(八)
厳白虎は魏の本隊が現れて大混乱におちいていた。
「あら、山越の王は豚なのかしら?」
絶影に跨る魏王こと華琳は雪蓮と同じことを言って厳白虎の容姿に冷笑がこぼれていく。
「わ、儂は豚などではない!」
二度も豚呼ばわりされた厳白虎だが視線の先にいる華琳の覇王としての雰囲気に飲み込まれかけていた。
「なら私の言葉は理解できるはずね。もうあなたが逃げ込む場所などどこにもないわよ」
「な、なんだと!」
「山越の本拠地って本当にわかりずらくて困ったわ」
誰のせいでこんな苦労をしたのだと華琳は厳白虎に笑みを浮かべながらも瞳には一片の慈悲も感じさせていなかった。
「すでに今回の戦がどれほど無用なことか理解してくれた者達が多かったおかげでここに来るのは随分と早かったわ」
その言葉の意味はもう山越の本拠地に戻っても自分の居場所などないことを含めていただけに厳白虎は愕然とした。
「でも安心しなさい。ここで無益な抵抗をしないのであればその命を天の御遣いの名の下に助けてあげるわ」
今回の主役が自分でないことは百も承知の華琳はあえてそれをわからせるために天の御遣いを語った。
「なぜだ……」
その言葉は誰もが初めて思うことだった。
厳白虎にとって力こそ全てだと思っていただけに、一兵卒よりも弱く見える一刀の存在がまったく理解できなかった。
「なぜあんな男のために大陸中の王が動くのだ!」
「なぜ?」
華琳は冷笑から嘲笑へと変わっていく。
「そうね。これといって理由はないわね」
隣に馬を並べている春蘭の方を見る華琳。
「理由がない?そんなはずはないだろう。どうせ手篭めにでもされたのだろうが」
「貴様!」
余りにも低次元な発言に華琳よりも春蘭の気に触れてしまった。
「あの男に這いつくばってお情けでももらったんだろうが」
厳白虎の罵声に華琳の表情から笑みが消えていく。
そして、厳白虎は華琳の覇王としての言葉ではなく一人の女としての言葉を耳にする。
「そうね。一刀が私のところに来ていたのならそれも余興として楽しめたかもしれないわね。でも、一刀は私ではなく雪蓮達を選んだ。だからせめて友として出来ることをしてるだけよ」
もちろん未だに諦めていない華琳だが、そのことを言うに値する相手でないため口にしなかった。
「春蘭」
「はっ」
華琳の命令に春蘭は応える。
「命だけは取らない程度に痛めつけてあげなさい」
華琳の命令を受けた春蘭は寸分の狂いなくそれを実行に移す。
「山越の兵士よ。命が欲しければ逃げよ。だが我らに歯向かうのであればその命ないものと思え」
春蘭の声に厳白虎に付き従っていた山越兵達に動揺が広がっていく。
馬を飛ばして駆け下りていく春蘭とそれに続く魏の精兵。
すでに士気が低下している山越兵は春蘭の言葉どおり我先にと逃げ始めた。
さらに別方向から『曹』の旗が一斉に掲げられ、そこからは曹仁こと朔夜が満面の笑みを浮かべて軍を突撃させていく。
「曹子考、ここにありってね♪」
迎え撃つ山越の中でも勇敢であり無謀とも思える兵士達を蹴散らしていく朔夜。
朔夜と真反対からも『于』『李』の旗が立ち並び、一糸乱れぬ行軍を開始していく。
さらに後ろからも一刀と雪蓮達、それに山越の降伏した者達をまとめた梅花あわせて十万が大きく左右に開いて迫ってきていた。
次々と逃げ出す山越兵。
それに比例して孤立していく厳白虎。
自分の元に部下三百を残して誰もいなくなってしまい、圧倒的な大軍に囲まれてはどうすることも出来なくなってしまった。
「大人しく降伏しなさい」
たった一度の威嚇行動でほぼ壊滅状態の厳白虎に冷笑を向ける華琳。
「だ、だ、誰が降伏などするか。儂は山越の王だぞ!」
最後まで小さな自尊心に縛られる厳白虎。
「やはりあなたと一刀では差がありすぎるわね」
今の状況がもし一刀の場合だったらどれほど自分を楽しませてくれるであろうかと考えるだけで、目の前の卑しさに浸っている厳白虎が自分にとって何の価値もないものに思えた華琳。
「武器を捨てて大人しく降伏しなさい。さもなければうっかりその頸を取りかねないわ」
仮に厳白虎の頸を落としたところで華琳は一切の言い訳などするつもりもなかった。
一刀とは違って自分にとって災いの芽となるものは処断するに越したことはないと華琳は思っていただけに、一刀の考えに賛同しながらもその甘さを無条件で受け入れるつもりもなかった。
厳白虎も降伏などまったく考える余地もなかった。
だが、彼の部下は違った。
「な、何をする!」
いきなり自分を羽交い絞めにして押さえつけてくる山越兵に厳白虎は声を荒げたがすでに遅かった。
「あら、それが普通だと思うわよ」
勝てない戦に命を落とす者などどこにもいなかった。
「一刀、あなたの命に従ってあげたわよ」
迫りくる前方の軍勢を見据え華琳はさっきまでとは違う温かみのある笑みを浮かべた。
それから半刻。
縄で縛られた厳白虎を取り囲むように二十万近い三国と南蛮、それに山越の軍勢があった。
「あなたの望みどおり、生け捕りにしたわよ」
「ありがとう、華琳」
自分の望むとおりのことをしてくれた魏の覇王に心から感謝をする一刀に華琳も笑みを浮かべて応えた。
「それでどうするのかしら?見たところ野放しにすると同じことをしそうよ?」
軽く一刀の甘さを指摘するように華琳は言う。
「確かにそうかもしれないけど、もうどこに行っても今回のようなことは起こらないと思うよ」
たとえ起こったとしても今回のように協力すれば無用な血も流れないと思っていた一刀だが、それに真っ向から反対をしたのは華琳ではなく梅花だった。
「こいつを生かすなんてアタシには我慢できない。こいつは先王を……殺したんだぞ」
異民族の王にしては優しさと侵攻してきた敵に対しては毅然とした態度で対応していた先王は梅花達にとって尊敬できる人物だった。
それが無残にも殺された怒りを梅花は忘れることは出来なかった。
「梅花、これ以上の血を流しても意味なんかないよ」
「それでもこいつだけは……許せない」
自分を痛めつけただけではなく彼女の家族にすら危害を加えようとしていたことも明白であり、許すなど梅花にはありえないことだった。
「私も同意見よ」
一刀の隣にいる雪蓮も梅花の気持ちに賛同した。
「私の一刀をこんなに痛めつけたのだから簡単には楽にさせてあげるつもりもないわ」
本当ならば自分の手で始末をつけるつもりだった雪蓮だが、一刀のやろうとしている事に逆らうことになってしまうため我慢していた。
「とりあえず俺が話をするからみんなは手を出さないでくれ」
過去がどうあれ今の山越の王は厳白虎である以上、一刀は彼と話をしなければならなかった。
「甘いわね」
華琳の厳しい言葉に苦笑する一刀。
「一刀……」
合流した蓮華は傷ついている一刀の姿に平常心を保つのに必死だった。
「一刀さんがそういうのならば私達は何も言いません」
桃香は一刀のやることには反対しなかったが、彼のボロボロな姿に人知れず心を痛めていた。
「しかたないわね。今はまだこの遠征軍の大将は一刀だもん。命令には従うわ」
誰よりも彼をりかいしている雪蓮のその一言に誰もが同意し、一刀の命令にとりあえずは従うことにした。
「梅花もいいね?」
ただ一人表情を硬くしている梅花だったが、一刀の命令には最終的には逆らえず黙って頷いた。
