No.981875

【アルスト】今日から貴方が、私のパートナー(Vol.1)

アルケミアストーリー。
強気女子な冒険者と内気男子なYOME(パートナー)。
二人が初めて出会ったお話。

初めての小説ですが、よろしくお願いします!

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2019-01-27 19:54:45 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:641   閲覧ユーザー数:641

──私はまた、あの夢を見た。

炎に焼かれる村。

逃げ惑う人々。

泣きじゃくる子供の私は炎から逃げていく。

けれど、村を出る前に私は炎の波に飲まれてしまった。

 

嫌だ……!

怖くて叫んだら誰かの腕が伸びて、私を抱き上げた。

見上げると、微笑む優しい顔があった。

柔らかくて温かい月の光に透ける、銀色の髪の男の人だ。

 

あの人は──誰なの?

 

 

 

──バァン!

お盆で叩かれ、エリンは夢から現実の世界へ引き戻された。

 

「もう、エリンさん! いつまで寝てるの!?」お盆を片手に、酒場の女主人のルネッタはカンカンに怒っている。

「ありゃ……ごめんね?」

「謝るんだったら、早くお店を開ける準備を手伝って!」

「は、はい!」

エリンは酒場のベンチから飛び起きて、モップを取り出して、床掃除をたった3拍子で終わらせた。

 

「終わったよん☆」

「相変わらず、早いのね……」

「他になんかある?」

「次かぁ。それじゃあ……」

「すまない、ちょっと良いか?」

ルネッタがエリンに指示をしようとすると、男の冒険者が酒場に入ってきた。

 

「魔物を退治の依頼を承諾したんだが、その前に──この酒場にいる、エリンと言う剣士に手合わせを願いたい」

「準備運動ってことー? 良いわよ!」

エリンが男の冒険者に声を掛けると、二人は酒場の外へ出た。

 

 

「じゃあ、行くわよ☆」

「手柔らかに頼む」

 

剣を抜き、エリンが先手を取る。

男の冒険者は構えて、エリンの斬撃を受け止める。

交わる剣から火花が舞った。

エリンが剣を降ろして振り上げると、斬撃を防げたものの、男の冒険者は剣に気をとられ、顔を見上げる。

視線を奪った隙に、エリンは片手で彼の腕を打った。

ガツンと鈍い音が鳴って、男の冒険者は一歩引いた。

 

「っ……なかなかやるじゃないか」

「ふふん、とーぜんよ☆」

「なぁ、あんた。冒険者じゃないのか?」

剣を鞘に収めながら、男の冒険者は言う。

「ううん。でも、なるつもりは無いかなぁ。この暮らしの方が"まだ"私にあってると思うし?」

「……そうか? 冒険者になるのも、悪くないぞ」

これは報酬だと、男の冒険者はエリンに小さい袋を差し出す。

「まぁ。お金ならいいのに」

「礼だ、受け取ってくれ」

「ふふっ……じゃあ、遠慮なく貰っちゃお♡」

また、よろしく頼む。男の冒険者は手を振り、去っていった。

 

 

「ただいま! ねえ、ルネッタちゃん。私ね、冒険者にならないかって、聞かれちゃった~」

「いいんじゃない?」

「でもさぁ……」

エリンが上を見上げる。笑ってはいるが、どこか遠くを見る目をしている。

 

「私、普通じゃないから。ここで生きるのが、精一杯だもの……」

なんてね!と言い、エリンはルネッタに笑顔を見せた。

 

 

 

 星が降り注ぐ夜。

酒場には、民間人と冒険者達が混ざった酒の席に、会話の花を咲かせて、和気あいあいとした空気で溢れている。

 ──だが、今日の酒場は『例外』があった。

一人の男が悪酔いして、罵声を上げていたのだ。

 

 

「おい、お前!俺のクロケットが落ちて食えねえ。

目が合ったついでだ。代わりに店の者呼べや」

「え?でも……」と小さく呟いて、民間人の男は、口をモゴモゴする。

「あぁん?俺様の頼みだろうが!」

「は、はい!すみません、ルネッタさーん!」

 

