぇぇええええん!!!?
どぅううゆうことおおおおん!!!!???」
華雄と雛里・・・そして、何故か法正
その三人が勢いよく、淳于瓊を蹴っ飛ばしたのだ
その先には、勿論・・・
「おのれ、逃げるな北g・・・」
「あっふううううううぅぅぅぅぅううううん!!!!???」
数秒後
“ゴッ!!”と、頭をぶつけたとは思えないような鈍い音が辺りに響き渡ったそうな・・・
ーーーー†ーーーー
「んもう、酷いわん!
いくら仲達ちゃんを助ける為だからってん、この私のことを蹴とばすなんてん!
淳ちゃん、ご立腹!!」
数分後
先ほどに比べ大分片付けられた酒場の席で、“プンプン”と頬を膨らませ淳于瓊は言った
そんな彼の周りには、先ほどの当事者達が座っている
春蘭は、頭をおさえ未だに涙目だが
「ごめんって、淳于瓊
華雄たちも、俺を助ける為必死だったんだよ」
「プンスカプンスカ!!」
「駄目だ、聞いちゃいない・・・」
“どうしたものか”と、一刀
そんな中、立ち上がったのは雛里だった
彼女は其の場から立ち上がると、“パン”と軽快に手拍子を始める
それから、また“あの言葉”を口ずさんだ
「淳ちゃん、淳ちゃん♪」
“その手があったか”と、一刀もそれに便乗する
「「淳ちゃん、淳ちゃん、淳ちゃん♪」」
やがて、大分酔いから醒めた霞と雪蓮
そして華雄と法正も、同じように合いの手と共に混ざった
「「「「「「淳ちゃん、淳ちゃん♪」」」」」」
「・・・っ!」
やはり、反応した
しかしまだ、足りない・・・
そう思い、見つめた先
秋蘭は、静かに頷いた
春蘭はよくわかっていないようだったが・・・
「「「「「「「「淳ちゃん、淳ちゃん、淳ちゃん♪」」」」」」」」
「ぬ、ぐぬ・・・んんんん゛」
「「「「「「「「淳ちゃん、淳ちゃん、淳ちゃん、淳ちゃん♪」」」」」」」」
「んんんんんんんんんんんん゛・・・」
「「「「「「「「淳ちゃん、淳ちゃん、淳ちゃん、淳ちゃん、淳ちゃん♪」」」」」」」」
「あ、あい、あ・・・んんんんんんんんん゛・・・・・・!!」
「アイ、アム、アぁぁぁぁああああ、じゅじゅじゅじゅ・・・淳ちゅあぁぁぁあああああんんんんんぎもっちいいぃぃぃいいい!!!!!」
「「「「「「「「イエーイ、淳ちゃーーーーーーーーーーーーん!!!!」」」」」」」」
「あぁん、血沸き肉躍るわぁぁあああん♪」
淳于瓊、復活。ブスリ♂
相変わらず、単純だった
そんな彼の復活に安心し、一刀はひとまず息を吐き出した
それから、何かを思い出したように口を開いた
「そういや、淳于瓊・・・どうして、ここにいるんだよ
弟子はどうだったんだ?」
“元気だったか?”と、一刀
その言葉に、淳于瓊は深く溜め息を吐き出した
「それがん・・・大変なことになったのん」
「大変なこと?」
淳于瓊の言葉
一刀は、眉を顰める
彼だけでなく、其の場にいた皆が同じよう真剣な表情を浮かべているのだ
「そのことでん、今からお城に行こうと思ってたんだけどん
仲達ちゃん達にならん、話してもいいかしらん」
言って、彼は懐から一枚の紙を取り出した
その紙を一刀に差し出し、表情を歪める
「弟子に任せていたお店に、置いてあった紙よん」
それを受け取り、見た瞬間
一刀は、驚きのあまり目を見開いた
「なっ・・・」
その紙には、赤く・・・見覚えのある色の文字で
こう書かれていたのだ
“助けて”と・・・
・・・続く
あとがき
とりあえず、いったん連投はここまで
成都編は、個人的にかなり疲れた印象があります
なれない、シリアスをやったりしたからですかね
では、また逢う日まで
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再開、騒動の十二話です
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