No.971764

紫閃の軌跡

kelvinさん

第131話 つかの間の休息と試し、迫りくる戦火

2018-10-27 16:35:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2886   閲覧ユーザー数:2685

~クロスベル帝国 旧クロスベル独立国領 クロスベル市~

 

 ディーター・クロイス大統領の逮捕、そしてリューヴェンシス・スヴェンド皇帝のクロスベル帝国建国宣言。それらがひと段落した後、アスベルは港湾区の屋台を訪れていた。そして、それに同行する形で座っているのは1人の少年と2人の少女であった。

 

「えっと、いいのでしょうか?」

 

「気にしないの、お代は払うから。それに、まだひと仕事あるわけだし英気はしっかり養わないと」

 

「それは解ってるんですけど……」

 

「というか、私を受け入れるだなんて滅茶苦茶にも程がありますが」

 

 誘ったのはクルト、ユウナ、そして貴族連合側の下手人だったはずのアルティナである。エルウィン皇女とソフィアをさらった人間である彼女を味方側として引き込むきっかけは、先んじてユミルに入った時だった。

 

「……その様子だと、必要以上の情報は得られんか。検査をすることになるが、同行してもらうぞ?」

 

「正気ですか?」

 

「戦力はあって困るものじゃないからな。なんだったら逃げ出してもいいぞ? その代り、助かった命を捨てることに変わりないがな」

 

 念のためにメルカバとウルスラ病院で検査はしており、明らかに害をもたらすようなプログラムは排除した。そして、人造人間ということでヨアヒム教授に相談したところ、プレロマ草を原料に作った成長剤のテスターをしてもらうこととなった。一応副作用などのテストはクリアしており、その効果のレポートを出すことで折り合いをつけた。

 アルティナ自身も任務に失敗したことで帰る場所を失った身。どうやらルシアを誘拐することでリィンをあおろうと考えたらしいが、隠形に長けたアスベルとルドガーで一芝居売って拘束した。

 一応彼女の身柄は王国軍預かりとなるが、問題がなければシュバルツァー家で引き取ることとなる。流石にブライト家で三人も引き取っているので負担が重いだろうという判断からくるものだ。アルティナもそのことを自覚しており、提案をすんなりと受け入れた。そして、クルトやユウナと引き合わせてクロスベル解放作戦に同行させた。三人は支援課新規メンバーと共に月の僧院に向かい、鐘の停止(破壊)に貢献している。

 

「で、感想はどうだったかな?」

 

「ついこないだ双剣術の中伝を貰いましたが、それでもまだまだ足りないと痛感しました」

 

「そうね。ウサ耳のお姉さんなんて素手で魔物や人形機械を倒しちゃうんだもの……何か気に入られちゃったけど」

 

「ユウナさん、流石に失礼かと。彼女は<四方拳聖>の名を持つ泰斗流の使い手ですから」

 

「いつの間にそんな情報を仕入れたんだ?」

 

「本人からです。いきなり『アルにゃん』と言われた時は引きましたが」

 

 その事実は同じ流派のキリカ・ロウランから聞いている。彼女は現在皇帝直属諜報機関『ロックスミス機関』にて一番のトップである室長を務めている。名前を変えなかったのは帝国宰相となったサミュエル・ロックスミスがその統括を担っているからだ。

 

「そして、旧共和国ではアーティストとしても大成してますが、あのロイド・バニングスの妻となることが決定していると……正直、妻が5人だなんて不埒にも程があります」

 

「ア、アル……」

 

「何気に容赦ないな、君は……アスベルさん?」

 

「いや、そういう人種って大変なんだなって思っただけだよ」

 

 流石にアスベルも妻となる人物が複数いるとは言えず、心の奥底にしまい込んだ。地元民であるユウナはともかく屋台でのラーメンという経験がない二人を温かく見つめつつ、激辛の麺料理をスープまで完食したアスベルであった。4人は中央広場まできたところで、アスベルが話しかけた。

 

「そういえば、明日はどうするんだ? 必要なら鍛錬ぐらいは見てやれるが、明後日は<碧の大樹>に突入することになる」

 

「その言い方ですと、アスベルさんは行かないのですか?」

 

「ああ。こっから先は特務支援課としての戦いだからな。お前たち3人は同行してみてくるといい。あの場所には教団事件も含めたこの世界の柵の成れの果てだ。ま、助っ人が何人か付くし、肩の力を抜いてしっかりやってこい。それだけの実力はちゃんと身についているのだから」

