No.973825

紫閃の軌跡

kelvinさん

第144話 意外な成長と早い誘い

2018-11-15 15:11:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1662   閲覧ユーザー数:1552

~エレボニア帝国クロイツェン州 バリアハート市~

 

 リィン達は市内で困った人たちを助けつつユーシスの情報を集めている最中、アリサと同じ部活の先輩であるテレジアと再会して、情報交換をすることになった。テレジアから聞こえてくるのはエレボニア帝国貴族の実情―――“戦勝”という言葉に踊らされた人たちの先の見えなさを知ることとなる。

 

「―――そうね。うちの家族も似たようなものよ。いつも以上に呑気に暮らしてるわ」

「国が違うだけでここまで変わるものなのですね。私も留学していなければ、きっとオルディスだけの事ばかりしか知らなかった気がします」

「アーシア……」

「けど、ここまで情報に差異が出ているとなると……かなり情報操作に重きを得ているようですね」

 

 リベール王国側の状況は王家に近い立場にいるからこそ正確な情報が得られてきたが、国境一つ越えるとその情報にも差異が生じている。ケルディックとノルドでは帝国の外だった故、帝国内の情報の流れ方を知ることは出来なかった。街中の人々の声を聞いたが、そのどれもが貴族連合の勝ちは揺るがないということも……

 

「うーん、やっぱり事実を伝えるのは拙いからかな? そういうのって敏感に反応しちゃう人はいるだろうし……って、どうしたの?」

「いや、ミリアムでも抑えることは出来るんだなって感心してたよ」

「むー、ボクだってデリカシーぐらいはあるよ!」

 

 この街だとやはり結構領邦軍がいることぐらい解っているようで、ミリアムも抑えた発言をしたことに周囲は感心したような表情を向けていた。これにミリアムが反論した言葉をテレジアも思わず苦笑してしまった。

 

「ふふふ、ごめんなさい。……でも、実際の状況はあまり良くなさそうなのね」

「……ええ、残念ながら」

「それは察していたわ。本当にそうなら、他の学院生ととっくに連絡出来ていてもおかしくないもの……まあ、エミリーなら持ち前の熱血で何とかしそうだけれど」

「えと、それは……否定できないですね」

「でしょう? まあ、あの子にも出来ないことはあるけど、逆に便りがないからこそお互いにまた会えるよう頑張っていると思えることもあるし。これもあの子の受け売りね」

 

 ユーシスについては何とか伝手をあたってみると言い、テレジアはその場から離れた。こんな状況でも頑張ろうと動いている“Ⅶ組”が羨ましいと零して。彼女の分まで頑張ることを改めて決意し、再び情報収集に戻る。その中でユーシスと関わりのある方の伝言ゲームのごとくリィン達が辿り着いた先はバリアハート空港に停泊している飛行船の中であった。

 そして、リィン達は無事にユーシスと再会できた。出会い頭にミリアムが抱き着こうとするが、それをサラッと躱したことにミリアムがブーブー言いながら文句を言う。

 

「久しぶりだな、リィン。ほかの面々とも再会したようだが」

「ひっさしぶりー!!……って、なんで避けるのさ!!」

「いきなり抱き着こうとするな、阿呆が。というか、リィン……お前も本当に罪な男だな。こうして何かを成し遂げる強さもそうだが、自然と女性を引き付ける強さもな……どこまで行くつもりかはしらないが」

「マキアスにも同じこと言われたよ……さすがにこれ以上増えないと思うけれど」

「うーん、どうなんでしょうか……」

「あと2,3人は最低でも増えそうですけど」

「うぐっ……」

 

 最低でも複数というアーシアとステラの言葉にリィンは項垂れてしまう。とりあえず気を取り直してユーシスと向き直った。何にせよ、“Ⅶ組”がトリスタ郊外で別れた四人とクロウ以外の全員が揃ったことになる。だが、ユーシスの表情はどこか優れないことにリィン達は気付いていた。

 

「……お前たちも気付いているんだろう。俺が実家であるアルバレア家の人間として、父の手伝いをしていることぐらい、お前達も気付いているんだろう?」

「それは……」

「そして、父は……雇っている猟兵を使って、お前の故郷であるユミルを襲った。俺にとっての―――」

「ユーシス。父さんは既に目も覚めて、傷も完治した。治してくれた人とは会えていないが……この立場になって解る。貴族としての立場と役目、課せられた義務……でも、それがユーシスにとってそれこそが本当に貴族たる責務であると、本気で思っているのか?」

 