一刀は縄で縛られている厳白虎の前に立った。
「さっさと殺せ」
もはや誰も厳白虎に味方する者はおらず、睨みつけるように一刀を見上げる。
「これ以上の生き恥を晒すぐらいならさっさと殺された方がましだ」
「そんなこと言われてもな……」
すでに命を奪うようなことはするつもりもない一刀。
「儂を殺さないと後悔するぞ」
「そんなに死にたいと思うのはどうかと思うけどな」
武人の志かなにかは一刀にはわからないが、はっきりいえばただのそんなものはくだらないと思っていた。
死んでしまえば何も出来なくなる。
生きてさえいればどんなことでも出来ると一刀は考えていただけに、厳白虎の死を望む態度は好きになれなかった。
「これ以上、血を流したくないんだ。だから降伏さえしてくれれば俺としては嬉しいんだけど」
「ふん、誰が貴様に降伏などするか」
未だに負けたのは一刀の実力だとは認めない厳白虎。
「降伏するぐらいなら自分で死を選ぶ」
どうあっても一刀の意見は一切受け付けないといわんばかりに厳白虎は助命を断り続ける。
「じゃあどうしたら降伏してくれる?」
何か条件をつければ降伏してくれると思った一刀は最大限の譲歩をちらつかせる。
「縄を解いてくれ」
きつく縛られている縄を解くという条件だけで降伏するとは思わなかったが、一刀としては相手に歩み寄ることを優先させた。
明命が取り返してくれた青釭の剣を抜き、厳白虎の縄に刃を入れて切っていく。
「これでいいのか?」
一刀が取り払うと厳白虎は手首をさすりながら不気味な笑みを浮かべてこう答えた。
「ああ。これでお前を殺せる!」
「えっ?」
一刀が気づいた時には腹に強烈な痛みが走った。
厳白虎は崩れ落ちていく一刀から青紅の剣を奪い取り、そのまま一刀の肩にめがけて突き刺した。
「があっ!」
腹の痛みよりも激痛を感じる一刀を地に叩きつけて厳白虎は周りに向かって大声で叫んだ。
「この男を殺されたくなければじっとしろ!」
すぐさま反応をみせていた思春や凪、明命だがその言葉に動きを止められてしまった。
「どこまでも下種ね」
ざわめく中で華琳はそう吐き捨てるようにつぶやく。
「貴様!」
蓮華は大声を上げて敵意を厳白虎にぶつけるが一刀が人質になっている以上、どうすることもできなかった。
「あ、愛紗ちゃんどうしよう!」
「北郷殿が人質である以上どうすることも……」
桃香の今にでも泣き出しそうな表情に満足のいく答えを出せずにいる愛紗。
「どこまでも腐ってやがる!」
梅花は手に持つ剣を砕かんばかりに力を入れて握り締めている梅花。
「どうだ。貴様らの男をこの場で処刑してやるぞ。そうすれば儂の勝ちだ!」
肩を抉るように青紅の剣で一刀の右肩の傷口を広げていく。
誰もどうする事の出来ない状況の中でただ一人、ゆっくりと前に進んでいく者があった。
刃こぼれ一つしていない倚天の剣を片手にゆっくりと何かを楽しむかのように一刀と厳白虎に近づいていく雪蓮。
「お、お姉様!」
「雪蓮さん!」
「雪蓮様!」
制止を促すように誰もが声を掛けるが雪蓮は全くお構いなく近寄っていく。
「と、と、止まれ!こいつの命がどうなってもいいのか!」
どうせ助からないのであれば彼女達のもっとも大切な人物を道連れにするつもりの厳白虎は、青紅の剣を肩から引き抜き一刀の首筋に当てた。
「お姉様、止まってください!そうしないと一刀が」
蓮華は無謀とも思える姉の行動を止めようとするが、それを思春や明命によって止められる。
「二人とも離しなさい!このままでは一刀が……一刀が!」
「落ち着いてください蓮華様」
「そ、そうです。ここで動いたら余計に刺激させてしまいます」
懸命に止める二人に蓮華も次第に力が弱まっていく。
そんな蓮華を全く気にすることなく雪蓮は歩みを止めない。
「き、貴様!」
「煩いわよ豚」
厳白虎を見据える雪蓮の表情は笑みがこぼれていたが、目はまったく逆だった。
「私は一刀に話したいの。豚は黙っていなさい」
「わ、儂は豚ではない!」
だがその言葉も雪蓮には無視された。
「一刀、聞こえているならば答えなさい。これがあなたの望んだ結果なのよ?」
その声はどこまでも優しくどこまでも呆れていた。
「それでも和平を望む?」
一刀は痛みに顔を歪めながらも雪蓮の方を見上げる。
「自分が傷ついてでも成し遂げるほどのものかしら?」
雪蓮の言葉は裏を返せば自分勝手な行動を取ったせいで周りに十分すぎるほどの心配を掛けさせていると言っている。
「私はね別に一刀が望むのであればそれでもいいと思っているわ。たとえこんな豚の命だろうとも、一刀が望むのであれば命まではとらないわ。でも……」
言葉が途切れると同時に雪蓮の蹴りが厳白虎の顔面を捉えた。
一瞬の出来事だったために成す術なく後ろへ吹き飛ばされていく厳白虎。
倚天の剣を地に突き立てて、一刀の身体を愛しく抱きしめていく雪蓮はそのまま一刀の唇に自分の唇を重ねた。
「お姉様……」
蓮華達が見守る中で二人の接吻が何度も繰り返される。
「でも、私はあなたを傷つける者には容赦できないわ。わかるでしょう?私はあなたがいなくなってしまえばその存在すら意味がなくなるのだから」
二人で一人。
雪蓮の隣には一刀が、一刀の隣には雪蓮がいつもいた。
彼を愛するのであれば寛容さは持てても傷つける者ならば誰であろうとも容赦するつもりなどまったくなかった。
「だから一度だけ約束を破らせて。そうしたらもう二度とあなたとの約束は破らないわ」
「……雪蓮」
それもで一刀はダメだと顔を横に振る。
「ダメだよ、雪蓮」
彼女に二度と人殺しなどさせたくもなかったし赤く染めさせるつもりもなかった。
それがどうだ。
自分の不甲斐なさで今目の前に写る雪蓮は血に汚れている。
何もかも自分の招いた結果ならば最後まで責任を取らなければならなかった。
「これ以上……雪蓮に人を殺めて欲しくない」
愛する人が血で汚れていくのは一刀にとって許せなかった。
だが、それ以上に命を重んじる一刀はどんな相手であろうともその命まではとるつもりはなかった。
だからこそ誰にも頼らず一人で全てを片付けようとした。
「ふ、ふざけるな!」
そこへ鼻血を垂れ流しながら厳白虎は手放した青紅の代わりに近くにいた一般兵士から槍をぶん取り、それを構えて雪蓮と一刀のほうへ走っていく。
「儂は……儂は山越の王ぞ!」
しっかりと一刀を抱きしめている雪蓮は体勢を整える事が出来なかった。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇえええ!?」
雄叫びと同時に厳白虎の首筋に一本の剣が深々と突き刺さった。
それは梅花が握っていた剣だった。
「わ、わ、わし…………」
崩れ落ちていく厳白虎。
そして近寄っていく梅花の表情は硬く暗いものを感じさせていた。
「梅花……」
一刀の方を一瞬見て、そのまま地に崩れ落ちている厳白虎の前に立った。
「き、きさ…………ま」
悪意のこもった視線をぶつける厳白虎に梅花はこう言った。
「これはアタシ個人の恨みよ」
梅花に声を掛けようとする厳白虎だったが力尽きて静かになった。
「仇はとったわ…………義父上」
全ての山越の将兵にとって偉大な先王の仇を梅花はとった。
