No.980752

ある司書の追憶 Ep0 1節

今生康宏さん

2014年にサービスを終了したMMORPG「トリックスター」の回顧録的な小説です
ほぼ自分の記憶だけで書いているため、多分にオリジナル要素を含みますが、今も心はカバリア島にある、という方々に届けば幸い

用語や設定などはとりすたキャラ事典様(http://trickster.hiyokomi.net )を
クエストの情報などはTricksterWiki様(http://rtnts.starfree.jp )を資料にしています

2019-01-16 22:54:22 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1068   閲覧ユーザー数:1068

ある司書の追憶 ~ カバリア島冒険記

 

 

 

introduction

 

 

 

 世界的な巨大企業、メガロ・カンパニーの社長「ドン・カバリア」が死亡した。

 そのニュースは経済界のみならず、一般社会をも揺るがした。まもなく弟のドン・ジュバンニが会社を引き継いだものの、驚異的な経営手腕とカリスマ性を持つカバリアの死は大きすぎる事件であり、未だに世界はその混乱から抜け出せずにいる。

 そんな中、カバリアの遺言が世界中の「冒険好き」の耳に届いた。

 近年、太平洋に突如として浮上した島を、死の直前のカバリアは買い取り、カバリア島という名前を付けた。彼はそこで「トリックスター」と呼ばれる体験型ゲームを行うための準備を行い、亡くなった。

 彼の遺言とは、自身が最後に作り出したゲーム、トリックスターをクリアし、自身の遺産を見つけた者に全てを譲る、というものであった。

 あのカバリアが人生の最後に作り上げた壮大なゲーム。しかも遺族すら把握していない彼の莫大な額であると推測される遺産。

 世界中の冒険好きと、富みを求める者が目を輝かさないはずがなかった。

 そうして、冒険者たちはカバリア島への唯一の連絡船、メガロ号へと乗り込んでいく。夢と希望が待つ島に、胸をときめかせながら。

エピソード0 遺産の島

 

 

 

 世界の秘密というものは、人目につかないところに隠れている。

 そういった秘密の隠れ家は決まって本の中で、本を通して私はたくさんの人の知らない知識を得ることができた。

 ――某国の国立図書館の司書。私ぐらいの若さでこの図書館に務め、しかも全ての蔵書の内容を知っている司書など、歴代でも他にはいないと言われていた。

 だけど、私はこの図書館の司書で終わるつもりはなかった。

 この図書館は立派だし、ない本はないと思っている。だけど、私の理想はもっと他にあった。

 世界中を自分の足で歩いて周り、他では絶対に手に入らない本を集めて、そして自分だけの、理想の図書館を作る。

 まだ自分が満足いくような本は見つかっていないし、図書館を建てる場所も、お金も、何もかもあてはない。だからこれは本当にただの絵空事。夢物語でしかなかった。“その島”の話を聞くまでは。

 

「やあ、お嬢さん。この本を図書館で保管してはもらえないかね?」

「献本ですか?ありがとうございます。――ええと、書名は」

 ある日、奇妙な老人が一冊の古書と共に図書館を訪れた。

 その容姿は、まるで年老いたフクロウが人に化けたような――そんな奇妙な風格があった。無限の知性を感じる一方で、どこか恐ろしげな野生も感じさせて。私の知る言葉で表すなら、そう……仙人のような人だった。

「珍しい本だろう?こいつぁもしかすると、普通に書架に加えるべきじゃないのかもしれないね。まあ、わしはもうこの本はいらないんだ。お嬢さんにあげるから、好きに使っておくれ」

「は、はあ――あの、あなたは?」

「なぁに、名乗るほどの人間じゃないよ。……それじゃあ、待っているからね」

「えっ……?待っている、ですか?」

 少しの間、預かった本に目を落としていると、もう老人の姿は消えていた。

 それからすぐに私は、この本のことを調べ――そして、どこをどう探しても情報がないことを知った。本に使われているのは古代文字。それも、わざと内容を読み取らせないようにするかのように、複数の異なる文明の文字を混ぜて使い、文法も恐らく意図的に複雑で読みづらいものを使用し、読み手の理解を拒むように書かれていた。

