No.973827

紫閃の軌跡

kelvinさん

第146話 『絆』の力、目覚めし境地

2018-11-15 15:17:05 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1761   閲覧ユーザー数:1656

~エレボニア帝国クロイツェン州上空~

 

 貴族連合の旗艦『パンタグリュエル』。白を基調とした全長200アージュを超える戦艦。そのブリッジに招かれたリィンは総参謀のルーファス・アルバレア、“裏”のメンバーである<蒼の深淵>ヴィータ・クロチルダ、<蒼の騎神>オルディーネの起動者であるクロウ・アームブラスト、そして……彼の眼前に映る人間こそ貴族連合の総主宰―――クロワール・ド・カイエンその人であった。

 

「まずは我々の招きに応えてくれたこと、真に感謝している。生憎と荒っぽいやり方をしてしまったことは否定できないだろう。君のその表情を見れば、少しは解るというものだ。リィン・シュバルツァー君……いや、<灰色の騎士>とでも呼称したほうがよろしいかな?」

「………思うことは色々あります。ですが、俺と攫われた妹のソフィアは元エレボニア帝国貴族という括りになること。それが何を齎すのか理解されているのですか?」

 

 聞きたいことも言いたいこともある。だが、まずはその点を問いかけなければ話にならないだろう。謝罪らしい言葉を一つも発しないあたりで帝国では元公爵というシュバルツァー家の人間を下に見るような言い方は気になるが、その感情を抑えつつ発したリィンの言葉にカイエン公は笑みを零した。

 

「無論理解はしているとも。彼らとて一昨年の<百日事変>の折、鉄血宰相ギリアス・オズボーンが仕組んだ妨害に遭っていた。我々も宰相によって歪んでしまったエレボニアのあるべき姿を取り戻すために行動を起こした。その意味で我々はリベール王国と歩調を合わせられるであろう。君の妹御はエルウィン皇女殿下の付き人に近い立場にある。ユミルが襲撃され、あくまでも安全を保障するために我々が進んで保護しただけのことだ」

 

 言い分としては一応の整合性がとれている。だが、だからといってソフィアを返還しないという理由にはならない。リベール王国の中枢に近い立場にいる父だからこそリベールの情報も得られている。その後も様々なことを問いかけたが、そのどれもが楽観視しているような内容ばかり。まるで現実が見えていないのか、それとも自身も経験したような埒外の存在を切り札として持っているのか……リィンには測り兼ねていた。

 

「無論、先程ルーファス君からの提案を受ける形ではあるが、君や君の大切な人たちへの配慮も無論である……なに、まだ時間はある。ゆっくりと考えられるがよいだろう。客室への案内は……<蒼の騎士>殿にお任せするとしよう。よいかな?」

「―――ああ。口答えできる立場でもないからな」

 

 そうしてリィンが招かれた一室。戦艦とは思えないほど豪華な造りで、大貴族らしい趣向が見て取れた。その部屋で一夜を過ごしたリィン……すると、そこにバスケットを手にしたクロウが姿を見せた。流石に敵側なので少し警戒をするリィンを見てクロウはやれやれ、とでも言いたげに顔を顰めた。

 

「しっかし、カイエンのオッサンの招きにあっさり応じてくれるとはな。おかげでこちらのやる気は削がれちまった」

「はは……あの場で断ったら、間違いなくクロウが出てくると思ってた。それに、ソフィアの手掛かりがなかった以上、敵陣に乗り込む博打ぐらいは打てないと誰かさんには勝てないさ。ところで、それは?」

「ああ。昼飯でもどうだ? 今すぐにでなくともいいが」

「いや、いただくよ」

 

 バスケットにはフィッシュバーガーと付け合わせのフライドポテト。ジュライならではのソウルフードであった。貴族らしからぬ食事ではあるが、元々豪華な食事をすることが少ない実家のこともあって、こっちのほうがいいとリィンは語る。

 

「ったく、つくづく貴族らしからぬ奴だな。でも、こういう奴のほうが割と長生きするから手におえねえ」

「はは……そういえば、8月の実習ではその……帰ってたってわけか」

「知ってたのか? って、多分ヴィータの奴だな。つっても、向こうに俺が暮らしていた痕跡なんて家族の墓ぐらいしか残ってねえがな」

 

 クロウは話した。

 ジュライ特区の前身であるジュライ市国。沿海州であるエレボニア帝国西部、ノーザンブリア、レミフェリアとの海上交易で栄えていた都市国家。だが、ノーザンブリアの『塩の杭』による影響は交易の縮小という形でジュライ市国にも暗い影を落としていた。当時ジュライ市国の市長であったクロウの祖父は漁業資源などを有効活用してノーザンブリアを支援しつつ交易圏の回復を図ろうと尽力していた。