梅花は一刀の方を向いて歩いていき、目の前で膝をついた。
「呉の大都督殿の命に背いたこと万死に値する。この命をどうするかは大都督殿に任せます」
一刀との約束を破った梅花。
その様子を雪蓮に支えられながら体勢を整えた一刀は静かに見守った。
しばらく誰も声を発しない中、一刀は頭を下げている梅花に毅然とした態度で罰を言い放った。
「山越の将、潘臨に罰を言い渡す」
その言葉に山越の兵士達に動揺が広がっていく。
これ以上の無駄な血は流れないと思っていただけに、自分達の将に罰を与えようとしている一刀の様子を伺った。
「潘臨を新たな山越の王とし、山越のすべてを任せる」
「「「「「えっ?」」」」」
誰もがその言葉に我が耳を疑った。
梅花ですらすぐには理解することが出来ず、思わず一刀の顔を見上げた。
「一刀……」
「こっちからは人を派遣はしない。押さえつけることもなく山越は山越としてこれまれどおりにしてほしい。ただし、もう二度と争いなんてしないでくれ」
支配ではなく対等な関係。
それこそが本当の意味での和平であり、平和をもたらすものだと一刀は信じている。
「これは桃香達と美以達のような関係を俺達も築きたいんだ」
後ろを振り返る一刀の視線の先には桃香と美以がいた。
蜀と南蛮、魏と五胡、そして呉と山越。
それぞれがわかりあい、手を握り合うことこそが本当の平和。
「でも今後の山越を建て直すのは簡単じゃない。お互いの兵士に多くの死傷者も出した。その家族の恨みが爆発するかもしれない。だからそれを梅花が癒してあげないとダメだ」
それは呉軍にも言えることだった。
多くの血が流れそれに倍する悲しみがある。
その責任を一刀は梅花に背負わすことになった。
そして一刀も自分の不甲斐なさで多くの死傷者を出し、その家族に対して申し訳ない気持ちだった。
「出来るかい、梅花?」
山越の王としてこれからの山越を導くための強い意志がなければ務まらない。
「無論、何かあれば俺達も協力する。同じ生きる者としてね」
孤立しているのではなくいつも誰かが傍にいてくれる安心感。
梅花は瞼を閉じてしばし沈黙した後、改めて一刀に対して臣下の礼をとった。
「大都督殿の言に従います。今後、いついかなるときも我が王である限り決してその命を破らぬことをお誓いいたします」
これまで流した血を無駄にしないためにも梅花はあえて自分から茨の玉座に座ることを決めた。
「ありがとう、梅花。そしてこれからもよろしく」
手を差し出す一刀に梅花は微笑み、手を握り返した。
「こちらこそよろしく、一刀」
二人の握手を見て周りの将兵は一斉に歓声を上げた。
つい先ほどまで敵同士だった者が肩を寄せ合い、無益な戦が終わったことを心から喜んだ。
一刀達三人にそれぞれの王達とそれにつき従う将達がやってきた。
「華琳」
一刀は一番に魏の覇王を見た。
「甘いかな?」
率直な質問に華琳は笑みを浮かべた。
「そうね。私だったらもっと効率よく事を進めたわ」
「だろうな」
「でも」
華琳はそこで言葉を止めて周りを見る。
「あなた一人を助けたいとこれだけの者が集まった。どういうことかわかるかしら?」
「そうだな」
「これがあなたのした結果よ。誰一人とあなたのやろうとしていたことに反対をしなかった。誰一人とね」
その言葉は華琳自身も含めていることに一刀は気づき心から感謝した。
「ありがとう、華琳」
「謝儀ならばもっと他の形でいいわよ?」
不敵な笑みを浮かべる華琳に一刀は苦笑した。
「ダメよ、華琳。一刀は私達のものなんだから」
それまで黙っていた雪蓮は見せ付けるように一刀を後ろから抱きしめた。
「あら、私がタダでここまですると思っていたのかしら?」
「たまには損得なしで動きなさいよ」
覇王と小覇王の子供とも思える言葉のやり取りに一刀は我慢できなくなり笑ってしまった。
「一刀」
そこへ梅花が真剣な表情をして一刀に声をかける。
「な、なに?」
「アタシも一刀のためにここまでしたのよ。だからその……」
顔を紅くしていく梅花に一刀よりも雪蓮の方が反応した。
「ふ~~~~~ん、やっぱりこの子にも手を出したのね」
「な、何言い出すんだ。まだ手は出してないぞ」
「「まだ?」」
珍しく雪蓮と華琳が声を合わせた。
一人は笑顔でありながらどことなく怒っており、もう一人はこのあとに起こるであろうことを想像しているのか肩を震わせて笑いをかみ締めていく。
「そうね。一刀だから節操なんて求めたらダメね」
「それなのに私や桃香には手を出さないのだからおかしな話ね」
「あ、あのな……」
肩を抑えつつ一刀は自分のこれまでの『偉業』があまりにも大きすぎるために反論が出来なかった。
「貴女は一刀に抱かれたいの?」
まったくもって直球を梅花に投げつける雪蓮。
「ア、アタシは……その……」
歯切れの悪いものの言いように雪蓮は彼女も一刀に取り込まれたなと確信した。
「まったくうちの旦那様は本当に女たらしね」
「呆れてものが言えません」
蓮華ももう少し一刀が自重してくれないものかとため息を漏らす。
「まぁお兄さんですから」
風も一刀の『偉業』を褒め称えていた。
誰もが口々に一刀の『偉業』に素直な感想を漏らしていき、当の本人は言われるたびに落ち込んでいった。
「ほら、大都督なんだから最後までしっかりしなさい」
落ち込んでいる一刀にひどくおかしそうに笑いながら雪蓮は言う。
「そうだな」
半分泣きそうな一刀は表情を切り替える。
「ここに呉と山越の戦は終わったことを告げる。これより双方の戦勝祝いを行う!」
両軍の勝利と称える一刀に周りからがさらに歓声が上がった。
「よくできたわ♪」
雪蓮はそう言って遠征軍の役目をほとんど終えた一刀を優しく抱きしめた。
それから一月の間、まるで嵐のような日々が続いた。
まずは新しい山越の王として梅花が就き、その周りを費桟、黄乱、尤突といった激戦を生き抜いた者達で固められた。
そして呉だけではなく魏、蜀、南蛮とも交易をすることを確約し、またこれまで争っていた呉に何かと課題が残っているためとりあえずは平和を謳歌することをした。。
国境の策定とその周辺の道などの整備、お互いの技術提供、他にも決めなければならないことが山のようにあり、それらを一刀、蓮華、華琳、桃香、梅花が意見を出し合っては一つ一つ解決していくことを決めた。
夜は夜で連日の宴であり、どの国の兵士達も酒を酌み交わし笑いが絶えなかった。
「なんだか夢を見ているみたいね」
目の前では訓練用の棒を持って小規模ながら武芸大会が開かれており、賑わいを見せる中で梅花は一刀と真雪の三人で酒を呑んでいた。
全てが終わった時、三人で酒を呑もうという約束を果たすためだった。
三人は周りの雰囲気もあって杯を重ねていき、まず真雪が陥落して一刀にもたれるように眠っていた。
その様子を微笑ましく見守っていた一刀と梅花。
「アタシは王としてやっていけるかな?」
梅花が王になることは多少なりに反対意見もあった。
年も若く、また真っ先に呉の大都督と通じたことを快く思わない者も多くいた。
一刀も一緒に説得するつもりだったが雪蓮や蓮華達に止められ、あくまでも山越の問題であり呉の者が口出しをしていいものではなかったため黙っていた。
「みんながみんな、梅花を嫌っているわけじゃないだろう?」
