お久しぶりです、生きておりました。
美羽はいじめがいがあって可愛いです。(歪み)
「…嘘でしょ?」
私と七乃の私室の、机の向かいに座る二人が何かを言っている。言葉は分かるけれど何を言っているのかが分からない。
「冗談なら中々面白いと思うんですけどねー」
「残念ながら本当なのよ」
頬に手を当て、妙に明るい困り笑顔を浮かべる雪蓮さん。…と、その隣で腕組みをする七乃。
「…ウソウソ、二人して私を担ごうとしてるんでしょ?」
「まあ、その気持ちは分かるわよね」
「信じられないのもしょうがないっちゃしょうがないですけど」
椅子に深く腰掛け、足を組みゆったりと落ち着いた声。それと対照的に、妙に軽い声―――――あたかも、『七乃と入れ替わっているかのように』顎に指を当て、妙に可愛らしい雪蓮さんの仕草に背筋が寒くなる。
「………入れ替わっちゃったとか、嘘、よね?」
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一刀さんが大陸を統一して、私も楓(曹真)先生に家庭教師をして貰いながら三国塾と少しだけお仕事に通って。いつまでも七乃に甘えてちゃだめだなって、少しずつ大人になってきて。
七乃もなんだか色んな所に派遣でお仕事してて、新しい暮らしになってきた中で、自分の成長が感じられる穏やかな日々。
たまにその平安は破られる事があるのはしょうがないけどちょっと破られ方が派手過ぎない?
「だから本当なんだってば。証拠見せようか?」
「う、うん」
私の三度目の問いに妙に子供っぽく口を尖らせる七乃は、信じたくないけれど雪蓮さんの仕草に似過ぎている。と言うかこれが本当に七乃なら気持ち悪すぎる。
「じゃあ今から七乃しか知らなさそうな事を七乃…こっちの本物の七乃に聞くから。それで信じられるでしょ?」
「あ、それいいですねー」
「うん…うん?」
敬語で可愛らしくぽんと手を打つ雪蓮さん(七乃?)の違和感が酷い。仮にも元国王が私をだます為だけにここまでやるだろうか、という疑問を抱きながらもとりあえず聞くだけ聞いても損はないだろうと思い頷いた。
「じゃ、いくよ?三国塾の子達からの呼ばれ方」
「みうちゃんかみゅーちゃん」
「バイト先の苦手な事務」
「税務全般」
「好きな香水」
「薄荷の三番」
「最近買ったもののお気に入り」
「生協で買った一刀さんのちび人形。どうです?」
「…………う、うん、全部合ってるけど…」
「やったー、て言うかいつも見たり話したりしてる事ですから私分かって当たり前ですけどね」
「ちょ、ちょっと待って!」
落ち着け、落ち着け私。今の位の事なら聞いたり調べたりすれば分かるかも知れない事なんじゃない?うん、呼び方なんて塾の子に聞けば分かるし。何が苦手かだってバイト先に聞けばわかる。香水だってつけてれば匂いで判断つくし買ったものだって生協の購入記録を見れば残ってる。うん、ちょっと信じるには早過ぎる気がする。
「で、でもね、今聞いた事位なら調べたら分かると思うの!…えっと、私雪蓮さんの事は聞いても本当に本人かどうか分からないから、七乃しか分からない事をもうちょっと聞いてもいい?」
「だって。じゃ七乃、もうちょっと深めな所いいかしら?」
「どうぞー」
頬杖をつきながら雪蓮さんに向かって指を振る七乃と、にこやかに答える雪蓮さんという絵面。演技だとして、七乃がかつて私共々殺されかかった元国王に向かってここまで横柄な態度を取れるかというと流石に信じがたいような気がする。
「ブラのサイズ」
「77の甲」
「えっ?」
いきなり物凄く秘密な事が飛んで来たんだけど!?
「無駄毛の処理」
「週二回でサボると一回」
「はっ?ちょ、ちょっと何?何なの!?」
なんだかとんでもない事が暴露され始めたんだけど!?
