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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

soranoさん

第77話

2019-01-14 21:48:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1111   閲覧ユーザー数:994

リィン達がバイクでラクウェルに向かっている中、その様子を一人のハスキーボイスの女性が遠くから見守っていた。

 

~東ランドック峡谷道~

 

「――――ふふ、お疲れ様。随分と見違えたじゃないか。それに劣らず見違えた黒兎君と姫君に健康的な雰囲気のピンク髪の子と清楚で神秘的な雰囲気な白髪(はくはつ)の子か…………なかなか粒ぞろいじゃないか。…………もちろん”彼女”も含めてね。」

女性はリィン達と共にいるセレーネや女子生徒達の顔ぶれを思い返して口元に笑みを浮かべた後ARCUSⅡを取り出して通信を開始した。

「こちら”鉄馬のシュバリエ”。ランドッグ北東に動きなし。代わりに”彼ら”を見かけましたよ。…………え、どうだったかって?フフ、女の子達5人が可愛すぎて思わず鼻血が―――おっと、失敬。これからお迎えにあがりましょう。―――”相棒(コイツ)”と一緒にね。」

誰かとの通信を終えた女性―――”四大名門”の”ログナー侯爵家”の長女、アンゼリカ・ログナーは特注の導力バイクに乗ってどこかへと去って行った。

 

午後2:00――――

 

~歓楽都市ラクウェル~

 

「…………街に出るのは初めてだがエレボニアでは珍しい雰囲気の街だな。」

 

「へえ、なんかクロスベルにある歓楽街っぽいかも…………!」

 

「まあ、それに近いだろうな。小劇場にカジノ…………高級クラブなんかもある。」

 

「”高級クラブ”って何かしら?”クラブ”の名前がついているから、部活の類なのかしら?」

クルトとユウナが興味ありげそうに周囲を見回している中ユウナの言葉に同意したリィンの話を聞いて首を傾げたゲルドの疑問にリィン達はそれぞれ冷や汗をかいた。

 

「クスクス、確かに似た名前ですが全く異なりますわよ。」

 

「クク、養父(おやじ)あたりに聞いたらどうだ?お前の養父は元皇帝なんだから、どうせクロスベルのあの好色皇みたいにたくさんの女を侍らしているだろうから、”娼館”もそうだが”高級クラブ”なんて飽きる程通っていると思うぜ。」

 

「まあ、実際リウイ陛下はヴァイスハイト陛下程ではありませんが複数の側妃がいますから、もしかしたら側妃の中には”高級クラブ”や”娼館”に通っていたリウイ陛下に見初められて側妃になった女性もいるかもしれませんね。」

 

「こら、失礼だぞ…………」

 

「そもそも、リウイ陛下の側妃の方でそういった施設の出身の方はいらっしゃいませんわよ…………」

我に返ったミュゼは微笑ましそうにゲルドを見つめ、皮肉気な笑みを浮かべるアッシュと静かな表情のアルティナの意見にそれぞれ冷や汗をかいたリィンとセレーネは疲れた表情で指摘した。

 

 

「フフ…………話を戻しますが元々、新海都や今はクロスベル領となった海都と帝都、ジュライ方面を結ぶ交通の要衝でしたが…………30年前の鉄道開通と同時に小劇場やカジノなども建てられて歓楽街となったみたいですね。そのあたりは、先代カイエン公の決定が大きかったようです。」

 

「なるほど…………するとこの賑わいは乗り換え客、もしくは観光客ですか。」

ミュゼの説明を聞いたアルティナは納得した様子で賑わっている街を見回した。

「クク、夜はまた違った客層だがな。昼と夜じゃあ全然違う顔を持っている街だ。」

 

「そうそう、アッシュの故郷なのよね。ご家族に挨拶するんでしょうし、まずは実家に行くべきじゃないの?」

アッシュの説明を聞いてラクウェルがアッシュの故郷であることを思い出したユウナはアッシュに確認した。

「あん…………?」

 

「……………………」

 

「クロスベルでも、ユウナさんとゲルドさんのご家族に挨拶しましたし。」

 

「迷惑でなかったら僕達も挨拶させてもらいたいんだが。」

 

「…………クク、挨拶って発想自体がおめでてぇ気もするが。ま、”実家”は確かにあるが誰もいねぇから行ってもムダだぜ?」

 

「え。」

 

「…………もしかしてアッシュの家族ってもう…………」

アッシュの実家を訪問するつもりだったが、アッシュの口から出た意外な話にユウナは呆け、ある事を察したゲルドは心配そうな表情でアッシュを見つめた。

「ああ、元々俺は天涯孤独でな。生まれもラクウェルじゃねえし、育ての親も商売女だった。そのお袋が6年前に亡くなってからずっと一人暮らしってわけだ。ま、訊ねてくるダチや女なんかは多かったけどな。」

