「聞いてくれよー、ルリ?今度の休日にさー。良かったら、俺と一緒に…」
「今、忙しいのよ!話なら後にしてくれる?ジン」
「そう言わずに…。ちょっとくらい喋ってたって良いだろう?」
「見てわからない?私は仕事中なの!邪魔するなら出て行ってちょうだい」
「どう見ても暇そうなんだけど?患者は一人も来てないじゃないか…」
「だからってあんたとお喋りしてる暇なんかないのよ?ったく!ガキなんだから…」
アカデミー騎士科七年生のジンはセルフィーユ王国主催の剣術大会では何度も優勝しており、出身地の田舎村では右に出る者がいませんでした。幼馴染のルリは去年、アカデミーを卒業して村の診療所で働いています。アカデミーは九月一日から入学ですが、七月三十一日までに生まれた者と八月一日以降に生まれた者は学年が別々になります。
「子供扱いするなよ!ルリとは誕生日が一週間しか違わないのに、アカデミーじゃ一年違う扱いだから嫌になるよ…」
「ルリは相変わらずつれないなぁ。ちょっとはジンの話を聞いてやったらどうだ?せっかくの休日なんだし、デートくらいしてやれ…」
「クレス先生まで…。ジンを甘やかさないでください。すぐ調子に乗るんだから!」
クレスはこの診療所の開業医で、ルリは女医を目指して修業中の身でした。幼い頃に大病を患い、クレスのおかげで命を救われたのがきっかけで、女医を目指すようになったのです。
「クレスは回復魔法が使えないんだろ?そんなんだから、こんな田舎村のチンケな病院で医者なんかしてんだよなー」
「クレス先生に失礼な事、言わないで!」
「ハハハ!本当の事だから気にしてないよ?魔法の才能はなかったから薬草学は必死で勉強したんだけどね。チャービルの街では雇ってもらえなくて、田舎に帰って来てこうして医者をしてるわけだが…」
「先生がいなかったら困る人がたくさんいるんです。もっと自信持ってください。私も魔法は使えないけど、先生と同じように薬草学を専攻してました」
「こんな田舎で僕なんかと一緒にいたって、女医になる道は開けないよ?チャービルの街に行けばナースとしてなら雇ってもらえるはずだから、そこで修行を積むと良い…」
「先生は私がいない方が良いんですか?」
「いや、君がいてくれて助かってる。出来れば手ばなしたくはない人材だよ?」
ルリはクレスに片想いをしていましたが、クレスはその事に気付いていません。ジンはなんとなく気付いていました。
「ルリはクレスなんかのどこが良いんだよー?三十過ぎのおっさんだろ!」
「あんたみたいなガキより三十過ぎの落ち着いた男の方が百倍マシだわ?」
「仕事ばかりしてないで、たまには同年代の友達と遊んで来なさい。これは僕からの人生のアドバイスだよ?遊びの中から学べる事もあるんだ」
「先生がそう言うなら…。わかりました」
「マジで?やったー!クレスもたまには良いこと言うなー」
「先生はいつもタメになるお話をしてくれるわよ?単細胞のあんたと違ってね!ちょっと調べたい事があるから奥の部屋に行ってくる」
ルリが奥の調合室に入って行ったので、クレスは苦笑いしながら、ジンにぼやきました。
「相変わらずルリは毒舌だね…。嫁の貰い手がなくならないか、心配になってくるよ?」
「何、言ってんだ!ルリはアカデミーでも男子の中じゃ、かなり人気があったんだぜ?」
「そうなのか?意外だな…」
「ルリはアカデミーに通ってた女子の中で、一番胸がでかかったからな!」
…つづく
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昔、知り合いが某少年漫画に持ち込みして、編集の人にこき下ろされまくった作者の原作の小説。復刻版の第1話です。