「そうだけど、実際に王になるって大変なんだって感じているわ」
下戸ながらも何杯も酒を呑み干しながらも正気を保っていられるのは王としての重圧が彼女を酔わせなかった。
「それは俺だって同じさ。大都督になっても周りのみんなの協力がなければ何も出来なかったさ」
先代の大都督である冥琳、妙な癖があるものの培った知識を十二分に発揮している穏、そしていつも傍で支えてくれている亞莎達がいなければ今頃、梅花のいう重圧に耐えられなかったであろう。
「王だろうが大都督だろうが結局は周りの力がなければ上手くいかないときがある。だから俺はいつもみんながいてくれると安心するんだ」
梅花にも彼女を慕う者は大勢おり、決して一人ではないことを一刀は付け加えた。
杯の中に注がれている酒を眺めながら梅花は自分の周りにいる者達を思い浮かべていく。
「一刀」
「ん?」
「もしアタシが困ったことがあって一刀に山越まで来て欲しいって言ったらすぐに来てくれる?」
笑い声がいろんなところから聞こえてくる。
一刀の膝を枕代わりにして眠っている真雪を他所に梅花は杯を置いてまっすぐ彼を見る。
「アタシも一刀のことが好きだから…………」
王にならなければそのまま一刀について呉へいくつもりでもあった梅花だが、それも叶うことはなかった。
「迷惑……よね」
敵でありながら何かと気配りをしてくれていた一刀を梅花はどこかで諦めていた。
「迷惑なんて思ってもないさ」
「一刀?」
「俺も梅花のことは好きだよ」
照れ隠しなのか一刀は残っていた酒を一気に口の中へ流し込んでいく。
「だから困ったことがあればいつでも言ってくれよ」
一刀の笑顔に梅花は心の中に温かなものを感じた。
自分は決して一人ではないことを最も大切な人から教えられたような気がしただけに、梅花は嬉しくなり自然と涙が溢れていく。
「梅花?」
涙を流していく梅花を見て慌てる一刀に、彼女はそっと手を伸ばしてそこへ顔を近づけていく。
時が止まったかのように二人は唇を重ね合わせた。
しばしその余韻を楽しんだあと、梅花は唇を離した。
「きっとアタシは一刀以外の男と添い遂げないと思う」
「お、おい」
「だから呉が嫌になったらアタシの所に来て。そうしたら、ずっと一刀の傍にいるから」
重ねあうお互いの手。
視線を外すことなく二人は見詰め合う。
「ありがとう。でも俺は雪蓮達を捨てることはないけど、捨てられたらその時はお願いしようかな」
「あら?誰が一刀を捨てるなんていったかしら?」
二人が声のするほうを見ると、さも楽しそうに酒を呑んでいる雪蓮とすでに酔いが回って蓮華にベッタリの桃香、そして何か面白いものを見ているような笑みを浮かべている華琳がいた。
「たとえこの世の終わりがきても私は一刀を手放すなんてことはありえないわよ?それとも私に飽きたのかしら?」
意地悪満載の笑みを浮かべる雪蓮。
「飽きるわけないだろう。俺は雪蓮を愛しているんだから…………あ」
一刀はやられたと思った。
どこからどう見ても自分達は相思相愛だと自慢しているようにしか見えなかったからだ。
「嬉しいわ、一刀♪」
獲物に飛び掛るように雪蓮は一刀を抱きしめて遠慮なく口付けを交わしていく。
「お、お姉様、やりすぎ……ち、ちょっと桃香どこを触っているの」
「うへぇ~~~~~」
べったりとくっついて離れない桃香に蓮華は引き剥がそうとするがまったく離れない。
「一刀の一番はずっと私なの。だから、私は何をしてもいいのよ♪」
無茶苦茶なことを言いながらも雪蓮は一刀から離れようとしない。
すると酔いつぶれていた真雪が目を覚まして、周りを一切に気にすることなく一刀に甘えていく。
「かずさま~~~~~」
小さな身体を精一杯摺り寄せては甘える真雪に一刀の理性が少しずつ揺らいでいく。
「あ、魯粛ったらずる~~~~~い」
何がずるいのか理解できない一刀にさらに密着していく雪蓮。
「ち、ちょっと二人とも落ち着け!」
そんな叫びも今の二人には無意味だった。
「まったく、一刀は本当に女たらしね」
呆気に取られていた梅花が正気に戻ると、自然と笑いが溢れ出ていく。
「あ、あのな、そんなこと言う前に助けてくれよ」
「なんでよ?一刀がアタシのものにもなってないのに助けられないじゃない」
笑いをかみ締める梅花に一刀は懇願するがあっけなく断られる。
「だそうよ。だから大人しく」
雪蓮は一刀の耳元に口を持っていきこう囁いた。
「私達に食べられなさい♪」
妖艶の混じった声に一刀の理性のほとんどが白旗を掲げていった。
「ずっと我慢していたのだからここに留まっている間は交代制にするからしっかり励みなさいよ」
雪蓮の嬉しい提案に理性の全軍が白旗を掲げた。
「人数も多いから二人一組ね?」
「ち、ちょっと待てよ。華琳や桃香達もか?」
「あら、あの子達とも寝たいの?」
実に意地の悪い返答に一刀は少し嫌そうな表情を浮かべる。
「雪蓮達だけでいい」
「そう♪」
自分達のことを大切に考えてくれている一刀に雪連は満足そうに頷く。
「しかし、孫策がここまで一人の男に固執するなんて想像もしなかったわ」
「一刀だからよ♪」
一刀が望むのであればなんだって叶えるぐらいは雪蓮の中にはあった。
「羨ましいなあ」
「でしょう♪」
自分の宝を自慢するような雪蓮に梅花だけではなく華琳や桃香達も羨ましかった。
「なら一刀がどうしても娶りたいと思うほどいい王様になってあげるわ」
「梅花」
「その時はアタシをもらいなさいよ?」
笑顔を見せる梅花に一刀も笑顔で応えた。
その夜遅く。
寝台の上には一刀と彼を左右から密着して眠っている風と恋がいた。
誰もが雪蓮が一番初めだと思っていたのだが、雪蓮は、
「風と恋に譲ってあげるわ」
それだけを言って華琳達と酒を呑んだ。
正室である雪蓮の言葉に誰もが不思議に思ったが、風と恋の苦労を思えばそれでもいいかと納得して、それぞれ宴を楽しんだ。
一刀達は自室に戻ると、風と恋はいつになく積極的に一刀を求めた。
その姿はまるで今まで心の中に溜まっていたものを吐き出すかのように貪り続けた。
二人に応えるために一刀も身体を無理させない程度に交互に愛していった。
やがて失神した風と恋を両手で抱きしめて一刀もしばらく心地よい疲労感に包まれて眠っていた。
「二人ともごめんな」
もちろん彼女達だけに謝るのではなかった。
自分を心配してくれてここまで駆けつけてくれた雪蓮達に何度謝っても足りないぐらいだった。
「もうこんな危ないことは二度としないから安心してくれ」
「本当ですね?」
風は眠たそうな目をこすりながら一刀の温もりを感じるようにさらに寄り添っていく。
「お兄さんは時々、嘘つきさんになりますから風としては少々困っているところですよ」
今回のようなことをまたされたら今度こそ風は我慢をする自信などなかった。
「もう二度としないよ」
彼女達の悲しい顔を見たくない一刀としては今回限りの策だと決めたが、風はまったく納得をしなかった。
「風はそんな言葉だけで信じることはもうやめましたよ」
「じゃあどうしたら信じてくれるんだ?」
態度で示せと言われても一刀はそれをどうしたらいいのかわからなかった。
「ずっと」
風は小さな声でつぶやく。
失うかもしれないと思っていただけに風の心は限界を超えかけていた。
