No.993598 英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~soranoさん 2019-05-19 20:56:18 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:2153 閲覧ユーザー数:1826 |
同日、19:00―――
エレボニア帝国によるクロスベル侵攻軍を殲滅したその日の夜、オルキスタワーにて”祝勝会”が開かれていた。
~オルキスタワー・35F~
「―――リィン・シュバルツァー少佐、今回のエレボニア帝国によるクロスベル侵攻軍に対して行われた迎撃作戦での貴殿の活躍を評し、感謝状を与える。」
「―――謹んで頂戴致します。」
メンフィルとクロスベルの有力者達が注目している中リィンがヴァイスから感謝状を受け取るとその場にいる全員が拍手をしている中マスコミ達はそのシーンを写真にする為に一斉にフラッシュをたいた。
「本当ならば感謝状の他にも勲章や褒美も与えたい所だが、メンフィル帝国軍に所属している貴殿にクロスベルから過度の褒美等を与える訳にもいかないのでな。与えるのが感謝状だけになってすまないな。」
「いえ、メンフィル帝国軍からも既に今回の迎撃戦での活躍の件で若輩の身でありながら”少佐”に任命して頂きましたし、何よりも陛下にとって大切なご息女であられるメサイア皇女殿下との婚約も許して頂いたのですから、自分にとっては貰い過ぎだと思っているくらいです。」
苦笑しながら答えたヴァイスの謝罪に対してリィンは謙遜した様子で答えた。
「フッ、”上”を目指している割には欲がない男だ。―――まあ、そんな所もメサイアが惹かれているのかもしれないな。―――メサイア、リィン少佐の隣に。」
「―――はい。」
リィンの答えを聞いたヴァイスは静かな笑みを浮かべてルイーネ達と共に見守っているメサイアに視線を向け、視線を向けられたメサイアは静かな表情で会釈と共に返事をした後リィンの隣に移動した。
「皆に紹介しよう。彼女の名前はメサイア。俺の側妃の一人―――マルギレッタの親類に当たる人物だが様々な事情があって俺とマルギレッタの”養子”にする事にした。そしてそのメサイアはリィンと数奇な出会いを得て将来を共にする事を誓い、俺達も娘の意志を組んで二人の婚約を認める事にした。」
「この婚約もまた我らメンフィルの盟友たるクロスベルとの関係を強化する切っ掛けにもなるであろう。また、メサイア皇女自身もリィンと共に今まで戦場を共にしてきたのじゃから、メサイア皇女はメンフィルにとっても”戦友”である!」
「エレボニア帝国との戦争はまだ始まったばかりだが…………今夜はクロスベルを侵攻しようとしたエレボニア帝国に勝ったメンフィル・クロスベル連合による勝利とメンフィルの新たなる”英雄”とクロスベルの皇女の婚約を祝ってやってくれ!」
ヴァイス、リフィア、ギュランドロスの宣言にその場にいる全員は拍手をし、マスコミ達はフラッシュをたいてヴァイス達の写真を撮っていた。
「―――それでは皆、グラスを手に持ってくれ。」
そしてヴァイスの言葉を合図にその場にいる全員は酒やソフトドリンクが入ったグラスを手に持ち
「「「メンフィル・クロスベル連合の輝かしい未来と二人の婚約に乾杯!!」」」
「乾杯!!」
ヴァイス、ギュランドロス、リフィアが掲げたグラスを乾杯させるとその場にいる全員もグラスを上げた。
「リィン少佐!今回の迎撃戦による活躍を評価され、昇進した今のお気持ちをお願いします!」
「リィン少佐!メサイア皇女殿下との出会い、婚約まで発展した経緯をお願いします!」
「リィン少佐はエレボニアの内戦終結の鍵となったエレボニアの若き英雄―――”灰色の騎士”と同一人物であるという情報が入っているのですが、真偽をお願いします!」
「リィン少佐はヴァイスハイト皇帝陛下のように、メサイア皇女殿下以外にも複数の婚約者がいらっしゃっているという情報もありますが、その真偽についてもお答えいただきたいのですが!?」
「え、えっと………」
パーティーが始まるとグレイスを含めたマスコミ達は一斉にリィンに集まってインタビュー等を求め、マスコミ達に迫られて冷や汗をかいたリィンが困惑しながら答えを濁していたその時
