No.978394

信頼は、海を越えても

こしろ毬さん

今回は光一郎シリーズで唯一残ってる海外編『SCORPION』(前編 http://www.tinami.com/view/846282  後編 http://www.tinami.com/view/846284 )のその後…という風なお話。
先日『SCORPION』を読んでいたら、ふと「この後、絶対何年かしたらどちらかが会いに行くよね」と思ってしまって。
そしたらジェイクのほうが、知らせたいこともあって光一郎に会いに日本に来ちゃう、というネタが浮かんでしまいました(笑)。

今回、冒頭のジェイクとの会話は英語でいくので色んな翻訳サイト、翻訳アプリを見てきました。日本語から英語では「あ、なるほどね」と思える感じなのに、逆にその翻訳した英文を日本語に訳すと「なんじゃこら??」というのが多々ありで(^_^;)。

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2018-12-29 00:40:33 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:776   閲覧ユーザー数:776

 

気がつけは、12月も半ばを過ぎようとしている頃。

この月は年間で一番犯罪が多いと言われる月。むろん、殺人事件の発生率も高くなる。私立探偵・飛鷹光一郎のもとにも警察からの依頼が増えていた。

 

そんなときに、刑事時代の上司であった警部の真先敬三から「ちょっと、相談したいことがあるのだが…」との電話を受け、光一郎は警視庁・捜査一課へ向かっていた。

 

(真先さんが相談事って…、何かあったのかな)

 

少しの不安を抱えて捜査一課のドアまで来ると、中から英語が聞こえてくる。時々片言の日本語も。

(……? 外国人の依頼でも来てるのか?)

そう思いながらノックして「失礼します」と中に入ると、敬三や部下だった狩矢慎・梓兄妹らに囲まれている背の高い外国人の姿が。

「やあ飛鷹くん、呼び立てして悪かったね」

「いえ。…何かありました?」

外国人――男性であるが、彼を気にしつつ尋ねる。

「いや、実はな。この彼がなにやらトラブルに巻き込まれたみたいでね」

言いながら、男性に向かって手招きする。

「ちょっと要領を得ないから、英語が堪能な君に話を聞いてもらいたくてな」

「それは構いませんが…」

わざわざ警視庁にまで来るとは、どのくらいのものなのだろうか。

いささか構えて彼に向き直ろうとすると。

「Hawk!」

「わわっ!? ちょっ…!」

突然、満面の笑みで抱きついてきた男性に面食らってしまう。

その慌てぶりに、慎と梓はあらぬ方を向いて肩を揺らしている。

光一郎はといえば。先ほど男性が発した言葉に戸惑っていた。

 

――ホーク。

 

自分のことをそう呼ぶのは、7年前に一緒に『サソリ』を一旦壊滅に追い込んだロス市警の警察官たちだけ。

だが、こんな若い警察官…なのかどうかわからないが、彼とは面識がないはずだ。

 

「Excuse me, have we met before somewhere?」

 

――以前に、どこかでお会いしましたか?

 

流暢な英語でそう尋ねると。

「…Did you forget me?」

体を放して、拗ねたような声音。光一郎は改めて彼の顔を見る。

 

すっきりと切り揃えられたブロンドの髪。

鮮やかなグリーンの瞳。

そして、どこか見覚えがある整った顔立ち。

光一郎の脳裏に4年前、行動をともにした少年の姿がよぎる。

 

「……Jake(ジェイク)?」

 

大きく目を見開く。彼は頷いている。

「え。…本当に…、本当にジェイクなのか!?」

驚きのあまり、つい日本語になってしまう。だがその様子で伝わったか。

「Yes! I wanted to see you. Hawk!」

そう言ったのと同時に、彼――ジェイクは再び光一郎の首に腕を回した。

光一郎の顔にも、なんとも言えない笑みが浮かんでいた。

 

ジェイク――ジェイク・ライアルは、4年前にアメリカで出会った少年だった。

『サソリ』が復興した理由を調べている時に、路地で絡まれているのを助けたのがきっかけだ。

ジェイクの両親も『サソリ』の人間に殺されており、当時ジェイクは10歳。

それからは復讐のために『サソリ』のことを調べ、仲間として潜入して組織を潰す機会を窺っていた。

 

