No.974281

紫閃の軌跡

kelvinさん

第150話 リベール-エレボニア講和交渉②

2018-11-20 08:23:13 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2176   閲覧ユーザー数:2006

~クロスベル帝国クロスベル市~

 

 講和条約交渉がオルキスタワーで始まった頃、アスベル達も各々の時間を過ごしていた。アッシュは歓楽街に行きたがっていたが、未成年は問題があるために部屋で読書をしていた。セリカとリーゼロッテ、ミュゼは百貨店で衣服を買い込んでいた。そして、アスベルとルドガー、そしてクワトロはタワー屋上で鍛錬に励んでいた。

 

「ふう、悪くはないか……その力をどうにかすればもっといけるだろうが」

「えっと、どうにかできるのか?」

「一応こっちの世界のリィンには施したけど、たぶん同様のことはできるかな。尤も、それに見合うだけの力量がないと厳しいが」

 

 自分自身の埒外さは重々承知しているが、それによってリィン自身の考えている強さの基準がおかしいことになっている。レグラムでの特別実習では暴走しながらも鬼の力込みでアルゼイド侯爵の奥義を真正面から受け止めきった……この時点でリィンも十分に埒外だといえるだろう。

 だが、リィンとしてはその力に頼ることなくその実力に至ることこそ大事だと考えている。頼りすぎるのは万が一その力が使えなくなったときを考えれば妥当だが、逆に頼りすぎないのも力に対する研鑽不足を招きやすく、体力消費や力の制御が甘くなる。クワトロの場合はその向き合い方に対する心構えが不十分だったともいえるだろう。

 なので、クワトロには鬼の力を遠慮なく使わせた上で鍛錬に臨んでいる。暴走しようとしたら法術で抑え込むことも可能なので特に問題はない。リィンの場合はルーレの実習の時に仕込んだ術式が発動したようなので、少なくとも“呪い(のろい)”の状態から脱したと言えるだろう。

 

「正直クワトロの“神気”は無駄が多すぎる。いつ戻るかわからない以上、遅くとも内戦終結までに仕上げるからな」

「完成すれば暴走の危険度はほぼなくなるだろう。だから、手を抜いたら最初からだ」

「あ、はい」

 

 後日、クワトロは元の世界に帰ってから、この修行の出来事を『常識外れには常識外れでないとダメだ、と理解できた』と日記に綴っている。それはさておくとして、ルドガーは講和交渉についてアスベルに尋ねた。

 

「ところでだが、アスベル。今回の講和交渉はマリクさんとシオンが主体だが、当然エレボニア帝国側は譲歩のためにあれこれ言うだろうけど……」

「それは想定の範囲内だ。あの講和案、全部丸呑みしたらエレボニアが経済的に困窮しかねない。だからこそ交渉の余地を持たせたんだ」

 

 今回の講和案で最大の損失となるのが軍事面。ノルティア州全域の贈与によって帝国の屋台骨であるザクセン鉄鉱山と帝国最大の重工業メーカーであるRF(ラインフォルト)グループを失う形となる。現状の占領地ではアラゴン鉱山も含まれているが、それについてはエレボニア側に返還する予定である。欲張ったところで苦労の二文字しか出てこないし、<百日戦役>と同じ轍は御免だ。

 

 更には直轄領にあるガレリア要塞も接収される。要塞については神機の被害を受けているが、すでに水面下でクロスベル帝国との交渉を開始していて、エレボニア帝国直轄領扱いの要塞を含む地域は条約締結後にクロスベル帝国への“謝礼”という形で贈与される。これによってクロスベル帝国は西への守りを兼ねた軍事拠点を得られることになり、旧クロスベル自治州の一帯はかなり安定した情勢になる。その際峡谷側に設置された2門の列車砲は撤去されることになり、その行先は要塞西側に設置する予定だそうだ。

 