ルネッタは明るい返事をして、お盆を抱えながら、駆け寄った。

 

「ご注文ですか?」

「あ、わ、私では無くて……その、あちらの席の人が」

「かしこまりました!」注文を伺いに、例の男のテーブルに向かう。

刃の様な鋭い眼光が放たれた。

 

「おねーちゃん。何してるんだよ?」

「お客様のご注文を……」

「はあ!? 注文じゃねぇよ!詫びを寄越せ! 俺が落としやすい様に細工したクロケットを渡しやがって!」

「ええぇっ!?」

 

 理不尽なクレームに、ルネッタは目を丸くする。

その陰から、酒場の他の客達が、小声で会話をし始めた。

 

 

 

「なぁ、アイツ……昼間、誰かと喧嘩をしてたよな? その腹いせでやってんのかね」冒険者の男が隣席の同業者の女に話を振るう。

 

「その喧嘩の相手は、あたしの知り合いだね。

話を聞いたら、アイツが何でも屋を名乗っているから

別の国にて買い出しを頼んでお金を預けさせたんだけど、勝手に使われちゃったらしいの」

「気の毒に」

「悪意を感じなかったから、そんな事するはず無いって信じちゃってたそうなのよ」

 

「このご時世、金を稼ぐのは困難だが、人の金を盗むなんざ、やるもんじゃないよな」冒険者の男が酒を一口飲むと、ため息をついた。

「まったくだよ」と女は、おつまみを一つパクついた。

 

 

 

「ですが、お客様。当店ではその様な意図があって、料理をお作りしておりません……!」ルネッタは恐怖を押さえながらも、男を宥めている。

「知るか!ガキでも酒場の主人だろ!? お客様に逆らうな!!」

 

 泥酔の男はルネッタの足元に酒瓶を投げつけると、瓶は割れて、破片がルネッタの腕を切りつけた。

ルネッタは悲鳴を上げることすらできず、ただ震えているだけだった。

 酒場の客達は見てみぬふりで、誰も彼を止めようとはしない。

 

 

 

 いつもならエリンが仲裁に入るのだが……生憎、調味料の買い出しをしに出掛けている。

 

 男は硬直するルネッタを見る。

「まだ突っ立ってんのかよ! 早くしろ!!」

 

短剣を抜き、ルネッタを目掛けて刺そうとしたその時。

 男の体は宙を舞い、テーブルの上に叩き落とされた。

 

「こんなに怖がってるでしょ? やめてあげなさいよ☆」

 

 いつの間にか帰っていたエリンが、手をはたいて、ニコニコ笑っている。

彼女を見た者達は、男を投げた感心な眼差しや、罰が悪そうな青ざめた顔が浮かんでいた。

 そんな反応を気にせず、エリンはルネッタの肩に手を掛けた。

 

「ルネッタちゃん、怖かったね~。このエリンがいれば もう安心よ♡」

「うん……!」

 

 エリンは、ルネッタの頭をそっと撫でると、彼女が負った傷を見ると、目の色が変わった。

男が起き上がり、殺意を込めた目でエリンを睨む。

 

「このアマ!何しやがる!?」

「やーねぇ、注意しただけでしょ? いい大人が、か弱い乙女に怪我を負わせただけじゃなく、武器を向けるなんてね!」

 エリンは指をボキボキ鳴らす。

「クズめ、さっさと消えな!」

 

男とエリンの、戦闘が始まった。

 

 

 

──数十分後。

 

「なあ、あの女……いくらなんでもやりすぎだろ」

「ああ。あれはどう見ても普通じゃない」

 

 一方的に男がやられてしまったのを人目でわかるほど、エリンは無傷で、男はたんこぶとアザだらけの顔になって、鼻血を流しながら倒れていた。

 

 うふふと笑いながら、エリンは「ごめんね?でも、悪いのは貴方だから!」と言って男を踏みつけた。

 

