【 再会 の件 】
〖 南方海域 海原上 にて 〗
この漁船を……誰が一番早く見つけたのかは、定かではない。
連合艦隊へユックリと流されてきた漁船を見て、何名かがそれを見たが、自分達の生死が掛かる戦場で、態々見に行くなど……正に自殺行為としか思われなかった。
『───ま、まだ……行けるわよっ! あの時みたいに……矢も……尽きてないし……刀も……折れてなんか……ないっ!!』
『こんなとこで、終わってたまるかよぉ!!』
『────ええぃ! 敵艦の駆逐艦は化け物か! だが、当たらなければ……どうという事はない!!』
『ううっ……も、もう……やめてください……』
敵艦の圧力で艦隊の編成は既に崩れ、入り乱れて戦う乱戦となる。 それでも、生きて戻るとの意思を固めた艦娘達は、少数の艦隊を編成し直し、何とか耐えようと交戦する。
『長門っ!! 船の確保、高速戦艦の私に──マカセテクダサイッ!!』
『よしっ! ならば、近付く敵艦は私に任せろっ!! 提督の乗る船に、凶弾の一つ足りとも届かせんっ!!!』
『───それって、本当に!? え……えっ!? もしかしてアレが!? アレに司令官が!? 司令官、今、助け──あああっ、邪魔ぁ!! 早く、退きなさぁぁぁいっ!!』
『やだ、やだやだやだぁ!! お願いだから、退いて、退いて下さいっ!! 一刀さん、一刀さぁぁぁんっ!!』
『退けよ、テメェら。 今、この天龍様の前に、立つんじゃねぇ。 前に出て来た奴は………遠慮なく沈めてやる!!』
『一度しか、言わないわよ。 私の歩む道を阻むのなら、全員、海の底へ送って上げる。 加減なんて出来ないから、どんな風に斬られても、文句なんて、言わないでちょうだい』
そんな中で、金剛が漁船確保に走り、長門が砲門を全開にし、近付く深海戦艦相手に修羅の如く奮闘。
龍田より話を聞いた雷と電は、形振り構わず敵艦を攻撃して隙を作り、天龍と龍田は容赦なく斬り崩し、道を作る。
日頃の鎮守府生活で各々の立場を知る故に、連携が上手く行き、なんとか殆ど無傷で、漁船へ辿り着く事ができた。
金剛は漁船を護ると言って船上に上がらず、雷、電、天龍、龍田の四名で、一刀の捜索に入った。
長い間、使われないまま放置してあったらしく、辺りは埃が積もり隙間風が吹くような廃船。 足元の床も、まるで天然の鶯張りの如く、一足乗せるごとに鈍い軋む音が響く。
『一刀さぁーん! 返事を、返事をして下さいっ!!』
『雷、電は左側を当たれ! その辺が大分腐ってるから、オレや龍田じゃ底が抜ける可能性がある! 龍田、オレ達は右側を、足元に注意して捜すぞ!』
『わかったわ! 電、私も行くから先に行っちゃ───』
『それはいいんだけど………天龍ちゃん、多分、彼処に放置してある布に包まっているのが、そうじゃないかな?』
『『『 ──────!? 』』』
龍田の示した所は、漁船のデッキ部分。
そこに、毛布みたいな布で包まっているモノが、無造作に置かれていた。 三名は、余りにも慌てていた為に龍田の説明をよく聞かず、一刀は縛られていると勘違いしたらしい。
天龍達は急いで近付き、その布が隠していた物を見ると、頭より血を流して気絶する、北郷一刀の姿があった。
『か、か……一刀さん? 一刀さん! 一刀さんっ!!』
『電、そんなに揺さぶちゃた駄目よ! まず、脈を──』
『提督………何しけたツラ……してんやがんだよ。 何時もの様に、オレに向かって……怒鳴ってくれよ……笑ってくれよ。 おい、提督……何とかぁ言えよ。 頼むから、さぁ……』
『天龍ちゃん…………』
◆◇◆
【 結果 の件 】
〖 南方海域 海原上 にて 〗
