宿屋アルカトラズのとある一室、いや一軒と言ったほうが良いだろうか、その庭で木剣の打ち合いをしている一組の男女の姿があった。
木剣と木剣とがぶつかり合う鈍い音が響く。
どちらもかなりの腕前である。ある程度の実力者でなければその剣筋を見ることすらできないであろう。
「いやあ!」
気合とともに男が鋭い突きを放つ。それは一直線に女の胸元へと吸い込まれるように軌跡を描く。当たったかに見えた一瞬、女の腕が滑るように動く。
「甘い」
女は男の剣戟を絡め取るように剣を捻る。
次の瞬間、男の持っていた木剣は上空へと弾き飛ばされ、その喉元に剣を突きつけられていた。
男が腰を下ろすのとほぼ同時に、女の左手に飛ばされていた木剣が落ちてくる。そこまで計算されて弾き飛ばしていたのだろう。それだけ二人の間には実力差があるということだ。
「アペア姉さんは本当に強いや。これなら明後日の闘神大会決勝も姉さんの勝ちで決まりだね」
アペアと呼ばれた女性は褒められたというのに嬉しそうには見えない。逆に険しい表情を見せる。
「油断は禁物だといつも言っているでしょう! ましてや今度の試合は決勝戦。対戦相手のボーダー・ガロアの実力は本物よ」
二人が話しているように明後日は闘神大会の決勝である。今大会ではアペアとボーダーとが駒を進めていた。
決勝であるということもあるが、どちらも正統派の剣士ということでその対戦は注目されている。闘神ダイジェストでもクリちゃんがどっちに賭けるかで大盛り上がりをしていた。もちろん大会関係者であるために賭けることはできないと切り裂きくんにツッコミを入れられていたが。
「それにしても、あなたが居てくれてよかったわ。私一人ではこうした実戦形式の訓練はできなかったもの」
木剣を打ち合っていた先ほどまでの真剣な表情はもうない。アペアは成熟された女性らしい笑みを見せる。
「そりゃそうさ、だって姉さんが一番強くて、僕が二番だもの」
姉さんの相手をできるのは自分だけだとでも言いたげである。
二人とも先ほどの訓練でかいた汗を拭いている。拭きやすいように二人とも上半身を完全にはだけている。異性だというのにその視線を気にすることはない。男が姉と呼んでいるように姉妹なのであろう。小さい頃からの習性のようだ。
「そんなことはないわ。私だってまだまだ修行が足りないわ」
諭すような柔らかい、それでいて強く言い含める口調。
「そんな! 姉さんならもう修行する必要なんてないよ」
反論する。それは姉の強さを否定されたからか、自分の強さを否定されたからか、おそらくは後者であろう。自分が強いということを姉に認めてもらいたい気持ちがアペアにも伝わってくる。
だからといって慢心をそのままにするわけにはいかない。アペアも弟の強さを認めていないわけではないが、それでもまだ危ういところが多々見える。ずっと二人きりで訓練してきたせいで、他の者の強さを認めようとしなくなってしまったのは失敗だったと今更のように後悔する。
「そんなことはないわよ。今日もマビル迷宮で見つけた召喚ドアで召喚した強者に一撃を喰らってしまったわけだし」
そう言うアペアの右腕にはうっすらとした傷跡がある。明日には見えなくなってしまうのではないかという程度のかすり傷以下の傷ではあるが、それでも一撃を喰らったという事実が消えるわけではない。アペアに言わせれば鍛錬が足りないということになる。
強い者はいくらでもいる、アペアはそれを弟に教えるために闘神大会に出場していた。もちろん負けるつもりなどないのだが。
「私は明日もマビル迷宮に潜るわよ。付いてきなさい、ボルト」
アペアと一緒に剣の訓練をしていた男の名はボルト・アーレン。後に闘神となる男である。
翌日、マビル迷宮のーてんフラワーの召喚ドア前にアペアたちの姿があった。
「姉さん、本当に挑戦するの?」
明日が闘神大会決勝であるため、できることなら今日一日は休んで体調を万全にしてほしいというのがボルトの考えだ。
「ええ、開けるから下がっていなさい」
アペアの意思は決まっているようだ。
