―――Side 蜀―――
桔梗「はあ・・・」
焔耶「桔梗様・・・」
桔梗「分かっている・・・紫苑は?」
焔耶「紫苑様は、璃々の世話です」
桔梗「そうか」
蜀の城の一室では、桔梗が酒を飲みながら自分たちが置かれた状況を考えていた
桔梗「今日も、劉璋様は諫言を聞いてはくれなかったか」
蜀の現太守である劉璋は、一言で言うなら「暗君」 桔梗たちが諌めてもそれを聞かずに、放蕩生活を続けている
焔耶「このままでは・・・」
蜀の国民はすでに劉璋を見限っており、いつ反乱が起こってもおかしくない状況に陥っている
桔梗「どうすれば「力をお貸ししようか?」何奴!?」
今まで焔耶の前では見せなかった弱音をつい漏らしてしまった桔梗 その弱音に返答をする声があった 焔耶が桔梗を守るように立つと、部屋の外から自分たちに呼びかける声が聞こえてきた
声「おっと・・・これは失礼・・・入ってもよろしいかな?」
聞いておきながら、扉を開けて入ってきたのは呂刀より命を受けた刑天だった
焔耶「貴様・・・何者だ?」
警戒を解くことなく刑天に問いかける焔耶 その様子を見て、「やはりこいつも後世に名を残す武将だ」と感心し、口元に笑みを浮かべた しかし、その笑みをどう取ったのか近くにあった剣を首元に突きつけてきた
焔耶「貴様・・・いい度胸だな?」
刑天「よし!少し落ち着いてみよう」
最近、自分の『デュラハン』が定着してきた感じがする刑天 さすがに、そのイメージを完全に定着させるわけには行かないのか、冷や汗を流しながら焔耶を宥める その様子を見て、さっきまでの空気はどこに行ったのか苦笑を漏らす桔梗
桔梗「焔耶、そのくらいにしておけ・・・とりあえず、何用だ?」
いつの間にか、簀巻きにされかけている刑天 あまり騒ぐわけにはいかないのに、ギャーギャー騒いで「何しているんだ?」と思い始め止めたのだが少し遅かったようだ
刑天「とりあえず、俺は天の丞相である呂刀の命により貴殿らに会いに来た刑天と言う」
焔耶「・・・自分でやっておいて何だが・・・すまん」
まじめな顔になり、自分の目的を話し始めたのだが簀巻きにされて蓑虫のように吊るされているのでどことなくシュール
桔梗「とりあえず、縄を解け」
焔耶「はい・・・」
蓑虫状態だった刑天を下ろして本格的に自分の目的を話し始めた
桔梗「・・・なるほど、蜀に天の属国になれと?」
刑天が話した内容は、端的に言えば桔梗がいったように蜀が天の属国になるという内容 いくら主君が暗君といえど蜀の宿将としてのプライドがある
刑天「ま、そうだろうな・・・今日のところは、ここで帰らせてもらう だが、一つ言わせてもらうと『お前が守りたいものは何なのか?』これをしっかり考えてくれ・・・かつての俺になるなよ?」
かつての自分は、守りたいものを失い暴走していた まだ、自分のことを思い出さないとしても、つらい思いをしてほしくないという刑天の願いでもあった
桔梗「『わたし』が守りたいもの・・・か」
焔耶「桔梗様・・・」
―――Side 天―――
呂刀「お帰り~」
狂骨「どうだった?」
刑天「とりあえず渉りはつけておいた・・・ま、いずれ返事は来るだろう」
任務の結果を報告した刑天 その報告を聞いて「それならいいか」と呂刀は蜀のことはしばらく放っておくことにした
桂花「・・・これ何よ?」
翌日、狂骨の工房に書類を届けに来た桂花が工房の一角に鎮座しているからくりを見て呟いた
狂骨「ん?それか・・・調整が難しくてな~・・・未完製品だ」
美影「失礼します・・・って」
雛里「これ、どうしたんですか?」
新たな書類を持ってきた美影と雛里も部屋に入ってきて桂花と同じように見た事のないからくりに興味を持ったようだ
狂骨「あ~・・・そいつは『破城鉄槍』といって、破城槌の改良品なんだが・・・強度がな~」
狂骨が珍しく、まともに考えた新兵器『破城鉄槍』 破城槌が木で出来ているのに対し、これは鉄で出来ているのだが何度試しても、強度がない 元々、これは城の門を破壊するだけでなくその他のからくり兵器を潰す用途としても使う予定だったのだが、使う鉄が悪いのか破城槌よりも短命になってしまった
狂骨「これなら、破城槌を使うほうがまだいいな・・・どうもな~」
頭をかきながら、破城鉄槍を触る狂骨 いずれ、魏との戦になるだろう その時に注意しなければならないのは武将であるが、それと同時に真桜が作っているからくり兵器にも注意をしなければならない 虎牢関では、ボケや任務も混じっていたが魏に向かったのは真桜が作るからくりがどの程度の能力を持っているのかを知りたかったからでもある
狂骨「あの時はそれほどでもなかったが・・・今はどうかは分からんな」
三人「「「?」」」
―――Side 玉座―――
呂刀「さて・・・曹操は、幽州に侵攻するか・・・それとも、西涼に侵攻するか」
麗羽「この場合は、幽州ではありませんの?」
