盗賊団のアジトから命からがら逃げて帰って来たルリは、医療関係の書物を借りに夜遅くにクレスの元を訪れました。
「先生、昨日はワガママばかり言ってごめんなさい。私、ちゃんと第一級魔術師試験は受けるけど、もう先生の事は諦めます」
「どうしたんだ?急に…。あんなに嫌がっていたのが、どう言う風の吹き回しだ?」
「自分の持ってる本で色々と調べたけど薬草学ではジンの腕は治らないってわかって、回復魔法が必要なんだとわかったんです。それと魔法科を出たら私、多分ジンと結婚します…」
「明日は雪でも降りそうだね?突然、気が変わった理由を知りたい…。僕が傷付けてしまったのなら謝るよ?」
「先生には傷付けられてなんかいません。今でも一番大好きなのは先生なんです。でもジンはあのままほっといたらダメになっちゃうし、私はもう先生には相応しくないから…」
「そうか、ジンも喜ぶだろう。ジンは十年前からルリの事が好きだったようだよ?」
「どうしてそんな事がわかるんですか?」
「十年前、君が高熱を出して寝込んでた時にジンはお見舞いに来ていてね。ルリを助けてくれたら、自分の一番大事な宝物を僕にくれると言うんだよ?」
「あいつの宝物って…。どうせ大したものじゃないんでしょ?」
「立派な角を持った大きなカブトムシをもらったよ?」
「ったく!あのバカ…本当にガキなんだから」
「それだけ君の事が大切だったと言うのは伝わってきた…」
「ありがとう、先生。少しだけあいつの事、好きになれそうな気がするわ」
「二人が結婚して幸せになるのを祈ってるよ」
「先生も歳が近くて素敵な奥さんが見つかると良いですね」
「うーん、今更見つかるとは思えないんだけどね」
「先生の事が好きで会いに来てる患者がいるじゃないですか?」
「僕の好みのタイプは患者の中にはいないんだよ」
この次の日にルリは亡くなりました。
…つづく
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昔、知り合いが某少年漫画に持ち込みして、編集の人にこき下ろされまくった作者の原作の小説。復刻版の第18話です。