「分からない。だが、そうはさせない」
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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)
EX回:第75話(改1.3)<もう一つの最前線>
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騒然とする食堂内。周りの艦娘たちは立ち上がったり遠巻きにして不安そうに見ている。
「おい! しっかりしろ」
ブルネイ司令が吹雪を抱きかかえて何度も呼びかけているが、まったく反応がない。
気が付くと私の横に日向が立っていた。目が合った彼女が呟(つぶや)く。
「配膳中に機能停止したようだな」
「やはり、そうか……」
それを聞いた私はフラフラと後ずさりした。
(やはりダメなのか?)
ブルネイの駆逐艦に何かが起きたことは分かる。だが何も対処出来ない自分が歯がゆかった。
このとき慌しい足音と共に数名が食堂に駆け込んできた。
「こちらです!」
「叢雲……」
日向が呟く。ブルネイの技師と工員だろうか? 彼女は数名を伴って駆けてきた。
「あ」
私は小さく声を出した。その後ろには技術参謀も一緒だったから。彼女は私をチラッと見て軽く頷(うなづ)いた。
技師は、その場で膝(ひざ)まづくと周りに指示を出す。直ぐに何かの測定器具が準備された。
技師は、そのままブルネイ司令が抱く吹雪の様子を調べ始めた。
だが一分も経たないうちに技師は首を振った。ブルネイ司令は残念そうに「そうか」とだけ呟く。
彼はそのまま、ソッと吹雪の顔を撫でるようにして瞼(まぶた)閉じた。重苦しい空気が食堂内に漂う。
技師が軽く手を上げると、後ろに控えていた工員たちが担架を吹雪の横に下ろした。後は戦場での作業のように機械的に処置が進んで行く。
「……」
制帽を拾ったブルネイ司令は、ゆっくりと立ち上がった。
さほど落胆するでもなく、かといって客観的でもない。複雑な表情をしている。
ずっと見ていた技術参謀も腕を組んだまま黙っている。いつの間にか寛代(かよ)が彼女の後ろに来て白衣にしがみ付いていた。
私はブルネイ司令に話し掛けた。
「駄目か?」
彼は帽子のホコリを払いながら応えた。
「ああ、そのまま機能停止。いわゆる絶命だな」
「そんな……」
その淡々とした言い方に私は抵抗を感じた。
「これが艦娘の最後の炎だよ」
彼は何かを抑えるように言った。
思い出した。
(そういえばこいつ前にも同じようなことを言ってたっけ。艦娘たちの最後の輝きって……)
すると腕を組んだ技術参謀が私を向いて話し始めた。
「新しいレシピの艦娘については今のところ順調だ」
「はい?」
唐突な内容に私は戸惑った。
「だが今までに製造された試作型の艦娘たちは、その末期には、こうなる」
「……」
受け止め切れない気持ちになった私は言葉を失った。だが彼女は続ける。
「最後には精神錯乱するか、この娘のように急に途切れる、どちらかだ。何度も言うが『形』は作れるが心は、まだ難しい」
そのときガタガタと大きな音を立てて声が響く。
「ほら早く」
「……」
ちょっと怖い形相の叢雲と、おとなしい電の二人が動かなくなった吹雪の手と足を持って、おもむろに担架に乗せて運び出すところだ。
「そっち持って!」
「……」
その二人の『吹雪』への雑な扱いには思わず目をそらしたくなった。
私の気分を察したらしいブルネイ司令が言った。
「済まないな美保。もうここでは、これが日常茶飯事。誰もが慣れっこになっていて寿命が尽きた艦娘にも、いちいち配慮しない」
……美保の艦娘たちは軒並み、泣き出していた。耐えきれずに数人が食堂から出て行ったようだ。
(私以上に彼女らのほうが衝撃は大きいだろう)
そう思いながら私はブルネイに言った。
「あまり、見たくない光景だな」