「――――――これより、リィン・シュバルツァーに対する取材の時間を設けるが、取材の時間は30分に制限させてもらう。」
「マスコミの皆さんもご存知のように、リィンさんは迎撃戦を終えたばかりの為疲れもまだ残っていますので取材の時間はこちらの判断で30分と決めさせていただきましたので、ご理解の方をお願いします。」
「その代わりと言ってはなんですが、メサイア様と同じ兄様の義妹の一人にして婚約者の一人でもある私―――エリゼ・シュバルツァーで答えられる事でしたら答えますので、兄様への取材時間を制限させる件はそれでお許しください。」
ゼルギウス、シグルーン、エリゼが横に入ってマスコミ達の応対を始めた。その後ゼルギウス達の応対のお陰で無事にマスコミ達による取材を終えたリィンはマスコミ達から離れた。
「つ、疲れた…………迎撃戦の時よりも疲れた気がする…………(ゼルギウス将軍閣下達やエリゼには感謝しないとな…………)」
マスコミ達から距離を取ったリィンは疲れた表情で溜息を吐いた後マスコミ達による自分への取材時間を短くした代わりに自分達がマスコミ達の取材に答えている様子のゼルギウス、シグルーン、エリゼを見つめてゼルギウス達の気遣いに感謝した。
「全く…………あの程度で疲れるなんて、まだまだ未熟である証拠ですわよ。」
するとその時デュバリィがリィンに声をかけ、アイネスとエンネアと共にリィンに近づいた。
「デュバリィさん。それにアイネスさんとエンネアさんも。」
「フフ、マスコミ達の取材、お疲れ様。」
「まあ、其方同様今回の迎撃戦で活躍した我等もこの後マスコミ達への取材が待っているとの事だから我らも他人事ではないから、他人の事は言えないがな。―――特に我らの場合、クロスベル動乱時は一応ディーター元大統領側に協力していたからな。その件も突いてくる可能性があることを考えると、ある意味我らの方がマスコミ達に対する発言を慎重にすべきかもしれんな。」
エンネアはリィンを労い、アイネスは苦笑していた。
「ハハ…………それにしても、デュバリィさんもそうだが、”鉄機隊”の人達の甲冑姿以外の恰好を見るのは新鮮だな…………」
アイネスの発言に冷や汗をかいて苦笑したリィンは気を取り直してそれぞれフォーマルな格好をしているデュバリィ達を見回した。
「まあ、馬子にも衣裳というものだからあまり気にしないでくれるとありがたい。」
「フフ、でも元”貴族”のデュバリィはシュバルツァー少佐のように自然に着こなしいるけどね。」
「え…………」
「ちょっ、他人の過去を許可もなく言わないでください!」
リィンの言葉に対してアイネスが苦笑している中デュバリィに視線を向けたエンネアの言葉にリィンが呆けている中デュバリィはジト目で反論した。
「えっと………もしかして聞いたら不味い内容だったか?」
「………別に不味くはありませんわ。隠しているという訳でもありませんし。貴方に教える機会が偶然なかっただけですわ。」
「偶然以前に、我らはついこの間までは敵対関係であったのだから、そのような機会がある方がおかしいのだがな。」
苦笑しながら聞いていたリィンに対してデュバリィが気まずそうな表情で答え、アイネスが苦笑しながら答えたその時
「――――フフ、ですが今では肩を並べて共に剣を振るう”戦友”の関係となったのですから、自然とお互いの事をよく知る事になると思いますよ。」
リアンヌがリィン達に近づいて声をかけた。
「え――――――」
「マスター!」
リアンヌの登場にリィンが呆けている中デュバリィは嬉しそうな表情で声を上げ
「こうして顔を合わせるのは初めてになりますね。―――我が名はリアンヌ・ルーハンス・サンドロット。かつては結社の”蛇の使徒”の一柱でありましたが…………私にとっての真なる主たるリウイ陛下とイリーナ皇妃陛下への忠誠の為に陛下達と共に結社の”盟主”を討伐し、お二方の身を守る騎士となった者です。」
「という事は貴女がデュバリィさん達の主である”鋼の聖女”…………――――お初にお目にかかります。自分はユミル領主の息子、リィン・シュバルツァーと申します。かつてはエレボニア帝国のトールズ士官学院――――”Ⅶ組”に所属していましたが、諸事情によってトールズを辞め、メンフィル帝国軍に所属する事になりました。」