「最近の悩み」
「若さに任せて有り余る性欲」
「自作のエロ小説の隠し場所」
「箪笥の上から二番目の参考書の下」
「ちょっとやめて!?やめてよ!」
「好きな体位」
「必ず最後はだいしゅき固めべろちゅー種付けプレ」
「ぎゃーっ!!!!????わ、分かったっ、信じた信じた信じたからもうやめて!!!!」
「あら、もうおしまい?」
「折角ですから美羽さまのエロ小説一言一句暗誦して差し上げようと思いましたのに」
ばんばんばん、と机をたたいて強制終了させると、雪蓮さん…の中の七乃が例の困り笑顔でさらりと私が死ねる事を呟いた。間違いない、この中身は七乃だ。
「もういいわよ…と言うか、なんでそんな事になっちゃったの?」
「言おうとしたのに美羽さまが嘘とか仰るから言えずにいたんですよ…ねえ雪蓮さん」
「まあまあ。ま、簡単に言うとね、数え役満☆姉妹の公演の演出練習に巻き込まれちゃったのよ。天和の妖術で、地和と人和の声を入れ替えるって演出の練習を私達でしようとしたら、中身が丸ごと入れ替わっちゃって」
「えええ…地和さんと人和さん達本人で練習すれば良かったじゃない、何で七乃達なのよ?それにすぐ戻してもらっちゃえば良かったのに」
「二人は会場設営指示に行っちゃってたんですよ。で、戻してもらおうと思ったら結構難しいらしくて、公演が始まる時間になっちゃったからこのまんまなんです」
「…まさかずっとそのまんまなの?」
「ううん?長くても丸一日以上は効果は続かないはずだって。彼女達も今夜の公演終わったら疲れて寝ちゃうだろうから、大人しく明日を待つことにしたの」
話を聞いて、はぁ、と小さくため息をつく。
「でも、こんな非科学的な事…」
「明命だって猫耳生えた事あるんだから、これくらいの事もあるんじゃない?私も自分に起こるとは思わなかったけど」
頭の後ろで手を組み、脳天気な笑顔で椅子を揺らす七乃(中身は雪蓮さん)の姿の違和感に軽く頭痛がする。しかも物理的な頭痛もさることながら、頭の痛い事が目前に迫っており早急に解決しなくてはならない。
「ね、ねえ七乃」
「はい?」
「貴女分かってる?その…この後ちょっと問題…って言うか」
「何々?何かあるの貴女達?」
七乃の顔で食いついてくる雪蓮さんをなるべく無視するようにして、七乃に目配せをする。流石に忘れてはいないと思うけれど。
「ああ!そうでした、今夜は美羽さまが一刀さんとヤリ倒すところを見学する日でしたね!」
「二人で御伽する日でしょっ!?私だけするみたいに言わないで!」
「とか言って、いっつも美羽さま先にしたいしたいって言って即堕ち失神コースじゃないですか」
「それはいっつも二人して私の事その…い、いじめて言わせるからでしょっ!?」
「全く他人の所為にして、とんだロリビッチですねどう思います雪蓮さん?」
「美羽さまらしくって素敵ですぅー♪」
「雪蓮さんもその顔で七乃の真似しないで混乱するから!あとすごいウザい!」
駄目だこの二人、ツッコミが追いつかない。
「ま、美羽さまで遊ぶのはさておき実際どうしましょうねぇ」
すらりと整った顎に指を当て、考える仕草を見せる七乃。と言うか私で遊んでたのは堂々認めるのね。
「いきなり私の姿の七乃と美羽で来たら一刀驚くだろうから、私代わったげてもいいわよ?七乃になりきって」
「そ!それはちょっと…!」
思わず突っ込む。流石に顔と体が七乃でも、知らない(ほどでもないけれど)人と一刀さんとその、そういう事はさすがに抵抗ある。
「じゃあ、この姿ですけど私でいいですか?」
「そ、それも…」