あれから、何時間経過したか分からないが、深海棲艦達は攻撃の手を止め、何処かに身を潜めた。
海面上には、幾つかの深海棲艦の残骸が浮かぶが、中には……艦娘達の物も少なくなかった。
『…………良かった。 今度は……看取られながら……逝けるわ』
『■■ッ!! まだ、駄目! 逝っちゃあ駄目っ!!』
『……もう……無理。 アンタ……は……生き、なさぁ……ぃ……』
『■■ッ!? ■■ッ!! うわぁぁぁ───ッ!!!』
海上で倒れる艦娘の手を握り、もう一隻の艦娘が何とか現世(うつしよ)に留めようと願う。 されど、その艦娘は満足げに小さく微笑むと、足元より光となり……常世へ旅立った。
戦いで命が失われるのは世の常と言われるが、親しき者を亡くした者の嘆きは、そんな主張ごときで報われない。 寧ろ、そんなに軽い出来事では無いのだ。
そんな周辺で啜り泣きの声が響く中、金剛は自分の仲間を見つけ、遠慮がちに小さく手を上げる。
前方より、少し蛇行しながら向かって来たのは、漁船を金剛に任せ前線に赴いた長門だ。
『無事で……何よりだ、金剛』
『長門も……ネ。 少し……Masculine(精悍)に……なったヨ』
『フッ、一応……私も乙女だ。 凛々しいと……言ってくれ』
何とか金剛の下に辿り着いた長門は、片手を上げて健在振りを誇示した後、金剛の顔を見て少し安心した表情を見せながら、互いに語りあった。
『少なくない……犠牲が出た。 だが……何とか、全滅だけは……回避できたな……』
『Yes………だけど、まだネ。 まだ……Attackしてくるヨ。 そうなれば、今度こそ………』
漁船を漸くの思いで護り抜いた金剛、苛烈な戦いで精彩を欠いた長門。 双方とも全身が傷だらけ、日頃手入れを欠かさなかった艤装も、一部が破損、もしくは全壊していた。
正に、満身創痍の状態だと、誰もが思う被害状況である。
先程の戦闘で、連合艦隊の半数が大破し、幾隻かが轟沈の憂き目にあった。 勿論、こちらも敵艦を多数轟沈しさせたのだが、それでも減らしたという実感は、全く湧かない。
戦艦の長門達が主力となり、他の艦娘達が補助に回って戦闘を継続したのに関わらずに、だ。
何故なら、来襲して来た深海棲艦の数は、百や二百では済まなかった。 確かに、上位互換種や軽、重巡艦、戦艦、空母も居たが、それも片手で数えられる程。
あとの殆どが───駆逐ロ級。
しかも、百単位の数ではなく、千……もしくは万に届くかもしれない程の集団だったのだ。
『ハッキリと言えば………ここは退くべきだ。 今回の……深海棲艦達は……あまりにも組織だっている。 直ぐに、轟沈できる私達を……捨て置き……消えるなど……ありえん!』
『だけど……提督の様子も……心配デース……』
互いに忌憚のない意見を言い合うが、どちらも理由が分かるだけあって、自分の意見を押しきれない。
一刀を助けるのが金剛達の目的だが、目が覚めた一刀ならば、自分を見捨てでも練度の低い艦娘達を助けろと、烈火の如く怒るのが分かりきっていたからである。
どうした事かと悩む中、漁船の上より慌てて飛び降り、此方に向かう電の様子を見て、顔を青くする長門達。
だが、その心配は杞憂で終わる。
電は───吉報を長門達へ伝えに来たのだ。
一刀が無事に見つかった事。
そして……今、目覚めたと。
◆◇◆
【 喰違 の件 】
〖 南方海域 拠点 にて 〗
『やれやれ……手間を掛けさせた割には、損しかしておらんぞ。 こんな怪我を負う事になるとは………』
『そう言うなよ。 そのお陰で、北郷はアイツらの為に死ねるんだぜ? 今頃、アッチの世で喜んでいるぜ。 大好きな大好きな人形どもと、イチャイチャできるんだからなぁ!』
『………尽くす相手を間違えたな……』