一度覚えてしまった恐怖は風にとって何よりも辛く苦しいもので、何度、抱かれてもその恐怖が消えることはなかった。
「ずっと風達の傍で生きてください」
言葉の約束ではなくこれからの未来も一緒に生きて欲しい。
それは風だけではなく雪蓮達も同じ想いだっただけに、その言葉の重さを一刀は全身で感じた。
「ここで生きると約束なんてしなくていいです。ただ、これからずっと風達をたくさん可愛がってください」
ささやかな望み。
愛する人と一緒に生きていくだけで風は苦しかった心を癒せると思っていた。
「お兄さん?」
返答のない一刀に不安を感じる風。
「俺は風達に辛い思いをさせ続けた」
今回の一件で一刀はかつてないほどの負担を彼の愛する女性達に与えた。
「だから俺には拒否することはできないと思っているんだ」
初めからどんな無茶な願いでも受け入れるつもりでいただけに一刀は風の願いを無条件で受け入れようとした。
「お兄さん」
「うん?」
「それはお兄さんが風達に迷惑をかけたからそんなことを言っているのですか?」
それならば風の願いは意味をなさいものだった。
あくまでも一刀自身の意思で答えて欲しかっただけに風はため息をついた。
「風はお兄さんの言葉で答えを聞きたいのです。仕方ないなどという気持ちで願いを聞くのであれば風としてはお兄さんを嫌いますよ?」
ダメならなダメでもかまわない、一刀の言葉でそう言ってくれるほうがまだましであり、風も納得できたが今の一刀の言いようは迷惑をかけた代償としか思えなかった。
「でも俺は……「お兄さん」」
一刀の言葉を遮る風は身体をゆっくりと起こして見下ろす。
「お兄さんは風に言いましたよ。今回の事が終わったら風の望むものを叶えてくれると」
「うん、だから」
それを叶えたいと一刀は思っていた。
「風の望みは自分のせいでなんて卑怯な言い方で風達に遠慮しないでください。そんなお兄さんから与えられても風は何も嬉しくないです」
薄暗い部屋の中で風の身体は心なしか震えていた。
「恋ちゃんだってそうですよ。お兄さんを守れなかったって自分を責めていたのですよ?そんな恋ちゃんにお兄さんは迷惑をかけたからって言うのですか?」
それは懸命になった恋達を馬鹿にしているとしか思えなかっただけに、風は一刀には一刀の言葉で答えて欲しかった。
「風達はお兄さんが大好きなのです。だから理由をつけて風達に謝らないで欲しいです」
風が一刀に望んだものはそれだった。
責任感が強く何かと自分のせいにしてしまう一刀。
時にはそれによって周りにも悪影響を及ぼすこともある。
「風」
「はいはい?」
「どうなるかわからないけど、俺がいる限りはずっと風達を愛していくよ」
それは風の望んでいた答えだった。
「風の言うとおりだ。俺はみんなに失礼なことを言っているような。なら俺は申し訳ない気持ちではなくて感謝の気持ちで受けるよ」
「お兄さん」
風は愛しそうに手を伸ばし、顔を近づけて唇を重ねた。
優しい口付け。
「風は華琳様から罷免されても不思議と寂しいとは思いませんでした。なぜだかわかりますか?」
罷免として長い髪を切られ、それ以来伸ばそうとしない風は不思議と魏に戻りたいと思わなかった。
「お兄さんがいてくれたからですよ」
異国に行っても一刀がいてくれるから何も臆することもなかった。
呉での生活も自然と馴染んでいき、暇な時は冥琳達とお茶をしていることもあった。
子供を宿し母親になってからより一層、絆というものが強くなっているように風には感じられた。
「お兄さん」
「うん?」
「風に何をしてもいいのはお兄さんだけですよ」
「もっと愛したいと言ったら?」
一刀は風の髪を撫でながら問うと、風は、
「お兄さんにならもっと愛して欲しいです」
身体を密着させて一刀を求めていく風に一刀は応える。
「ごしゅじんさま……?」
目を覚ました恋に一刀と風は微笑んだ。
「恋ちゃん、お兄さんのことは大好きですか?」
「ご主人さま、大好き」
恋は一刀の頬に口付けをして子犬のように身体を摺り寄せていく。
「ご主人さま」
「どうした?」
「恋……もうご主人さまから離れない」
守れなかった自分が許せないでいる恋に一刀は優しく彼女の真紅の髪を撫でる。
「恋は恋らしく、今までどおりでいいんだぞ。俺はもうこんな危ないことはしないから」
「(フルフル)」
「俺が恋を置いていくとでも思っているのか?」
「……」
恋には離れている時間の間、ずっと一刀のことばかりを考えていた。
食事よりも誰よりも一刀を心配して、一刀の寝台に倒れこんではその温もりで自分を癒そうとしたが結局、無駄だった。
今こうして温もりを感じてこそ、恋はようやくそこに一刀がいることを確認できていた。
「大丈夫だ。もう恋を一人ぼっちにしないから」
「……本当?」
「ああ。恋がいやだって言っても俺が離さないさ」
その言葉を聞いて恋は愛しそうに一刀を見つめる。
「それにまだハンバーグを作ってないだろう?戻ったらたくさん作ってやるぞ」
「……ご主人さま」
「なんだ?」
「大好き」
愛しい人に恋は何の遠慮もなく求めていく。
「恋は欲張りさんだからたくさん作らないとな」
笑みを浮かべながら一刀は恋にそう言うと、動きを止めた恋がこう答えた。
「ご主人さまのご飯だから」
一見、恋は無尽蔵に料理を次々と平らげていくが、一刀の作った『天の料理』だけは人知れずしっかりと味わっていた。
同じものを月が作った時があったが、その時も美味しさを感じていたが一刀が作ったという彼女にとって最高の調味料が抜けていたため今ひとつ物足りなさを感じていた。
「恋、ご主人さま大好き」
戦場では鬼神の強さを誇る恋はどこにもいなかった。
ただ一人の女として一刀に縋っていた。
「じゃあそんな恋のために今度は別の物を作ってみるかな」
「別の物?」
それはまた新しい天の料理なのかと恋は期待する。
「ああ。だから楽しみにしているんだぞ」
「うん」
恋はこれからも自分の為に料理を作ってくれる一刀にお礼といわんばかりに何度も頬を嘗めていく。
今の恋にもし子犬のように耳と尻尾があれば嬉しそうに動かしているだろうと一刀は思った。
「おい、風はおいてけぼりですか?」
恋のほうにばかり向いていた一刀に風はわざとらしく拗ねてみた。
「わ、悪い。ほら風ももっと甘えていいんだぞ」
「おお、では早速」
恋に負けないほど一刀に全身を使って温もりを感じさせていく。
「やはりお兄さんとこうしていると、天にも昇り心地よさですね」
「(コクコクッ)」
その心地よさを一時も忘れたくないように二人は再び一刀を激しく求めていく。
それに応じるように一刀も二人を何度も抱き、久しぶりに感じる心の温もりを全身で感じた。
「風、恋、大好きだよ」
火照った身体の二人はその言葉をしっかりと受け止めてた。
「風達も大好きですよ」
そう言って三人は口付けを交わしていった。
夜が明ける前、一刀は目が覚めた。
風と恋の三人でついさっきまで交わっていただけに身体に気だるさが残っていた。
「少し厠にいってくるよ」
気持ちよさそうに眠っている二人を起こさないようにゆっくりと出て行き、服を着て部屋を出るとほんの少し肌寒さを感じた。
宴もさすがに終わっており、ひと時の静けさが城内を包んでいた。