斗詩「ですね・・・五胡が動いているようですし、幽州を取れば呉への足がかりにもなりますよ」
玉座の間では、狂骨たちを除く武将で今大陸で活発に動いている魏への対策を話し合っていた 冀州を取った魏は、その手を幽州に伸ばそうとしていた 最初は、呂刀も心配したように西涼に侵攻する可能性もあった だが、五胡が動き始めているとの情報はある程度の力がある国は掴んでいる なら、無理に五胡との戦争は起こさないだろう それに―――
刑天「幽州には・・・」
聖「居ますからね~」
麗羽「ああ・・・関羽さんでしたっけ?」
その場に居る全員の脳裏に浮かぶのは、どこかに監禁されているボロボロの服を着た愛紗の姿 そして、それを妖艶な瞳で眺める華琳
刑天「・・・お前ら・・・何考えている?」
全員「「「「いえ!なんでもないです!」」」」
刑天「まあ・・・お前らは仕方ないとは言え・・・呂刀、お前もか」
思春期真っ只中の乙女たちはいいとして呂刀よ・・・いや、だからこそ?
―――Side 魏―――
華琳「冀州は手中に治めた・・・次は、幽州だけど少し休みましょう」
華琳は冀州を手に入れた今、領土の大きさで言うなら大陸一となっていた 冀州侵攻は自分らしくなく性急だった 今回はうまくいったが、幽州はそう簡単に落とすことは出来ないだろう 劉備の元にいるのは、数は少なくとも一騎当千の武将たちこのまま進めばいらぬ怪我を負う事にもなりかねない だから、ここは一旦休み準備を整えることにした
秋蘭「分かりました・・・ところで、幽州を狙うのは・・・関羽ですか?」
秋蘭には華琳が愛紗に執着しているのは分かっていた 反董卓連合の折は見せなかったが華琳が愛紗を欲しがっているのは少し考えれば分かる事だった
華琳「そうね・・・まあ、欲しいのは関羽だけではないんだけど」
ため息を吐きながら思うのは反董卓連合のときに現れた狂骨という男 自分が男に執着するなんてありえないと思っていた でも、それを嫌がっていない自分もいる 狂骨を手に入れるためには、天と戦い勝たなければならない そのためには、幽州と呉を落とし二つの国の戦力を入れなければならない
華琳「準備が整ったら、幽州に仕掛けるわよ」
秋蘭「御意」
―――Side 呉―――
雪蓮「魏は少し休憩というところかしら?」
冥琳「でしょうね でも、準備が整ったら幽州に侵攻するわね」
呉では、魏の動きを特に警戒していた こちらは、袁術の支配から抜けたことで国力も増し、そう簡単には落とされることはない
雪蓮「でも、まずいわね」
呉には懸念すべき事があった それは、他の国に比べ専門の武官が少ないということだった もちろん戦えないわけではないが、春蘭や秋蘭といった将に比べれば弱い 雪蓮が心配するのはそこだった
祭「こればかりはどうしようもないからな・・・」
亞沙「いっそのこと天と同盟でも結びますか?」
少し暗くなってきた部屋の空気を変えようと亞沙はそんな発言をしたのだが、雪蓮たちがいっせいに自分のほうを向いたので、慌てて「今のは嘘です!嘘なんです!」弁明したのだが―――
雪蓮「それもいいかも」
亞沙「へ?」
冥琳「確かに亞沙のいう通りかもな」
雪蓮たちが亞沙の言葉に賛成したのは、ずっと前から頭の片隅に引っかかっている「刑天」という名前 反董卓連合のときに、呂刀から聞かされた名前を聞いたとき雪蓮たちは懐かしい感じを憶えたのだ しかも、美羽が失踪して南陽に攻め入ったときに美羽の部屋に入ると、「刑天に会いに行くのじゃ」という七乃に宛てた書置きを見つけたのだ 連合の軍議のときに、刑天の名を聞いたとき美羽の顔が喜色に染まったのを見ていたので、何かあると考えていたのだ
雪蓮「冥琳・・・天に同盟の使者を送ってくれない?人選は任せるわ」
冥琳「御意」
祭「これで、引っかかりも消えるといいのだが」
明命「・・・どうするんですか?」
亞沙「私のせいじゃない私のせいじゃない・・・」
自分が、発言してから一気に事態が進んでしまったので頭を抱えてひたすら現実逃避する亞沙 実際には、いいほうへ進んでいるのだがまだそれは知らない ちなみに、失踪した美羽たちはどこにいるかというと
―――Side 天―――
刑天「ここの問題分かるやつ!」
美羽・神流「「はい!」」
ちょうど数日前に、美羽と七乃が天の城に来た 最初は驚いた面々だったが、刑天の父親モードが発現し「俺が育てる!」との一言で刑天預かりになった
刑天「―――で、ここはこうなって―――」
美羽「ここは?」
神流「刑天・・・これは?」
刑天「それは―――」
今は、二人に勉強を教えているのだがそれを物影から覗いている男が二人
呂刀「・・・活き活きしているな~」
狂骨「なんか最近悟ったらしい「父親もいいね」って」
二人を見ている顔が完璧に父親になっている刑天 これで、聖なり七乃なり桔梗なりが居たら完璧に家族だ・・・え?月たち?・・・妹あたりじゃないかな?