『何にせよ、愚者に愚者の、賢者には賢者の、それ相当の報いと栄光が訪れただけ。 そうですな、三本橋中将?』
『これで、三本橋中将の独壇場。 このまま行けば、直に父上を蹴落とし、大本営を掌握する事も近いでしょう!』
『な~に、元帥から頭を下げて席を譲るだろうに。 これから立てる功績は、その価値に十分見合うさ』
一刀を上手く始末できたと考えて、三本橋に付く提督達は大いに騒ぎ立て、一刀を罵り、三本橋へ阿諛追従を述べ続ける。
だが、その言葉を受けて三本橋は、如何にも嫌だと言わんばかり露骨に顔をしかめ、横に顔を背けつつ呟いた。
『はあ~、君達は能天気で羨ましいよ。 ボクとしては、優秀な人材を廃棄処理したから、気が重くてねぇ……』
『そ、それは……どういう事で………?』
三本橋の言葉に、騒がしかった提督達が一斉に黙り込み、不思議そうな表情で眺め、その中から一人の提督が代表として、疑問を投げ掛けた。
すると、三本橋は横に向きながら、煩わそうに返答する。
『ボクはねぇ、役立つ人間なら興味があるけど、囀ずるだけのカナリヤなんて……要らないって、こと』
『『『『『『 ────? 』』』』』』
『はぁー、まだ気付けないのかぁ。 これはカナリヤからカラスに降格させなきゃ……駄目だねぇ』
三本橋は不機嫌にそう言うと、少し噛み砕いて話を始める。
『まず、聞くけど───君達は、ボクと一刀君との会話、覚えているかい? 《 一刀君の存在はボクの研究を補うキーパーソンだ 》っていう話さ』
『は、はあ。 確かに、三本橋中将が破格な利益を餌に、我々の仲間に加わるように、と話を勧めておりましたが……』
『───だよねぇ? 一刀君が加われば、五年で大本営、十年で世界を狙える、そう言った筈。 まあ、細かいところは気にしちゃ駄目だよ。 禿げる原因になるからさぁ』
『 Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) 』
三本橋の言葉に、数名の提督が互いの頭頂を見て、顔色を変えていたが、誰もが口を噤(つぐ)む。 もし、此処で何か言えば、火に油を注ぐ結果になると分かっていたからだ。
『そう話していたのに、加わる事に反対した一刀君へ暴行を加え、木偶達のところに送った。 此処が問題だよ!』
『…………って、アンタが命じた事じゃ……』
一人の提督が、少し砕けた口調で問う。
命令通りに行ったのに、なぜ怒られなければならないのか、少しキレ気味に言い返した。
すると、三本橋は認めつつも反論する。 確かに伝えたのは自分の責、それは認めると。
だが、提督達は分かっていない。 どうして、そんなに重んじる一刀を、三本橋が殺害を仄めかすように命じたのか。
『うん、ボクは命じたよ。 一刀君に暴行を加えて船に積み、木偶に運ばせるようにって。 だけどさぁ………一刀君の意識が無くなるまで暴行して、どうすんのさぁ!?』
『 ( ̄□ ̄;)!! 』
『一刀君に言ったのは、単なる脅しだよ! 木偶に後ろから運ばせたのは、徐々に向かう戦場の恐怖を味あわせ、それで折れたら快く迎えようという、計画だったのに!』
『な、ならば! 何故、その時に伝えて頂けないのですかぁ!?』
他の提督が思わずと言うか、ほぼ反射的に返す。 この事を口答えと言うが、それは提督達にとって悪手だった。
三本橋の表情が般若顔であったのが、能面の如く無表情となり、この島に来てから控えていたらしい毒舌も復活させ、怒鳴りつけた。
『あのねぇ………まだ一刀君の意識がある中で……そんな馬鹿な話を口頭、しかも物分かりが悪い君達を相手に、懇切丁寧な説明なんて……できると思ってるの?』
『 (゚Д゚ ||)!? 』