リアンヌが自己紹介をするとリィンは呆けた表情でリアンヌを見つめた後自己紹介をした。
「ええ、勿論貴方がドライケルス殿が建てた学び舎で”放蕩皇子”がエレボニアの”新たなる風”の一員になる事を期待していた者の一人である事は存じています。」
「…………恐縮です。その…………失礼を承知でサンドロット卿について伺いたいのですが…………サンドロット卿は250年前ドライケルス大帝と共に”獅子戦役”を終結させたエレボニアの英雄である”槍の聖女”なのでしょうか?」
リアンヌの言葉に対して謙遜した様子で答えたリィンは真剣な表情でリアンヌに問いかけた。
「フフ、正確に言えばこの身体の持ち主はそうなのですが、私自身は違いますよ。」
「へ…………」
「マ、マスター!何もシュバルツァーにそこまで教えなくても…………!」
リアンヌの答えを聞いたリィンが呆けている中デュバリィは慌てた様子で指摘した。
「いえ、彼に関しては構いません。この身体の持ち主である”リアンヌ・サンドロット”も彼の事を随分と気にしていましたので。」
「へ。」
「え…………サンドロット卿――――”槍の聖女”がシュバルツァーの事を?」
「一体何故…………」
リアンヌの答えを聞いたデュバリィは呆けた声を出し、エンネアとアイネスは戸惑っていた。
「…………その件については後で教えます。それよりも私の”正体”の事についてですが――――」
そしてリアンヌはリィンに自身の正体を教えた。
「ええっ!?あ、貴女が”メンフィルの守護神”と称えられていた伝説の聖騎士――――シルフィア・ルーハンス卿の生まれ変わりだったなんて…………!しかもその生まれ変わり先がエレボニアの伝説の”槍の聖女”だと仰いましたが、一体何故250年以上前の人物が今も生きているのでしょうか…………?」
「フフ、それについては機会があれば答える時があるでしょう。―――貴方との邂逅を望む者達が他にもいるようですし、我々はこれで失礼します。――――行きますよ、デュバリィ、アイネス、エンネア。」
「「「ハッ!」」」
自分の正体を知って驚いているリィンに対して答えたリアンヌはある方向に視線を向けた後デュバリィ達と共にリィンから離れた。
「ハハ…………やっぱり俺達が君に話しかける機会を伺っていた事に気づいていたようだね。」
「さすがは結社最強の”鋼の聖女”にしてエレボニアの伝説の英雄―――”槍の聖女”よね…………」
するとリアンヌが視線を向けた方向からロイド達が現れてリィンに近づいた。
「貴方達は一体…………」
「―――初めまして。俺はロイド・バニングス。クロスベル警察”特務支援課”のリーダーをやっている者だ。よろしく。」
「同じくクロスベル警察”特務支援課”のサブリーダーを務めているエリィ・マクダエルです。以後お見知りおきを、リィン少佐。」
「私はユイドラから”特務支援課”に出向しているユイドラ領主の娘の長女――――セルヴァンティティ・ディオンです。親しい人達からは”セティ”という愛称で呼ばれていますので、よければリィン少佐も私の事を”セティ”と呼んでください。」
「あたしの名前はシャマーラ。シャマーラ・ディオン!セティ姉さんの妹の一人でーす!よろしくね♪」
「………同じくセティ姉様のもう一人の妹のエリナ・ディオンと申します。お初にお目にかかります、”灰色の騎士”――――リィン・シュバルツァー少佐。」
初対面の自分達を呆けた様子で見つめているリィンにロイド達はそれぞれ自己紹介をした。
「”特務支援課”…………それじゃあ貴方達がクロスベル動乱時、エリゼが協力していたディーター・クロイス元大統領に抵抗していた勢力の…………」
「ああ、エリゼさんにはその節もそうだけど”西ゼムリア同盟会議”でもお世話になったよ。」
「そして今回の迎撃戦ではエリゼさんに加えてエリゼさんの妹であるエリスさん、そしてお二方の兄君のリィン少佐にお世話になったのだから、クロスベルは”シュバルツァー家”と奇妙な縁ね。」