顔の横で両手を合わせて雪蓮さんの顔でにっこり微笑む七乃にはどうしても軽い恐怖がある。ていうか、この人たち他人の体でえっちな事をしたり自分の体を使われたりするの嫌じゃ無いのかしら?私だったらまっぴら御免だ、他人が自分の体でくぱぁとかされたりいやらしい事言ったりされたら悶死する(自分はしないとは言ってない)。私が他人の体で一刀さんとするとしても、一刀さんだって褒めどころに困っちゃうだろうし、えへ。
「…今日は私だけ、とかいう選択肢は?」
「「えー」」
二人そろって不満そう。
「ただでさえ私は一刀さんといちゃつける機会少ないですしねぇ(表向きには)」
「これ私の番が一回飛ばしにされても困るんだけどー」
「えぇ…で、でもその、嫌じゃない?他人の体でするとかされるとか」
「でもしょうがないですしねぇ?」
「そーよ、もらい事故だしなっちゃったもんは仕方ないし。一刀なら事情を話せば分かってくれるわよ、ここはやっぱ美羽にどっちか選んでもらわないとねぇ。ほらほら、どっちにするの?早く選んで!」
「そうですよお嬢様、私だって雪蓮さんだって用意ってもんがあるんですから」
「え、えぇー…!?」
この二人割り切り早過ぎてついていけない。でもどっちにするのって、どっちって、言われたら。
「うう……………………じゃ………………じゃぁ、…七乃…お願い」
「はーい♪」
「あら残念ね」
いくら七乃の顔と体でも雪蓮さんとじゃ無理。結果的に一択だったけど、七乃は雪蓮さんの顔でその営業スマイルやめて。
「あ、でもね、説明は七乃がしてね!?あと力づくでなんか酷い事とかしないでよ!」
「しませんよそんなこと。ただ、雪蓮さんちょっと伺ってもいいですか?」
「何?」
「ひょっとしてお尻結構使われてません?」
「…は?」
「あ、分かる?」
「いやなんかちょっと違和感あってそおかなーって」
「…は?」
「そーなのよー」
「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょっと待って!?無視しないでよ!?」
平然と何言ってるのこの人たち!?
「何ですか、急に大声出してお嬢様ったら」
「そーよ、曹真さんにはしたないって言われるわよ?」
いやはしたないの私じゃないから!あなた達だから!
「ちょっと待って、ちょっといい?おし…あの、今の話って何の話!?」
「お尻でえっちって話ですけど?」
「そうよ一刀のをお尻にずっぷずっぷって」
「いいいいいい言わなくていいからそういう事平然と!!」
「言えって言ったのお嬢様じゃないですか」
「そうよ幾つになっても我侭なんだから」
二人とも平然過ぎる!そりゃ私だって三国塾の子とかとえっちな話だってした事あるけど、こんな事真昼間から平然と話すのが普通なの?それとも私!?私がおかしいの!?いや、それも大事なんだけどそれはちょっと置いておこう。
「…っその、雪蓮さんて……その、一刀さんとその…そっちでしてるって事?」
「そうだって言ってるじゃない」
「結局その話がしたい癖に、お嬢様ったらむっつりどスケベなんですからー」
「こんな話するのは仕方なくよ!あと「ど」をつけるのはやめて」
「スケベは認めるんですね」
「ちょっとそれは置いといて!で、でも雪蓮さん、七乃がその…そっちでしなきゃいけないって訳じゃないですよねっ?」
「そりゃ勿論そうよ、私の身体だけど七乃として抱かれる訳だし。七乃さえ望まなければね」
「はあ…」