『しかも、数時間の暴行って何だよ! 一刀君の意識が途切れないから説明も出来ないし! 君達は変にハイになって人の話を全然、全く、まるで、聞かないし!!』
『 =(;゚;Д;゚;;)⇒グサッ!! 』
『仕方ないから諦めて部屋で待ってたら………コレだ。 いつの間にか、一刀君を運び船に積み込んで、さっさと前線に送るなんて。 後で報告を受けて、頭が真っ白になったよ!』
『 Σ(lliд゚ノ)ノ Σ(゚д゚lll) (゜〇゜;) 』
『 Σ(・∀・|||) Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) (|| ゜Д゜) 』
『報・連・相って言葉、知ってる? いや、知らないから、そんな馬鹿な真似ができるんだよね? いや~、提督なんて階級に、そんな理解力程度で、よく登り詰めたものだよ』
『 (((( (;゚;Д;゚;;))))) ガクガクブルブル 』
『────全員、階級剥奪して一般兵に降格! もう一度、指揮官のイロハを学び直してきな。 父上には連絡しておくから、その間に身辺整理でもしておくんだね』
『そ、そんな──お慈悲を!!』
『嫌だ、嫌だ、嫌だぁぁぁ!!』
『わ、儂の老後が───』
三本橋の言葉を漸く理解した提督達は、己の判断を悔やむが既に後の祭りである。
泣き叫ぶ提督達を前に、淡々と胸ポケットより通信機を出すと誰かを呼び出した。
『────ああ、ボクだ。 誰でもいいから数体で来てくれ。 目の前の役立たず共を、猿轡と拘束して連れて行くように。 ボクの目が届かない場所にでも、監禁してくれ』
通信機を片付ける頃には、警備の艦娘が三名ほど現れ、三本橋に一礼すると、少し手荒く拘束をしていく。
日頃、居丈高に命令する提督達は、怯え叫びながら艦娘達へ止めるように懇願するが、艦娘達は手を止める事はしない。
寧ろ、その表情には、微かに喜悦の感情が見て取れる。
『連行……します。 ………来い!』
『 ヽ(;゚;Д;゚;; )ギャァァァ───』
こうして、六名の提督達は、艦娘達により連行されてしまい、先程まで騒がしかった会議室は、三本橋一人の独占となった。
そんな空虚な空間内で、三本橋は呟く。
『…………ったく、泣きたいのはボクの方だよ。 せっかく手懐けた提督達は無能だし、有能な一刀君は勝手に葬られるし。 また、父上に泣きつかなきゃならないのか、ふぅ……』
提督達の暴走により、三本橋が密かに描いていた野望は、破綻する事になった。 《一刀を手に入れれば》の甘い夢は破れ、数日後には、艱難辛苦の日常が彼女を待ち受けていた。
彼らが失敗した理由は何かと問われれば、それは枚挙にいとまがない。 才能に対する驕り、人としての品格の欠如、よく大食艦が口にする慢心……エトセトラエトセトラ
だが、敢えて上げるとすれば───
《 美し過ぎる司令官 》三本橋を前にして、張り切るのは仕方がないと言えるが、各々が欲望に忠実過ぎた。 そのため、理性より本能が上回り、思考が低下した故に起きた落ち度。
一刀というパートナーを何とか得ようと、机上の空論(きじょうのくうろん)で籠絡を企んだ三本橋だが、結局は一刀の真意を掴めず、配下の手綱を誤り暴走を許した。
こんなとこ、だろうか?
まあ、そのような分析を示しても、彼らには全く役に立たない。 いや、役立つ事など、あり得なかった。
何故なら、ここに居る者が全員、栄華を勝ち取ったよう見えたが、実は盛衰の波に呑まれていたのだ。 しかも、丁度、真下に落ちる衰の波へ。
簡単に言えば、《ハードラックと踊っちまった》と。
ドゴォ──ッ!
ドゴォ───ッ!!
ドゴォ────ッ!!!