「静かだな」
まだ誰も起きていないためか廊下も静けさが漂っていた。
廊下を歩いていると目の前の部屋の入り口が開いてそこから雪蓮が出てきた。
「おはよう、雪蓮」
「おはよう、一刀♪」
眠っていないのか少しばかり眠たそうな表情を浮かべている雪蓮はそのまま一刀に近づいて彼を抱きしめた。
「一刀♪」
「雪蓮…………物凄く酒の匂いがするけどもしかしてまだ呑んでいたのか?」
「そうよ♪」
初めは華琳や桃香達と呑んでいたが一番に桃香が陥落して、華琳も適度なところで桃香を寝台に運んでそこで一緒に眠ったため、雪蓮は一人で呑んでいた。
「ねぇ一刀、力強く抱きしめて」
一刀は余計なことを聞かずに彼女を強く抱きしめた。
「こうしていると凄く安心するわ」
「俺も安心するよ」
彼らほどお互いを信じあっている者はそういなかった。
今回のことも何一つ打ち合わせをしたわけではないが、雪蓮からすれば一刀が何をしようとしていたか想像は出来ていた。
だが、それを口に出してしまえば上手くいかないような気がしたため、代わりにお守りを手渡した。
雪蓮が予想していた以上に一刀の命が危険に晒されていたことは彼女も恐怖を覚えた。
「一刀は私が強いと思ってる?」
「そりゃあ、天下の雪蓮だからな。誰よりも強いと思っているよ」
それはただ単に力だけではないということを一刀は含めていた。
「でも一刀がいなければ誰よりも弱いと思うわ」
「そうかな?」
「そうよ。だって……」
雪蓮は身体を少しだけ離して一刀の目を見る。
「こんなにも一刀が欲しいなんて思わなかったもの」
普段から一刀といることを望んでいるが、子育てや一刀の大都督としての仕事のため多少我慢は出来ていた。
だが今回は少しばかり我慢が難しかった。
風や恋に譲った後、雪蓮はいつも以上に酒を呑んでいたことを華琳は知っていたがあえて止めなかった。
一睡もせず朝の空気を吸いに外に出たところに望んでいた一刀が歩いてきていたので抱きついていったのは、我慢していた自分に対するご褒美のようなものだった。
「前にも言ったでしょう?あなたがいなければ私は生きていけないし、生きていく意味がないの。だからもっと私を安心させなさいよ」
不意に雪蓮の目から涙が溢れていく。
「雪蓮」
一刀はそれ以上の言葉は続けず、雪蓮はさっきよりも強く抱きしめた、
彼女の髪を優しく何度も撫でながら一刀は温もりを感じていた。
「今更遠慮なんかしなくてもいいだろう?」
「でも今回は風や恋達のほうが辛い目にあっているのよ。あの子達を差し置いてなんてできないでしょう?」
「遠慮する雪蓮のほうが俺は不思議でならないよ」
積極的に動くのが雪蓮らしさだと一刀は言う。
「馬鹿」
小さな声で雪蓮は一刀を抱きしめ返す。
「そんなこと言ったら他の子達から一刀を取り上げちゃうわよ?」
それほどまでに今回は一刀に飢えていた。
「蓮華に祭に冥琳だって、みんな一刀が大好きなのに私が独占してもいいの?」
このまま一刀を連れ出してどこか二人で暮らしたいと本気で思っていた。
もし孫紹がいなければ間違いなく行動に移っていた雪蓮だが、二人の愛の結晶である孫紹も愛しているためにそれは出来なかった。
「独占していいよ」
今、ここには一刀と雪蓮しかいない。
「どこか空いている部屋があると思うからそこに行こう」
「いいの?」
風と恋に失礼ではないかと思ったが、一刀は雪蓮を優先させた。
「今にでも泣きそうな雪蓮を放っておくほど俺って薄情か?」
「泣いてなんかないわよ」
「それでも俺も雪蓮が欲しいと思っていたから」
散々、風と恋と交わっておきながらまだその性欲が残っている一刀。
「もう、こんな時に種馬の実力なんて発揮しないでよね」
文句を言いながらもしっかりと一刀を抱きしめている雪蓮。
「あのな、そういう風に言い続けたのは誰だったかな?」
「たぶん冥琳か祭ね」
「人のせいにしないの」
そう言いながら二人は声を小さくして笑いながら空いている部屋に向かった。
青空の下、呉、魏、蜀、南蛮、そして山越の旗が所狭しと並べられ風に揺れていた。
多くの諸将の間には山越の王として即位した梅花が王の衣装を身にまとい、恭しく目の前の壇上に用意されている椅子に座っている蓮華、華琳、桃香に膝をついていた。
「山越の王よ」
南海覇王を地に立てて蓮華は王としての責務に望む。
その様子を諸将の最前列に立って見守る一刀と雪蓮達。
「はっ」
梅花も両手を重ねてそれに応える。
「これまで我ら呉と山越は長きに渡って争い続けた。だが、それも今日、この場をもって終焉とする。依存はないか?」
蓮華は先日まで山越を許そうとは思っていなかった。
一刀を傷つけ、その命まで取ろうとした山越を許せなかったが、一刀が自分の身勝手で招いた結果であり、また和平樹立のために梅花がどれほど協力してくれたかを話さなければ南海覇王で斬り捨てていた。
誰もが静かに梅花を見守る。
「依存ございません」
力強くないがはっきりとした声で答える梅花。
「では呉に服従する「待ってくれ」……一刀?」
一刀が前に出るとわずかばかりにざわつきが起こった。
ただ雪蓮だけはいつものように微笑を崩していなかった。
「蓮華、前にも言ったけど山越とは対等の関係でいてほしいんだ」
「対等などありえないわ」
蓮華には一刀の言葉をすぐに理解できなかった。
「俺はここにいる山越の王に約束したんだ。共に平和を築いていこうって。それにはどうすればいいか考えた。そしてその答えは対等な関係だ」
上下関係を作ってもいつかは破綻を生じさせる。
そうなったとき、力で押さえつけようとする側、それに反発をしようとする側、争いの火種になりかねなかった。
それでは何のために血を流したのかわからなかった。
「しかしあなたを殺そうとしたのよ?」
梅花が捕虜になる原因になったのは一刀を襲うという命を受けたからった。
いくら未遂で終わったかといってもそれを実行しようとしたという事実が蓮華にとって許されるものではなかった。
「服従だけでも十分すぎるほど譲歩しているのよ?それを対等な関係なんてありえないわ」
蓮華は呉の王としてよりも一刀の妻としての感情が僅かに上回っていた。
「それじぁあ何も解決しない。もう上下関係で平和を築くことはできないんだ」
「しかし……」
「じゃあ仮に蓮華の言うように服従したとしよう。でも、その先に何があるんだ?」
「そ、それは……」
蓮華は言葉を詰まらせた。
彼女も頭の中でも理解できていたが、感情で許せないものがあるため素直になれなかった。
「孫権様」
考え込んでいた蓮華に梅花は声を掛けてきた。
「アタシはここにいる天の御遣いと我が友である魯粛に共に生きようと誓いました」
それに応じるように真雪が諸将の中から出てきて梅花の隣に膝をついて主君を見上げた。
「孫権様、私からもお願いしますでしゅ」
共に過ごした真雪も一刀の意見に賛成だった。
「私もこれ以上、誰を恨んだり誰かから恨まれたりしたくないでしゅ」
「共存をするといっても山越は負けたのだから臣下として接するのが普通でしょう?」
「それは違うよ」
どこまでも臣下にこだわる蓮華に一刀は優しく否定した。
「戦の勝ち負けをいうのであれば俺達は負けていた。事実、俺の身勝手な行動で負けかけていた。でもそれでもこうして生きているのはどうしてだい?」