 

「…………そうだったのですか。」

 

「……………………」

 

「えっと………なんて言ったらいいか…………」

アッシュの説明を聞いたセレーネは目を伏せ、クルトとユウナは気まずそうな表情をしていた。

 

 

「ハッ、昔の話だ。てめえらが浸ってんじゃねえ。とりま、クソったれな特務活動をすんだろうが?とっとと終わらせて一杯引っかけるとしようぜ。飲む、打つ、買うのイロハをお坊ちゃんに教えてやっからよ。」

 

「あのな…………」

 

「コラコラ…………させるわけないだろうが。」

肩に手を置いて口元に笑みを浮かべるアッシュの誘いにクルトが呆れている中、リィンは困った表情で指摘した。

「飲む・打つ・買う…………?」

 

「飲むはわかるし、打つはギャンブルだっけ?それじゃ買うって―――」

 

「一体何を”買う”のかしら?」

 

「ふふっ、それはですね。」

 

(やはり、そういった事もご存じだったのですかミュゼさんは…………)

一方アッシュの言葉の一部の意味がわからないアルティナ達がそれぞれ不思議そうな表情で首を傾げている中ミュゼは意味ありげな笑みを浮かべて小声でアルティナたちの疑問を説明し、その様子を見守っていたセレーネは冷や汗をかいた。

 

「こ、これだから男ってのは…………!」

 

「…………不埒ですね。」

 

「えっと………」

一方ミュゼの説明を聞いて疑問が解けてそれぞれ驚いたユウナとアルティナはジト目で男子生徒達を見つめ、ゲルドは困った表情で男子生徒達を見つめた。

 

「おーおー、ネンネだねぇ。」

 

「…………まったく。巻き込まないで欲しいんだが。」

ユウナ達からジト目で見つめられたアッシュはユウナ達をからかい、クルトは呆れた表情でアッシュに指摘した。

 

 

「はは…………とりあえず、本日の活動は夕刻までとする。任意の要請は任せるが一応、例の猟兵たちも念頭に街を一回りしてみるとしよう。アッシュ、案内を頼めるか?」

 

「ハッ、いいだろう。そんじゃあ―――」

その後リィン達はアッシュの案内で様々な所を回って情報収集し、更に任意の要請を片付けた後アッシュの実家を訊ねた。

 

~メゾン・エカイユ・カーバイド家~

 

「ま、3ヵ月も経ってねぇからそんなホコリも溜まってねぇな。世話好きな連中がたまに来ているみてぇだし。」

 

「あはは、そっか。…………でも良い部屋だね。」

 

「そうですね…………どこか温かみがあるような。」

 

「うん、ユウナ達やお義母さんの実家の雰囲気に似ているわ。」

部屋に入ったアッシュは周囲を見回した後苦笑しながらリィン達に視線を向け、ユウナやミュゼ、ゲルドは興味ありげな様子で周囲を見回していた。

 

「…………元々は育ててくれた親御さんの?」

 

「水商売のオバハンの部屋だ。歳より若くは見えたけどな。ああ、そっちに写真があるぜ。」

クルトの質問に苦笑しながら答えたアッシュは写真が飾ってある机に近づき、リィン達も近づいて写真を見た。

 

 

「へぇ…………」

 

「この方がアッシュさんのお母様ですか………」

 

「オバハンって………全然若いっていうか美人じゃん!」

 

「ふふ、それでいて粋で気風のいい雰囲気もあるというか。」

 

「こっちは君か…………いかにも生意気盛りそうだな。」

 

「でも…………どちらも”良い表情”をされてますね。」

 

「うん…………例え血が繋がってなくても、二人にとってお互いは”本当の親子”だと思っているからこそ、こんな表情をできるのだと思うわ。」

 

「オフクロも水商売で稼いでいたし、喰うには困らなかったからな。若い連中にしょっちゅう奢ってたからそこまでじゃねえが、貯えもあった。―――ま、感謝してるぜ。馴染み客に押し付けられたガキを文句も言わず8年も育ててくれてよ。」

リィン達がそれぞれ興味ありげな様子でアッシュの母親と幼きアッシュの写真を見ている中アッシュは自身の過去を軽く説明した。

 

 

「そうか…………」

 

「ってことは、引き取られたのはけっこう小さい頃だったんだ?」

 

「6年前に亡くなられて、その8年前ということは3つか、4つ…………?」

 

「ハッ、ロクに覚えちゃいないがな。俺に言えるのは、面倒見が良くてどうしようもなくお人好しで、それでいて強い女だったくらいだ。メシマズで、途中から俺が代わりに作るようになったのはご愛敬だがな。」