建物の外から轟音が響き渡り、激しい風圧が建物内外へと襲い、窓ガラスを一瞬の内に全部割り散らす。 また、爆発の振動で幾つかの調度品が倒れ、破片を四方に飛ばした。
あまりの室内の惨状に、隠れる暇もなく唖然とする三本橋だが、直ぐに我に返り、無線機を取り出して配下の艦娘へ連絡を取る。
『な、何が! 何があったんだっ!?』
『敵、来襲! 交戦─────プツン!』
『───お、おいっ! おい!! 返事はどうした!?』
艦娘との通信は途切れたが、大事な情報だけは伝わった。
《 敵、来襲、交戦 》
即ち、この地を襲撃した者が居て、その者は練度が高い艦娘達と互角に近い戦いをしている。
そうなれば、相手の特定は可能。
『─────まさか! 例の怪物かっ!?』
『……………ヤット……会エタワネェ……無能ナ人間………』
『──────!?』
三本橋が確信し、その名前を言う前に、風圧でドアが飛ばされた部屋の出入口より、白い髪、白い裸体の美女が凍り付くような笑顔で、三本橋へと笑い掛けていた。
◆◇◆
【 復活 の件 】
〖 南方海域 海原上 にて 〗
『ここは………痛っ!!』
『───あっ、気が付いた! 司令官、大丈夫!?』
『あ……………あ、ああ、俺は……確か………』
痛みで一刀が目覚めた時、間近には、心配する雷の顔が見えた。
此処は、漁船の中にあった居住区内。
一刀を看病する為、最低限、雨や波に濡れない場所を選んで運び込んだ故に見知らぬ天井が見える場所だ。 比較的破損が少ない場所を選ぶと、船長室と書いてあった。
朦朧とする一刀は、ぼんやりと雷の顔を眺めていたが、徐々に自分の記憶が甦り、今の状態に違和感を覚える。
一刀が意識を失ったのは、三本橋の取り巻きである提督達から暴行を受けたから。 現に自分の身体が打ち身やら切り傷やらで、アッチコッチに激痛が走っている。
倒れたのは、拠点内の部屋。 こちらを見て、笑っている三本橋の笑顔が妙に艶かしく頭に残る。 お陰で確信を持って、あの場所で倒れたと思えるのは、実に皮肉だ。
《 じゃあ………此処に居る雷は? 》と一刀が考えていると、雷が心配そうに一刀の身体をペタペタと触りながら、首を傾げながら、不思議がる。
『医療品とか無いから、簡単な応急手当だけしかできなかったけど……って、どうかしたの、司令官? ボオーっとしてるけど………』
『……………………』
『あっ、もしかして、熱でも出ているのかな? ちょっと、計らせて───』
『─────お、おいっ!?』
返事が無い事に心配した雷が、自分の額をくっつけて熱を測ろうと、一刀の顔へ近付けた。 もちろん、純粋に心配したからであって、やましい行動は何もない。
だが、一刀の方はそうではない。 散々、三本橋から迫られ提督達に嫉妬混じりの暴行を受けた身。 それに、雷の事も家族であり、可愛い女の子だという自覚もしている。
だから、雷との距離が一気に近づき、もう少しで一刀の額に接近する時、一刀の意識が完全に覚醒。
ここで、思わぬ行動を………一刀が起こした。
『何で雷が此処に──や、やばぃ……ぐっ! イタタタタタタッ!!!』
『司令官、何しているのっ!? 無理しちゃ駄目よ! 少し前に漸く血が止まったのに、動いたら容態が更に悪化するわよっ!!』
一刀は完全に覚醒し意識はハッキリとしていた。 だが、何の為に顔を近付けたのか、全く見当がついていない。
ただ、分かるのは……あと少し顔を近付ければ、雷の柔らかそうな唇に触れるかもしれないとの、危機感。
幾ら自分を慕ってくれているといえど、故意や事故で当たってしまえば、雷が哀しむ。 そう考えた一刀は、顔を背ける為に我が身を顧みず身体を捻り、みごと回避しに成功。