何を言っても意味がないとわかると、ボルトは言われるままに距離を取る。それを確認してアペアは召喚ドアを開ける。
ドアから溢れたまばゆい光が拡散したように見えたが、一瞬後それは一つの形をかたどる。
「天……使……」
アペアとボルトの前に現れたのは、神々しいまでの輝きと純白の翼を持つ天使であった。
召喚された天使はけだるそうに辺りを見渡す。
「ほう、召喚ドア……か、天界が異世界として扱われるなど初めて聞いたがな。
まあ良い。我を召喚したのはそなたか」
天使が少し手を動かしただけだというのに大気が揺れる。
アペアは剣を握る手に自然と力が入る。
「面白い。我と闘うと言うのか」
天使は腕を一振りすると、そこには先ほどまではなかった剣が握られていた。
アペアは瞬時に後方に飛び距離を取る。天使は構えてもいないというのに体が勝手に動いていた。そこにいては危険だと体が警告する。
睨み合いが続く。いや、天使はアペアの視線を受け流すかのように静かだ。
アペアの頬を汗が伝う。
じりじりと間合いを確認しながらアペアは距離をつめる。
本来であれば感じられるはずの相手の間合いが感じられないことに戸惑いを覚えたが、それを相手に感じさせないようにゆっくりと、だが着実に間合いをつめる。
「はあっ!」
自分の間合いに入ると同時にアペアは剣を上段に構えると気合とともに振り下ろす。だが天使はその剣筋よりも速く、まるで滑るようにアペアの横に移動していた。
「遅いのお」
天使が持つ剣は無造作に下に向けられている。まるで斬るつもりがないかのように。
「さすがは召喚ドアに導かれた強者というわけね。でも見切れない動きではない!」
「ほう、今の動きが見えたと言うのか」
アペアは天使へと向き直ると改めて上段へと構える。
踏み込みと同時に振り下ろす。まるで閃光のような一撃。だが天使は先ほどと同じようにすべるように移動する。
「先ほどと何が違うと……くっ」
アペアは右手のみで剣を持つと剣筋を横薙ぎへと変化させていた。
天使はそれを剣で受け止める。
「見切ると言ったのも満更嘘ではなさそうだ」
アペアの攻撃は止まらない。両手でしっかりと剣を持っていたかと思うと、次の瞬間には右手、さらには左手へと持ち替えている。それはまるで無数の生き物が襲いかかっているような、複雑な軌跡の変化をもたらしていた。
「面白い、本当に面白い! 人間でこれほど動けるものがいるとはな」
アペアが繰り出す剣戟を軽々と受け流しながら天使は言う。
呼吸が切れたのか、アペアは最初に対峙した時のように距離を取る。
「人間が天使に立ち向かおうなどと愚かしいと思っていたが……これほどの腕を持つものと邂逅できるのであれば召喚されるのも悪くない」
新しいおもちゃを手に入れた子供のように笑みを浮かべる天使。剣を握っていた手を開くと、剣は空中に霧散するように消えていく。
アペアは新しい攻撃かと辺りを探るが何の変化もない。そこにはただ嬉しそうな天使の声が聞こえるだけだ。
ゆっくりと呼吸を整え、アペアは次なる攻撃を開始する。
今までと同じように上段からの切り下ろし。攻撃の起点としての一撃、だが天使はその一撃を避けることもせずにその身をさらす。
「ふふふ、残念だがそのような剣では天使を斬ることなどできはしない」
その言葉通り、アペアの剣は天使の皮膚を傷つけることなく止まっていた。そこに見えない壁があるかのように微動だにしない。
「物理攻撃が効かない!」
攻撃が効かないと知るとアペアは天使の腕を蹴り、後方へと距離を取る。
「ほう、攻撃が効かず絶望するかと思ったが……まだなにかあるようだ」
今まで剣で受けていた理由、それは単にアペアに絶望感を与えることであった。だがアペアの瞳には光が残っている。それはまだ攻撃の手段が残っていることを表していた。
「そうよ、たとえ物理攻撃が効かないとしてもまだ手段は残っている!」
気合一閃。アペアの剣に雷が纏われる。剣に付与されている力である。 アペアは物理攻撃が効かない相手に対抗するために雷マポを付与していた。その使い方は特殊で、攻撃魔法として使うのではなく、一定時間剣に魔法の力を纏わせるというものだ。