 

「ふふ、そっか…………」

 

「いいお母様だったんですね、本当に…………」

 

「…………ちなみにお母様は何が原因で?」

 

「タチの悪い腫瘍だ。コロッと逝っちまったな。いつも人の面倒を見てた割には女神達も見る目がねぇっつーか。ま、つっても巡り合わせだろ。」

 

「アッシュ…………」

 

「………………………………」

母親の死について軽く説明するアッシュの様子をクルトとゲルドはそれぞれ辛そうな表情で見つめ、リィン達もそれぞれ黙祷をしていた。

 

「チッ、だから止めろって。いくらこの街が乾燥気味だからってそういうジメっぽさは要らねぇんだよ。」

 

「はは…………上手い事言うじゃないか。」

 

「そういえば、峡谷地帯の中心だったな。」

 

「ふふ、ですが折角ですし、少し風を通していかれては?」

 

「そうね、知り合いの人が掃除はしてくれてるみたいだけど。」

 

「あー、そうだな。ちょいとやっておくか。」

―――その後、アッシュは窓を開けてしばらく風を通し…………再び玄関に鍵を掛けて実家の部屋を後にするのだった。

 

そしてリィン達は情報を整理する為に噴水がある広場で話し合いを始めた。

 

~ラクウェル~

 

「ふう、話を聞けそうなところは一通り回れたけど…………」

 

「これは、という情報は今の所ない感じですね。」

 

「うん、”猟兵”の話自体は聞くけど、私達がさっき会った猟兵に関する情報はないわね。」

 

「ま、もともと猟兵の出入りはそれなりにある街だしな。多少出入りしてる連中が増えても誰も気にも留めねぇってトコだろ。」

 

「…………なるほどな。」

 

「しかもラクウェルは歓楽街ですから、歓楽街にとってはそういった方々も”上客”の内に入りますから、特に商売を営んでいる方々は他の都市や街と違って、気にしないのでしょうね…………」

 

「となると、調査はここまででしょうか?」

 

「せっかくここまで来た以上、何か製あkを出したいところだが…………」

 

「クク、そんなアンタたちに耳寄りな情報があるぜぇ?」

リィン達が今後の方針について悩んでいると一人の男性がリィン達に声をかけた。

 

 

「……はっ。アンタか、ミゲル。」

 

「よお、アッシュ。ホントに帰ってきてたんだなぁ。―――”灰色の騎士”様と”聖竜の姫君”様にトールズ第Ⅱの坊ちゃん、嬢ちゃんたちもようこそ、ラクウェルへ。」

 

「あら…………」

 

「あたしたちのことまで何で知って…………」

 

「…………!…………」

男性――ミゲルの登場にアッシュは鼻を鳴らし、ミゲルが自分達の事を知っている事にミュゼとユウナが驚いている中予知能力によって少し未来の自分達が”視えた”ゲルドは目を見開いた後静かな表情で黙ってミゲルを見つめていた。

 

「アッシュ、知り合いか?」

 

「ま、一応はな。噂話だの裏話だのを?き集めてメシの種にしてる胡散臭いオヤジだ。」

 

「それは…………」

 

「なるほど。所謂”情報屋”ですか。」

 

「おいおい、久しぶりだってのに、随分な言いようじゃねぇか。―――クク、猟兵についての情報、知りたいんじゃねえのかよォ?」

 

「僕達がそれを探っていることまで…………」

 

「じゃあ、耳寄りな情報ってもしかして…………!?」

ミゲルの話にそれぞれ血相を変えたクルトとユウナはミゲルを見つめた。

 

 

「おおっと、ここからは取引だ。まあアッシュとは顔馴染みだ。特別に格安にしてやってもいいぜ?」

 

「ええっ…………?」

 

「当然、タダではなさそうですね。」

 

「クク、だそうだがどうするよ、教官どの?」

 

「…………気にならないと言えば嘘にはなるな。」

 

「だろう?だったら―――」

アッシュに判断を迫られて前向きと思われる答えを口にしたリィンの答えを聞いたミゲルは口元に笑みを浮かべた。

「――――だが、すみません。あくまでこれは士官学院の”演習”の一環でもあります。情報収集のためにミラを使うのはその趣旨からは少々、外れているかと。」

 

「そうですわね…………それこそ軍や遊撃士でしたらそういった方面の情報収集の為にミラを使う事もそれ程おかしくはない事なのですが…………わたくし達はご存じのように”士官学院”の関係者ですから。」

 

「へ。」

しかしリィンとセレーネが断りの答えを口にするとミゲルは呆けた声を出した。

 

「…………ふう、それもそうですね。そもそも制服を着ていますし。」

 