「ハハ、こちらの方こそ妹(エリゼ)が世話になったんだからお互い様さ。…………それと俺の事は”リィン”でいい。お互いそう年も離れていないし、俺自身”少佐”になったのが今日からでまだ呼ばれ慣れていない事もそうだが、メンフィル軍の所属でもないロイドさん達にまでそう呼ばれると何だか別人のようにも感じるしな。」
「だったら俺達の事も呼び捨てでいいよ。――――改めてよろしく、リィン。」
「ああ、こちらこそよろしく、ロイド。」
そしてリィンとロイドは互いに握手をした。
「ねえねえ、リィンさん!”灰の騎神”だっけ?もしリィンさんがよかったら、今後の”工匠”としての技術力を高める為に”灰の騎神”のデータを取らせて欲しいんだけどやっぱりダメかな?」
「シャマーラ、”灰の騎神”はリィンさんにとって大切な存在であり、メンフィル軍にとっても重要な兵器なのですから、幾ら何でも無理な注文ですよ、それは。」
「妹が無茶な事を言ってすいません、リィンさん。」
興味ありげな様子で聞いてきたシャマーラにエリナは指摘し、セティはリィンに謝罪をした。
「いや、別に気にしていないから大丈夫だよ。それに俺の方が、君達――――”工匠”に用があったから、ここで会えて何よりだよ。」
「ほえ?リィンさんがあたし達に?」
「もしかして我々に何か作って欲しい物でもあるのでしょうか?」
リィンの話を聞いたシャマーラは首を傾げ、エリナは不思議そうな表情で訊ねた。
「作って欲しいというか改良かな?君達”工匠”の技術力はゼムリアだけでなくディル=リフィーナでも秀でている話は噂には聞いているし、実際ヴァイスリッターの太刀は君達の父親――――”匠王”ウィルフレド卿が作成した上エリゼの武装も君達が作ったと聞いているから、君達ならヴァリマールの”太刀”をより強力な物に仕上げる事ができると思っているんだ。」
「”ヴァリマール”というと…………あの灰色の機体――――”灰の騎神”の事だよな?」
「どうしてセティちゃん達に改良の依頼を?端末で戦況を見ていたけど、特に問題ないように見えたけど…………」
リィンの依頼を聞いたロイドとエリィはそれぞれ不思議そうな表情をした。
「”エレボニア帝国征伐”が本格的になれば、当然内戦時に出てきたエレボニアの新兵器――――”機甲兵”とも何度もやり合う事になるだろうから、なるべく時間をかけずに”機甲兵”を撃破できる程の威力の武装ができれば欲しいと思っているんだ。機甲兵とは内戦時にもやり合ったが、ゼムリアストーンで加工された特製の”太刀”でも”大破”に持っていくことすらそれなりに時間がかかったんだ。―――だから、俺は今より強力な武装が手に入る機会があれば手に入れたいと思っている。――――”戦場”で素早く敵を撃破する事で味方への損害を減らす事もそうだが…………何よりも戦争を少しでも早く終わらせる事で、内戦、そしてメンフィル・クロスベル連合との戦争で苦しんでいるエレボニアの人達を戦争による苦しみから解放する為さ。…………まあ、エレボニア帝国に侵略する側であるメンフィル軍に所属している俺がそんな事を言える筋合いはないけどな…………」
「リィンさん…………」
「…………一つだけ聞いていいかい?」
リィンの答えを聞いたエリィが複雑そうな表情をしている中、目を伏せて黙って考え込んでいたロイドは目を見開いて静かな表情でリィンに問いかけた。
「?」
「君がエレボニアの内戦の件も含めてエレボニアで起こった様々な問題をエレボニアの仲間達と共に乗り越えた話は人伝で聞いている………その君が今回の戦争にメンフィル・クロスベル連合側として参加した理由は君達の故郷である”ユミル襲撃”の件に対する怨恨等ではなく、エレボニアで結んだ”絆”―――仲間や知り合いの人達の為なのか?」
「……………………――――ああ。例えアリサ達――――”Ⅶ組”と敵対関係になったとしても、今回の戦争に参加した事はエレボニアの人達の為でもある事は断言できる。」
ロイドの問いかけに一瞬目を丸くして驚いたリィンはすぐに静かな表情で頷いて答えた。
「それで話を戻すけど、ヴァリマールの”太刀”の改良の件はどうかな?予めメンフィル軍にも話を通して許可を取っているから、太刀の改良の際に必要となるヴァリマールの情報を君達が収集する許可も出ているし、”報酬”もメンフィル軍が支払ってくれることになっているから、後は君達が承諾してくれるだけでいいんだが…………」