「えっと……聞いている限りだと、かなり厳しいものに聞こえますが」

「まだ国の統治権や皇族の廃嫡、貴族連合の中核にいる貴族家の改易を要求しないだけ有情だ。それに、賠償金は税の高いエレボニアではなく税の安いリベールの各都市における標準物価や平均税率を元に一応算出している。どれぐらいの違いが出るかというと、今回の要求金額だけで数兆ミラ以上は差異が出る計算だ」

 

 物価や税金というものは非常に厄介である。だからこそ、今回の交渉では物価と税金が安いリベール側の標準価格にてすべて計算されている。同じ意味でも厄介な領土交渉についても議論が開始された。

 

 

~クロスベル帝国クロスベル市 オルキスタワー~

 

「第二条の領土贈与については、今回の作戦において暫定統治下に置いたノルティア州全域、ガレリア要塞を含む帝国直轄領、そしてラマール州北東部の一部を指定しているが、これらは全てこちらの占領下に置いた地域でもある。ラマール州については占領部分の8割少々を返還し、ノルティア州を併合した場合、境界線の再画定においてセンティラール自治州の一部も返還することとなる。その意味で多少なりとも損益を回復できると思われるが」

 

 毅然としたシュトレオン王太子の言葉にエラルダ大司教が一つの疑問を投げかけた。

 

「シュトレオン殿下。今までリベール王国は賠償を請求することがなかったはずです。それがどうしてこのようなことを? アリシア女王陛下はこのことをご存じなのですか?」

「―――ええ、承服しております。今回、後ほど提示する賠償金も含めた“賠償”を提示した最大の理由は、<百日戦役>において交わされていたエレボニア帝国と旧カルバード共和国の密約が最大の要因です」

「み、密約ですと!?」

「そんな!? 皇族であるアルノール家ですらそんな密約の存在があることだなんて……」

 

 シュトレオン王太子は<百日戦役>においてエレボニア帝国のリベール侵攻を認める代わりにノルド高原の境界線画定、そしてカルバード共和国のレミフェリア侵攻を黙認する内容が帝国主戦派と共和国政府で交わされていたことを公表すると、各国の人間は驚きや悲しみといった様々な表情を浮かべていた。マリクルシス皇帝はその情報を事前に聞いてはいたが、いざ耳にするとやるせない思いを浮かべていた。

 

「―――知ってのとおり、我が国は旧カルバード共和国の領土も含むうえ、宰相として元大統領であるサミュエル・ロックスミスを登用している。無関係ではない故、そのことについては穏便に事を済ませてほしいと思うが……」

「ならば、第二条で贈与される領土からガレリア要塞を含む帝国直轄領をクロスベル帝国に贈与し、その代わりとしてIBCの資金凍結によって受けた損害の賠償金を支払っていただくということで如何でしょう? 後の仔細は二国間でお話ししたいと思いますが」

「なっ!? 殿下、まだ第二条を了承したわけでもないのに、そのようなことを勝手に決められては―――」

「『列車砲』の件をお忘れですか、ダヴィル大使。その危険性を取り除かない以上、クロスベルの民はいつまでも危険と隣り合わせの生活を強いられます。それに、仮にノルティア州と帝国直轄領を返還しろと主張されるのであれば、占領などにかかった費用として後に提示する賠償金を上乗せせざるを得なくなります。我々とて善意で軍隊を保持しているわけではないということぐらいご存知でしょう」

「っ……それは、その通りです……」

「シュトレオン殿下。その要求される賠償金は幾らになるのか知りたい。講和案では金額の提示がありませんでしたので」

「ええ、解りました。エリゼ、すまないが彼らに例の書類を」

「はい」

 

 シュトレオン王太子の言葉にダヴィル大使は頷くことしかできなかった。アルバート大公の言葉を聞いたシュトレオン王太子はエリゼに目くばせをし、それに頷きつつエリゼは鞄から紙束を取り出して会議出席者に配布した。それらに書かれた金額にエレボニア帝国の二人、アルバート大公は表情を青ざめ、カラント大司教は驚きを隠せず、ミシェルもこれには目を見開いた。何故なら、そこに記載されていた賠償金の総額は―――“60兆ミラ”という数字だったからだ。