 

 3人が特務支援課ビルに向かうのを見届けると、それと入れ替わりになるように裏通りからやってきたのはカシウスであった。

 

「アスベルか。ご苦労だったな」

 

「そちらこそお疲れ様。エステルの奴、また派手にやったって?」

 

「ああ……どうやら、一つ乗り越えたようだな」

 

 他愛ない話をしつつも、カシウスはアスベルの変化に気付く。その言葉を聞いて、アスベルは一息吐いた上で呟く。

 

「お陰様でね。……どうやら、師父関係と見ました」

 

「聡過ぎるのは解りやすいのか冗談に出来なくなるのか困るのだがな……場所を移そう」

 

 中央広場では目についてしまう。そこでカシウスが提案した場所は―――オルキスタワーの屋上であった。お互いに向き合うと、カシウスが話し始めた。

 

「さて、アスベル。お前も知っていることだが、八葉一刀流は初めに全ての型を叩き込まれるのが習わし。師父を離れて初めて終式の段―――即ち“奧伝”までの道が開ける」

 

「ええ。そのことは師父から直接聞いています」

 

「だが、お前は師父の下で極式の段まで踏み込んだ。師父はこう考えた。お前が元々持ちたる剣と八葉一刀流の完全なる合一……それが果たされたときに『試し』を行うことこそ、他ならぬお前のためになるであろうとな……手紙にもそう書いてあった」

 

―――光と闇を束ね、全てを断ち斬る刃と成せ

 

「それが成された時、『試し』を行うことも師父からの手紙に書いてあった。『試し』についてはお前自身よく理解しているだろうが」

 

「ええ」

 

 エリゼの“奧伝”“皆伝”の『試し』。その時はエリゼの完全なる鏡としてどこまでの高みに至ったかを見た。

 彼は我、我は彼。カシウスは太刀を取り出す。そして、カシウスの後ろから姿を見せるように二人の人物が姿を見せた。

 

「エリゼ、それにヴィクターさんまで」

 

「折角の機会ということで見届けをさせてもらうこととなった。エリゼ嬢は、やはり自分の師たる君が気にかかるのだろう」

 

「私の剣を高められたのはアスベルさんのおかげですから。流石に恋愛感情はありませんけど」

 

「ふう……よろしくお願いします、カシウス・ブライト師兄」

 

「意気やよし、アスベル・フォストレイト」

 

 ヴィクターとエリゼが見届ける中、アスベルも太刀を取り出して構える。カシウスも太刀を構える。そして、言葉が紡がれだす。

 

「これより、八葉一刀流奥義伝承の試しを執り行う。汝の名は?」

 

「アスベル・フォストレイト。八葉一刀流皆伝」

 

「求めたる型は?」

 

「八つの型全て。その果てに至る八葉の境地」

 

 次第にカシウスの姿がアスベルの鏡として顕現し始める。

 

「彼は我、我は彼」

 

「我は彼、彼は我」

 

「汝、剣の極致に至らんがために、自らを無とせしめるか?」

 

「否。我は彼と共に在り。彼無くして我はなく、我無くして彼など無し。我求めたるは天理の理、それ即ち“無縫”の太刀」

 

「ならば示して見せよ。己が行き着く先の閃きを―――汝自身を乗り越えることによりて!!」

 

 そうしてアスベルの前に姿を見せるのは鏡。<百日事変>の時、全ての感情を捨てて相手を殺した時の自分自身。あの時シルフィアを失っていたら自我を失ってそのような姿へと変貌していたかもしれない。その技のキレは現状の状態で出せる技を遥かに超えているのだろう。少し目を閉じ、見開くと一気に駆け出す。ヴィクターの合図の声など、殆ど耳に入っていなかった。

 

「はあああっ!!」

 

「食ラエ……!」

 

 まるで鬼の力を解放して暴走したリィンを思い起こさせる。その技のキレは確かに暴力的で破壊的だ。しかし、アリアンロードとの戦いによって今まで噛み合わなかった心と身体のギアが完全に噛み合い、それを難なくいなす。今まで剣を振るってきた時の動きなどまるで比較にならないほど。相手の技を出し切らせたところで、アスベルは技を繰り出す。今まで表と裏で割り切らせていた剣術を一つにして、二つの世界で学んだ剣の極致を形と成す。

