No.987295

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第028話

どうも皆さんこんにち"は"。
今回から戦闘回に突入でございます。
一刀は関羽をどう育て上げるのか。乞うご期待‼
あ、まだ調教は開始しません←まだってww

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2019-03-16 00:15:25 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1769   閲覧ユーザー数:1693

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第028話「開戦」

 先方隊である呂北騎馬軍6千が、現在迫りくる黄巾軍20万に向けて陣を張り、やがてその砂塵が見えてきた時、一刀が関羽に語りかける。

「どうだ関羽ちゃん。あの地平線の先に見える全てが、今後方の洛陽に迫りくる黄巾軍だ」

一刀は軍配片手に、地平線を撫でるようにしながら、扇いで指し示す。関羽は緊張しながらも、彼の回答に答える。

「た、確かに凄まじい人の数です。......正直、本当に防ぎきれるのか不安でなりません?」

「ん?ビビったか?」

「そ、そんなことは――」

挑発された関羽は怒って返すが、一刀は一つ高笑いする。

「いやいや、馬鹿にしたわけではない。それでいい。ビビって当然。寧ろ何も感じないことが異常。俺も内心同じ気持ちだからな」

「な、呂北様も」

関羽の驚愕に、一刀はニヒルに微笑して返す。

「いいか関羽ちゃん。戦とは生き物だ。どの様に完璧に策を建てようが、どれ程完璧に動こうが、必ず穴は生まれる。『何故戦は生き物なのか?』、戦は人が起こしているからだ」

「人が起こしているから、戦が生き物?」

「そうだ。例えば喧嘩でも、手を緩めた瞬間、優勢だった者が一気に逆転されて劣勢に立たされることがあるだろう?戦でもそうだ。一つ間違えば、戦局は大きく左右され、最後にこの地に伏せっている様になるのは我らだ。無論、勝てると思ったから俺も策を立てた。そして提案した。だが今この状況で、天変地異が起きればどうする?洛陽が地割れで崩壊すれば?戦っている最中に洪水の様な大雨で我々が流されれば――」

「なっ!その様な極論。あり得るわけ――」

「ない.........か。それは神のみぞ知る...っだ。君が天変地異の起きる可能性を零と言い切る根拠を言い切らなければ、どの様な可能性も”零”と言い切ってはならない。だからこそ、戦とは恐いものだ。一つ間違えば、どの様な戦いでも組み伏せられるのは自身なのだからな」

「………」

「いいかい関羽ちゃん。君の武を見ていれば戦に対して、どの様な尊い幻想を抱いているかもわかる。また感情を持っているかは大体想像が付く。真っ直ぐな刃だからな。否定しているわけではない。無論”あった方がいい”に決まっている。だがいざ戦場に出ればそんなものは全くの無意味。どれほど泥臭かろうが、どれ程敵を倒そうが最後に勝った者が評価される。世の中の仕組みそのものだ。『勝てば官軍負ければ賊軍』という言葉があるようにな。さっき俺は『戦は人が起こすから生き物となり得る』と言ったな。なれば、戦とは一体なんだ。いうなれば人の欲の塊だからだ。どれ程高らかな大望を抱いた聖戦であろうとも、弱者を救う名目であろう義戦であろうとも、強奪・乱取目的の欲に狩られた戦であろうとも、結局の所、”人を殺す”ことには変わりはない。

お題名目は建前に過ぎない。その点で言えば、俺らのような『漢朝を守る為』と言っている官軍も、弱者を救う為と宣言している君達義勇軍も、目前に迫るあの賊軍も”人殺し”をしているのだから、その点では変わらない。出世欲の為・義侠心という自己満足の為・獣人的自己欲求の為。どれ程奇麗ごとを並べようとも、どれも全て自らの欲に過ぎない。

君の主である劉備ちゃん。奇麗な手だが人を切ったことなんかないだろう?君たちの考えていることを”指摘”すると、こう思っているはずだ。「血を流すのは我々の仕事。主には王道を歩んでいただき、その手を血で汚してほしくはない」とか。だがな、言い換えれば劉備ちゃんの為にと思う反面、”その為に流される血”も当然出てくるわけだ。ということは、君らがどう思おうが、君たち以上に劉備ちゃんの手は血で汚れていることになる。