 

「ふむ……シュトレオン殿下。この金額はリベール王国の標準価格に照らし合わせて計算されているが、注釈には『エレボニア帝国側が1か月の猶予を過ぎて条約履行を怠った場合』とある。逆に全て守った場合だとどれぐらいの減額になるのですか?」

「全て期間内に履行した場合は30兆ミラになります。項目一つあたり3兆ミラの違約金みたいなものですが」

「そ、それでも30兆は些か高いかと思われますが……」

「以前大使に申しあげた二国間貿易2ヶ月分の損害額とその関連補償金を加えて15兆、非人道的行いと交渉を長引かせようとした現政府への賠償要求に5兆、被害を受けた王国民や難民への賠償などとして10兆―――これが大まかな内訳です」

 

 マリクルシス皇帝の問いかけにシュトレオン王太子が答えると、それでも国家予算クラスの賠償金にダヴィル大使が難色を示すかのように呟く。それを聞いたクローディア王女が大まかな内訳を説明したところでアルフィン皇女が問いかけた。

 

「難民として流れたエレボニア帝国民への補償金も併せて請求される、ということでしょうか?」

「ええ。現政府にその支払いの姿勢がどうあっても見えない以上、我々が責任を持って支払った上で請求するのが当然でしょう。現に彼らへの“生活一時金”として一人頭100万ミラを王国政府が支払っています」

「ひゃ、100万ミラ!?」

「下手すれば身一つで流れてきた者もいますし、貴族に支配されるという精神的苦痛を嫌って流れてきた者もおりますので、傷ついた彼らへの“慰謝料”にも近いでしょう。本来なら、国の代表である政府が国民の必要最低限の生活に対する責任を持つべきだと思われますが?」

「そ、それは確かに道理ですが……」

 

 とりわけ季節は冬である以上、他の季節に比べて費用は嵩むのが必定。仮説の居住スペースは確保しているし、食事についても教会の協力を得る形で炊き出しを行っている。服装については王国では足りないと見越してクロスベル帝国に打診し、クロスベル市やパルフィランス市にある服飾メーカーに在庫の買取りをするほどとなった。これが簡単にできるのは莫大な保有資産という側面があったりする。

 

「それに、補償金には七耀教会への謝礼も含まれております。今回の件で協力してくれた神父やシスターの方々の尽力なくして味方に死者が出るという事態を避けられましたので」

「成程。我々としては善意でやっているだけのことですので、できるならばその方々にご配慮していただければよろしいかと」

 

 エラルダ大司教としては、自身の意固地がクロスベルの騒乱を悪化させ、結社の連中を入れてしまった不徳がある。法王の取り成しを受ける形で留任となってしまった以上クロスベル帝国となった地域については、封聖省の人間を入れるのは個人的に好ましくなくとも受け入れざるを得ないと考えていた。

 なので、シュトレオン王太子の発言に対しては元々利益を得るための組織ではないと含めた発言をする。

 

「それでは、第二条に加えて第五条、そして第六条の一部に掛かる形となりますが……エレボニア帝国の方々、意見などはございますか?」

「……特にはございません。ですが、流石に一括ではお支払できませんので、ある程度の分割による支払いは可能でしょうか?」

「ええ。こちらとしても異存はありません」

 

 第二条、第五条、そして第六条の一部となる賠償に関わる部分は15年分割による支払いで決着し、更にザクセン鉄鉱山贈与とRFグループがエレボニア帝国の企業でなくなる損失補填という形で15兆ミラの減額を決定。その損失分の補填はクロスベル帝国との取引やザクセン鉄鉱山を手に入れたことでほぼ帳消しにできることも見越した上でのもの。

 第三条の元帝国領に対する領有権の完全放棄も特に反論なく決められた。そして先程のことから先に話し合われた第六条の謝罪については、ユーゲント皇帝から皇帝名代の附託を受ける形であればオリヴァルト皇子がグランセル城に出向いてアリシア女王に謝罪をする形でもよい、ということで決着をさせた。