「確かに…………捜査官ならともかく、警官がミラを使って聞き込みをするようなものかぁ。」

 

「まあ、そもそも情報の信頼性があるかどうかもわかりませんし。」

 

「ふふ、残念ですがその話は無かったことに…………」

 

「――――まっ、待った!あ~もうしょうがねぇっ!こうなったらタダで教えてやらぁ!」

教官達の話を聞いてそれぞれ自分の情報を買う事に否定的になった生徒達を見たミゲルは焦った様子で意外な提案を口にした。

「へっ…………」

 

「…………?」

 

「コホン―――クロスベル帝国領になったオルディス地方との国境に近い西の峡谷道の外れに”岩の中庭(ロック=パティオ)”なんて地元で呼ばれる場所があってな。最近、どうもそっち方面に見ねぇ連中が出入りしてるみてぇなんだ。街に新しく猟兵が入り込んでるっつうならまず間違いねぇと思うぜ?」

 

「岩の中庭(ロック=パティオ)…………」

 

「ハッ、アンタにしちゃやけに太っ腹じゃねえか?」

 

「いや~、考えてみりゃあせっかくアッシュが戻ったんだしな!今回だけの特別サービスってヤツさ!ありがたく受け取っとけ!あんなところ、誰も立ち寄やらねえだろうから向こうもきっと油断してんだろ。―――そんじゃ、頑張れよな~!」

 

「へえ…………なんか顔に似合わず親切なオジサンねぇ。」

 

「顔に似合わずはともかく、耳寄りな情報ではありますね。」

 

「ちなみに人格はともかく、情報屋としちゃあ腕利きだぜ?」

 

「…………これはあくまで特務活動―――演習の一環であるのは言ったとおりだ。偶然、手に入れた情報をどう活かすかは考えてみてくれ。」

ミゲルが去った後生徒達がそれぞれミゲルの情報を活かす今後の活動を話し合っている中ある事に気づいていたリィンは静かな表情で指摘し

「!?ああん…………?」

 

「うーん、そう言われると…………あ、そうだ!ゲルドなら今の情報について何かわかるんじゃないの!?」

 

「確かにゲルドさんの”予知能力”ならば、先程の情報の正確性がわかるでしょうね。」

 

「…………うん、実はミゲルさんと会ったあたりでさっきの情報についての未来が”視えて”いるわ。」

リィンの指摘に驚いたアッシュは眉を顰め、考え込んだ後ある事を思いついたユウナの提案にアルティナが頷き、ゲルドは静かな表情で答えた。

「ほ、ホント!?じゃあ早速で悪いけどゲルドはどんな未来が―――」

 

「――――待った。ゲルドの予知能力に頼るのは無しだ。」

 

「へ…………ど、どうしてですか?」

ゲルドの答えを聞いてゲルドに情報の正確性について聞こうとしたユウナだったがリィンに制されると困惑の表情でリィンを見つめた。

 

「先程お兄様も言ったようにこれは”演習の一環”です。手に入れた情報を精査する事もまた、ユウナさん達にとっての勉強ですわ。」

 

「ゲルドの予知能力に頼れば正直言って”答え”が予めわかっているようなものだからな………それに、まだまだ勉強中の身である君達が今の時点でゲルドの予知能力に頼っていたら今後もゲルドの予知能力に頼りっきりになって、君達の成長の妨げになると思うぞ?」

 

「…………まあ、現にユウナさんは既に些細な未来を知りたい為だけにゲルドさんの予知能力に頼っていますものね。」

 

「う”っ。」

 

「一応私の予知能力で視える未来は”確定”じゃなくて、あくまで”可能性”の未来なのだけど…………」

 

「フフ、それでもゲルドさんの予知能力の的中率は今の所100%といっても過言ではありませんもの。」

 

「ハッ、白髪魔女が占いとかをやれば、世の占い師の連中は全員廃業する羽目になるんじゃねぇか?」

セレーネとリィンの指摘を聞いて静かな表情で呟いたアルティナの言葉を聞いたユウナは唸り、困った表情で呟いたゲルドの話にミュゼは苦笑しながら、アッシュは意味ありげな笑みを浮かべてそれぞれ指摘した。

「…………まだ夕方までは時間がありそうだな。」

 

「今日の内にもう少し成果を得たいのも確かですね…………」

 

「…………よし、こうなったら行くだけ行ってみましょ!ここでじっとしてても何も始まらないし!」

 

「ふふ、異論はありません。」

 

「てめえら…………意外と人が悪いな。わかってて言ってやがるだろ?」

 