初めは心を閉ざして光一郎にも話そうとしなかったが、彼の人柄と「君の協力は必要だ」という言葉に、初めて自分の価値を見いだした。

生きるために、『サソリ』に乗り込むために、子供の頃から窃盗だろうがなんだろうが、悪事の限りは尽くした。

そんな自分でも「必要だ」と、その存在を認めてくれた人。

 

それからは光一郎と行動をともにして。

そして生まれた、彼への信頼。

今まで、自分自身しか信じられなかったジェイクにとって、それは初めて持った感情だった。

 

『サソリ』は新しいボスであるウォルターの射殺で完全に壊滅し、光一郎も日本に帰国した。

ジェイクは、彼の口利きもあってロス市警のドーヴァー警部のもとで生活を始めた。

そして、彼は今――

 

「なんだか、部長も彼もすごく嬉しそう」

「そりゃ、4年ぶりの再会だもんなあ。嬉しいに決まってるよ」

光一郎とジェイクの様子に、梓と慎は微笑ましげな笑みを浮かべて見ていた。

 

「By the way…」

体を放しつつ向き直って。

「Did you get involved in the trouble?」

トラブルに巻き込まれたんだって? とジェイクに問えば。

「Eh? No, I'm not rolled up in a trouble…」

「……へ?」

きょとんとしてそれはないと答えるジェイクに、光一郎も間抜けな声を出してしまう。

「Well…,did you come here by that?(そのことでここに来たんだよな?)」

「No. I came because I wanted to see Hawk!(違うよ。ホークに会いたかったから来たの!)」

少々戸惑っている光一郎と、むくれたように頬を膨らますジェイク。

 

「えーと…、どういうことですか、これ?」

話が見えず敬三たちを振り返ると、くすくす笑っている。

「彼がトラブルに巻き込まれたってのは、嘘だよ」

「は?」

変わらず笑いながら答える敬三に、目をぱちくりとさせる。

「実は、数日前にドーヴァー警部から国際電話があってね。近いうちに飛鷹くんには懐かしい人がこちらに行くから、よろしく頼むと」

「聞くと4年ぶりらしいし、それじゃただ会わせるのもつまらないからって、ちょっとサプライズ的な?」

「サプライズって…」

悪戯っ子のような笑顔で言う敬三と慎の台詞に、はあっと息をつく光一郎だ。

「でも、彼…ジェイクさん、アメリカでは部長のよき相棒だったんですね。ふたりで『サソリ』を追い込んだって聞きました」

梓もにこにこした表情で言う。

「まあ…な。ジェイクがいてくれなかったら多分『サソリ』は潰せなかったと思う」

自分の知り得ない『サソリ』の情報を、内部の人間として潜入していたジェイクは豊富に持っていた。それがあってこそ『サソリ』を壊滅に追い込めたのだ。

そのことをジェイクにも言えば、首を横に振り。

「That's not it. I have not seen Hawk, I do not know what kind of human beings are now(そんなことないよ。俺だってホークに会わなかったら、今頃どんな人間になっていたか…)」

なんとも言えない笑みを光一郎に向ける。

 

詳しいことはわからなくても、その雰囲気で光一郎とジェイクがあの『サソリ』との対峙で互いにどれだけ信頼をおいていたか、一目瞭然だった。

そしてそれは、今も変わらない。

 

「飛鷹くん。せっかく4年ぶりに会ったんだから、応接室でゆっくり話すといいよ」

ずっと光一郎とジェイクの様子を優しい目で見ていた敬三は、そう提案するが。

「えっ。いや、私は今は部外者ですし」

「なーに言ってるんですか、部長。今でもここでは顔パスじゃないですか」

「そうそう。部長なら受付嬢もそのまま『どうぞ』だし」

他の刑事たちもうんうんと頷いている。

「あのなあ…」

光一郎は呆れるばかり。

 

「…警部、応接室おさえておきました」

ちょっと笑いの含んだ事務員の声。

「そうか、ありがとう」

「ということで部長。積もりに積もった話をたんとしちゃってください♪」

「あーずーさ~…」

悪戯っぽい笑みで片目をつぶる梓を半眼で見る。

そんな光一郎をうっちゃって、梓はジェイクにも「Piease enjoy yourself(ゆっくりしていってくださいね)」と笑いかける。

ジェイクも「アリガトウゴザイマス」と片言で答えた。

 