俺だってそうだ。例えば、誰かに「軍で誰が一番殺しているか?」と聞かれれば、迷わず自分だと答える。そりゃそうだ。なんせ、自分が下した命令が、俺の代弁者として多くの命を奪うのだから。だからこそ俺たち(しどうしゃ)はその事実を認識した上で、皆を導かねばならない。そこにどんな苦難が待ち受けようとも、笑って安心させ、決して弱音を見せてはならない」

呂北の哲学的考えに関羽は反論もせずに黙る。心では違うと反論するものの、今の冷静な関羽なら、彼の述べる哲学も”間違ってはいない”と思うからだ。だからこそ、違うと思いつつも反論が出来ないでいる。

「そんな人が起こす欲の塊(いくさ)だがらな。無論恐くないわけがない。しかしな関羽ちゃん。俺たちはそんな戦の恐さを認識した上で日々戦わなければならない。俺が長々と語った意味が、全て理解出来ていないのは百も承知している。戦を積んで行くうちにいつか息詰まる筈だ。”今は”俺の言うこと全てを素直に聞き入れろとは言わない。だがな、せめて頭の片隅には留めておいてくれ。その時に自分なりの答えを見つければいい」

やがて賊軍の足音が聞こえて来る距離まで近くに来ると、呂北は、話を切り上げとばかりに、顔の目元を隠す様な、額が割れ、小さい角のついた赤い面を付ける。

「さて、行くか。いいか関雲長。これから戦場の実態を見せてやる」

 

 そして現在呂北軍は鶴翼の陣にて敵を待ち構えている。鶴翼の陣とは、「V」の形を取る陣形で、中心に大将を配置し、敵が両翼の間に入ってくると同時にそれを閉じることで包囲・殲滅するのが目的。しかし今回相手は20万。自軍は6千であるにも関わらずこの不利な陣形を取った理由は、それは相手に自軍の存在を見せつける為である。何故自軍の存在を見せつけるのかは、この後で知ることになるだろう。

目と鼻の先にまで迫ってきた段階で、皆は馬に跨っており、一刀は30の護衛に囲われて未だに腰かけ携帯タイプの座椅子、畳床机(たたみしょうぎ)に腰かけており、隣には関羽が控えている。

「あ、あの呂北様。そろそろ馬に乗った方がよろしいのでは?」

焦っている関羽は、未だに軍配を仰いで落ち着いている大将の思考がわからなかった。一つ息を吐いた呂北は関羽に答える。

「まぁ落ち着け関羽。確かにもうすぐ敵にぶつかるが、撤退戦とはただぶつかった段階で退却すればいいというものではない。今から起こる(しあ)の戦いぶりを見ておけ」

 

 「いくでお前ら。相手は20万やけど、こっちは一人33殺すればええだけや。遠慮はいらん。喰らい尽くせ!!全軍、突撃ぃ!!」

黄巾軍が眼前に迫った時、騎馬隊を率いる張遼が雄叫びを挙げながら大軍に突っ込んでいく。いくら大軍であろうとも、敵は無法者の集まりである賊徒か溢れた元農民。正規の訓練を受けた気迫に一瞬圧倒された。しかし紅に染まった軍団にとっては、その一瞬で充分であった。突撃の際、鶴翼から魚鱗に瞬時に変更し、本陣まで中央突破するかの勢いで敵を蹴散らす。

「す、凄い。20万の大軍を押し返すかの勢いだ」

関羽の驚愕に、呂北は黒い微笑を零す。

「関羽、俺の軍が何故(あか)に染まっているかわかるか?」

「.........精強な軍に......見せる為でしょうか?」

その言葉に、関羽は内心首を傾げる。旗や防具の色統一において、色彩はその軍の特徴を示すものである。劉備達義勇軍は緑を基調とした色彩での統一である。これは主である劉備が緑を基調とした服を着ていた為、自然とこうなった。いうなればたまたまである。

「第一に目立つからだ。青い空に土色の大地だけの光景に、いきなり赤色だけでたらどう思う。ついそこにだけに注目してしまう。色はあらゆる物を連想できる。例えば、赤は気持ちが昂る。頭に血が昇るという言葉があるように、これから連想出来るな。青は晴れている空の色。晴れやかな連想が出来る。黄色や金は太陽の色。眩しい連想が出来る。人の視覚によって感じる色彩は違うが、大抵の色はそれぞれの先入観というものがある。そして動物の本能による先入観で、赤は色んな表現を与える色彩だ。そして人という動物の思考は先入観から連想へとかわる。『ここは戦場。戦場での赤は血飛沫。自分・味方の血が流れるかもしれないという畏怖。敵をやっつけた時の興奮。沸き起こる高揚』といったところか。そういった小さな気持ちによる先入観が、戦の勝敗を左右することもある。たかが色彩、されど色彩。戦が始まるのは軍がぶつかった時ではない。準備段階の時から戦は始まっているものだ。覚えておけ」