「これでどうかしら」
剣を一振りする。先ほどまでとは違い、轟音とともにその空間に稲妻が迸る。
「全く、人間には驚かされる。だけど残念ね、そこまでしても無駄に終わるのだから」
天使は無造作にアペアの剣をつかむと自分の胸へと突き立てた。
その剣は何の抵抗もなく天使の体へと吸い込まれるとそのまま背中へと貫通する。
「そ、そんな……」
剣が背中まで貫通しているというのに、天使に痛みがあるようには感じられない。そして、天使は剣を掴む手のひらに力を込めるとそのまま粉砕した。
恐怖の表情がアペアを覆う。
「いいわ、その表情。ゾクゾクしちゃう」
先ほどまでの笑みとは性質が違う、禍々しさを感じる笑みである。口調すらも変わっている。
距離を取ろうと後方へと飛ぶが、その動きをトレースしたかのように等距離のまま天使も移動する。どれだけ動いても天使との距離が変わらない。
焦りからか、アペアの額には、いや額だけではない、体中に玉のような汗が浮かぶ。
「あなたのような強さのみを求めた純粋な魂なら、さぞかし高位の天使になれるでしょうね」
天使の笑い声の後。アペアの胸から鮮血が飛び散る。天使の右腕がアペアの背中から生えていた。
アペアの胸を貫いたその手には、こぶし大の玉が握られていた。天使の言う、アペアの魂なのであろう。アペアの顔が土気色に変わっていく。
アペアは貫かれたことすら感じなかった。それほど素早く、そして自然な動作であった。
「姉さん! 姉さああん!」
今までただ傍観していることしかできなかったボルトの絶叫。
天使はその声で初めてボルトの存在に気づいたかのように視線を動かす。
「あら、男には興味ないのよ。ごめんなさいね」
無造作に左の手のひらをボルトに向けると、そこから一筋の光が放たれた。それは一直線にボルトを襲う。
ボルトは避けることができなかった。いや、攻撃されたことに気づくことさえできなかったのだ。
「……させない!」
本来なら天使の放ったその攻撃はボルトに意識させることなく、その身を消滅させるはずだった。だが、そうはならなかった。アペアが最後の力を振り絞り天使の腕をそらしたのだ。
「あら、まだ動けたの。その意気に答えてその子にはもう手を出さないであげるわ。運が良ければ生き残れるかもね」
放たれた光はボルトに直撃することはなかった。ただし完全に無傷とは言えない。その光は右目を掠り、ボルトは焼けるような痛みを感じていた。
召喚ドアの制限時間が来たのか、それとも自らの意思なのか、天使の姿は光となり消えていく。その手に握られたアペアの魂と共に。
「ボルト、強い男になりなさい。誰にも負けることのない強い男に」
その言葉は声ではなく、直接ボルトの心に届いた言葉だった。それは暖かく、そして永遠に触れることができなくなることを感じさせられるものだった。
視界が滲む。痛みからではなく、左目から溢れ出る涙のせいで。
「……ねえさ……ん」
ボルトは崩れ落ちるようにその場に倒れると完全に意識を失った。
「夜分にすみません」
夜遅く、ボーダー・ガロアの泊まっている宿に一人の来客があった、ボルト・アーレンである。その右目には昼間、天使から受けた傷を押さえるための包帯が巻かれていた。
ボルトは運よく生き残ることができた。目覚めたあと、ボルトは召喚ドアを開けようと試みたが、召喚ドアは全く反応することはなかった。今までいつも傍にいた姉がいない、そのことはボルトに果てしない虚無感を与えていた。
そして気がついたらこうしてボーダーの宿を訪ねていた。右目の手当ては自分でしたのであろう。治療するという意識があったのかはわからない。今まで怪我をしたら自分で手当てすることが当然だったので自然に体が動いたのかもしれない。
「おう、確か明日の決勝で闘うアペア・アーレンの」
深夜、それも決勝の前日という大事な時期だというのにボーダーは気軽に来客の相手をしていた。門前払いをしても良かったのだが、人の良いボーダーらしいと言えばボーダーらしい。