 シュバルツァー家が男爵位から公爵となり、リベール王国に移ってからは侯爵となった。自身に課せられた貴族の御曹司という責務をリィン自身も果たしてきた。ユーシスが本当に自分から納得したのであれば、こうして合わずに追い返すこともできたであろう。とりわけこのバリアハートはアルバレア家のお膝元。そうすることも可能だったはずだ。

 

「俺たちと出会って立場の違いを鮮明にしたかったのは、単なる言い訳でしかないだろう。だったら、伝言を一言残して俺たちを遠ざけても不思議じゃなかった。きっと、父さんがここにいたら叱って引き戻していただろうからな」

「ああ、確かに侯爵閣下ならそうしていただろうな」

「リィンさん……」

「アハハ、流石リィンだね!」

「こういうところは本当に憎めないのだがな……」

「……迷いをあっさり見抜くとはな。だが、それでも俺は『アルバレア』の人間だ。お前たちがここまで知って引き下がらないというのなら、約一ヶ月前のお前とクロウのように勝負で決着をつけるしかあるまい」

 

 そうして始まったリィンとユーシスの勝負。それは、以前峡谷道の手配魔獣に遭遇した場所まで導力バイクと馬で勝負するというものだった。久々のバイクというぶっつけ本番だったが、なんとか勘を取り戻してユーシスに第一ラウンドは勝つことができた。

 だが、勝負はここからが本番。ユーシスの腕前は既に師範代クラスとヴィクターは言っていた……ならば、ここが腹を括るとき。リィンは決意を新たにユーシスに挑んだ結果……

 

「……」

「……フッ、流石だリィン」

 

 先に膝をついたのはユーシスのほうであった。一方のリィンは今まで強いという感覚がどうにも掴めていなかった。この結果に周囲の人々も驚いていた。

 

「ホント凄かったよ!」

「いや、正直ミリアムやエマ君がいなかったら危なかった」

「いえ、私はそれほどでも」

「でも、事実ですね。正直リィンさんの強さはあまり見たことがありませんでしたが……」

「まあ、皆さんはアスベルさんやルドガーさんの強さを見てしまっていますから、どうしても霞んでしまうのではと思われますが……」

「だろうな。アイツらの強さは正直別格だ。日ごろから目の当たりにしていると、その強さの基準がどうしても狂ってしまう……お前さんたちの違和感はきっとそれだろうな」

 

 シャロンとトヴァルの言葉を聞いて『それは確かに……』とそこにいた“Ⅶ組”一同が納得した。すると、そこに水を差すような物言いで乱入してきた人物が二人。

 

「感動ものもよろしいですが、そこまでですわ!」

 

 一人は騎士甲冑を身に着けた女性で、もう一人はヤル気がなさそうに気怠そうな表情を隠そうとしていない。だが、双方ともに凄まじい使い手であるとリィンは感じていた。

 

「ここからでもかなりの使い手と見えますが……」

「ええ。片方は<鋼>の直属部隊ですが、執行者クラスと思っていただいて構わないほどの実力者。もう一人の男性は……正直“別格”ですけれど」

「って、こらー! 勝手に人のセリフを取らないでくださいませ!!」

「いや、そちらがそこにいる時点で文句を言われる筋合いがないと思うのだが……」

 

 なんだか調子が狂う物言いをする女性は遠くの高台からこちらに飛び移ってきた。その気怠そうな男性はというと、一緒に来るような気配でもなかった。これには女性が叫ぶように声を上げた。

 

「さて、自己紹介を―――って、飛び移ってこないんですか、貴方は!」

「なんだぁ? その程度の奴らぐらいお前ひとりなら頑張っていけるだろう?」

「無茶言わないでくれますか!? 近づいたからこそ分かりますが、彼ら学生という身分詐欺するぐらい強いんですの!! 二名ほど違いますけど!!」

「……何なんだ、コイツは」

「ボクも聞きたいぐらいかな」

「ミリアムちゃんがかえって冷静に……」

「これは、明日のユミルは大雪でしょうか」

「コラー! 人を稀少動物みたいな目で見るのを止めるんですの!! というか、貴方が動かないとダメでしょうがーー!!」

「ったく、わーったよ」

 

 一気にペースを持ってかれたせいでユーシスどころかミリアムですら冷静になっちゃう始末。それを見たアリーシャの言葉に反論しつつも男性を呼ぶと、仕方ないとでも言いたげに軽々とリィン達のいる高台に飛び移ってきた。そして、男性は“焔”を発現させる。

 