 

「祖父って、両親は?」

「幼いころに亡くなっちまったのさ。爺さんは厳しかったが茶目っ気もあって、市民からも慕われていた……ジュライ市国最後の市長」

 

 国の立て直しが思うように進んでいなかった頃、隣国であるエレボニア帝国から提案が出された。鉄道網を帝都から延伸させてジュライ市国にまで伸ばす計画。市議会が賛成に回って、計画は進められた。そして鉄道開通によって国としての再建は進んでいった……同時に、ジュライ市国がエレボニア帝国なしに経済を独り立ちさせられない状態へと繋がっていった。

 そんな時に鉄道の爆破事故が発生した。その復旧に帝国政府は“待った”を掛けて安全保障の脆弱性を理由に帝国資本をジュライ市国から引き上げさせた。そして、弱り目に祟り目の状態となったジュライ市国に対して帝国宰相ギリアス・オズボーンが帝国正規軍の駐留―――実質的な帝国支配を受け入れるのが引き上げた帝国資本を呼び戻す“条件”として提示された。本人が直接市長であったクロウの祖父に。

 何とか抗おうとしたところで市長当人に爆破事故の容疑がかけられた。無論市民の誰もが解っていたことだった……誰が犯人なのかも。だが、豊かさという魅惑の果実に対する欲には抗いきれず、そんな市民を抑え切れるわけもなく市長は職を辞した。その同日にジュライ特区としてエレボニア帝国の一部へと組み込まれた。

 

「その後、クロウのお祖父さんは……」

「ああ、ポックリ逝っちまった。ジュライのために頑張ってきたというその意思を<鉄血>に根こそぎ奪われたからな……言うなれば、糸が切れちまったのかもな」

 

 その後、クロウはジュライを去った。そしてカイエン公と出会い、同じような志を持つ仲間を集めて<帝国解放戦線>を結成した。そして<蒼の騎神>オルディーネの起動者に選ばれた。

 クロウ自身にとってギリアス・オズボーンという存在をただ悪として定めていたわけではないと話す。

 

「奴から見れば俺達は悪となり、その逆の視点もそうなっちまうのも理解してる。それでも、祖父さんがしてやられたとあっちゃ、“弟子”としては師匠の敵を討ちたくなるもんだろ? ……まだ先の見えない内戦がどんな終わりを迎えるかなんて解らねえが、それでもその日まで抗い続けてやるさ」

「クロウ……何というか、ありがとう」

「そこでお礼とか、やっぱ変わってるな……一応“客人”扱いで、逃げたけりゃ好きにするといい。だが、ここには結社や猟兵の連中にヴァルカンやスカーレットもいる。それらを乗り越える自信があるなら、止めやしねえよ」

 

 そう言ってクロウはバスケットを手にしてその場を去った。問題はこの艦のどこかにソフィアが匿われているのかどうかなのだが……すると、部屋の通気口のほうから物音が聞こえてきた。最初は敵の監視役かと思ったのだが、感じられる気配に覚えがあり近づこうとしたその時、突然艦全体が揺れてリィンは壁に手を置いて何とかこらえる。そして通気口から可愛らしい悲鳴が漏れた。

 

「……えと、ひょっとしてエルウィン殿下なのですか?」

「…もしかして、リィンさんですか!?」

「ちょっと待っててください……少し離れててください」

 

 リィンは太刀でダクトの格子だけを綺麗に斬り、そこから皇族の服を着ているエルウィン皇女が姿を見せた。いろいろ言いたいこととかはあるのだが、その前にリィンは一番大事なことを小声で尋ねた。

 

「その、どうして殿下が通気口から出てきたのかが一番気になるのですが」

「はい。実は……ソフィアとも関係があります」

「え?」

 

 自分の妹のこととエルウィン皇女が通気口から出てきたことがどうやったら結びつくのか首を傾げるリィンに、エルウィン皇女は説明を始めた。

 この艦にいたカイエン公とヴィータは先に飛行艇で帝都に向かったらしく、その第二陣としてルーファスとソフィアが艦を離れる予定らしい。帝国各地を回る際の“神輿”とされてしまったエルウィン皇女はそれを止めることもできず……ならば、いっそのことほかの家族と幽閉されることも覚悟の上でダクト内を進んだところ、ちょうどリィンのいる客室に偶然辿り着いたらしい。

 

「その、もう少し御淑やかと思っていたのですが」

「ふふっ、これでもアルフィンの姉ですから……でも、どうしてリィンさんがここに……」

「えと、実はですが……」

 