やがて黄巾軍が張遼達の威圧に慣れ始めたころ、黄巾軍が動き出す。

「どいつもこいつもだらしがない。来な!この程遠志が相手をしてくれる!」

黄巾軍を掻き分けて、6.6尺(2m)程ある巨漢の大男が、大斧を携えて張遼に襲い掛かる。張遼は男の斬撃を交わしては受け流していく戦法にて、数合と打ち合っている。遠くにいる関羽から見ても、大男はガタイこそいいものの、攻撃は荒く隙も多い。うぬぼれているわけではないが、自分であれば瞬時のうちに斬り伏せることが可能だと思っていた。そんな張遼の戦い方を傍観していた呂北は、徐に立ち上がり、関羽に声をかける。

「頃合いだな。関羽、撤退し始めるから準備を怠るな」

「え?しかし今は我らが優勢だと思いますが?」

「今回の目的を忘れたか?詳しい理由は後で話すから、今は言うことを聞いておけ」

そういうと、呂北は周りの側近に片付けるように命じると、関羽を伴って騎馬に跨って撤退の準備を始める。

それとは同時期に、張遼側でも程遠志の善戦に良くしたのか、黄巾軍は士気を取り戻し始めていった。

「あかん。コイツは中々手強いわ。撤退するで‼」

張遼は撤退の合図を送ると、先行部隊は瞬時に行動に移る。実をいうと、張遼が程遠志と打ち合いを初めて数合経った時、既に先行部隊の陣形は長蛇(ちょうだ)の陣に移行していた。これは兵を隊ごとにほぼ一列に並べる陣形。縦方向に敵陣を突破する場合には、非常に有力な陣形である。ただし横方向からの攻撃に全く対応できないため、谷などの特殊な地形でのみ用いる。敵が正面以外の位置にいるときには攻撃を避けられてしまうので不利である。しかし撤退の際は皆隊列を一列に並べる為、真っ直ぐ撤退する分には問題なく、先行部隊は騎馬で構成されている為に、敵軍を切り抜けるのにはこの陣形で充分であった。

「逃げるかこの腰抜けめ‼追え‼」

それに釣られて程遠志は呂北軍の追跡を開始。勢いそのままにして黄巾軍は洛陽を目指すのであった。

 

 やがて撤退時に待機させている陣を、程遠志を主軸とした黄巾軍の先行部隊が次々と壊していく。隴や夜桜、留梨達の陣や、盗伐軍諸将の陣を壊していき、いよいよ洛陽の近くに布陣された盗伐連合本陣の目と鼻の先にまで迫っていった。

「流石親分の策じゃき。奴さんが面白い様に釣れてくれるわい」

「たしかに一刀様の策があたり面白い様に釣られているけど、しかし普通ここまで引っ張られる物かな。少し知恵があるものがいれば気付きそうだけどね」

「確かに不思議ネ」

「なんや、そんな疑問ならウチが答えたる」

馬に揺らされながら疑問に思った三人に霞が声をかける。

「張遼様」

「おう、宋憲(そうけん)侯成(こうせい)郝萌(かくほう)。気張っとるやないか」

「姐さん。どんな餌を撒いて、奴さんを釣ったんじゃき?」

「せやな。ウチがやったのはな――」

 

「敵将を討たなかったのはわざと?」

関羽の疑問に一刀は頷く。

「そうだ。関羽、君の腕があれば、あの程遠志という男ぐらい、簡単に捻ることは出来たと推測出来る。君にでも出来るんだ。霞なら斬られたことを気付かさない間に斬り伏せることが出来るだろう。だが今回の趣旨はあくまで敵を釣ることにある。

適度にこちらの勢いが良ければ、「これはまずい」と思い敵は切り札を投入してくるだろう。そして切り札が活躍すれば敵はどう思う。「あれはマグレ。やはり分はこちらにある」と勘違いする。そしてその勘違いを増幅させるための撤退時の陣の配置。これらを潰していくことによって敵は自信を付ける。「我らの武は通用する。このまま本陣に殴り込みだ」こうなればもう前しか見ることが出来なくなる。散らされた敗将や兵も関係なくね。