―――Side 玉座―――
麗羽「では、こちらに保護される・・・という事でいいのですね?」
七乃「はい 私はお嬢様さえ無事ならそれでいいので」
玉座の間では、七乃が麗羽たちに事情を説明していた 美羽が刑天に会いに行くとの書置きを残したときは肝を冷やした 美羽だけでは、洛陽まで行くのは無理だったから馬を駆って急いで美羽のところまでいき、そのまま洛陽まで来たというわけだ
桂花「まあ・・・刑天預かりだからいいけど」
そして「美羽は政治に口出ししない」「七乃は必要に応じて、献策をする」という条件で美羽たちの天への居住を認めた まあ、七乃にとって不満はないようだったが
七乃「それでは、これからよろしくお願いします」
こうして、美羽たちが天に参入した
―――数日後 玉座の間―――
呂刀「それで・・・何か用でしょうか?・・・厳顔殿」
桔梗「・・・」
美羽たちが来てから数日後、蜀から桔梗が一人で天にやってきた その目には確かな決意が見て取れた
桔梗「・・・お話を聞いていただけないでしょうか?」
―――Side 魏―――
華琳「我らは、幽州に侵攻する!」
春蘭「者共・・・進めー!」
―――Side 幽州―――
愛紗「来たか・・・」
星「はあ・・・腰を落ち着けたと思ったら、早速戦か」
鈴々「急ぐのだ!」
朱里「(もしもの時は・・・天に保護を求めたほうがいいかもしれませんね)」
桃香「みんな・・・頑張って!」
―――Side 呉―――
雪蓮「魏が幽州に侵攻した、か」
冥琳「すでに、明命を使者として洛陽に送っている・・・間に合えばいいが」
祭「信じるしかないな」
―――Side 西涼―――
西涼では、ある異変が起こっていた
翠「こいつら!」
蒲公英「五胡が奇襲を仕掛けてくるなんて!」
五胡が奇襲を仕掛けてきて、西涼連合は大打撃を受けていた
馬騰「・・・翠、蒲公英!ここはもうもたん・・・お前らは逃げろ!」
翠「母様!?」
馬騰が、翠たちの前に立ち逃げるように叫ぶ
馬騰「お前らはここで倒れてはならない!」
蒲公英「おば様!」
馬騰「行け!」
西涼兵1「翠ちゃん、蒲公英ちゃん ここは俺らに任せなって!」
西涼兵2「お前らが逃げる時間くらい稼いでやるよ!」
西涼兵3「爺代わりとして孫娘をここで殺してはならんのう」
馬騰「行くぞ!」
西涼兵「「「「応!」」」」
その言葉と共に、翠と蒲公英を残した西涼の兵は五胡に特攻を仕掛けた
翠「くっそー!」
蒲公英「おば様・・・みんな!」
血が出るほどに唇をかみ締めた翠は、蒲公英を連れて天まで走る 仲間たちの思いを無駄にしないために
翠「・・・天に行こう」
蒲公英「・・・え?」
今まで居た戦場から遠い場所まで逃げてきた翠は、天に向かうことを決めた 袁紹は人が変わったように善政をしていると聞いていた なら、保護を求めてきた者を無下にはしないだろう
翠「・・・あたしらはここで死ぬわけには行かないんだ」
蒲公英「・・・うん」
西涼連合の生き残りともいえる翠と蒲公英は、天へと向かった そして、このとき確かに何かが動き始めた
「舞台裏」
呂刀「結構、終盤に向かってきたな」
そうね~
狂骨「しかし、俺=マッドは鉄板になってきたな」
そりゃね~ ちなみに、刑天=父親も鉄板になってきつつある
刑天「別に不満はないが?」
呂刀「あれ?」
刑天「最近は、美羽や神流の成長を見るのが楽しみになってきてな~」
狂骨「・・・放っておこう」
とりあえず、終盤に入ってきているから頑張ってね
呂刀「OK では、次回お会いしましょう!」
刑天「―――それで、美羽と神流が「はいはい」」
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終盤に入ってきた・・・のかな?