ほっとした。自分がするわけじゃないとは言え、そっち側の世界を目の当たりにしなくて済んだ。正直私は『そっち』にはちょっと恐怖心がある。その手の情報は後宮内に溢れかえっているから、ちょっと興味を持って自室で指で少し入り口を触ってみた事があったけど、その感触の違和感に恐怖した。私は確信した、ここはやはり入り口ではなく出口なのだと。しかも部屋の鍵は確実に掛けておいたのに七乃に見られていて『遂にお嬢様もお尻でひとりえっちですかーずいぶん遠くまで来てしまいましたねぇ』と声をかけられたのも今となってはいい思い出なはずも無く普通に嫌な思い出だ。
直ぐその前に一刀さんと二人で物凄く気持ちよくなれる所があるというのに、そんな処で無理にする事は無い。『三国志』の登場人物がやたら気持ち良さそうなのは陳琳先生の文章が上手なだけ。はぁやれやれ、漸く机のお茶に手を伸ばす気になれた。
「いえ?しますよそりゃ」
「ぶぇっへぶぇへぶふぇっ!?」
私のお茶が宙を舞った。
「ちょっとー、美羽汚いじゃない曹真さん見たら泣くわよ?ほら台拭き」
「ぶへごふっ、ごほごほっ…ご、ごめんなさい…て、て言うか七乃っ、ほっ本気なの!?」
「本気ですよ、だって疼くんですもんお尻が。この入れ替わってる状態だと性癖はどうも体の方に引っ張られるみたいですね」
「ごめんねー開発済みで」
「いえいえどうせいずれは二人ともとは思ってましたし」
雑に謝る七乃の顔した雪蓮さんと事も無げに会釈する雪蓮さんの顔した七乃。と言うか七乃の開発計画に軽く恐怖した。この二人はどうしてこんなとんでもない話を平然としてられるのだろう?だから言われるのか『あの二人はちょっと間違えば天下獲ってた』とかって。正直凡人の自分にはついていけない。そうだ私も入れてもらおう凡人同盟に。前お願いした時は白蓮さんに遠い目されながら『美羽みたいな未来ある娘がこっちに来ちゃいけない』とか言われたけど、こっち(七乃&雪蓮さん)かそっちかって言ったらそっちのハズだ。
「ね、ねえ七乃…貴女、本当に大丈夫なの?初めてなんでしょ?」
「まあ初めてですけどね。いけそうですよ、この体なら」
「うん、イけるイける」
他人の豊かなお尻をさする七乃に頬杖をついてる雪蓮さん、そのいけるっていったいどういう意味なのかしら。いや知りたくないけど。
それはさておき。
雪蓮さんの体とは言え、七乃のそっちに一刀さんのアレが、今夜ずっぷり。
…怖いから見るのやめよう、少しだけ見てみたい気もするけどやっぱり怖い。
そうだ失神しちゃえばいいんだ、一刀さんにお願いして気絶するまでしてもらおう。久しぶりに対面座位で、ゆっさゆっさ抱っこ好き。あれでお願いしよう。
「でも美羽大変ね」
「あ、そうですね」
七乃痛がってたらどうしよう。血とか出てたら。いやそれなら一刀さんすぐ止めてくれるよね。それより七乃がドはまりしたら。七乃の声で目が覚めたりして。いやだ見たくない、小説みたいにんほぉとか言う七乃見たくない。
「準備も意外とかかるから今ぐらいから始めないと」
「そうなんですか、生協とかに大体あるんです?」
「うん、あっちの方の生協にね。早く連れてかないと」
「じゃ行きましょうお嬢様、早く行かないと間に合わなくなりますよ」
「…へっ?」
恐怖の思考の海に沈みかかっていると、既に席を立った七乃に優しく手首を引き上げられた。
「へっじゃないですよ、生協行きますよ」
「…なんで?」
下着はこないだ買って一刀さんに可愛いよって褒められたのがある。特に生協に用事はないんだけれど。
「決まってるじゃないですか。お嬢様のお尻の準備ですよ」
「はっ、はあああああぁぁぁぁあああああっ!?」
