チェックアウト後に厩に行くと騎士団員が馬の周りで何か調べていました。
「やはり盗難にあった馬だ。鞍に通し番号があるから、照合すれば元の持ち主がわかるが、チャービル卿の馬だった」
ジンがイノンドに目配せして、馬を残したまま裏通りを抜けて街を出ます。
「せっかく手に入れた馬が…。やはり盗みはするもんじゃないな。お尋ね者になると動きづらい」
「まずいですね。馬に乗った客は誰かと宿屋の主人に尋ねれば、記帳した名簿を見られて、あなたの本名を知られてしまいます…」
「ふぅ…念の為に偽名を書いて置いて良かったぜ」
「なんと!偽名を書いたのですか?」
「ウォーター・クレスと書いておいたよ」
「それは…もしや故郷におられると言う名医のクレス殿のフルネームですか?」
「まあ、クレスなら遠く離れた診療所にいて、アリバイがあるだろうし、大丈夫だろ?」
その頃、診療所のクレスは派手なくしゃみを連発していました。
「先生、医者の不養生じゃないんですか?私が看病して差し上げますよー」
「いや、誰かが僕の噂をしていたようだ」
「たくさんくしゃみをされていたから、きっと惚れられてくしゃみしたんですねー」
「あなたはどこも悪くないのに、なぜ毎日通ってくるんです?」
「夜も眠れなくて心臓がドキドキするからでーす」
クレスは小さな溜息を漏らすと、いつものように軽く触診をしてから聴診器を当てたりして、健康補助サプリを処方しました。
「次の街までどのくらいかかるんだ?馬がないとキツいよな…」
「そうですね…。馬があれば二刻ほどで着く距離ですが…」
「馬なしだと徒歩で五刻くらいか?」
「大体、そのくらいかかるでしょうなぁ」
「ちくしょう!日が暮れちまう」
…つづく
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昔、知り合いが某少年漫画に持ち込みして、編集の人にこき下ろされまくった作者の原作の小説。復刻版の第30話です。