 そして、交渉議題は第四条に移る形となる。

 

「では、シュトレオン殿下。第四条について説明をお願いします」

「ああ。先月の襲撃については、アルフィン皇女がリベール王国で保護していたことを大義名分にした側面があるのは否定できない。直接誘拐しようとしたことから、そのことは明らかだろう。そしてユミル襲撃にはエルウィン皇女が関与していたからこそ起きえたことである。だが、そのどちらかに責任を負わせれば皇族の家族内で遺恨を与えかねないだろう。よって、二人の身柄を預かる形がよいと考え、それを要求した」

「その、シュトレオン殿下。お二人については如何な処分をされるお積りですか?」

「彼女らに与える処分は“婚姻”―――即ち“政略結婚”となる。本来戦争に関与した主宰クラスの処分としてかなり有情であるのは言うまでもないと思われるが、普通なら重罪人として“処刑”か“廃嫡”となるだろう。二国間の戦争を引き起こしたのは言うまでもないし、それに対して誰の目から見てもハッキリとわかる形での『決着』なら誰も異論ははさむまい」

 

 それは政府関係者だけでなく国民からの視点という意味で最も分かりやすい決着となる、とシュトレオン王太子は述べた。賠償金や領土贈与という点は関係のない国民からすればそれが決着したとは思いづらい。だが、エレボニア帝国の頂点に位置する皇族が他国に政略結婚という形で嫁ぐとなれば、国民が重責を負う代わりに自らの身を捧げたという慈悲を示せることにもつながる。

 

「それに、だ。本来の件で言うなら現皇帝の即時退位に加えてグランセル城へ赴いて女王陛下に直接の謝罪、更には次期皇帝の指定まで初期案には組み込んでいた。だが、マリクルシス皇帝の慈悲によって撤回したことはこの場で述べておこう」

「な、何故そこまでの……もしや、西ゼムリア通商会議において発言なされた“嫌疑”のことでありましょうか?」

「あの場は“嫌疑”としていたが、この場でハッキリと述べておこう。私ことシュトレオン・フォン・アウスレーゼは帝国宰相ギリアス・オズボーンによって当時の王太子夫妻であった両親を殺され、私自身も危うく殺されかけるところであったことは紛うことなき“事実”だ。その裏取りも全て証拠として我が国に保管されていることも申し上げておく」

 

 エレボニア皇族であるアルノール家が知らなくても無理はないが、少なからず皇帝自身は知っていなければおかしい話だ。その彼すらも知らなかったことだとしても、今まで謝罪をしなかった理由にはならない。相手は隣国とはいえ国家元首の係累に位置し、次期国王夫妻ともいえる方々を帝国内で死なせた。その意味が即ち“宣戦布告”に値するものであるということぐらい、どんな愚かでも理解できないはずがない。

 

「そ、その、もしかしたら陛下自身が与り知らぬところで起こしたことであり、宰相殿の暴走という可能性も……」

「その宰相を任命し、重用しているのは他でもないユーゲント皇帝その人です。本来なら彼に対して厳罰や極めて重い処分を下さなければならないのに、それをしなかった……寧ろ、それをしても無駄であると理解していたのなら、余程性質が悪い話になりかねませぬので慎んでおきますが。どうあっても責任逃れのために謝罪すらしないのは、皇帝である前に人としての価値観の欠如を疑いかねません。私の言っていることに何かおかしい点はございませんか、ダヴィル大使?」

「いえ、仰る通りでございます……それで、お二方は誰に嫁がれるのでしょうか?」

「それについては私が説明いたします。アルフィン皇女殿下は私の隣にいるシュトレオン王太子に、そしてエルウィン皇女殿下はリィン・シュバルツァーさんに嫁がれる形となります」

「えっ……」

「ふむ、確かシュトレオン殿下は18歳でしたな。そのリィン君の年齢は分からないが、同年代ぐらいでしょうか?」

「彼も18歳になったと聞いています。15歳である両殿下とそれほど年齢が離れておりませんし、釣り合いは取れるかと思われます」

 