「「「……………………」」」
リィンに問いかけられた三姉妹はその場で少しの間黙り込んで互いの視線を交わしてリィンを見つめて答えを口にした。
「―――その依頼、喜んで受けさせて頂きます。」
「本当だったら”戦争”に直接関わる”兵器”に関する依頼を請けるつもりはなかったんだけど…………武器の改良や強化だったら、ギリギリ許容範囲だからね。」
「―――”騎神”の武装の改良に限らず、リィンさん自身や今回の戦争で一緒に戦う事になるリィンさんの仲間の方達の武装の開発や強化等も請け負いますので、時間ができれば中央通りにある支援課のビルを訊ねてください。」
「ありがとう。だったら明日早速訊ねさせてもらうよ。幸いにも今回の迎撃戦で参加したメンフィル軍の一部は俺も含めて次の軍事作戦が行われるまでクロスベルに待機する事になっているしな。―――それじゃあ、俺は他にも挨拶する人達がいるからこれで失礼するよ。」
セティ達の答えを聞いたリィンは感謝の言葉を述べた後ロイド達から離れた。
「…………それでどう感じたのかしら、ロイド。”灰色の騎士”―――リィンさんと実際に話してみて。」
「そうだな…………―――少なくても彼は今回の戦争、”メンフィル人として”でもなく”軍人として”でもなく、”エレボニアで結んだ絆を大切にしているリィン・シュバルツァー自身として”参加している事はよく理解できたよ。」
リィンがその場を離れた後のエリィの問いかけにロイドは静かな表情でリィンに関する事を答えた。
その後パーティーで食事を取りながら談笑しているエリス達、メサイアと談笑しているマルギレッタとリ・アネスへの挨拶回りをしながら食事をとったリィンはパーティーの空気で火照った身体を冷やす為に人気のない場所で外の空気を吸おうと思い、パーティー会場を出てエレベーターで屋上に向かって屋上に出るとそこにはある人物が屋上で夜空を見上げていた。
~屋上~
(?あの女性はどこかで見たような…………)
夜空を見上げている人物――――アイドスの後ろ姿を見たリィンが眉を顰めたその時、アイドスは振り向いてリィンを見つめた。
「こんばんわ。こうして会うのはローエングリン城以来になるわね。」
「え…………――――!アイドスさんですか………!お久しぶりです。一体どうしてこちらに?」
(ん?”アイドス”って古神――――”慈悲の大女神”と同名だけど、本人である訳…………ないはずよね?確か”慈悲の大女神”は”神殺し”との戦いに敗れて滅んだって話だし。)
自分に近づいてきて声をかけたアイドスの言葉に一瞬呆けたリィンはすぐにアイドスの事を思い出して驚き、二人の会話を聞いていたベルフェゴールは不思議そうな表情をしていた。
「星々の導きによると、今夜ここに貴方が必ず来る事がわかったからここでずっと待っていたわ。」
「??えっと………俺に用があってここにいたみたいですけど…………一体俺に何の用なのでしょうか?」
アイドスの答えが理解できなかったリィンは不思議そうな表情でアイドスに訊ねた。
「それを答える前にまずは今回の迎撃戦で活躍して、”英雄”と呼ばれるようになった事…………”おめでとう”と言っておくわ。」
「ハハ、”英雄”だなんて俺には過ぎた異名ですよ。まだ最初の戦いで他の人達より多少活躍した程度で戦争は始まったばかりですし…………エレボニアでも”英雄”と呼ばれるような偉業もしていないんですけどね…………」
「フフ、リィンは自分に対する評価は低いのね。―――それも、エレボニアで結んだ”絆”を断とうとしている事に関係しているのかしら?」
「!…………どうしてそんな質問を俺に?」
アイドスの指摘に目を見開いたリィンは複雑そうな表情でアイドスにアイドス自身の意図を訊ねた。
「―――それを答える前にまずは私の”正体”について教えるわね。」
「へ…………」
そしてアイドスの言葉を聞いたリィンが呆けたその時、アイドスは一瞬で屋上全体を結界で覆った。
「”結界”!?それも一瞬でこんな大規模なものを…………!アイドスさん、貴女は一体…………」
「―――”慈悲の大女神アイドス”。それが私の”正体”よ。」
(ハアッ!?まさか本当に”慈悲の大女神”自身だなんて…………一体どうなっているのよ!?)