 カイエン公に脅される形で乗り込んだこと。そして彼やヴィータ、ルーファスの言葉を聞いて、確かに内戦を速やかに終結させるのが一番犠牲の出ない方法である。人質となっているソフィアのことを考えると、協力するべきではないのか悩んでいた。かと言って、どちらかに加担するのも自分が今までにしてきたことからして、納得できないのも事実。12年前にシュバルツァー家に引き取られ、エリゼとソフィアの兄としてあり続けたこと。

 揺れ動いているリィンに喝を入れたのは、エルウィン皇女の言葉だった。

 

「『誰かを理由にして己の信念を曲げるな』―――ふふっ、いい言葉ですね」

「その言葉……確かアスベルの」

「はい。彼も剣の師から教わった言葉らしいですが……リィンさん。貴方が8年前に遭った出来事はエリゼから聞きました。それがきっかけで剣の道を志したことも」

 

 それがいけないこととは解っていた。でも、そんな兄の罪悪感を理解しているという優越感を、妹であるエリゼとソフィアは申し訳なく思いながらもその心地よさに甘えてしまっていた。でも、それが結局は自分たちの我侭にすぎないのであると。だからこそ、エリゼも自分とは別に剣の道を志し、リベール本国で親衛騎士として務めている。ソフィアの女学院行きの理由も似たようなものであった。これ以上自分の兄を無用の罪悪感で縛りつけたくない……彼を兄ではなく一人の男性として支えるために自分のできることをする、とエルウィン皇女は彼女たちから聞いた話から推測した言葉をリィンに言い放つ。

 

「―――だから、リィンさん。どうか、あの子を『理由』にしないであげてください。だって、あの子は貴方が本当に望む道を見つけることを誰よりも願っているのだから。貴方が士官学院に入って、色んな仲間の人たちと出会って―――あの子は妬いたり寂しく思いながらも、心の中ではとても嬉しそうだったんです」

「……あ………」

 

 エルウィン皇女の言葉でリィンは以前カシウス中将から言われたことを思い出す。

 

『昔、うちの息子にも言った言葉なのだが……人は、様々なものに影響を受けながら生きていく存在だ。逆に生きているだけで様々なものに影響を与えていく。それこそが『縁』であり―――『縁』は深まれば『絆』となる。そして、一度結ばれた『絆』は決して途切れることがないものだ。遠く離れようと、立場を違えようと何らかの形で存在し続ける……君も、それが理解できる時がきっと来るはずだ』

 

 支えるだけではなく、いつしか支えられていた。そのことをこの状況になるまできちんと理解できていなかった。家族やユン師父、<百日事変>で培った絆や“Ⅶ組”を含めた士官学院の仲間たち。そして、それを支える教官陣や大人たち……『絆』の強さを、この内戦でリィンは感じ取っていた。ならばこそ、ここからが出発点なのだろう。

 すると、自分の内から湧き上がる力にリィンが気付く。それは8年前をきっかけに発現した力ではあるが、今までと違って寧ろ心地よさすら感じる紅き力。すると、自分の目の前にはアスベルの姿があった。実際にいるわけではないのに、まるで当人がそこにいるかのような感覚だった。

 

『やっとお目覚め、といったところか。寝坊にも程があるとは思うが……まあ、お前としては女の子のほうがよかったか?』

「ここでもそれを言わないでくれ……でも、これは一体……」

『―――“反転”の力でお前の“呪い(のろい)”を“呪い(まじない)”に変換する刻印術。まあ、それが出来る人物がある程度近くにいないと発現できないけれど、発動したということはそういうことなんだろう。リィン、力はどうあろうとも力でしかない。その力の意味は何を以て示されるのか……それは、今度会う時までの宿題としておこう』

 

 そう言って光となって消えたアスベル。エルウィン皇女から見れば、リィンが心ここにあらずといった状況だったようで、じーっという擬音が聞こえそうなほどに見つめられていた。これにはリィンも我に返って慌てて取り繕っていたのであった。リィンの中に眠っていた“鬼の力”。それを反転させたことで、彼自身の魂の器が反応し、新たな境地を見出した。獅子心の魂、その一端を受け継いだ彼が目覚めた力―――神気合一『柳刃雀火(りゅうじんじゃっか)』の境地へと。

 

 

ようやっとテコ入れできました。

ここで覚醒イベント入れた理由はⅢ編の道筋がある程度固まったからです。

 

 そして、そろそろキャラ別の絆イベント描写も入れて個々のキャラ補完していかないといけないかなと思ってます。特にアーシアのキャラの掘り下げがほとんどされずに放置していた事実に気付くという(自業自得)

 

 暁のキャラも出したいところではありますが、何せゲーム自体あまりやってなくてまだ女王生誕祭のあたりで止まっているというオチ。なおうちの現有最高戦力はレンちゃんです。次点はティータ……私にアガットみたいな趣味は(ヴォルカニックダイブ!)

 


 
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