 

 一の型“烈華(れっか)”、二の型“諷神(ふうじん)”、三の型“雹天(ひょうてん)”、四の型“空薙(からなぎ)”、五の型“雷月(らいげつ)”、六の型“九頭龍(くずりゅう)”、七の型“幻燕(げんえん)”。表七式と裏七式、それらを組み合わせた後に放つは今持てる全ての力を一太刀に込める天元無想の技。『八葉一刀流』と『御神理心流』の両方を修めたアスベルの剣戟の極致。

 

 

―――八神一刀(はっしんいっとう)、天仭閃(てんじんせん)

 

 

「―――勝負あり! 勝者、アスベル・フォストレイト!!」

 

 ヴィクターの声で、アスベルはオルキスタワーの屋上にいることを再認識した。刀を仕舞い込んで振り向くと、立ち上がって刀を仕舞うカシウスの姿があった。その表情はどこか嬉しそうな印象を受けた。

 

「お見事だった。ついに己がものとした様だな」

 

「はい、ありがとうございます。師父の教えと持ち得ていたものがようやく噛み合った……自分もまだまだ臆病者でした」

 

「臆病にならない者などいないからな。では、手紙と一緒に預かっていたものだ」

 

 そう言ってカシウスが取り出したのは巻物。しかしながら、その太さが奧伝や皆伝を貰った時よりも一回り大きい。

 

「―――アスベル・フォストレイト。改めて八葉一刀流、免許皆伝を授ける。この先は<剣神(けんしん)>を名乗るがよい」

 

「……は! 有り難く頂戴いします。しかし、<剣聖>かと思えば剣の神―――<剣神>ですか。これなら二つ名の<紫炎の剣聖>のほうがまだ納得できたかもしれませんが」

 

「それならば足りないという師父の心意気なのだろう。もしくは、昔レグナートに挑んだこともあってかお前を目標とするためかもな」

 

「それじゃあ、まるで子どもみたいな理由じゃないですか」

 

 すると、審判役をしていたヴィクターと隣で見ていたエリゼが声を掛けてきた。

 

「アスベルさん。いえ、この場合はお師匠様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか。おめでとうございます」

 

「ああ、ありがとうエリゼ。お師匠様は勘弁してほしいが……この場合は感謝の意味を込めて頭を撫でたほうがいいかな?」

 

「えっと、それは控えていただければ。アスベルさんが兄様のように鈍感になってしまうと大変ですから」

 

 きっと、この瞬間にリィンはくしゃみでも出していそうだなと思いつつ、彼の鈍感は筋金入りなことに冷や汗を流した。すると、ヴィクターが気遣うようにカシウスに話しかけた。

 

「この佳き瞬間に立ち会わせていただいたこと、感謝する。だが、カシウス殿は足りないようだな」

 

「おや、解りますかな?」

 

「無論ですとも」

 

 あ、これカシウスとヴィクターで勝負でもするのかなと思い、エリゼと目線を合わせて立ち去ろうとした瞬間、それぞれカシウスに肩を掴まれた。

 

「折角のお祝いに、俺とヴィクター殿で相手をしよう。数合わせとして、エリゼ君も入るがいい」

 

「「はい?」」

 

 気が付けば、ヴィクターはどこからかガランシャールを振り回してヤル気満々であった。こうなるともう逃げ道はない。エリゼに視線を向けると、彼女もどうやら諦めたようだ。いつになく笑顔を浮かべて、太刀を抜いて構えた。カシウスも太刀を抜いて準備万端。こうなればとアスベルは一息吐いて、『神衣無縫』を発動させる。そして、太刀を鞘から抜いて構えた。

 

「八葉一刀流筆頭継承者、アスベル・フォストレイト」

 

「八葉一刀流皆伝、エリゼ・シュバルツァー」

 

「同じく皆伝、カシウス・ブライト」

 

「アルゼイド流筆頭伝承者、ヴィクター・S・アルゼイド」

 

『いざ、参る』

 

 我儘な大人たちと、もう少し現実見ろよと言いたいながらも戦う羽目となった若者たちの戦い。そんな戦いが繰り広げられている丁度その頃。リィンは眠っていた。『エ、エリゼ……やめろ、その笑顔は……』などと呻いていたが、それを聞いていたのはセリーヌだけであったことを述べておく。