「”慈悲の大女神”って………ええええええええええええっ!?じゃ、じゃあまさかアイドスさん―――いえ、アイドス様は本物の”女神”なのですか…………!?」
アイドスが自己紹介をするとベルフェゴールは驚き、一瞬呆けたリィンは驚きの声を上げた後信じられない表情でアイドスを見つめた。
「ええ、そうなるわね。」
「えっと………今更な質問ですけど、どうして”女神”であるアイドス様が”ローエングリン城”に?」
「フフ、そのことも含めて”私”について教えてあげるわ――――」
そしてアイドスはリィンにかつての自分が歩んだ”軌跡”や自分が現世に蘇った理由を説明した。
「…………………………その…………正直、何て言ったらいいかわかりません…………」
アイドスの壮絶な過去を聞き終えたリィンは申し訳なさそうな表情で謝罪した。
「フフ、気にしないで。貴方の反応は当然だし、それにキーアのお陰で、私はこうして蘇り……私のせいで運命が狂ったアストライアお姉様とセリカ(お姉様が愛する人)が”人(エステル)”によって救われたんだから。かつて裏切られた”人”によって”神”が救われ、そしてエステル―――”人”が多くの異種族に加えて女神と共に生き、笑い合っているんだから。……それだけでも私にとっては心から嬉しい出来事だわ。私の目指した”道”は決して間違っていない事が証明されたのだから。」
一方謝罪されたアイドスは優し気な微笑みを浮かべて答えた。
「そうですか…………カシウス師兄のご息女であるエステルさん…………色々と話は伺っていますが、本当に凄い人物ですね…………それに比べて俺は…………」
「…………今度は私が貴方に聞く番ね。ねえ、リィン。どうして貴方は自らが結んだ”絆”を断とうとする事――――今回の戦争に貴方が結んだ”絆”と敵対する関係を選んだのかしら?」
辛そうな表情を浮かべたリィンに対してアイドスは静かな表情で問いかけた。
「…………それは――――」
そしてリィンはアイドスに戦争に参加した理由を説明した。
「…………そう。貴方は貴方自身が結んだ”絆”の為に今回の戦争は、その人達とは別の道を歩むことにしたのね…………―――でも、リィンはわかっているの?その道は辛く険しく、例え貴方の目的であるエレボニアの滅亡を防げたとしても、その人達と以前のような関係に戻れる可能性はほとんどない事に…………」
事情を聞き終えたアイドスは静かな表情で呟いた後リィンに問いかけた。
「―――はい。全て覚悟の上です。」
「………………………………うん、例え世界は違っても貴方は貴方であることがよくわかったわ。」
リィンの決意の表情を少しの間見つめたアイドスは納得した様子で頷き
「へ…………」
アイドスの答えを聞いたリィンは呆けた声を出した。
「………そう言えば私がここに来た理由をまだ言ってなかったわよね。―――私がここに来た理由は一つ―――”人”を良く知る為に貴方と共に”道”を歩む為に来たのよ。」
「お、俺と共に”道”を歩むって、ま、まさか……!」
アイドスの答えを聞いてアイドスが自分と”契約”しようとしている事に気付いたリィンは信じられない表情をしてアイドスを見つめたその時、アイドスは身に纏っている服のボタンを外してなんと下着もつけていない胸を顕わにした。
「あわわわわわわっ!?―――んんっ!?」
そしてアイドスは自分の扇情的な姿を見て混乱しているリィンの唇を口付けで封じ
「フフ、貴方がここに来た時に認識障害の結界を展開したから、私が結界を解くまでこの場には誰も来ないから、慌てなくていいわよ。それじゃあ始めるわね?”契約”の”儀式”を――――」
リィンに”性魔術”を施してリィンと契約し、リィンが装備していた太刀――――利剣『緋皇』に宿り、女神であるアイドスが宿った事によって太刀は形態を変えると共に”慈悲の大女神アイドス”の膨大な神力を纏わせた”神剣”―――『神剣アイドス』に生まれ変わり、更にアイドスとの性魔術によってリィンを長年苦しめていたリィンの心臓に秘められていた”鬼の力”は浄化され、その代わりに”慈悲の大女神”であるアイドスの神力による加護でリィンの”神気合一”が強化された!