 ――この本にはきっと、私の想像も付かないような秘密が隠されている。

 そう確信した私は、必死にこの本の内容を解読して――そして、そこにあった古代の魔法を学んでいった。

 魔法。空想の産物と思われていたそれが、世界には存在する。私はこの図書館の本に触れて、世界の全てを知ったつもりでいた。でも、そんなことはない。この世界には魔法があって、魔法使いの世界がある。それは一般社会からは巧妙に隠されていて、同じ魔法の使い手以外には知覚することすらできない。

 今や魔法使いの一員となった私には、それに触れ、知ることができた。

 そうして、私は貪欲に魔法の知識と技術を得ていく。そうする中で“その島”について知ることになった。

 ――カバリア島。正体不明のその島には、多くの魔法使いが時には招待され、時には自らの意思で不思議を求め、集っている。

 そこで行われるゲーム「トリックスター」の優勝者には莫大な財産が与えられるということも知り、この島での体験と勝利が、私の夢である図書館の設立につながると信じて私は、図書館に長期休暇を申し出るのだった。

1 メガロ号船内にて さすらいの呪術師

 

 

 

 こんなにも長い船旅は初めてだった。

 そもそも、船自体にほとんど乗ったことはない。基本的に内陸にばかり住んでいたということもあり、経験したことのある乗船なんて、川を上った時ぐらいだった。

「いい潮風ですね」

 甲板に出て、なんとなく目に留まった人に、私は話しかけていた。

 少し前までは人見知りで、こうして知らない人に話しかけることなんてできなかった私だけど、魔法の習得が私に自信を持たせてくれたのだと思う。

「そうですね。……船旅は、久しぶりです」

 声をかけたのは、恐らくアジア系の男性。どこか神秘的な雰囲気があり、その独特の雰囲気はカバリア島のルールである「動物の仮装」にも表れている。

「えっと、ドラゴンさん、でいいんですよね?」

「はい。ちゃんと伝わりましたか。……龍は果たして、動物ということでいいのか悩んだんですが」

「ふふっ、空想上の生き物ですからね。しかし、東洋の十二支の動物にも含まれていますし」

「ご存知でしたか。羊も、十二支のひとつですね。……シープさん」

 シープ。羊の耳と角。それからもこもこの尻尾が、私のカバリア島における仮装だった。

 どうしてこの動物にしたのかは、答えることができない。なんとなく決まっていたもので、それでいて意外と狙い目だったみたいで、船上で他に被っている人は見られなかった。ウサギやネコの人はよく見るんだけど……。

「それにしても、驚きました。いきなり同じ魔法使いに出会えるなんて」

「魔法……僕は呪術師、占いが主ですけどね。しかし、一般の社会には存在しないことになっている力を扱っているのは、あなたと同じでしょう」

「はい。……この力が、カバリア島でも役立てばいいんですが」

「きっと役に立つでしょう。……まあ、僕らは競争相手同士ですけどね。でも、島では助け合いも重要になるはず。よろしくお願いします、シープさん」

「こちらこそ、助け合っていきましょう。ドラゴンさん」

 それから、なんとなく私たちは傍にいて。でも、あまり深いことを語り合うことはしなかった。ただ、静かにしているその空気感が心地よかった。

 「うわっ、まっずい!大事なパーツ忘れたっ……!!」「ちょっと、耳元で騒がないでもらえる!?」「ごめんごめん。でも、島で使うはずだった発明品のパーツが足りなくって……」

 近くでは様々な騒がしい会話が繰り広げられている。こうして、静かに。しかし確実に私たちの長い冒険が始まるのだ。


 
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