そして曹操らの別動隊がひっそりと回り込み、配置が完了次第俺たちは反転して迎撃に移る。その間に散らされた将兵も軍を立て直して反転。別動隊も後ろをついて四面楚歌の完成。といった流れだな」

そこまで説明されて、関羽(ついでに後続の三人組)は納得する。今まで正面突破しか考えの無かった関羽は自身の知恵の浅はかさを反省する。そして改めて再認識する。皆を守れる力を手に入れたとしても、それを実行する知恵もなければならないと。知恵と力と権威。その全てを隣で馬を走らせている男は持っている。そんな力が自分にも持てるようになるのか、また不安に思う。

「おっと、そろそろだな」

盗伐連合本陣が見えてくると、本陣では大きな白い旗と赤い旗が振られている。

「全軍反転‼‼魚鱗(ぎょりん)陣を敷け‼‼」

撤退部隊は呂北を最前線に置くようにして陣を敷き始める。

魚鱗陣とは、中心が前方に張り出し両翼が後退した陣形。「△」の形に兵を配する。底辺の中心に大将を配置して、そちらを後ろ側として敵に対する。戦端が狭く遊軍が多くなり、また後方からの奇襲を想定しないため駆動の多い大陸平野の会戦には適さないが、山岳や森林、河川などの地形要素が多い日本では戦国時代によく使われた。全兵力を完全に一枚の密集陣に編集するのではなく、数百人単位の横隊(密集陣)を単位として編集することで、個別の駆動性を維持したまま全体としての堅牢性を確保することから魚燐(うろこ)と呼ばれる。

多くの兵が散らずに局部の戦闘に参加し、また一陣が壊滅しても次陣がすぐに繰り出せるため消耗戦に強い。一方で横隊を要素とした集合のため、両側面や後方から攻撃を受けると混乱が生じやすく弱い。また包囲されやすく、複数の敵に囲まれた状態のときには用いない。特に敵より少数兵力の場合正面突破に有効である。対陣のさいに前方からの防衛に強いだけでなく、部隊間での情報伝達が比較的容易なので駆動にも適する。

何故今回この魚鱗陣を採用したかというと、いくら盗伐連合軍が14万だといっても、所詮は寄せ集め軍に過ぎない。完全な連携など出来るはずも無い。しかし呂北軍としては手柄も欲しい所。なので周りの諸将が敵の相手をしている間に、一転突破で敵本陣を強襲し、大将首を欲しい所である。

陣を立て直している間に、王異・臧覇・成簾・劉備・張飛達が合流してくる

「郷里、その顔の傷はどうした?」

臧覇の顔を見ると、瞼から頬にかけて蚯蚓腫(みみずば)れが出来ており、それを隠す様に呂北の様な角のついた赤い仮面を付けている。

「別に問題ありません。ちょっと”鹿”の鞭が落ちて顔に当たっただけです」

「そうか。......軍は指揮できそうか?」

「はっ、全く問題ありません。ご主人様はご存分におやりになってください」

「そうか。なら指揮は任せる」

呂北は軍配を臧覇に預けると、臧覇は頭を下げ両手で受け取る。

「関羽、霞と共に程遠志の先行部隊を叩け。隴・夜桜は各敵将の撃破。留梨は二人の補助。行き過ぎないようにしっかり見張れ。郷里は全軍指揮。白華と劉備と張飛は本陣を守れ。俺と夢音(むおん)は正面突破で大将を討る」

「あなた、無茶だけはしないでね」

白華のその言葉に、一刀は彼女の体を引き寄せて口付けを交わす。周りが顔を赤らめ、ただその光景を見守る。だが一刀は何かを察したか、白華と交わした唾液を飲み込むと、彼女の頬を撫でて言った。

「安心しろ。お前を”一人には”しない。ヤバくなったら必ず逃げるさ。それに夢音も付いている。安心だろ」

一刀の触れる手を白華は握り返し、彼の体温を感じる。

「......そうね。夢音ちゃん、一刀のことお願いね」

「はっ、この成徳易。命に代えましても若をお守り致します」

一つ頭を下げて決意を露わにした成簾に納得したのか、王異は頷く。呂北は腰から刀と子刀をスラリと抜いて、一つ頬をニヤリと上げる。

「さて......お前らいくぞ。深紅の旗が敵の血飛沫で大地を真紅(しんく)に変えてやる」

 


 
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