「はい、アペア・アーレンの弟、ボルト・アーレンです」
一礼する。
「それでなんの用だ」
ボーダーはボルトの右目の怪我について触れようとしない。相手が話さないのであれば聞く必要もないという考えだ。
「僕と闘ってくれませんか」
「……本気か?」
ボルトの目が本気であることを物語っていたのは感じていた。ただ確認のために尋ねただけだ。
「規約なら大丈夫です。僕は大会出場者でもパートナーでもありませんから」
それを規約違反に対する質問だと思ったのだろう。ボルトは答える。
「……確かに、な」
ボーダーは愚痴るようにつぶやく。規約に穴があるんじゃないかと運営に進言したほうがいいだろうかと思ったほどだ。ある一定の腕を持つ者が数人がかりで対戦相手を潰していけば良くて不戦敗、悪くても負傷して有利に進めることができるのだから。
「しかし、決勝前に対戦相手を削っておきたい、ってわけでもなさそうだな」
今までに放送された闘神ダイジェストを見ていてもそれはわかる。アペアはこのような小細工が必要な程度の低い参加者ではない。今までの試合も正々堂々と勝っている。
「ええ、アペア姉さんは……姉さんは今日マビル迷宮で命を落としました」
ただ淡々と事実だけを述べる。ボルトの中では様々な感情が渦巻いている。だがそれを表面にだすことはない。感情を制御できているのか、それとも別の理由からか、ボルト自身わかっていないことだった。
「おいおい、冗談だろ」
ボルトの表情を見る限り、嘘を言っているようには見えない。
「ホントかよ、せっかく闘いがいのある相手と闘えると思ったのによ」
ボーダーとしても闘神になることも大事だが、強い奴と闘いたいという意識も強かった。アペアはその相手に相応しい実力の持ち主で、ボーダーとしても今回の大会で一番楽しみにしていた闘いだ。
「だけどよ、アペアが死んだ恨みがこっちに来るってんならお門違いだぜ」
対戦中に対戦相手が死亡した場合でもその責任は負わないと規約にはあるが、その肉親や知り合いの恨みが消えるわけではない。逆に表立って恨みを向けられないことにより内面では一層恨みがたまるということだってあるのだが今回は対戦中の死亡ではない。
「そんなつもりはありません。ただ……」
言いよどむ。ボルト自身なぜここにいるのか、なぜボーダーと闘おうとしているのか整理できていない。闘ってそして勝つ、そうしなければいけないという想いがあるだけだ。
ボーダーはボルトの言葉を待つ。
「僕が……」
僕の願いは、僕が一番強いことを証明するためじゃない、言ってからボルトは頭を振る。
「アペア姉さんが……」
再度頭を振る。アペア姉さんはもういない、ならどうして闘うのか、どうしたらアペア姉さんの強さを証明できるのか。
「どうした、坊主」
何度も頭を振るボルトに違和感を覚え、ボーダーが尋ねる。それは心から相手を心配した言葉だ。だがその言葉もボルトには届いていないのか、気にした様子も見えない。耳に届いていないようだ。
「違うな……私が」
私、ボルトは自分のことをそう呼んだことで全てが納得できた気がした。自分と姉さんの強さを認めさせるために、そして一緒に闘神になるためにはどうすればいいかが見えた気がした。自分は自分であり、そして姉さんでもあるという感覚になれた。
「私が最強である証を立てるためにお相手願いたい」
意識して出したわけではないが声質が変わる。自分が自分でなくなるように感じたが、ボルトはそれを姉と一体になったのだと思い込んだ。それが『狂気』だと知らずに。
ボーダーも先ほどまで感じていなかったプレッシャーを感じる。
「明日あなたが闘神になってしまっては手が届かなくなってしまう。それだけは避けたいのでね」
静かに、だが力強くボルトは剣を構える。それに呼応するようにボーダーも構えを取る。先ほどまでの人の良さそうな瞳はもう無い。
明日の決勝があることを考えれば闘うべきではないことはわかっていた。対戦相手がいないとはいえ、試合は試合だ。その場に完全な体調で立つということは戦士として最低限のマナーであると思っている。だが相手から伝わってくる気迫から、強い奴と、ボルトと闘ってみたいという想いに駆られていた。