「フフ、まさか復活した私が”処女”だったなんて、私自身も驚いたけど……よかった……私が選んだ人に”処女”を奉げる事が出来て……”処女”の身体を持つ私を復活させた”並行世界のキーア”に感謝しないとね……アストライアお姉様……ようやく私もお姉様のように心から信頼できる人を見つたわ…………これからよろしくね、リィン………ん……」
契約を終え、リィンが持っていた太刀に宿った後すぐにリィンの傍に現れたアイドスは優しげな微笑みを浮かべて迎撃戦の疲れに加えて自分との”性魔術”による疲労で眠っているリィンに膝枕をしてリィンの頭を優しく撫でながら見つめた後リィンの唇に口付けをした。
「あ…………!お兄様がいましたわ…………!」
「リィン様の他にも女性がいらっしゃるようですが、あの女性は一体…………」
するとその時リィンがパーティー会場からいなくなった事を心配してリィンを探していたエリゼ、エリス、セレーネ、メサイア、フォルデ、ステラがリィンとアイドスに近づいてきた。
「リィンの仲間の人達や恋人の人達かしら?」
「は、はい…………貴女は一体…………」
アイドスの問いかけにエリスは戸惑いながら答えた後アイドスの正体を訊ねた。
「―――私はアイドス。”慈悲の大女神アイドスよ”。リィンと”契約”を交わしてリィンの太刀として、貴女達のようにリィンと将来を共に歩むことに決めたからよろしくね。」
アイドスの答えを聞いたその場にいる全員は衝撃のあまり石化したかのように固まり
「…………あ~…………ちょいと酒を飲み過ぎたか?今、俺の耳に”女神”がリィンと”契約”を交わした上リィンの新たなハーレムの一員になったと聞こえたんだが…………」
「い、いえ…………フォルデ先輩の気のせいじゃないです。アルコールを飲んでいない私の耳にもハッキリとそう聞こえましたし…………その証拠にリィンさんの太刀から凄まじい聖なる魔力まで感じますし…………」
逸早く我に返ったフォルデは疲れた表情で呟き、ステラは冷や汗をかいて表情を引き攣らせながら『神剣アイドス』を見つめて答えた。
「ちょ、ちょっと待ってください!先ほど貴女は”慈悲の大女神”と名乗りましたわよね!?という事は貴女は私達の世界の神――――それも”古神(いにしえがみ)”なのですか!?」
「ええ、一応そうなるわね。―――あら?貴女達は確か”セレーネ”と”エリゼ”だったわよね?フフ、久しぶりね。特にセレーネは前に会った時と比べると随分と見違えたわね。」
「は、はい…………あの後、色々あって”成竜”と化した為、このような姿に成長したのですが…………」
「…………お久しぶりです、アイドス様。不躾な質問で申し訳ないのですが…………何故アイドス様が、兄様とそのような関係に?レグラムでの特別実習の際にローエングリン城で兄様たちと邂逅した話は伺っておりますが…………」
一方アイドスの正体に心当たりがあるメサイアは血相を変えてアイドスに確認し、メサイアの問いかけに頷いたアイドスはセレーネとエリゼに気づくとエリゼに微笑み、声をかけられたセレーネは戸惑いながら答え、エリゼは戸惑いの表情でアイドスに問いかけた。
「そうね…………一言で言い表すならば”押しかけ女房”と言うべきかしら?」
アイドスの答えを聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「フフ、そういう訳だからこれからよろしくね。それじゃあ私は一端太刀に戻るからリィンの事、お願いね。」
そしてアイドスはリィンの太刀に戻った。