だが、当然だが……重傷の一刀は無理して身体を動かした為、それ相応の苦痛に悶え苦しむ事と相成りましたとさ。
★☆★
『馬鹿だな………提督』
『本当に、馬鹿よね~』
『そう言われても……な。 俺には………皆の提督、司令官としての矜持、それから………倫理観があって………だな』
『そんな真面目なところがあるから、面倒なのよ。 天龍ちゃんみたいに、単純だったら良かったのにねぇ?』
『そうだぞ、提督。 単純な俺を見習え……って、どう意味だ、龍田? おい、笑って誤魔化すんじゃねぇ!!』
『もう~、司令官ったら、恥ずかしがり屋さんなんだからぁ。 だったら、雷を気に入ってくれるまで、もおーっと看病しちゃうからねっ!』
この船の状態を確認していた天龍と龍田が、声を聞き付け慌てて駆けつけると、ジタバタと痛がる一刀と、理由を聞いて頬に手を当て腰をクネクネさせる、雷の姿があった。
その様子に不審がる龍田に、惚気た雷より聞かされるカオスな理由。 それを聞いて思わず出た言葉が……先の天龍と龍田の台詞である。
『そんな事より! 今の艦隊を! 早く何とかしないと! 皆が困るのです! 一刀さんっ!!』
『お、おう! そうだな……』
そんな一刀に、容赦なく仕事をやれと尻を叩くのは、日頃温厚な電である。 普段とは違う様子に、若干ながら戸惑う提督諸兄もいらっしゃると思うが、理由を説けば然もあらん。
一刀を心配しつつ伝令に走って来たのに、帰ってみれば姉は惚気ている姿を見れば、思わず嫉妬に狂うのも当然だ。
それに、電の言うことも確か。
この作戦の意味を知ってしまった一刀は、早く艦隊を撤退させねばならない。
自分の知った事は、此処に居る艦娘達に全部、話している。
情報を知って教えないというのは、艦娘達にとって、裏切りであり信頼を失いかねない重要な事。
だから、一刀は痛む身体を動かし船の甲板へ向かう。
連合艦隊へ遠征中止を伝える為に。
◆◇◆
【 最下 の件 】
〖 南方海域 拠点 にて 〗
此方に笑い掛ける美女へ、三本橋は恐怖を呑み込み、なるべく平穏な態度を取りつつ相手の名前を呼んだ。
『君は………南方棲戦姫……かい?』
『ゴ名答……デモ……何ダカ……妙ニ……癪(シャク)ダワ……』
『あの怪物だったら………ボクは有無もなく、殺されていたからね。 周辺を騒がしてから、態々ドアから入るなんて、君は……あの怪物……キメラ兵器とは違う』
『…………………』
三本橋の言う怪物が、戦艦レ級を指すと知り、安堵の表情を浮かべる南方棲戦姫。
仮にもボスが肯定するのは実に不愉快。 しかし、戦艦レ級は、この海域で最強を誇る深海棲艦。 だから、納得もできたし、反論も一切しなかった。
…………実際は、自分を怪物と言われたと思い、若干、いや少しだけ、少しだけショックを受けていたのは、内緒である。
『ボクも聞きたいけど…………いいかな?』
『フン……答エラレル……モノ………ナラバ……』
そんな南方棲戦姫に、三本橋が逆に問い掛ける。
中身は、当然にして、必然的な疑問。
だが、その裏では時間稼ぎとして提供された、双方で語れる共通の話題でもあった。
『ボク達の研究ならば、南方棲戦姫……貴女は南方海域の奥に居るボス的存在の筈。 なのに、何で………この海域の始まりである近辺に居るの?』
『オ前達ノ……調べ通リ。 本来ハ……動カズ……歓迎スルノミ……』
『じゃあ、何で…………』
三本橋からの問いに鷹揚に答える南方棲戦姫だが、ここで封印していたドヤ顔で答える。
『人間………貴様ノ………成果………ダ!』
『────ボ、ボクの!? そんな事、知らない!!』
三本橋の研究は、あくまで自軍強化を図る( 練度を上げる画期的方法等 )が主。 これは、鎮守府内でも実験できるし、日頃の任務と兼業も可能。