「いざ」
「おう」
深夜の路上、観客も一人もいないが、これが今大会の決勝とも言える試合が幕を開けた。
「いいんですか、会場に立つだけで闘神になれたのに」
闘神都市を背に、そう言うのはボーダーのパートナーであるレイチェル・ママレーラである。
「いいんだよ、負けちまったからな。闘神になれるのはその年一番強かった者だ。俺より強いヤツがいた。ただそれだけだ」
ぼやくように答えるボーダー。
この年、闘神となる者はいなかった。決勝となったこの日、ボーダーは免除金のみを置いて会場を後にした。アペアが迷宮で死んだことは運営側でも把握しており試合が成り立たないことが問題視されていたが、さらにボーダーまでもが試合に出ないと言い張ったため、大混乱となった。結局、試合が成立しないことが確実であることと、混乱しているうちにボルトが会場を去ってしまったために両者不戦敗として優勝者なしとの判定となった。
「おいおい、本当に去年の坊主かよ」
翌年の闘神大会決勝、ボーダー・ガロアは苦戦を強いられていた。相手はボルト・アーレンである。
去年、非公式で闘った時はこれほどの差があるとは思えなかった。ボルトが一年でそれだけ成長したということだろう。
「いや、坊主と呼ぶには失礼だな」
ボルトの成長は剣の腕だけではない。外見も青年と呼ぶに相応しくなっていた。
昨年戦った時に右目に巻かれていた包帯が眼帯に変わっただけではない。背は伸び、体格も剣士と呼ぶに相応しい程度には筋肉が付いている。細身のため華奢に見えるが、服で隠れているその内側には鍛え抜かれた体があるのだろう。
「こんなものかね、ボーダー・ガロア。もっとだ……もっと楽しませてくれたまえ」
悠然とした構えのままのボルト。
それに対してボーダーはすでに肩で息をしていた。それもそのはずである。決勝が始まって半刻ほど経つが、その間ボーダーは攻め続けていた。だが有効打どころか、ボルトの体に掠りもしていない。攻撃全てが紙一重で避けられていた。
「ああ、お前さんは強いよ。だけどな……」
ボーダーはタメを作り、力を込める。腕には幾筋もの血管が浮かび上がる。それも今にも弾けそうなほどに膨らんだ血管が。
「こっちだって無駄に一年過ごしてきたわけじゃねえんだよ!」
ボーダーにとっては全てをかけた一撃。岩ですら砕く自信があった。防御することを考えていない、持っている力を全て注いだ攻撃である。
剣と剣とがぶつかり合う音が響く。
「嘘だろ……」
だがボルトはそれを片手で受け止めていた。どこにそんな力があるというのだろうか、いやボルトの表情を見るに力を込めているようには見えない。だからと言って技でどうにかなるものでもない。
「ふっ!」
ボルトが剣をひねるように動かすとボーダーは地面にころがされ、次の瞬間にはその喉元に剣を突きつけられていた。闘神が決まった瞬間である。
「ほう、その剣を持っても微動だにしないか。あのクランクですら一瞬の逡巡があったというのに」
祝勝会で都市長であるシン・ビルニーから漆黒の剣を渡されたボルトに変化は見られなかった。
「すでに狂気に侵されているということか、面白い」
値踏みをするように、シンはボルトを見る。大会の様子は全てシンへと伝わっていた。一度も相手の攻撃を喰らうことなく優勝を決めたというボルトの実力は、シンの目的にとって有効なコマであることを示していた。
「悪魔や天使、神すらも断ち切る剣に興味はないかね」
『天使』という単語に一瞬だけ心動かされる。本当に一瞬のことではあったが、それはシンへ伝わるには十分であった。
「興味があるようだね、さあ奥で話そうじゃないか」
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アリスソフト「闘神都市III」の二次創作。
去年の冬コミで配布した無料配布本と同様。ボルトがどうしてああなったかを想像して。オリジナル設定あり。