「やだもー美羽ったら、さっきから大声ばっかり行儀悪いわよ」
「済みません雪蓮さん、私の教育も及ばずお嬢様はえっちな事にばかり熱心になってしまって…よよよよよ」
「お、お仕事だって学校だって真面目にやってるじゃない!って言うかなんで私がそのっ…準備しなきゃいけないの!?」
「そりゃ衛生管理上よ」
「当然ですよ」
腕を組みながら仰け反り気味に椅子に深く腰掛け真顔で返す雪蓮さんin七乃に、相槌を打つ七乃in雪蓮さんを見ても理解が追いつかない。
「…だって私関係ないじゃない?七乃がその…そっちでするだけで」
「あるわよ、だって一度でもお尻でしたらもう前じゃしないのよ?」
「厳密にはお風呂で石鹸等でよく洗う迄は、ですけどね」
「…そうなの?」
「そうですよ。後宮向けの保健の手引きにも書かれてますよ」
「…………………………」
そう言えば後宮の保健の授業でそんな事を言ってたような気がする。裂傷、感染症、諸々、諸々。
陳琳先生恨みます。後ろと前を乱れ突きされて涙と涎を垂れ流しにするほど気持ちいいように書かれてるのが作り話だったなんて。確かに裏表紙に「この物語は全て虚構であり実在の人物とは一切関係ありません」とは書かれてますけど。
「仮に御嬢様が先にしたとして、失神から目覚めたらまた一刀さんとしたがりますよねぇ?」
「…………………………絶対する」
毎回最低五回は必ずしているのでぐうの音も出ない。気絶しようが何度でも復活するこの若鮎のような体が恨めしい。一刀さんは「美羽はぴちぴちしてて、きつく締まって気持ちいいよ」って褒めてくれるけど。えへぺろ。
「つまりこういう事ですよ、御嬢様」
雪蓮さんの長い人差し指を立てて、切れ長の瞳に射すくめられる。
「夜中目が覚めて、本っ当に体が疼きませんか?やりたりない一刀さんに『美羽、後ろでしよう』って言われて、本っ当に拒むんですか?」
逃げ道なんて、はじめから無かった。
---------------------
「有難う御座いましたー」
購入に対する店員の形式的な御礼を背に受け、『後宮関係者以外進入禁止』と書かれた桃色の暖簾をくぐると私は脱兎の如く全力で駆け出した。
右手に中程度の紙袋を握りしめ、後宮の通路の角を風を切って曲がる。焼けるように頬が熱く、涙で前がにじむ。更に二度角を曲がって私室の扉の中に飛び込み、勢いよく扉を閉めてはーはーと荒い息をつく。
「おっ、早い早ーい」
「ちゃんと買えました?」
「かっ、買ってきたわよっ!!」
煎餅片手ににやにや笑う二人の前に、私の尊厳の全てを投げうって奪取した戦利品の紙袋を突き出す。
「おー立派立派」
「お渡ししときました華陀さんの処方箋出せば店員さんすぐ分かってくれたでしょう?」
「分かってくれたけど見られた、すっごい見られた!『あっこの子変態なんだ』って目ですっごいじろじろ見られた!あの店員『三国一』でも働いてる人だった、私もう生協も『三国一』も行けないわよ!」
「まーまー細かい事は気にしない」
「そんな御嬢様のちっぽけな自尊心なんてどうでも良いですから、早く飲まないと間に合わなくなりますよ」
「酷い!?」
この二人には私の誇りなど酒の肴の干しスルメか枝豆程度の価値なのだろうがそんな事はもう知ってたのでどうでもいい。それより服用説明書を読む。この粉薬を…で、錠剤を…えっ…?
「ねえ雪漣さん」
「ん?なぁに」
「これ、この粉薬を水一升(1.8L)に溶いて全部飲めって書いてあるんだけど本当?」
「本当よ?」
事も無げに返された。普段少食な私は水もそれ程飲まないって言うか一升とか全然無理なんだけど?