 4人の勝敗の結果は……女神のみぞが知る。

 

 

~リベール王国 センティラール自治州 ケルディック~

 

 リィン、トヴァル、セリーヌ、そしてアリーシャの4人はヴァリマールの『精霊の道』でルナリア自然公園に無事到着した。途中の魔物を無事潜り抜けながらも自然公園を出て、西の街道に出た。リィンの視線はトリスタ方面を向けたが、すぐに目線をケルディックのほうに向けた。

 

「いいのか?」

 

「ええ。この場所からすればトリスタは隣国です。当然、警備網は厳しいものかと」

 

 今は他の<Ⅶ組>の面々と再会するのが先だろうと考え、リィン達は一路ケルディックへと向かう。その道中リベール王国軍の装甲車が通りかかり、リィン達の前に止まる。そしてドアが開くと姿を見せたのは綺麗にセットされた金髪の軍人であった。

 

「やはり、リィン君だったか。久しぶりだね」

 

「リシャール大佐、お久しぶりです」

 

「ああ。トヴァル殿のことは殿下より聞き及んでいる。ギルドきっての導力魔法の申し子、という感じにな」

 

「そいつはどうも。(王国軍特務部隊を率いる大佐がこのような場所にいるとはな……)」

 

「リベール王国軍アラン・リシャール大佐だ。まあ、記憶の片隅にでも覚えておいてくれ」

 

 リベール王国軍でもきっての実力者で、カシウス・ブライトの後継者と謳われるほど。<百日事変>においてクーデターの首謀者であったが、超法規的措置により王国軍へ留まることとなった。そんな人物がここにいる理由をリィンは尋ねた。

 

「それにしても、どうしてリシャール大佐がここに……まさか、戦争が始まるのですか?」

 

「現状は可能性のままだ。そもそも、エレボニア帝国から最後通告はあったが、宣戦布告はなされていない。……君らが良ければ、ケルディックまで送っていこうと思うが、どうかな?」

 

「……トヴァルさん」

 

「ま、俺のことも鑑みてそうしてくれてるのなら、いいんじゃないのか? それに、リベール王国内といえどエレボニアの諜報員がいないとも限らないからな」

 

「ですね。お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「ああ。軍用車ゆえ居心地はあまり保証できないが、そこは許してほしい」

 

 リシャール大佐の取り成しでリィン達は装甲車に乗り込む。以前ガレリア要塞で乗った装甲車よりも乗り心地は遥かに良く、この辺のゆとりの差がメーカーのコンセプトの差なのだろう。そして装甲車はケルディックの旧クロイツェン領邦軍の駐在所―――現在は冒険者ギルド支部兼センティラール領邦軍の詰所に到着し、受付の人に軽く挨拶をして2階の詰所に移動した。

 

 

~リベール王国 センティラール自治州 ケルディック~

 

 リィンはリシャール大佐にユミルの状況を報告した。それを聞いたリシャール大佐は深く頭を下げた。

 

「済まなかった。確かに緊張を煽るのは愚策。とはいえ、里に被害を出すどころか侯爵閣下までそのような状態になったとは」

 

「あの、リシャール大佐が謝るようなことでは……」

 

「だからこそだ。私もアスベル中将もユミルが襲撃される危険性を予見していた。エレボニアの皇族に所縁がある、というだけでレグラムにも軍を差し向けていたから、ユミルもその可能性があった。だが、侯爵閣下は領民を不安にさせたくないと断った。陛下もそれを重んじて決めなさった直後にだ……だから、軍を預かる責任者としてお詫びをせねばなるまい」

 

「え、今アスベルと……彼もここに?」

 

 必要以上に気に病んでいるような節を感じてアリーシャは言葉を発したが、リシャール大佐はそれを遮りつつも領地を焼かれて領民が少なからず傷を負った。これはリベール王国の責任であると述べた上で。そこでリィンは彼の言葉に出てきた人物に反応した。だが、リシャール大佐は首を横に振った。

 

「いや、彼のことは私でも解らない。王国軍ではカシウス中将と同位にある故、その管轄はシュトレオン殿下にある。詳しいことは解らないが、カシウス中将共々別の軍事作戦に従事しているということだけだな」

 

『隣国が内戦の状況で軍のトップ2人が動いているって只事じゃないわね……あっ』

 