「わかって…………?―――あ。だから、教官達はユウナ達が私の予知能力に頼らないように言ったんだ…………」

生徒達がそれぞれミゲルの情報を信じて行動しようとしている中既に察しがついていたアッシュは意味ありげな笑みを浮かべてリィンとセレーネに視線を向け、アッシュの問いかけに首を傾げたゲルドだったがすぐに察しがついて納得した表情を浮かべた。

「ああ…………やっぱり”そういう事”か。」

 

「まあ、情報屋の方がそもそも”対価”も求めずに肝心の情報を無料で教えた時点でかなり怪しかったですし…………」

 

「っ…………」

 

「…………」

リィンとセレーネがそれぞれ困った表情でアッシュの意味ありげな問いかけを肯定するとアッシュとゲルドはそれぞれ表情を引き締めた。

「大丈夫、フォローはする。瓢箪から駒という事もあるしアッシュとゲルドも備えておいてくれ。」

 

「…………クソが…………」

 

「――――わかったわ。」

 

「…………?」

 

「どうしたの?」

リィン達とのやり取りを不思議に思ったアルティナとユウナは不思議そうな表情でリィン達に訊ねた。

「チッ、なんでもねぇよ。―――岩の中庭(ロック=パティオ)は西口だ。行くならとっとと行こうぜ。」

 

「…………ああ…………」

 

「ふふ、町で準備だけはしておいた方がよさそうですね。」

その後町で準備を終えたリィン達はロック=パティオへと向かい、ロック=パティオの探索をしているとある事に気づいたリィンがユウナ達を制止した。

 

 

~ロック=パティオ~

 

「――――止まってくれ。…………気配はなし、か。」

 

「ハン…………いかにも仕掛けてきそうな場所だが。」

 

「ふふ、当ては外れたのか、予定が変わったのか…………」

 

「もしくは既にわたくし達とは異なる”敵”と遭遇しているかもしれませんわね。」

 

「「……………………」」

周囲を見回して確認したリィン、アッシュやミュゼ、セレーネの言葉を聞いて既に状況を察したアルティナとゲルドは警戒の表情で周囲を見回していた。

 

「…………?さっきから何を―――」

 

「………そうか。僕達は”おびき出された”んですね?あの情報屋―――いや、”彼を雇った何者か”に。」

リィン達の行動の意味がわからないユウナが不思議そうな表情をしている中、アルティナたち同様リィン達の行動の意味がわかったクルトは真剣な表情を浮かべて訊ねた。

 

「ふふ、おそらく欺瞞情報かと。私達をこの場所に誘い込むこと自体が目的の。」

 

「ハッ、さすがにてめぇは端っから気づいてやがったか。」

 

「…………様子がおかしいとは途中から気づきましたが。」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!だって、あのオジさん、アッシュの顔馴染みなんでしょ!?いくらなんでも―――」

自分達がミゲルに騙された事に生徒達がそれぞれ察している中ユウナは困惑の表情で否定しかけたが

「顔見知りを売るはずがねぇ、ってか?クク、お人好しにもほどがあんだろ。―――ま、幾らで引き受けたかは知らねぇがたぶん小遣い稼ぎくらいのミラだろ。おおかた、縄張りをチョロチョロする目障りな学生どもを痛めつけるのが”黒幕”の目的じゃねえか?」

 

「ふふ、そんな所でしょうね。私達が行方不明になってしまったら第Ⅱ分校や地方軍、最悪はメンフィル帝国が介入してくるのは予想できているでしょうし。」

 

「呆れたな…………そこまで読むのか。」

 

(………確かに。アッシュもそうだが、この子は…………)

アッシュの推理を捕捉したミュゼの説明にクルトは驚き、リィンは真剣な表情でミュゼを見つめた。

「えっと………もし、私達が行方不明になったら他国のメンフィル帝国まで介入するかもしれないってミュゼは言っていたけど、それってやっぱり教官達がいるからかしら?」

 

「フフ、確かに教官達が行方不明になればほぼ確実にメンフィル帝国が介入するでしょうが、その中にはリウイ前皇帝陛下のご息女の一人でもあるゲルドさんも含まれますわよ。」

 

「”マーシルン”性を与えられていないとはいえ、リウイ前皇帝陛下の娘として引き取られたゲルドさんはメンフィル帝国にとっては間違いなく”メンフィル帝国皇女”の一人ですし。」

首を傾げたゲルドの疑問にミュゼは苦笑しながら、アルティナは静かな表情で指摘した。

 

 

「あ、あんのオヤジ~…………舐めてくれちゃって~~っ…………!ていうか何で気づかないのよ、あたし!?」

 

「ユウナさん、声が大きいですわよ。」

 

「……そ、それでどうするんですか?結局現れないってことはこちらの様子を窺っているとか?」

一方悔しそうな表情で声を上げたユウナだったがセレーネに注意されるとすぐに声の大きさを下げてリィンに訊ねた。

「いや―――少なくても現時点で俺達を監視する者の気配はない。考えられるとすれば、もう少し奥で手ぐすねを引いて待ってるか…………」

 