「私は使徒<第七柱>に仕える<鉄機隊>の筆頭騎士、<神速>のデュバリィです。まあ、それぐらいは覚えていきなさいな、トールズ士官学院特科クラス“Ⅶ組”の皆さん」

「俺はNo.Ⅰのマクバーン―――<劫炎>とも呼ばれてる。さて、“あの旦那”に縁のあるクラスのお手前を見せてもらおう……せいぜい俺を熱くさせてくれよ!!」

 

 この戦いをトヴァル・ランドナーはこう語った。

 

『いやー、正直最近の若者って何というか、失礼かもしれないが化け物揃いだわ。まずはラウラの嬢ちゃんがデュバリィ相手にパワーとスピードで押し切っていてな。そこにダメ押しと言わんばかりにミリアムだったか、あの子が傀儡みたいなのを巨大な黄金に光る棒のようなに変換して、<劫炎>の放つ焔を撃ち返していた。アーシアの嬢ちゃんも法剣の使い方は“アイツ”以上の素質が見られたし、アリサの嬢ちゃんは……人間辞めたのかなと錯覚するほどだった。俺、必要だったかなと思ったわ』

 

 そして、もう一人の助っ人であるシャロン・クルーガーはこう語った。

 

『そうですね。リィン様はとても“中伝”とは思えぬような剣捌きで、ステラ様は縦横無尽の弾道を放つ巧みな銃捌きを披露されておりました。あれは正直ルドガー様に劣らないでしょう。エマ様も持ち前の魔術で皆さんを的確にフォローされておりました。何よりお嬢様がアスベル様に近づこうと人間をお辞めになったのがとても素晴らしく思いますわ』

 

 自身の家族である少女が人外扱いになることを喜ぶメイドは先にも後にもゼムリア大陸でこの人だけだろうとリィンは思わなくなかった。結果としては、マクバーンの攻撃を凌ぎきり、デュバリィはその場に倒れ込んでいた。

 

「へぇー……見かけよりも面白いじゃねえか。それに、何だか“混じって”いる奴もいるようだが……じゃあ、第二ラウンドと―――」

「なら、その相手は」

「俺たちが請け負わせてもらおう」

「えっ……」

 

 両者の間に割って入り、間髪入れずの攻撃で割り込んだのはリィン達にとって担任教官である女性と、もう一人はアッシュブロンドの髪を持つ男性で、右手には剣が握られていた。

 

「間に合ったわね。ったく、正直彼の仲介でなければアンタと共闘するだなんて思ってもみなかったけれど」

「フッ、そう言いつつも腕を磨くことは止めていない様だがな」

「サラ教官!! それに、そちらの方は……」

「その人は俺たちを鍛えてくれた人だ」

 

 女性ことサラ教官とそして、もう一人の男性も自己紹介をする。

 

「レオンハルト・メルティヴェルス・ブライト。名前が長いので、『レーヴェ』でも構わない。その愛称で家族から呼ばれているからな」

「け、<剣帝>!?」

「ほう、すっかり変わっちまった『ケルンバイター』もそうだが……お前も別の意味で“混じった”ようだな?」

「<神速>に<劫炎>とは、お前たちも悪運が強いな……短期間とはいえ、直々に稽古を付けた弟子だ。それに手を出した以上、相手になってやっても良いが?」

 

 そう言い放つレーヴェの周囲に立ち上る“焔”。これは面白くなってきたとマクバーンも“焔”を展開し、このままでは山火事というレベルでは済まなくなることにデュバリィが止めようとしたその時、上空から声がかかる。

 

『―――双方とも、そこまでとしてもらおう』

 

 上空に表示されるのは貴族連合の総主宰であるカイエン公。その上には貴族連合の旗艦である『パンタグリュエル』が停泊していた。この横槍にマクバーンは興が削がれたと先程の気怠そうな表情に戻った。

 

『さて、<灰>の起動者であるリィン・シュバルツァー君。突然の申し出になるが、君を我が船である『パンタグリュエル』に招待しようと思う。無論君が断ることもできるが、その場合君の仲間や君の大切な家族を危険に晒すことになるだろう』

「!? それって……」

「ソフィアさんのことですか……」

「なんと卑劣な……」

 

 明らかに人の命を天秤にかけるような言い方。リィンは何かを決意するように、ヴァリマールを呼び出すと、セリーヌを残したままヴァリマールに搭乗した。それを見た他の面々は何をするか悟ったのだろう。リィンは他の“Ⅶ組”や助っ人の人たちにこう告げた。

 

