No.96864

真・魏ルートIF ~7

θさん

野盗退治も無事に終わり季衣も新たな仲間として加わった。
無事に城に帰った一刀は一人月を肴に酒を飲む。


七話目です。進行スピードは遅いですが、よければおつきあいください。

2009-09-23 01:14:06 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:15153   閲覧ユーザー数:9316

 

「綺麗だな・・・・・・電気がないだけでこうも夜空は違うのか・・・・・・」

 

 日は既に落ち、世界が宵闇に包まれてから数時間経つ。

 一刀は中庭にあるテラスで一人酒を飲のんでいた。

 月を肴に、今日の出来事を思い返しながら・・・・・・。

 

 野盗の討伐は思った以上に順調に進んだ。

 野盗が想像よりも無能であったことと、何より桂花の見事な作戦のおかげと言えるだろう。

 さすがは王佐の才を持つと謳われる荀文若・・・・・・見た目は可愛らしい少女だがその知謀は凄まじいものがある。

 野盗を蹴散らし、許緖・・・・・・季衣が華琳の親衛隊となり仲間に加わった。

 季衣が想像を絶するほどに食べ糧食が足りなくなるというハプニングがあったが、目的の野盗討伐は大成功のうちに終わったといえるだろう。

 

 

「それよりも、何故みんな女の子なんだ?」

 

 今更な疑問だったが、大きな謎だ。

 一刀の知る三國志の英傑達。曹操、夏候惇、夏候淵、旬彧、許緖、その全てが男性であり女性ではない。

 しかし……華琳、春蘭、秋蘭、桂花、季衣・・・・・・その全てが女性である。

 

「それに真名・・・・・・」

 

 一刀の知る限りでは大昔の中国でそんな風習は無い。

 

「・・・・・・単純に過去に飛ばされたと思ったけど、そうじゃない・・・・・・か」

 

 杯の酒を飲み干ほし、考え込む。

 

「つまりは・・・・・・平行世界? はは、とんだSFだ」

 

 しかし現にこうして体験しているわけだから笑い事じゃ済ませられない。

 多次元宇宙、パラレルワールド、平行世界、様々な呼び名があるが、一刀が今居る場所はおそらくそういった別次元の過去なのだ。

 IFの世界。確かなのは二週間前に居た世界とは確実に違う世界ということ。

 

「・・・・・・はは、は」

 

 項垂れる。

 今思えばこうしてゆっくりと考えるのは初めてかも知れない。

 訳も分からず知らない世界に飛ばされ、死なないためにがむしゃらになっていた。

 命がけで華琳に保護を頼み、捨てられないように動き・・・・・・心を休める暇など、無かった。思いの外華琳は丁重に扱ってくれるし、春蘭との訓練も秋蘭との勉強も心地良い。だが、それでも此処は一刀の居場所ではない。

 一刀が考えるに、今の関係は非常に危うい。

 華琳が欲するのは天の御使いという肩書きと天界の知識。故に北郷一刀という個人はあくまでそれ二つの付属品なのだと考えている。

 しかし現状はどうだろう?

 今はまだボロは出ていないが、一刀は天の御使いなどではない。保護して貰うためにその肩書きを使ったが、正体は平行世界からやってきた未来人で、戦乱の世を終わらせるために天帝が使わせた使者などでは断じてない。

 知識にしたってたかが知れている。未来の知識をもつというアドバンテージがあっても、それをどう上手く活用できるか、その術を一刀は知らない。それこそアドバンテージが無ければ知識や知謀などは桂花の足下にも及ばない。本来、一刀はただの学生でしかないのだから。

 不要と判断されれば即切り捨てられるだろう。覇王、曹孟徳は無能を側に置くほど寛大な心は持ち合わせてはいない。

 

「・・・・・・どうしたもんかね」

 

 頭は意外なほど冴えている。

 一度頭の中が真っ白になったおかげかも知れない。

 

 戦・・・・・・沢山の人が死んだ。

 敵味方関係なく、少なくない命が散っていった。

 一刀は本物の戦場を見るのは初めてだ。

 実際に手を下したわけではない。一刀は華琳の横に立ち桂花と共に戦局を眺めていた。

 しかし、死をみるのは・・・・・・堪える・・・・・・。

 顔面は青を通り越し白。必死にこみ上げる吐瀉物を我慢して、必死に必死にやせ我慢。

 目の前の凄惨な光景が頭の中をクリアにしたのだから笑えない。

 

「・・・・・・あまり思い出したくないな」

 

 杯に酒をつぎ、一気にあおる。

 

「そういや季衣に兄ちゃん顔青いっていわれたっけ・・・・・・」

 

 許緖・・・・・・季衣は当然ながら華琳に真名を許した。

 華琳を主とし、その覇道を支えるための剣になることを了承し忠誠を誓ったのだ。

 華琳、春蘭、秋蘭を様付けで呼び、一刀の事は兄ちゃんと呼んだ。

 

「兄ちゃん、兄ちゃんね……」

 

 月を仰ぎながら杯に酒を満たす。

 あまり強い方ではないのだが、ちっとも酔えなかった。

 

 

「あれ? やっぱり兄ちゃんだ」

「北郷か。こんな所でどうしたんだ?」

 

 月を眺めて呆けていると見知った三人が近づいてきた。

 髪は湿っていて頬はほんのり赤らんで艶めかしい。風呂上がりであろう三人は月明かりに照らされどこか色っぽかった。

 

「いや、ちょっと考え事をね」

「ほう、酒をちょろまかしてか?」

 

 春蘭と秋蘭は一刀の前に、季衣は一刀の横に腰掛けた。

 