「―――シュバルツァー。そもそも何処のどいつだと思う?情報屋を使って、オレたちをここでボコろうとしてたのは?」

 

「そうだな。考えられるとしたら――――ラクウェルを嗅ぎまわる俺達を、値踏みするような誘き出し方――――トールズ第Ⅱ分校の情報は知りつつ、どんな存在か確かめたかったとすれば…………おそらく、今まで接触した事のない、第4の猟兵団である可能性が高そうだ。」

 

「だ、第四の…………!?」

 

「…………確かに赤い星座も西風も僕達の状況は把握している…………海岸道で接触した連中は教官達の事を知っていたようだし。」

 

「知っていたら当然、こんな迂闊な手は使わない…………なるほど、一理ありますね。」

 

「チッ…………まあ、間違いねぇだろ。」

 

「ふふっ…………さすがはリィン教官です♪」

リィンの推測にユウナが驚いている中他の生徒達はそれぞれ納得した様子でいた。

 

 

「…………考えられるとすれば紫の猟兵達の”相手”でしょうね。」

 

「そういえば、確か”竜ども”とか呼んでいたわね…………」

 

「ああ、これは俺の感だが――――」

セレーネとゲルドの会話に頷いたリィンが答えかけたその時銃声が聞こえてきた!

「この音は……!」

 

「銃声―――奥からです!」

 

「しかもこいつは…………」

 

「状況を確認する―――警戒しつつついてきてくれ!」

 

「了解…………!」

そしてリィン達は警戒しながら奥へと進むとそこでは紫の猟兵達と黒の猟兵達が大規模な戦闘を繰り広げていた!

 

 

「…………下がれ!」

 

「あ…………」

状況を見たリィンが警告して生徒達をその場で制止させている中ユウナは呆けた様子で戦闘を見ていた。

(ほ、本物の殺し合い…………)

 

(さっきの猟兵もいるけど、それとは別の猟兵もいるわね…………)

 

(クク、俺達を誘き出そうとしてたのが黒い方か…………)

 

(………特定しました。高位猟兵団”ニーズヘッグ”です。)

 

(たしか大陸北西部に伝わるおとぎ話の”竜”の名前でしたね。)

 

(なるほど…………そして迂回した紫の猟兵達の奇襲を受けたのか。)

 

(ああ…………だが、戦況は互角のようだ。)

 

(それにしても彼らは誰に雇われてこんな所で戦闘を繰り広げているのでしょうね…………?)

リィン達が戦いを見守っていると猟兵達は突如戦いの手を中断した。

 

 

「――――敵戦力の低下を確認!作戦目的は達した!これよりB5に撤退する!」

戦いの手を中断した紫の猟兵達は撤退を開始し

「に、逃がすな…………!」

 

「クッ、あの長距離を迂回奇襲するとは…………!」

 

「二手に分かれて挟撃するぞ!」

それを見た黒の猟兵達は血相を変えて紫の猟兵達を挟撃する為にリィン達がいる方向へと向かい始めた。

 

「き、来た…………!」

 

「教官…………!」

 

「――――総員、戦闘準備。ただし先に攻撃するな。アルティナとセレーネは上へ!」

 

「了解。」

 

「はい!」

リィンの指示を受けたアルティナはクラウ=ソラスに乗り、セレーネは魔力による光の翼で上空へと向かい、リィン達がそれぞれ武装を構えて迎撃の構えをしていると黒の猟兵達がリィン達と対峙した。

「こいつら…………!?」

 

「街で俺達を探っていた…………!?」

 

「連中の仲間だったのか!?」

 

「クク、ガキを罠に嵌めようとして背中に喰らってりゃ世話ねぇな。」

自分達の存在に驚いている猟兵達にアッシュは嘲笑した。

「トールズ士官学院、第Ⅱ分校の者だ。邪魔をするつもりはなかったが…………少しばかり話を聞かせてもらおうか?」

 

「トールズ…………内戦で邪魔をした挙句、内戦に介入したメンフィルの特殊部隊と共に雇われていた我等の”前の部隊”を殲滅してくれた連中か。」

 

「まて、しかもコイツは…………」

 

「”灰色の騎士”…………リィン・シュバルツァーか!」

 

「そういうアンタたちは”ニーズヘッグ”だったな。こんな場所で何をしているのか…………聞かせてはもらえないだろうか?」

 

「クッ…………」

リィンの問いかけに猟兵が唇を噛みしめたその時、猟兵が所持している無線の通信音が聞こえ、通信音を聞いた猟兵は無線機を取り出して通信内容を聞いた。

 