――さあ、どんな話をしようか。

《ここからは、台詞は日本語表記ですが英語で話していると思ってください》

 

互いに向き合ってソファーに座り、出されたコーヒーを一口飲んで。

「…にしても、ほんと久しぶりだな。いつ日本に着いたんだ?」

「2日前かな。もっと早くホークに会いたかったけど、時差ボケになっちゃってさ」

それに思わず吹き出してしまう。

「そう言ってもらえるのは嬉しいが、なんでまた…」

笑いながらもそう尋ねると、ジェイクは満面の笑みで。

「俺、1年前にL.A市警に配属になったんだ」

「え、そうなのか!?」

「『サソリ』の件でホークに会ったのもあるかもしれないけど、あれから俺も人のために何かしたいと思って。そしたらドーヴァー警部が『なら、警察官をめざしたらどうだ?』と言ってくれて」

「そうか…。頑張ったんだな」

ふっと柔らかく微笑む。

「無事に警察官になれたのはいいけど、やっぱりはじめのうちは大変でさ。なかなかホークに知らせる機会がなかったんだ」

苦笑気味に肩をすくめる。

「手紙でもよかったんだけど、やっぱり…ホークに会いたかったし」

へへ、と照れくさそうに笑う。

「日本には前から行きたかったのもあるし、サムから『ホークに会うなら日本の警視庁に行くといいよ』と教えてもらったから」

 

ジェイクの口から出た「サム」という名前。

光一郎が7年前に初めてアメリカに渡ったときに『サソリ』の件で協力してくれた、当時制服の巡査だった。

今は刑事課に異動となり、刑事として奮闘している。

そのサムの言葉通り、ドーヴァー警部が前もって真先敬三警部に連絡していたからか、警視庁に辿り着くと受付嬢がたどたどしいながらも伝言は聞いていると、捜査一課まで案内してくれた。

敬三たちはジェイクとは面識はなかったものの、光一郎とのことなどを聞いていたのだろう、好意的に迎えてくれた。

そして、サプライズで会わせようと何も伝えず、ただ「相談したいことがある」と光一郎を呼び出したわけだ。

 

「まったく…真先さんにしては珍しく相談事とか言うから、どうしたかと思ったよ」

「ビックリした?」

悪戯が成功した子供のような笑顔でジェイクが言えば。

「そりゃ驚くよ。ましてやジェイクがいるとは思わなかったし」

光一郎も苦笑気味になるが。

「でも…、元気そうでよかった」

今度は安心したような笑みを浮かべる。

 

「ホークも…、今は幸せそうで安心した」

「え?」

満面の笑みになるジェイクに、目を瞬かせる。

「ゆ・び・わ♪」

おどけて左手を指され、「あ」という表情になる。

「やっと結婚したんだね」

「やっとって…。ま、この6月にね」

 

『SCOPION』では描写されてないが、あれほど一緒にいた光一郎とジェイクだ。非常時でなければ、他愛ないことも話していただろう。

その時に互いのプライベートのことにも触れ、当時は恋人だった妻の瑠衣とのことも話していたかもしれない。

 