「それは私達が…………!?」
蓮華は何かに気づき、それを見た一刀は満足そうな笑みを浮かべる。
「そう。みんなのおかげだよ。だから今度は梅花達も含めてみんなで助け合っていくんだ」
同じ大地で生きる者としてお互いを認め合い、そして手を取り合えっていくことこそが真の平和へと続く。
「蓮華。俺は蓮華と梅花が仲良く手を取り合っていく姿がみたいんだ。確かに色々と問題も出てくる。でも、それだって協力していけば解決できる。そう言ったじゃないか」
何度かの会談で蓮華自身がそう口にしていた。
蓮華は周りの者を見渡し誰もがこれ以上の争いなど望んでいないことを感じ取った。
そしてそれまでの態度が嘘のように清々しい表情を浮かべた。
「蓮華?」
「山越の王に告げる」
一刀から梅花へ視線を移動させた蓮華は壇上から降りて梅花の元へ行き、膝をついて彼女の手を握った。
「一刀がこう言っているが貴女はどう思っているのかしら?」
梅花は一瞬、一刀のほうを見たがすぐに蓮華の方に視線を戻して堂々と答えた。
「アタシは山越だけではなくみんなと平和に暮らしたい。そのためならどのような苦労も厭わない覚悟はしているつもりよ」
「そう。なら私からお願いよ」
「お願い?」
「これからも共に生きていきましょう」
蓮華は王としてではなく一人の人として梅花にそれを望んだ。
無論、梅花には断る理由はなかったため即答した。
「もちろん」
握られた手を握り返した梅花は笑みを浮かべると、蓮華は共に立ち上がりその場にいた者達にこう宣言した。
「ここにいる山越の王は今日から我らの友である。これまでのことは忘れることは出来ないが、もはや憎しみだけがすべてではない」
堂々とした態度に諸将は納得するかのように頷く。
「魏の王、蜀の王よ、ここで誓約したことの証人になってもらえるか?」
壇上に座っている華琳と桃香は真剣な表情でここまでの流れを見ていた。
「いいわよ、呉の王よ。その誓約確かに見届けたわ」
「わ、私もです」
二人の王は呉と山越は手を取り合い共に生きていくこと誓約の証人となった。
「これからの為に私の真名を授けたいのだけどいいかしら?」
意外な申し出に梅花は驚いたが、すぐに笑みが回復して頷いた。
「アタシの真名も呉の王に授けるわ」
二人はお互いの真名を授けあい、共に歩む平和への道に第一歩を踏み出した。
「ところで梅花」
「なに?」
「お姉様から聞いたのだけど、そ、その……一刀のこと……」
「好きよ?それがどうかしたの?」
別に隠すほどでもないと梅花は思っていただけに正直に答えた。
「本当は山越にきてもらおうと思ったんだけどね」
「えっ?」
思わず一刀の方に振り向く蓮華に一刀は不思議そうな顔をする。
「でも、今はまだいいわ」
「どうして?」
「だって一刀がアタシ達を救ってくれたのならそれに応えるために立派な山越の王にならないと恥ずかしいから」
自分の成すべきことをしてから改めて一刀に告白をする。
それが梅花の本音だった。
「だから、アタシに連れて行かれないようにしっかり捕まえていなさいよ、蓮華♪」
「……そうね。取られないようにしっかり躾しておくわ」
「躾?」
「あ、い、や、な、なんでもないわ」
こっちも思わず本音がこぼれかけたため、蓮華は慌てて誤魔化したが梅花にはそれがおかしかった。
「な、なんにしてもこれからよろしくね、梅花」
「こちらこそ」
もう一度二人は固い握手を交わし笑顔を見せ合った。
そして離別の日。
「華雄、今度また手合わせしてよね」
「ああ、いつでも相手になってやる」
費桟と華雄は再戦を約束する。
「なんや、うちにはしてくれんのか?」
少し不満そうに言う霞に費桟はなぜか睨みつけていく。
「な、なんや?」
「あんたは華雄の次に勝つ!」
負けたことがよほど悔しかったのか、費桟の言葉に力が入った。
「絶対勝つからみてなさいよ!」
「楽しみにしてるわ」
嬉しそうに答える霞に費桟は素っ気無く手を差し出した。
「それまでのお別れよ」
わずかばかり頬が紅くなっている費桟に華雄と霞は笑みを浮かべ、その差し出された手に自分達の手を重ねていった。
「あんたも元気でな」
「何かあればいつでも来い」
「当然よ」
二人の言葉に元気よく答える費桟の表情は明るかった。
「それと、華雄」
「なんだ?」
「アタシを助けてくれてありがとう」
自害を図ろうとした費桟を止めた華雄は、傷が癒えるまで彼女から離れることはなかった。
なぜそうしたのか華雄にはわからなかったが、その言葉を聞いて何となく理解できた。
「気にするな。我が主が望んだことをただしただけだ。だが」
華雄は優しく費桟を見る。
「生きていればいつでも会える。そしてお互いの守るべきもののために武を極めようではないか」
「……そうね」
「そや♪それでこそ武人や♪」
霞に抱きつかれる二人は困った顔をしながらも自然と笑みがこぼれる。
「華雄に飽きたらいつでもいいなよ。うちはいつでも相手するさかい」
「張遼、それは言いすぎだぞ」
「ええやんか。うちかて強い奴と戦いたいねん」
華雄にばかり懐くため焼きもちをやく霞。
「その時は華雄と二人で戦うわ」
「それはいい考えだ」
「えげつないこと考えるな~。まぁええわ。それもまた一興や♪」
そう言って三人は笑った。
少し離れたところで京と黄乱が立っていた。
「背中、もういいの?」
先に切り出したのは黄乱。
「アレぐらいの傷で動けなければオイラは誰も守れないよ」
「謝るつもりはないわ」
「謝られる筋合いもないよ」
お互いの全力をぶつけ合った二人にとって言葉で通じ合うのは難しかった。
「太史慈」
「うん?」
「今度は正々堂々と戦えって言ったら戦ってくれる?」
それは黄乱にとって遠まわしな謝罪のようなものだった。
京はそのことがわかっていたが、同じく遠まわし的な言い方で答えた。
「オイラはしばらく女らしくするつもりだけど、それが終われば挑戦状を叩きつけてあげるよ」
「女らしく?」
黄乱としては耳を疑うような言葉だったため思わず声が裏返った。
「なんだよ。オイラが女らしくなったらだめなのか?」
「…………ありえない」
「なんだって!」
唖然としている黄乱に京はほんの少しムッとした。
「もしかして前に言っていた好いた人?」
今度は京が顔を紅くした。
「どこにあんたみたいなガサツな女を娶りたいなんていう奴がいるのよ?」
「いるんだから仕方ないだろう」
「誰よ?教えなさいよ」
もはや戦うとかそういうのではなく、別の意味で気になって仕方ない黄乱はしつこく京から聞き出そうとする。
「ひ、秘密だよ」
「アタシとあんたの仲じゃない。言いなさいよ」
「絶対言わない」
「ケチ!」
気がつけば二人とも笑顔だった。
「どうしても知りたければいつでもおいで。その時に紹介するよ」
「本当ね?約束よ」
「いいよ」
二人はそう言って再会を約束した。
恋と尤突は黙ったままお互いを見ていた。
天下の飛将軍と戦い尤突は完膚なきまでに叩きのめされたことが今では誇らしかった。
「恋」
「……?」
「また戦いたい」
山越のためではなく自分の純粋な気持ちから恋と戦いたい気持ち。
「今度は負けない」
尤突の言葉に恋は一刀の方を見た。
「恋?」