 

「こちら”口(ムント)”。連中をロストした…………!作戦終了、帰投せよ”耳(オード)”!」

 

「チッ…………」

通信内容を聞いて舌打ちをした猟兵は背後に着地したアルティナとセレーネに気づかず仲間達と視線を交わして頷いた後リィン達を睨んだ。

「貴様らのせいでせっかくの獲物を取り逃がした…………」

 

「内戦時の恨みもある。貴様の背後にいる英雄王達が厄介な為、命は取らぬが少しおしおきさせてもらおうか?」

 

「な、内戦なんて知らないわよ!」

 

「完全に逆恨みですね。」

 

「上等だ…………やんのかコラ?」

 

「迎撃開始―――まともに相手をする必要はない。無力化しだい、戦域を離脱するぞ!」

 

「了解…………!」

 

「舐めるなっ…………!」

 

「猛き竜の顎、せいぜい味わうがいい!」

そしてリィン達は協力して黒の猟兵達を無力化した。

 

 

「ぐっ…………」

 

「さすがは”灰色の騎士”と”聖竜の姫君”…………子供連れと侮るべきではなかったか。」

 

「誰が子供だ、誰が。」

 

「うーん、そもそもこちらに戦うつもりはないのですけど。」

 

「…………アンタたちが非合法活動をしている証拠はない。その意味で、この場で拘束するつもりはないが…………よかったら聞かせてくれ。アンタたちが戦っていたあの紫の猟兵たちは一体何者だ?」

 

「…………っ…………」

 

「貴様らに答える義理など――――」

リィンの問いかけに猟兵達がそれぞれ答えを濁していると警笛が聞こえてきた!

「くっ…………!?」

 

「新手ですか………!」

 

「さすが一流どころか―――!」

すると黒の猟兵達にとっての援軍である新たな黒の猟兵達がその場に駆けつけてリィン達と対峙した!

 

「クク、形勢逆転だな…………」

 

「”灰色の騎士”と”聖竜の姫君”か…………依頼の標的には入っていないが。」

 

「これ以上、首を突っ込まぬよう痛い目には遭ってもらおうか。」

 

(………教官。)

 

(どうしましょうか。)

 

(………仕方ない。多少大人げはないが…………アルティナ、ゲルド。バリアと結界で2分ほど保たせてくれ。それと今回はセレーネも竜化を。)

 

(え。)

 

(まさか―――)

リィンの指示を聞いてある事を察したユウナは呆け、クルトは表情を引き締めた。

(了解しました。)

 

(―――わかったわ。)

 

(了解しましたわ!)

 

「来い!”灰の騎神”――――」

 

「ハァァァァァァ…………!」

そしてリィンがヴァリマールの召喚を、セレーネが竜化しようとしたその時!

「はーい、ストップ!」

 

「フフ、それには及ばないよ!」

突如リィン達にとって聞き覚えのある声が聞こえて二人の行動を制止し、リィン達やその場にいる全員が声が聞こえた方向――――相当な高さの崖から自分達を見守っているサラとアンゼリカを見つけた。

「あ…………」

 

「あの人達は…………」

 

「フフ、サラさんは伺っておりましたがまさかあの方まで来ていらっしゃっていたなんて…………」

 

「ブレードに大型拳銃…………」

 

「まさか、あの―――」

 

「鈍(おそ)いッ…………!」

 

「こちらも行くよ!」

二人の登場にそれぞれが呆けている中サラは全身に紫電を纏って猟兵達に向かって突撃し、アンゼリカは何と導力バイクで崖から飛び降り、突撃したサラが猟兵達に奇襲を叩き付けたところに飛び降りたアンゼリカが飛び降りた時の衝撃波で追撃した!

「ぐはっ…………!」

 

「この乗り物は…………!」

 

「ど、導力バイク…………!?」

 

「クク…………しかもあの赤髪の女は―――」

 

「さっきの稲妻はもしかして…………”紫電”…………?」

猟兵達が怯んでいる中二人の登場にユウナが驚き、アッシュが不敵な笑みを浮かべている中ゲルドは呆けた表情で呟いた。

「”紫電”のバレスタイン…………!」

 

「それにログナー侯の息女か…………!」

 

「フフ、覚えてもらって光栄ね。」

 

「やあ、ニーズヘッグの諸君。1年半ぶりかな?」

 

「くっ…………」

 

「…………ギルドのA級など相手にしてられるか。」

 

「”口(ムント)”に”耳(オーア)”!戦域より離脱する!」

 

「了解(ヤー)!」

二人の登場によって形勢の不利を悟った猟兵達は撤退し始めた。

 