「…………………え、えっと………とりあえずリィンさんはベルフェゴール様に続いて心強い仲間ができたと思うべきなのでしょうか?」
「”心強い”ってレベルじゃねぇだろ…………”魔神”を使い魔にしている時点ですでに”チート”と言ってもおかしくない戦力なのに、そこに”女神”まで加わるとか、こいつの女運は一体どうなっているんだと俺でも突っ込みたいくらいだぜ…………しかし、リィンが女神と”契約”を交わした話をゼルギウス将軍閣下達が知れば、間違いなく驚くだろうぜ。いや~、あの将軍閣下達が驚く顔が今から楽しみだぜ~。」
「そしてゼルギウス将軍閣下達からアイドス様の件がリフィア殿下やリウイ陛下達にも伝わって、メンフィル皇族の方々まで驚かせることになるのでしょうね…………」
我に返って苦笑しながら呟いたステラの言葉に疲れた表情で溜息を吐いて答えたフォルデは口元に笑みを浮かべ、セレーネは苦笑し
「ハア…………ちょっと目を離した隙に増やすなんて…………それもその相手が”古神”だなんて…………」
「ベルフェゴール様の件といい、メンフィル軍に所属してからの兄様の”悪い癖”が明らかに酷くなっていますよね…………」
エリゼとエリスはそれぞれ疲れた表情で頭を抱えて溜息を吐いた。
~帝都クロスベル・中央通り~
「速報です!今回の迎撃戦での活躍を評されて、メンフィル帝国軍の少佐に”昇進”し、ヴァイスハイト陛下から感謝状を授与されると共にメサイア皇女殿下との婚約が発表されたメンフィル帝国の新たなる英雄―――リィン・シュバルツァー少佐はエレボニアの内戦終結の鍵となったエレボニアの若き英雄”灰色の騎士”と同一人物との事です――――」
「え…………い…………ゆ…………う…………?」
中央通りに設置されている臨時の巨大モニターに市民達の一部が注目している中、天使の女性――――天使階級第七位”権天使(プリンシパティウス)”ユリーシャは虚ろな目でモニターに映るリィンの写真を見つめてグレイスの解説を聞いていた。
「汚(けが)されなければ…………我が主がいる世界すらからも追放され…………我が主の為に…………この身を汚(けが)す事すらできなくなった…………壊れた天使である…………この身に唯一できる”英雄”への役割は…………”英雄”にこの身を汚(けが)されること…………」
そしてうわ言を呟きながらユリーシャはその場から去っていった――――
という訳でアイドスも予告通り早期に仲間になりました!!そして今回の話の最後でまさかのエウシュリー最新作――――”封緘のグラセスタ”の天使枠にしてポンコツ天使(コラッ!)ことユリーシャが初登場しました!なお、ユリーシャの発言から既にお察しと思いますが今回出てきたユリーシャは正史ルート(?)ではなく、もう一つのルートのユリーシャです(ぇ)なので別にリィンが原作主人公からユリーシャを寝取ろうとしている訳ではないと思ってもらえれば幸いかと(冷や汗)ちなみに最初からもしユリーシャを登場させるとしたら、アイドスが仲間になってからにするつもりでした。…………え?何でそのつもりだったかって?なんせ”古神”であるアイドスがいないと、ユリーシャの運命の分岐点となる”例のスキル”を消滅させる事ができませんのでwwまあ、それを考えるとセリカでもいいのですが、セリカには既に天使枠のメティサーナがいる上、セリカ陣営だとユリーシャと色々な意味での役割が被っているキャラが多数いる為、ユリーシャがあまりにも哀れなので(ぇ)
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第10話