「あれから4年も待たせるなんて、悪い男だねえ~」

「あのなあ…」

にやにや顔で言われ、じと目になってしまう。

だがジェイクはそれも意に介せず。

「な、奥さんどんな人? 写真とか持ってるだろ」

と、にっこり。

「持ってないよ」

「えー、携帯にも待ち受けにしてない?」

「してないって。つかそーゆーの恥ずかしいだろ」

不満そうなジェイクに、光一郎は呆れ顔だ。

「こっちじゃ、みんなそうしてるぜ。署の職場の机に家族の写真とか飾ってるし」

「ああ、アメリカではそうだよな」

ジェイクの言う通り、アメリカ…というより外国では、警察に限らず会社の机に恋人や家族の写真を飾るというのはよくあること。

「だからホークもそうしてると思ったのに。つまんねー」

むう~っと駄々っ子のような顔になるジェイクに、また笑いがこぼれる。

「わかった、わかった。…ほら」

苦笑を浮かべたまま、結婚式の時に誰かが撮ってメールしてくれた光一郎と瑠衣の写真を見せる。

「わ。ホークの相手だから美人だろうなと思ってたけど、想像以上だね♪」

今度はにこっと、嬉しそうな笑顔を向けられてなんとも言えない表情になるが。

「…そう言うジェイクのほうはどうなんだ?」

にっと悪戯っぽく切り返す。

「どうって?」

「こんなにオトコマエになってるんだ、彼女できたんじゃないか?」

「あ。…あ~…うん、いるよ」

一瞬恥ずかしそうな表情になるが、きっぱりと答える。

「ストリートギャングに絡まれてるのを助けた子なんだけど。住んでるところが署に近いのか、お礼だと言って品物を持ってきて。…もちろん丁寧に断ったけどね」

話しているジェイクを見る光一郎の表情は優しげだ。

「そのあとも何度か来てさ。そのうちにだんだん気になっちゃって…」

「で、付き合うようになったわけだ」

こくんと頷くジェイク。

「…彼女、助けてくれたジェイクに一目惚れだったんだろうな」

その情景が目に浮かんだか、くすりと笑みを漏らす。

 

かつての自分と同じように、人を信じられなかったジェイク。

その彼が人を想うことができるようになったことが、光一郎には嬉しかったのだ。

 

「実は今回日本に行くときも、彼女…アンディっていうんだけど、アンディも行きたがって。でも休暇がなかなか合わなかったから」

苦笑しつつ肩をすくめる。

「そうなのか?」

「うん。『ジェイクの恩人だという人に会ってみたい』っていつも言ってたし」

そこで嬉しそうに微笑む。

「恩人って…なにもしてないぜ、俺は」

思わず苦笑いをこぼす光一郎に。

「なに言ってんだよ、してくれたよ!」

「……ジェイク?」

知らずに強い語調になってしまう。

「ホークのおかげで、また人を信じられるようになって。そして誰かを好きだと思う気持ちも持てるようになって…」

「………」

「ホークが…、ホークが俺に人間らしさを取り戻させてくれたんだよ?」

「ジェイク…」

所々で言葉を詰まらせながら。

ジェイクの今の表情は、4年前の少年の頃のまま。

「それで恩人じゃないってんなら、なんて言えばいいんだよ!」

ふっと、光一郎の目が細められる。

「…俺の力だけじゃないよ、ジェイク。おまえを支えてくれる人たちもいたから、変われたんだ」

更に笑みを深めて。

「何より、ジェイクが自分で変わろうと思えたからだろ?」

「!」

ジェイクの目が大きく見開かれる。

「自分の大事な人たちがいるから、変わろうと思える。そうじゃなかったらこうはならないよ」

「……っ…」

半分、泣きそうな顔になる。

「…よかったな」

そう言ってジェイクを見る目は、とても優しい。

「…ホーク…っ!」

「うわっ!?」

回り込んできたと思うと、ジェイクは思いっきり光一郎に抱きついた。

「あの時も言ったけど…本当にホークに会えてよかった…!」

「……俺もだよ」

ふっとしょうがないな、という風に笑い、ぽんぽんとその背中をあやすように叩いた。

 

そのあとも様々な話に花を咲かせていたが、そろそろ…という雰囲気になってきた。

「…日本には、どのくらいいられるんだ?」

何杯目のコーヒーになるだろう、一口飲んで光一郎が問うと。

「長くても2日かな。今回の休暇も半分は無理言ったようなもんだし」

苦笑を浮かべるジェイクだ。

「そうか…。じゃあ、残りの日は俺が行きたいところを案内しようか」

「ほんと?」

「ああ。俺の事務所にも連れていこうかと思ったが、やっぱり観光のほうがいいかなと…」

「あ、そっちのほうがいい! 2日もあるから、先にホークの事務所に行ってみたいな」

光一郎の言葉を遮るように、わくわくした表情で。

「ホーク自慢の奥さんにも会ってみたいしね♪」

にっと片目をつぶる。

「自慢って…」

「だって、あのときもさりげな~く惚気けてたじゃないか、サムにさ」

そう言うジェイクは、本当に楽しそうで。

「ジェ~イク~…、おまえなっ」

「いっで~! なにも照れなくてもいいだろ」

「う・る・さ・いっ」

そこで一瞬沈黙が生まれるが…。

「…ぶっ」

顔を見合わせたまま、双方とも吹き出してしまった。

 

 

翌日は光一郎の事務所を訪れ、新宿で呑み過ごし。

最終日には東京の隠れた名所巡りの後に、ジェイクはアメリカへ帰っていった――

 

 

 

 

 
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