「――――待ちなさい、結局何者なの?アンタたちが戦っていた正体不明の猟兵どもは?」

 

「…………答える義務はない。」

 

「クク、だが貴様の想像通りかもしれんな…………?」

 

「っ…………」

サラに呼び止められた猟兵達は意味ありげな答えを残して去り、猟兵達の答えの意味を悟っていたサラは唇をかみしめて黙り込んだ。

 

 

「ふむ…………大丈夫ですか?」

 

「ふふ、何でもないわ。やれやれ、もう少し強引に締め上げてやればよかったわね~。」

 

「…………お二人とも、助かりました。」

アンゼリカがサラに気づかいの言葉をかけるとリィンが二人に声をかけた。

 

「ハハッ、余計なお世話かとも思ったんだがね。」

 

「ま、あの程度だったら騎神を呼ぶまでもないでしょ。しかし君、背が伸びたわね~!大人っぽくなっちゃって、このこの!」

 

「はは…………本当にお久しぶりです。ちょっと不意打ちというか、…………お二人こそ見違えましたよ。」

 

「こらこら、いきなりドキッとすること言うんじゃないわよ!?」

 

「ハッハッハッ、皇女殿下と正式に結婚してそちらの修行も積んだみたいだね?」

リィンの言葉にサラは苦笑しながら指摘し、アンゼリカは暢気に笑いながら指摘し、リィン達とのやり取りにセレーネ達はそれぞれ冷や汗をかいて脱力した。

「セレーネも久しぶりね。貴女も前と比べるとグッと大人っぽくなっているわよ。」

 

「フフ、そうですか?わたくしは2年前に今の姿に成長した時点で身体的成長は既に止まっていますから、”成長しているという自覚”はあまりないのですが…………」

 

「ふふっ、サラ教官が言っているのは身体的じゃなくて精神的や雰囲気って意味だと思うよ。無論、後であれから身体的成長はしていないかどうか、私が直々に確かめさせてもらうが。フフ…………おっと、イカン。また鼻血が出てしまった。」

サラの言葉に微笑みながら答えたセレーネに指摘したアンゼリカは酔いしれた表情でセレーネを見つめた後突如出てきた鼻血をティッシュで止め、それを見たリィン達は再び冷や汗をかいて脱力した。

 

 

 

「えっと………」

 

「リィン教官とセレーネ教官と旧知の仲という事はもしかして旧Ⅶ組か特務部隊の…………?」

 

「フフ、私はどちらの所属ではなかったけどね。アンゼリカ・ログナー。トールズの出身でⅦ組の先輩だ。君達の教官の一人、トワの無二の親友でもある。よろしく頼むよ、仔猫ちゃんたち♪」

自己紹介をした後自分達にウインクをしたアンゼリカの行動にユウナ達は冷や汗をかいた。

「やはりログナー家のご息女でしたか…………」

 

「ふふっ、お久しぶりです。アンゼリカお姉様。」

 

「へ…………」

 

「ミュゼの知り合いなの?」

親し気にアンゼリカに話しかけるミュゼにユウナは呆け、ゲルドは訊ねた。

「フフ、わりと以前からのね。―――”ミュゼ”君。新皇女殿下やリーゼリア君から聞いている。いやはや、ますます可憐かつ小悪魔的になったじゃないか♪確か以前はレン君が担任教官だったと聞くが…………フフ、同じ小悪魔属性持ち同士、後で是非元担任教官と元教え子という珍しいセットで可愛がりたいくらいだよ♪」

 

「いえいえ、アンゼリカお姉様もますます凛々しく麗しくなられて。アンゼリカお姉様と同じ”凛々しく、麗しいお姉様属性”であるルクセンベール卿と共に是非可愛がってもらいたいですわ♪」

アンゼリカとミュゼの独特なやり取りにリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「はは、二人が知り合いとは思わなかったけど。」

 

「まったく、タラシなのは相変わらずというか…………ま、こっちもアルティナ以外に見た顔がいるとは思わなかったけど。」

 

「ハッ、久しぶりじゃねえか。―――話には聞いていたがまさかアンタが旧Ⅶの教官だったとはな。」

 

「ええっ!?」

 

「知り合いだったのですか?」

サラと親しそうに話しているアッシュにユウナは驚き、セレーネは目を丸くして訊ねた。

「フフ、前にギルド絡みでちょっとした縁があってね。それはそれとして―――改めて名乗っておきますか。サラ・バレスタイン。旧Ⅶ組の教官を務めていたわ。今は古巣である遊撃士協会に戻っているけど。よろしくね、新Ⅶ組のみんな♪」

そしてサラもユウナ達に自己紹介をした後落ち着いた場所で情報交換をする為にサラ達と共に演習地へと帰還した――――

 

 


 
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