 ダヴィル大使の言葉に対してシュトレオン王太子はハッキリと述べたことに口を噤ませつつも問いかけると、クローディア王女が答えたことにアルフィン皇女は目を見開き、それを聞いたアルバート大公が呟き、続く形でマリクルシス皇帝が述べた。そこに加える形でシュトレオン王太子が口を開いた。

 

「一応言っておくが、アルフィン皇女殿下が嫁がれた場合その序列は“第三位”となる」

「な、何故ですか!? 皇族であるアルノール家で帝国の至宝とも謳われるお方が―――」

「第一位は隣にいるクローディア王女。現女王陛下の孫娘であり、王位継承権を持っている以上彼女が第一位となる。第二位は……そちらにいらっしゃる遊撃士、エオリア・メティシエイル嬢。レミフェリア公国大公家にも縁があり、アルバート・フォン・バルトロメウス大公の養女として嫁がれることが決まっている。我が国の王族を長らえさせるために王族の縁戚を選ぶのは当然であるし、レミフェリア公国とは経済協定の折から良き関係を築いてきた相手である以上配慮は必要。それと今回の交渉発起人はアルバート大公閣下であるため、その方の顔を立てねば礼を失する行為である……これでご理解いただけましたか?」

「っ!?……はい、大変申し訳ありません」

(成程、その縁もあったというわけか。何にせよ、サラに続いてとはめでたいな)

(あはは、サラさんとはある意味義理の親戚にはなってしまいますけれど……)

 

 それに、口に出さなかったがエレボニア帝国とは戦争中の状態。その彼らに一定の配慮はあっても、戦争を引き起こした原因となった皇族の処遇に色を付けろというのは難しい話となる。そのことを抜きにして序列を引き上げろというのは厚かましいと言いたげに放たれたシュトレオン王太子の言葉にダヴィル大使は黙るほかなく、ジンは少し笑みを零し、エオリアは苦笑を浮かべつつ小声で呟いた。

 

「ダヴィル大使、お気遣いに感謝いたします。ですが、これも元より覚悟していたことです。正直アルノール家が帝国から排斥される可能性も考えれば、まだ有情な判断であると考えます。ところで、姉であるエルウィンの序列はどうなるのでしょうか?」

「それなのだが、リィン・シュバルツァーの配偶者の序列が明確に定まっていない。だが、彼と婚姻を結ぶ形になる人達より序列が下がることだけしか言えない。現状で少なくとも5人以上はいるからな」

「シュトレオン殿下。その、七耀教会では重婚に関しては―――」

「エラルダ大司教殿。貴方のもとにアルテリア法王猊下からの手紙が来ていたことはご存知でしょう。その証言元は女神の眷属、即ち女神と直接的に関わった者たちの言葉。それお疑いになるということは女神の言葉すら疑われると?」

「い、いえ……そのつもりは全くございません。しかし、過去に起きたことからの危惧もありますれば」

「それは確りと後継を定めた上で後始末をしなかった者の責任です。現に先のエレボニア皇帝はそのような騒動を起こさせないように取り決めをした。彼の死後、<獅子戦役>のような数年単位の内戦が起きていないのがその証左でしょう。それとも、七耀教会は我が国の体制に口を挟まれるお積りですか? クロスベル帝国では二人の皇妃を認めておいて、我が国のことに対して口出しをする権利がおありだとお考えなのでしょうか?」

「……申し訳ありませぬ。私自身、そのような考えを以て発言したわけでもございません。どうかお許しを」

 

 エラルダ大司教の言葉にシュトレオン王太子はキッパリと反論した。クロスベル帝国のその体制を認めておいて他国の婚姻に口出しをするのは七耀教会のあるべき姿なのかという言葉にエラルダ大司教は冷や汗を流しつつ頭を下げた。それを見た上でシュトレオン王太子は言葉をつづける。

 