「あ、御嬢様が無理なら代わりに雪漣さんと私で御伽してきますけど?」
この殺し文句はずるい。
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「…ううう~…」
「そろそろ終わりました?御嬢様」
「た、多分…」
(七乃の姿の)雪漣さんは余り出歩いてると騒ぎになるからと自室に帰っていった。長い脚を僅かに寝台からはみ出させ、桃色の長髪を絹の糸のように広げて寝そべりながら雑誌を読む七乃に小さな声で答えたけれど、水を飲み過ぎて気持ち悪い。お腹に力が入らず、知らずよたよたと前屈み気味になってしまう。
薬を飲み始めた直後から、ここしばらく疎遠だったお花摘み場と急速に仲良しになった。それはもういちゃいちゃと言っても過言でない位に。薬って凄い。ていうか怖い。七乃が薬を飲まないのは何故かと思ったら、入れ替わる前にもう雪蓮さんが全部済ませてたらしい。…この話はやめよう、余り考えたくない。
「それじゃお風呂行ってきちゃって下さい、ちょうど帰ってくる頃一刀さんも来る時間ですから。私はもうお風呂も済んでますから、部屋で待ってますね」
「も、もうそんな時間だったの…」
慌てて着替えと手拭いを取り、大浴場へと廊下を駆け出した。この時間はまだみんなの帰庁時間前だから空いている筈だ。
厚く着込んだ着物を脱いで脱衣籠に放り込み、改修されて軽くなった扉をがららと音を立てて開けると淡い湯気を顔に感じる。
今日は湯船に浸かっている時間はない。そそくさと洗い場に腰掛け体を洗い始める。首から肩、腋からお腹と泡立てて行き、手ぬぐいを持つ手が会陰部に降りてきた所でふと動きを止めた。
――――――本当に今日、しちゃうのかな。
普段は前は丁寧に、後ろは見られてもいい程度に洗うけれど、今日は違うかもしれない。
――――――指を入れて洗ったほうがいいのかしら。
処方箋に書かれてた通りにしたけれど、本当にこれで十分なのかいまいち疑問がある。いざ事に及んで『七乃のは臭わないけど美羽のは臭い』とか言われたら自殺する、ええもう確実に死ぬ。
――――――だ、誰も来ないわよね…
入口の方に目をやり誰も入ってこない事を確認しながら、洗い場の椅子から降りて膝立ちになり、そおっと自分の後ろの窄まりに指を添える。
ぴと。
「(ひ…っ!)」
そこから感じる強烈な違和感に、慌ててそこから指を離す。
やっぱり違う、ここじゃない!一刀さんお迎えするのはここじゃないって!間違いなく前、前だってば!
…いやでも。前の方だって、初めての時はこんなとこ入る筈が無いって思ったのに今じゃみっちみちに押し拡げられるのが凄く気持ちいいし。今のだって今のだって違和感であって痛かった訳じゃないから実際わからないかも?と言うか一刀さんだから何だって気持ちよくしてくれるんじゃないかしら?いやでもそれはそれで怖い、〇才にしておしりえっちにドはまりとか塾の友達とかにバレたら死ねる。ただでさえ一刀さんとのえっちについて洗いざらい吐かされて『みゅーちゃんは淫乱ロリだからねぇ』とかからかわれているのに。…いや考えてる時間はない、とっとと上がらないと一刀さん来ちゃう。
急いで体を拭いて脱衣所に戻り、新しい服に袖を通し髪を整えて廊下を駆け出す。
こういう時七乃は絶対待っててくれない、必ず先に始めてしまって『あん…お嬢様が遅いから先にお相手してましたよっ、もうすぐ一刀さんの濃ゆぅい一発目を私の中に頂きますから、そしたら代わりますからいい子で待ってて下さいねぇ』と言いながら見せつけるのだ。そして私が涙目で物凄く恥ずかしい事を言わないと代わってくれない(そうすれば必ず代わってくれるとも言うが)。あれは恥ずかしいし悔しいからもう嫌だ。
自室の部屋に近づくと早足の速度を落として立ち止まり、中の様子を伺う。
―――――――かすかに何か聞こえる。
扉に耳をつけて息を殺す。
『あんっ!一刀さんっ、凄いぃっ、こんな所でぇっ、凄い感じますぅっ!』