「ハハ、気にしていないよ。私も不可思議な事件にいろいろ関わっているから、レグナートの件も無論聞いている。只ならぬ雰囲気を感じていたが、これで納得できたよ」

 

「あの、すんなり受け入れるって普通じゃないような気が……」

 

『アンタも人のことは言えないんだけれどね……リベール王国自体が非常識の塊に思えてくるわ』

 

 思わずセリーヌが喋ってしまった。だが、リシャール大佐はセリーヌから感じたものが只ならぬものだと理解しつつも納得したことにアリーシャが冷や汗を流しつつ指摘したことにセリーヌがツッコミを入れつつ一息吐いた。

 

「普通の杓子定規では解決出来ぬこともある。そのことを陛下やカシウス中将も含めて理解しているのがリベールの強みともいえよう。さて、君達に同行してもらった理由なのだが、この辺に潜伏している情報提供者に接触してほしい」

 

「俺たちにですか?」

 

「ああ。一応ケルディック周辺の状況を説明しておこう。君達にはできる範囲内で協力するようにと殿下から仰せつかっているからね」

 

 そう言って壁にあるモニターにケルディック周辺の地図が表示される。東には領邦軍の拠点である双龍橋、南はクロイツェン州の州都バリアハート、南東にはクロイツェン州領邦軍の拠点であるオーロックス砦。西はトリスタが表示されている。

 

「現在、大陸横断鉄道が使用不能となっているため、クロイツェン州領邦軍が主導で南に迂回する路線を引いていることが確認できた。その過程でバリアハート以外の領民には重税を課し、それが嫌ならば鉄道敷設の労役を課した。貴族連合というよりアルバレア公爵家の独断のようだが、それを看過している以上は貴族派としての問題と王国は認識している」

 

「酷い話ですね」

 

「だが、そこまでやっているとなると正規軍との戦いは厳しいのか?」

 

「そのようだな。報告によれば、つい数日前にも激しい戦闘はあったが、第四機甲師団の勝利で終わっている。更に驚くべきことだが、いくつかの機甲兵を所持していた。恐らくは鹵獲したものを修理して活用しているのだろう」

 

 有用ならば敵のものであろうとも利用する。その意味で第四機甲師団を率いる指揮官は非常に有能と言えるだろう。

 

「流石は“紅毛のクレイグ”といったところか。それで、情報提供者との接触になぜ俺たちが関わるんだ?」

 

「ああ。先日遊撃士協会支部に妙なものが届けられてね。差出人不明だったのだが、『リィン・シュバルツァー宛』となっていたことと付属していた情報の精度から、東部周辺で活動している情報提供者ではないかと推察した。こちらで調べてもよかったのだが、今はトリスタ、バリアハート、双龍橋と三方面を注視せねばならず、おまけにユミルの状況もだ。その分、君達ならまだフットワークは軽いだろう」

 

 リシャール大佐はそう言ってリィンに新聞を差し出す。それは今月の帝国時報なのだが、その中に碁盤上の目が描かれ、何かを指し示すアルファベット。紙の裏にはそのアルファベットの動きが書かれていた。それを見たリィン達だが、アリーシャが何かに気付いて声を上げた。

 

「これって、もしかしてチェスではないでしょうか? アルファベットも丁度その駒の動きと一致します」

 

「チェス……言われてみれば、そうだな」

 

『しっかし、謎解きって中々に手が込んでるわね』

 

「はは……解りました、お引き受けします。そして、接触した後のことはどうしたら……」

 

「特に咎めたり引き込んだりするつもりはない。ただ、彼らを通じて第四機甲師団と接触できるのなら、現状王国軍に対して敵対する意思はない……一先ずそのことだけを伝えてほしい」

 

 リベール王国があくまでも対立するのは暫定政府を取り仕切っている貴族派。だからと言って革新派に味方するわけではない。その影響を受けている正規軍については、二派合従を避けるべく対立はしないという中立姿勢の意図を述べた。

 リシャール大佐にお礼を述べたところで、リィン達は他のトールズの同級生や以前お世話になった人たちに挨拶した後で、手紙に書かれた地図が指し示すケルディック東街道の場所で鍵を見つけ、二枚目の手紙に書かれた場所―――ケルディック近くの風車小屋にリィン達は足を踏み入れることとなった。

 


 
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