「まあ、いいでしょう……私の知己には星杯騎士団の方もおりますので、下手な諍いがあれば彼らの耳にも入ることになります。ついでですのでエラルダ大司教に申しあげますが、第八条の一部となる<騎神>の扱いに関して我がリベール王国は一つの戦力として扱う処遇―――そのことは法王猊下よりその知己を通じて所有の認可と管理を附託されました。なので、第八条の該当項目について反論は許さないと申し上げておきます」

「っ!?」

「……確か、シュトレオン殿下も<騎神>なるものを所持しているのでしたな」

「流石においそれとお見せはできませんが。何せ、エレボニア帝国の伝承に残っている七体の騎士人形とは異なる存在でもありますゆえ」

 

 正規の手続きによって<騎神>の管理と保有を一国家が担う。そして軍事的戦力として使うことの宣言。そこについては既に教会と話がついている件である以上、“典礼省”が口を挟むことは許さないという意味を含めたシュトレオン王太子の言葉にエラルダ大司教は反論できる言葉を失ったこととなり、ガックリと肩を落とした。

 

「少し脱線してしまいましたが、議長殿。進行を進めていただいて宜しいですか?」

「はい。では、第四条に加えて第八条の一部について、エレボニア帝国としてご意見などは―――」

 

 第四条については特に条件が加えられることなく、そのままの要求を呑む形となった。また、第八条の一部もその要求を通す形となった。その際、リィン・シュバルツァーの扱いについて『現状トールズ士官学院の学生であるが、彼と彼の操る騎神に対してエレボニア帝国・帝国政府・帝国軍をはじめとした各種組織による命令など一切の強制執行を禁止とする』の条文が書き加えられ、これと併せて<騎神>の管理附託を受けたリベール王国にリィンの操る<灰の騎神>ヴァリマールもリベール王国の預かりとなることが正式に決定された。

 

 そして、議題は第七条―――旧クロスベル自治州とノルド高原に関わる問題。元々<不戦条約>はこのためのものであり、それを堂々と破って侵攻したことは問題解決意識など皆無であるということを示す証拠だとシュトレオン王太子は主張。旧カルバード共和国については滅亡と併合によってその責を取ったが、エレボニア帝国側が領有権を放棄しないことにはこの問題は解決しない。

 ダヴィル大使やエラルダ大司教は反論したが、貴族連合がクロイス家と旧共和国の間で不可侵条約が結ばれていたことを公表すると、双方共に押し黙った。その上で、ノルド高原については現状クロスベル帝国軍が安全を保障する意味でゼンダー門に駐留しているが、ノルドの民のことを考えれば現状維持が妥当。その意味で自然保護に長けているレミフェリア公国の管理下に置き、ゼンダー門についてはそのままクロスベル帝国軍が駐留。高原東にある共和国軍基地は万が一の備えとして帝国軍駐留を維持。旧クロスベル自治州全域は既に統治しているクロスベル帝国の領有として合意された。

 

 第九条については、明確な責任追及や賠償などの文言は盛り込まれなかったが、アルフィン皇女としても遊撃士と関わりがあるため、この案には同意した。再開までに一年半は長すぎるのでは?という質問も出たが、諸外国に移籍した遊撃士もいる以上、周知には時間が掛かると見込んだ上での期間設定だと説明された。

 当然“革新派”“貴族派”双方から反対が出ることも予想されるため、マリクルシス皇帝から遊撃士と共に事態の解決した経験のあるオリヴァルト皇子とアルフィン皇女が公表することで遊撃士の有益をアピールするという提案が出された。シュトレオン王太子は、必要ならば自分や元遊撃士でもあるカシウス・ブライト中将から声明を出すことも付け加えられた。皇族に元S級、現A級正遊撃士からの声明となると流石に完全無視はできなくなると読んだ上で。

 

 そして、残る議題は二つ。第八条の『内戦終結の方法』と第十条の『ハーメルの一件の全面公表』である。

 

 

ここまでミシェルが喋らないのは伏線でもありますのでご了承ください。

一応述べておかないと忘れているんじゃないかと言われそうで(苦笑)


 
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