雪蓮さんの嬌声―――――はつまり、七乃の声。
『ああっ、わ、私初めてなのにぃっ!いいっ、いいのぉっ!もっと、もっと深くぅっ!』
心臓が跳ねる。
『あぁんっ、こんなに凄いのぉっ、きっとお嬢様もドはまりしちゃいますぅっ、ね、一刀さぁんっ、お嬢様が来たらぁっ、二人でお尻を並べてずぷずぷしてぇっ!』
「…!」
やばい。
七乃はもうドはまりしてた。
この扉を開けると、私も一刀さんに、お尻を。
こわい。
裂けちゃったら。いや、一刀さんならそんな事はしない。
本当に怖いのははまりそうな自分。
大丈夫、七乃も一緒。体は雪蓮さんなのが残念だけど。
塾の皆、美羽は大人の扉をもう一つ開けちゃうけど変態だなんて言わないでね。これは九割…いや七割は七乃のせいなんだから。七乃だけに。
一つ小さく深呼吸をし、努めて平静を装いながら震える手で扉を引いた。
「な、七乃、一刀さんもう来て…」
「はぁーいお嬢様!!どっきりでーす!」
「いぇーいどんどんぱふぱふー!今回凄かったでしょ、本当に入れ替わったように見えたでしょ!?」
「かなり練習しましたもんねぇ、『ねえ七乃?』」
「『そうですよぉお嬢様ぁ、声だけじゃなくて細かい仕草も真似しましてぇ』ほら上手いでしょ!」
「いやぁでもお嬢様あっさり信じましたねぇ?私もうちょっと疑われるかと思ってたんですが」
「やっぱ自作のエロ小説の隠し場所まで知られてたら信じるんじゃない?と言うか美羽ってああいうひたすらヤリ倒されるみたいなのが好きなのねぇ、やっぱ若さなのかしら?」
「いえいえお嬢様は天性のどすけべ姫で一刀さんのが穴に突っ込まれるならお尻だろうが鼻だろうが何だっていい方なんで」
「いやでもお尻は無いわー。私今回お尻常習者の演技したけど美羽の年であっさり覚悟決められるってやっぱり凄いわよ、私想像しただけでちょっと怖いもん」
「そこはやっぱちょっと前までの最年少処女喪失記録の持ち主様ですから、ねぇお嬢様。…お嬢様?…お嬢様ー?もしもしー?聞こえてますー?」
----------------
「…寝ました?」
「うん、寝た」
「じゃ、これほどいて貰っていいですか」
「ん」
寝台で静かな寝息を立てる美羽の様子を確認して、両手両足を縛られて床に転がされている七乃さんの方へと静かに歩み寄る。
「…そろそろ何があったか聞いていい?」
両手両足を縛る紐は簡単なちょうちょ結びで直ぐに解けた。その気になれば七乃さん自身でもほどけそうなものだったが、敢えて縛られたままでいたのは怒り泣きしながら縛って転がしておけと言ってきかない美羽の顔を立てた七乃さんの気持ちだろう。
「いえ大したことじゃないんですけどね。最近お嬢様が便秘で悩んでまして、医者に行けって言ったんですけどどうしても嫌だって言うんですよ。でいよいよ昨日ぽっこりお腹抱えて明日の夜伽どうしようってしょんぼりしてたんで、ちょっと騙して華陀さんに処方してもらった下剤飲ませたんですよ」
「…それだけにしちゃ美羽の怒り方が尋常じゃなかったんだけど?」
「ちょっと薬が強かったみたいで」
「…まあなんだかんだ七乃さんが美羽の信頼を裏切らないのは知ってるけど、愛情表現は分かりやすくしてあげた方が美羽も喜ぶんじゃない?」
「ええ、これがお嬢様が一番喜ぶ愛情表現ですから」
「そうかなぁ…」
にっこりと笑う七乃さんにその時はそう思ったが、夜中に目を覚ました美羽が恥ずかしがりながら『本当にしなくていいの?』『今日を逃すともう私勇気出ないから』『一刀さんが望むなら私、塾で変態な娘って言われても』と小さなお尻をぐいぐい押し付けて来るのを必死に宥めてる最中に、
「ほら言ったじゃないですか」
と背中で含み笑いを漏らす七乃さんってマジ恐ろしくて可愛い女。
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お久しぶりです、生きておりました。
その後の、成長した美羽です。