「待て」酒場に別の男の声が響いた。

エリンが顔を向けると、その男はアンドルと言う連邦の兵士だった。

酒場にいた平民の客が、彼を読んだのだ。

「お前には、この状況を話して貰うぞ」

「はあ……。わかりました」

 さすがに、説教を食らうわよね?と思いながら、アンドルに連行されて酒場を後にした。

 

 

 

 エリンはアンドルに事の一部始終を、酒場の客達と話した。

男は投獄されるが、エリンは酒場を荒らした罰として、働いた分で賠償金を支払う事になった。(要はタダ働き)

 当時の客達に騒ぎを大きくしてしまったことで謝罪をした、次の日の朝。エリンは荒れた酒場の修復に入っている。

 

「ホントに迷惑を掛けてごめんね。ルネッタちゃん……」

「迷惑だなんて、そんな。貴女は私を守ってくれたんじゃない」

 

 ルネッタの胸の前で組んでいる手を見た。絆創膏だらけの手は、昨日の男から受けた傷だ。

その手を見つめると、エリンは次第に眉を曇らせる。

 

「私……普通じゃないよね」

「どうして、謝るの?」ルネッタは首をかしげる。

「私、昔から人の血が怖くて。アイツがルネッタちゃんにあんなことした時みたいに、許せなくて……消えてしまえばいいって思って……」

「それぐらい、よくあることだよ?」

エリンは首を横に振る。

「でも、皆が感じるものと私の感じるものは、違うのよ……」

 

酒場のドアが開かれると、長い銀髪の青年が入ってきた。

 

 

 「うわっ!どうしてこんなに荒れてるんですか……!?」

銀髪の冒険者・アガサは、眼鏡の下の目を丸くした。

 

「昨日、お客さんとちょっとした出来事があって」気持ちが安定していないエリンの代わりに、ルネッタが答えた。

「ちょっとって、ところじゃないですよ! 僕も手伝います」

「ううん。お客様にそんなことはできないわ」

ルネッタの言葉に、アガサは首を横に振った。

 

「構いません。困ってる人がいたら、助けるべき。それが冒険者の務めですから!」

「ふふっ。エリンさんみたいな人だね!」

アガサはきょとんとした。「エリンさん?」

 

エリンを見たアガサは、一瞬瞳を揺らがせるが、すぐに目付きを戻した。

「……何よ?」

「あ、いえ。えっと……エリンさん、すごく綺麗な人ですね!」

「は?なんのつもりよ」強く出るエリンに、アガサは慌てて両手を振る。

「なんでもないです!すみません!!」

「……変な人」エリンはアガサをほっといて、掃除を続けた。

 

 苦い顔をするアガサに、ルネッタが声を掛けた。「ごめんね。エリンさんは昨日、暴れてたお客さんを取り押さえたの」

「へぇ。凄いですね!」

「でも、まだ気持ちが落ち着かないみたいだから、そっとしておいてあげてね」

 

 

 

 アガサはちらりとエリンを見て「彼女も冒険者なんですか?」手を口にそって、ルネッタに聞いた。

「ううん。でも、とても強い剣士で、冒険者さんの手合わせしたり、魔物を倒したお金で、食べているんだって」

「冒険者にはならないんでしょうか……」

「気になるの?エリンさんが」

アガサは頬を染めて、視線を反らしながら、小さく頷いた。

 

「あ、でも、気になると言っても……変な意味ではないですよ?」前髪を弄って、言葉を続けるアガサ。

「恥ずかしい話ですが、一人での冒険は心細くて……でも、エリンさんのような人がいればなぁと思って」

「勧誘してみたら?」

「でも、さっきのことがあって……気まずいですよ(自分からやらかしたのだけど)」

 

 

 酒場のドアが開くと、ルネッタはとっさに反応して「あっ。いらっしゃいませ!」と笑顔で声掛けをするも、表情が凍りついた。

昨日の男が、脱獄をしたのだ。

 

 

 


 
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