「ああ。だが、ここも戦場なのだ。お互いに感情を押し殺さないと、やり切れない」
そこでブルネイ司令は気を取り直したように言った。
「それでも幸いだったのは吹雪は最期まで『彼女らしかった』ことだな」
「そう……だな」
私は、そう応えるので精一杯だ。
吹雪が運び出された後、技師が現場メモや機材を整理すると敬礼して食堂から撤収していく。
それに返礼したブルネイ司令は微笑んだ。
「いろいろ見苦しいところを見せて済まなかったな。だが美保メンバーには本当に感謝しているよ」
技術参謀も、やれやれという顔をして寛代の頭を撫でながら私に近寄ってきた。
「落ち込むなよ美保。これも一つの前線だ……よく覚えておけ」
「ハッ」
私は敬礼した。
彼女は意外に優しい笑顔をして私の肩を叩くと、そのまま寛代を連れて食堂の外へ出て行く。
改めて頭の中で彼女の言葉を反復してみる。
(そうか、これも一つの最前線なんだな)
なんとなく納得する気持ちになってきた。理不尽でも心を抑えるのも軍人の務めだ。
やがて食堂は落ち着きを取り戻してきた。ブルネイ司令は時計を見て言った。
「間だこんな時間だな。まぁ座れよ」
「あぁ」
改めて着席を促されて私も再びテーブルについた。そこへ目を赤くした五月雨が来た。
「あのぉ、お食事……変えましょうか?」
直ぐにブルネイ司令が優しく返事をした。
「大丈夫だ。済まなかったね、五月雨」
「はい」
五月雨は少し明るい表情を見せた。そして一礼をしながら一歩引くと、よろよろと立ち去った。
その後姿を見ながらブルネイは続けた。
「お前と吹雪を見て思ったが……」
「……」
私は無言でブルネイの顔を見た。彼は遠くを見るような目をして続けた。
「艦娘たちに構えて接するよりは、ごく自然に、やりたいようにさせるべきだったな」
「……」
その問い掛けには何とも返し難かった。それでも少し考えてから私は答えた。
「いや、でも私自身、果たしてそれで良かったのか? と思うな。結論は出せないよ」
ブルネイは穏やかに、しかし力強い口調で言った。
「だが、この悲しみもいずれ消えていくだろう。新レシピは順調だ。ここから新しい歴史が始まるんだよ」
「そうだな」
彼の自分に言い聞かせるような言葉には私も救われる心地だった。
(私たちの『未来旅行』は一つの戦場に『終止符』を打つ、きっかけになるのだ)
そこでブルネイの表情が少し変わった。
「ただ」
「あ?」
「美保の艦娘たちには、だいぶ衝撃だったらしいな」
「あぁ」
彼にも分かっていたか。
「ちょっと心配だな」
「……」
私は頬に手を当てて間を置いた。
(確かに、この展開には衝撃を覚えるかも知れない)
そのとき日向と並んで近くから見ていた伊勢がボソッと呟いた。
「あたしも、あんな風に、なっちゃうのかなあ?」
すると直ぐに腕を組んだ日向は応えた。
「分からない。だが、そうはさせない」
彼女の表情は硬かった。しかし決意は伝わってきた。
(気持ちは分かるぞ日向。その姿勢は、お前らしい)
……とはいえ実際、どうなのか?
正直、試作型の艦娘の寿命は分からない。まして彼女たちは不安定だ。
この伊勢や比叡2号たちが抱えるものは目に見えない時限装置のようなもの。その結果は私たちはおろか専門の技師にすら分からない。
「でも負けてはいけない」
私も呟いた。
(そうだ。最後の戦場は、まさに私たちの心の中にあるんだ)
以下魔除け
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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「美保鎮守府:第三部」の略称です。
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一人の艦娘の『死』は美保の艦娘たちに大きな衝撃を与える。それは、もう一つの『最前線』だった。