戦うことに反応を示さない恋に尤突は不思議に思った。
同じように一刀の方を見ると、彼女が何を言いたいのか何となく理解できた。
「あの男のこと好き?」
「(コクッ)」
恋は一刀のことを聞かれると表情が柔らかくなる。
「ご主人さま大好き」
彼を愛する者と同じように身も心も捧げている恋にとって戦うよりも一刀と共に過ごす時間の方が遥かに価値のあるものだった。
「だから戦わない」
恋の気持ちに尤突はどこか羨ましいものを感じていた。
心から好きだと思える相手がいるだけで恋のような武人が安心して眠れる場所があることは、一度も男を好きになったことのない尤突にとってもしかしたら必要としている者なのではないかと思った。
「恋」
「?」
「今度、会いにいく」
それた敵同士などではなく、一人の知人として友としてであった。
「友になってくれる?」
恋は周りでも別れを惜しむように賑やかに話をしている者達を見て大きく頷いた。
「尤突」
右手を差し出した恋に尤突は自然と右手を差し出して握り合った。
「また会う」
「会おう」
戦いを通して結ばれた友情はこの後も続くことになる。
「恋殿~~~~~。ねねは感動していますぞ」
傍では二人の握手に感動したのか音々音が大泣きをして喜んでいた。
「尤突殿、これからも恋殿と仲良くしてくだされ」
音々音の願いを尤突は頷き、しっかりと受け入れた。
そして最後の一組。
王としてこれからやることが山積みの梅花を一刀、雪蓮、それに蓮華達が見送っていた。
「何か困ったことがあればいつでも言えよ?すぐに助けに行くからな」
一刀の言葉に梅花は頷き、手を差し出した。
「うん、その時はお願いするわ」
同じように手を差し出して一刀の手を握る梅花。
「これから大変だろうけど、梅花ならやれると思う」
「できるかな?」
「できるさ。まずはそう思うことが大切だよ」
何事にも不安はつきものである以上、それにどう立ち向かうかが重要だった。
「出来ないことがあれば俺達がいる。そうだろう?」
一人では出来ないこともみんなで考えれば出来る。
それが一刀の考えている平和の形の一つでもあった。
「そうよ。私達はこれからの平和な世をしっかり守っていくのだから」
蓮華も同じ王として梅花を励ます。
「そうね。アタシ達がしっかりしないと次の時代に渡せないものね」
「大丈夫よ。蓮華よりしっかりしているのだから、うまくやっていけるわよ♪」
「お、お姉様!」
雪蓮のどこか意地悪な笑みに蓮華はつい声を高くしてしまった。
「蓮華だってしっかり王様しているよ」
一刀は雪蓮が本心で言っているわけではないことぐらいお見通しだったが、あえて蓮華が頑張っていることを口にした。
「あ、ありがとう……一刀」
自分を支えてくれる一刀にそう言われると顔を紅くしてしおらしくなる蓮華に周りからは笑みがこぼれていく。
「これだけの美女に囲まれて一刀は果報者ね」
「そうか?いろいろと大変だぞ?」
「たとえば?」
「夜とかほとんど毎日だから翌朝が辛いの何の」
「あら、それは一刀が悪いのよ」
雪蓮だけではなく、彼と閨を共にした者であれば誰もがそれに賛同した。
「な、なんでだよ?」
「だってそうじゃない。私達が許してっていっても許してくれないのはどこの誰だったかしら?」
余りにも生々しい発言に何人かが顔を紅くしていく。
「雪蓮様……少々この場で言うものではないと思いますが」
思春ですら思い出したのか顔が紅かった。
「桃香」
「なんですか、華琳さん?」
「呉はこの先大丈夫かしら?」
一人の男のためにここまで感情が激しく揺れ動く蓮華達に呆れている華琳に桃香もどう答えたらいいのかわからなかった。
「いいなあ~。楽しそう」
梅花はそんな一刀を中心とした呉が羨ましくてならなかった。
「落ち着いたら来いよ。そのときはいろいろと案内するよ」
「一刀と二人で?」
「「「「「「だめっ!」」」」」」
仲良くはなっても一刀に関してだけはまだまだ許容できるものではなかった蓮華達。
「よほどアタシに取られたくないみたいね」
「ははは……」
梅花は呆れ一刀も苦笑するしかなかった。
「こんなうちだけどいつでもいらっしゃい。歓迎するわ」
雪蓮は梅花に手を差し出すと梅花もそれを握り返した。
「ありがとう。一刀達も山越に来たいときは歓迎するわ」
「うん。じゃあそれまで」
「元気でね」
雪蓮の手を離した梅花はそのまま一刀に近づいていき口付けを交わした。
「「「「「「あ~~~~~~!」」」」」」
された一刀は呆然として周りの蓮華達はまた声がハモった。
「一刀、今度ゆっくりと二人で話しましょう♪」
それだけを言い残して馬に乗った梅花。
そして腰に下げていた剣を鞘から抜き天に向かって掲げた。
「我らが天の御遣いに誓う。山越は末代まで制約を守ろう」
「「「「「おぉーーーーー!」」」」」
山越兵が一斉にそれに応えるように雄叫びを上げる。
「一刀」
「お、おう」
「アタシは立派な山越の王になる。一刀や蓮華様達にしっかり見てもらえるように」
梅花の心からの言葉に一刀だけではなく蓮華も王として更なる高みを望むようになった。
「またね、みんな」
馬を動かし梅花は一刀達に別れを告げる。
それに従うかのように山越兵達はゆっくりと故郷へ戻っていった。
「行っちゃったわね」
「そうだな」
一刀と雪蓮はそっと手を握り合った。
「さあ、俺達も帰ろう」
月達と子供達が待つ建業へ一刀達は戻っていった。
(座談)
水無月:足掛け100P超えたかな?というぐらい長い話でした。
亞莎 :お疲れ様でした。
雪蓮 :これで山越編は完結ね。
水無月:そうですね。今回はオリジナルキャラクターがかなりいたのでどうなるか実は不安満載でしたがなんとか乗り越えれました。
冥琳 :ということは次はいよいよ?
水無月:そうです~。みなさんの娘のお話です~。詳しい事はこのあとのお知らせを読んでくだされば嬉しいです。
雪蓮 :すぐ書けるの?
水無月:一話自体は短いですよ~。出来る限りの濃縮したものにしたいとは思っています。
雪蓮 :頑張りなさい♪
水無月:はい!というわけで次回から娘編です。山越編を読んでいただい心よりお礼を申し上げます。
(お知らせ)
いつも「江東の花嫁」シリーズを読んでいただきありがとうございます。
無事に山越編も終わりいよいよ娘編に突入にします。
以前にも申しましたがこの娘編次第で最終話が変わります。(現時点で最終話は出来ています)
人数も多いため組み合わせてもかまいませんのでアンケート方式で応募させていただきます。
対象は一刀と結ばれている(山越編終了時点)女性陣の娘(もしくは息子)です。
応募方法は母親の名前を書いてください。(例:雪蓮)または(例:雪蓮と冥琳)
全部で10話予定ですので皆様のご応募を心からお待ちしております。
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山越編最終回です。
今回は色々と訃報を聞いてしまい気持ち的にも落ち込みましたがなんとかここまでやって来れました。
自分としては初の長編の話だったため色々と考えなければならない所が多く感じました。
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