ルリは悲しそうに目を伏せて、今にも消え入りそうな声で呟きました。
「先生の事、夜のお店で働くバーテンダーみたいに女を騙して儲けてるって陰口叩いてる人もいるけど…」
「バーテンダーは女性たちの心の悩みを聞いて心の傷を癒してると言う点では僕と同じ事をしているね。シェイカーでカクテルを作るか、すり鉢とすりこぎで薬を調合するかの違いしかない」
「先生の事を悪く言う人は嫌い。お父さんも先生の悪口ばかり言うの」
「可愛い娘の事が心配なのだろう。お父さんを責めないでやってくれ」
「先生はお父さんの悪口なんか絶対に言わないのに…」
「君が第一級魔術師試験に合格したら、僕がお父さんを説得してみせるよ?君を僕の妻に迎えたいとね…」
「でも試験に合格出来ずに、ずっと先生と離れ離れになるなんて嫌…。その間に先生が他の女に取られちゃうかもしれないし、不安で勉強も手に付きません」
「君の年頃ならそうだろうね。離れているのが不安しか感じられない」
「私が子供だから先生は愛してくださらないのね」
「僕は君を愛しているよ。愛しているからこそ離れなければならない」
「先生の言ってる意味が今の私にはわからないんです。私はずっとそばにいたい…」
「君の病気が治った時に僕は奇跡が起きたと思ったんだ。君の中にはその奇跡を起こせる能力が潜んでいる…と僕は睨んでいる。原石を見つけたら磨かないと意味がない。ここにいたら原石のまま光り輝く事はなく、人生を終えてしまう」
「私は先生のそばにいたいの。どうしてそれがダメなの?」
「君の才能がもったいないよ?僕には才能がなかったから、君の才能が羨ましかった…」
「先生にもすごい才能があります!」
「残念ながら僕には医者としての才能はない。あるとしたら、このポーカーフェイスと人を上手く騙せる話術だけだ」
「先生は誰も騙してなんかいない!心の傷を癒してるんでしょ?それも立派な医療行為です」
「心理学は得意分野だったからね。女性を口説くのが得意なだけだよ」
…つづく
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昔、知り合いが某少年漫画に持ち込みして、編集の人にこき下ろされまくった作者の原作の小説。復刻版の第15話です。