だが、敵である深海棲艦に関する( 弱点を探る等 )研究は、残念ながら出来なかった。 これは、敵に情報を渡るのを恐れた大本営の判断であり、研究も大本営内で行われている。
『イイヤ……間違イナイ。 貴様ノ……成果無シ……デハ……成シ遂ゲレ……ナカッタ……』
『ボクは───シーレインを取り戻す為に、様々な研究をしてきたよ! だけど、深海棲艦を研究した事なんて──』
『貴様ノ成果ハ………我々ニ……恨ミヲ……哀シミヲ……』
『────ま、まさかっ!?』
『………仲間ヲ……提供……シタカラ……ダ! 見ロッ!!』
『──────!!』
南方棲戦姫は、そういうと己の艤装を展開した。
腰や足に機銃やら砲塔やらが装備され、特に両手には砲身を伸ばした砲塔ユニットが目立つ。 特に、異彩を放つのは、16inch三連装砲を二つ搭載しているところ。
だが、ここまで重装備なのに、四肢より大事な身体、特に胸部装甲が自前の髪というのが、流石に理解できないが。
『………ドウダ? 貴様ガ……送リ込ンダ……大和型ヨリ……奪ッタ……艤装ダ……』
『ほ、本当に……有ったんだ。 木偶……か、艦娘の………深海棲艦化………って……』
敵艦だという事実を忘れ、南方棲戦姫の艤装に目を見張る。
そして、長年の間、議論されていた《 艦娘の深海棲艦化 》について、謎が解けたと素直に喜んだ。
『半分ハ……当タリ……ダ。 ダガ……半分ハ……違ウ………』
『────えっ?』
『力アル……深海棲艦ハ……轟沈シタ艦娘ト……融合デキル。 人間……貴様ラガ……イウ……近代化改修………』
『深海棲艦の………近代化……改修……?』
聞いた事がない単語に唖然とする、三本橋。
だが、外から聞こえてきた、駆けつける足音に力付けられ、三本橋は自信を取り戻して、南方棲戦姫へと指を差した。
『…………面白い話だったけど、どうやら勝負はボクに有ったね。 こんな事もあるかと、緊急時に援軍を呼ぶよう木偶達に命じていたんだ。 これで、君も終わりだよ!』
『ホウ……奇遇ダナ。 私モ……援軍ヲ……呼ンダ。 ヤリ過ギナイヨウ……伝エタ……ノダガ?』
『……………はへっ?』
南方棲戦姫の顔に満面のドヤ顔が浮かび、逆に三本橋の表情から力が抜ける。
そして、ドアから現れたのは────
『…………呼ンダカラ……来タヨ!』
黒いフードを被り、同じ色のコートを身に付けた、小柄の女性が笑顔で入って来る。 いや、その後ろには、蛇のような長い数メートルの尻尾が長く廊下に伸びていた。
南方棲戦姫は、その女性に向かい、一言だけ声を掛ける。
『ゴ苦労……ダッタナ。 戦艦……レ級………』
■□■
下記の話は、文章書いてましたら、思いつきで書きました。
本文とは、一切関係ありません。
【 おまけ の件 】
南方棲戦姫の顔に満面のドヤ顔が浮かび、逆に三本橋の表情から力が抜ける。
そして、ドアから現れたのは────
『 アヒャ <(゜∀。) 』
『『 …………………… 』』
そのままドアから入って来た女性に、ため息をつきながら捕まえ、南方棲戦姫は三本橋に何回も平謝りした。
そして、女性を室外に連れ出し、もう一度やり直すように、何回も指導。
そして───
『…………呼ンダカラ……来タヨ!』
黒いフード……以下略。
南方棲戦姫は、その女性に向かい、一言だけ声を掛ける。
『ゴ苦労……ダッタナ。 戦艦……レ級………』
その声には、様々な苦難を乗り越え、何とか達成できた充実感に満ち溢れていた。
そんな南方棲戦姫の後ろで、三本橋が『お疲れ様』と声を掛け、疲労困憊の南方棲戦姫の肩を、片手で優しく叩いていたのだった。
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一刀君の回想 その3 です。