『これもチャンスかもしれない。だから、みんなは先にユミルへ戻ってくれ。セリーヌにアリーシャ、本当に済まない!』

「リィンさん!!」

 

 そう告げると、ヴァリマールは推進機構で飛び立って『パンタグリュエル』へと向かう。それを見たかのように、上空にはルーファス・アルバレアの姿も映った。

 

「兄上! やはり、いらっしゃったのですか」

『ああ。私も“総参謀”の立場だからね。ようやく父の言いなりから逃れて動くようだが……せいぜいアルバレア家の人間として何を成せるか、その気骨を見せてもらうとしよう。それと、リィン君と君達、それに彼の大事な人については交渉の如何に問わず、トールズ士官学院の常任理事の誼で安全を保証しよう。総主宰殿、それでよろしいですか?』

『うむ。アーシアも無事で何よりだが、次男がいる以上大したことではない……頑張って生き残ることは祈っておこう』

「アンタ、自分の娘に……」

「いえ、構いません。元からこういう父親でしたので」

 

 すると、デュバリィとマクバーンの足元に転位陣が発動して消えた。どうやら『パンタグリュエル』に移ったようだ。そして人物映像が消えると『パンタグリュエル』は大型の魔法陣を展開して姿を消した。エマによるとどうやら大掛かりの魔法陣のようで、それを出来る人物はおそらく身内であると述べた。

 さて、ここからどうするべきかと考えていたところで、彼らの耳に機関音が聞こえてきた。その音にレーヴェことレオンハルト少佐は笑みを零した。

 

「心配するな。お前たちをユミルに送り届けるための“船”だ」

 

 そうして、姿を見せたのは純白の飛行船―――ファルブラント級巡洋戦艦一番艦『アルセイユ』の姿であった。ブリッジからはクローディア王女が顔をだし、“Ⅶ組”を含めた面々に呼びかけた。

 

「皆さん、急いで乗ってください!」

「エマ、話はあとよ!」

「ええ、解ってるわセリーヌ!! 皆さん、転位陣に乗ってください!!」

 

 エマはそこにいた全員をブリッジ上に転位させ、それを確認すると『アルセイユ』はステルス機能を展開して高速で北へと進路を向ける。すると、ブリッジに彼ら以外のものとして導力バイクまで転移させていた。どうやら丁度転位陣の範囲内に入っていたためだろう。そういえば馬を置き去りにして大丈夫だったのかとユーシスに尋ねると、

 

「あれでいて賢い馬だし、アルノーあたりなら事情を察してくれている。父上に何も言わず出てきたのは拙いと思い、部屋に手紙だけ残してきた」

「……というか、最初から一緒に来る気だったんですね」

「もう、素直じゃないなユーシスは」

 

 元々来る前提で用意周到だったユーシスに周囲の人間は笑みをこぼしていた。しかし、ユーシス当人は申し訳なさそうな表情を浮かべてクローディア王女に頭を下げた。

 

「なに、所謂保険という奴だ……さて、クローディア殿下。“敵国”である面々もいるのにも関わらず助けてくれたこと、真に感謝する」

「どうか頭を上げてください、ユーシスさん。皆さんの事はフォローが必要かもしれないとシオンから聞き及んでいましたので、正直お役に立てたのなら嬉しいです」

「って、ちょっと待ってください。ユーシスさん、今リベールが“敵国”って……どういうことでしょうか?」

「……そうか。お前たちがレグラムに来た後だったから、情報が入らなかったとみた。俺が説明しても良いが、ここはクローディア殿下に説明していただいた方が真実味もあるだろう」

 

 一体何があってリベールとエレボニアが敵同士となるような事態になったのか……ユーシスに促される形で、クローディア王女は真剣な表情で述べた。

 

「その通りかもしれません。本日12月7日―――リベール王国は提唱国権限を以て<不戦条約>を凍結し、先月の二国侵攻の際棚上げにされていたエレボニア帝国現政府からの宣戦布告を受理いたしました。これにより、我がリベール王国とエレボニア帝国は戦争状態に入ったことになります」

 

 その告げられた言葉に殆どの面々は言葉を失くした。三大国の内の二国……<百日戦役>の勝利者であるリベール王国が突き付けられた宣戦布告を受理―――即ち彼らは本気でエレボニア帝国と事を構える覚悟があるという意味。しかも、そのエレボニア帝国は現在も内戦継続中。貴族連合と帝国正規軍の拮抗によって混迷している中、そこに加わるのは第三軍的な位置付けになるリベール王国軍。その動き次第では最悪の流れも想定されることを意味する。

 


 
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