「風呂上がりだろ? 風邪ひくぞ?」

「なぁに心配するな。私は生まれてこのかた病気一つしたことないからな!」

「姉者は丈夫だからな」

 

 馬鹿は風邪を引かないという言葉を飲み込み、苦笑する。

 

「季衣は大丈夫か? 疲れてない?」

「うん……正直ちょっと疲れてるかも。少し眠いし」

 

 季衣にとっては本当に慌ただしい一日だっただろう。村娘がとんとうんびょうしで城仕え、それに野盗相手に大暴れもした。精神的にも体力的にも疲労が溜まっていて当たり前だ。

 

「無理するなよ」

 

 自然と季衣の頭に手が伸びていた。

 

「あっ、えへへ……」

 

 季衣の顔が綻ぶ。顔が赤いのは入浴直後だけが理由ではないだろう。

 

「ふふ……そうしていると本当に兄妹みたいだぞ」

「ああ、結構自然に見えるな」

 

 にやつく夏候姉妹に指摘され自分でも驚く。

 年下と接する機会はあまりなかったが……これも季衣の愛らしさゆえか。

 

「そう見えてるなら嬉しいです。兄ちゃんの事本当の兄ちゃんって思ってますから!」

 

 会ってまだ一日だというのに何故こうも懐かれるのか疑問だったが、嫌な気はしない。むしろ心地良い。

 

「俺も妹ができたみたいで嬉しいよ」

 

 心からの言葉だ。こうして季衣の頭を撫でていると暖かい何かで心が満たされる。

 

「北郷は弟か妹がいたのか?」

 

 春蘭が手櫛をしながら尋ねる。

 

「ふむ、私も気になっていた。こうも季衣になつかれているからな」

「ボクも兄ちゃんの話聞きたい!」

 

 何故か一刀への質問タイムに突入した。

 どうしたもんかと考えていると、天界の知識とは別に自分自身の話を皆にしていないことに

気づいた。語らなくてもいいことだが、別段秘密にする事でもない。

 

「別に面白い話じゃないけど……まぁいいか」

 

 酒を一口のみ語る。こことは別の世界にいる家族のことを。

 

 

「家族は父さんに母さんに爺ちゃんの三人だ。兄弟はいない一人っ子。父さんは公務員……ええと、この世界でいう文官? でいいのかな。母さんは専業主婦で爺ちゃんは剣術の道場を開いていたな。時代錯誤な武人で俺を稽古つけてくれたのが爺ちゃんだ」

 

 三人は一刀の話を静かに聞く。

 季衣は眠たそうだが、春蘭と秋蘭は天の御使い身の上話に興味があるのか、どこか期待感に満ちた顔だ。

 

「なるほど、では北郷が武術の心得があったのは祖父殿に鍛えられたからなのだな」

「ああ、爺ちゃんは強かった・・・・・・まぁそれでも春蘭には遠く及ばないけどね」

 

 しばらく談笑が続く。

 一刀は色々なことを話した。

 家族のこと、学校のこと、友達のこと、好きな食べ物、好きな雑誌やテレビ番組。

 かなり饒舌に話した。自覚はないが少し酔っているのかもしれない。

 既に季衣は一刀の膝に体を預け寝てしまっている。かれこれ一時間は話し込んでしまっているので無理もない。天使のような顔で眠る季衣の頭を撫でながら一刀は一息ついた。

 

「まぁこんなもんかな。あんまり面白い話じゃなかったろ?」

「いや、かなり興味深い。箱の中で絵が動く、押せば一瞬で明るくなる絡繰りなど信じられんな」

「それよりも食べ物だ! はんばーぐやかれーらいすというものが食べてみたい!」

 

 未知の技術に関心を持つ秋蘭と未知の食べ物に涎を垂らす春蘭。双子でこうも反応が違うのかと一刀は笑った。

 

「姉者は相変わらずだな」

「ああ、春蘭らしいな」

「むぅ! なんだ二人して!」

「姉者は可愛いということさ」

 

 笑い合う。

 こうして二人とこうして長く話したのは初めてかも知れない。

 いや、二人に限らず初めてだ。一刀はこの世界にやってきてからこうして面と向かって誰かと談笑するのは初めてだ。

 城の兵や侍女からは華琳の客ということで一線を引かれ、華琳や春蘭、秋蘭とは自ら一線を引いた。曹孟徳に夏候元譲に夏候妙才、歴史に名を残す英雄を騙し通すため、ぼろを出さないために。

 春蘭とは訓練場で、秋蘭とは勉強を見てもらうとき、華琳とは呼ばれたときだけ。そのどれもが必要最低限で積極的に歩み寄ろうとはしていなかった。華琳はどうやらその事に勘付いているらしいが、それも良しとしているのだろう。

 

 

 からかわれたと頬を膨らます春蘭と、そんな姉を優しい眼で見る秋蘭。そんな微笑ましい姉妹の姿を見て自然と頬が綻ぶ。

 

「二人は本当に仲が良いな・・・・・・」

 

 兄弟はいないが、純粋に羨ましいと思った。

 

「ああ、私は姉者が大好きだからな」

「うっ・・・・・・そう面を向かって言われると少し恥ずかしいな」

 

 本当に仲が良い姉妹だ。この二人を見るに、おそらく家族皆が仲良しな・・・・・・そんな暖かな家庭で育ったのだろう。

 

「・・・・・・羨ましいよ・・・・・・」

 

 空を見上げる。

 人工的な明かりが皆無なこの世界の夜空はプラネタリウムのように美しい。

 その夜空の主たる月は一刀の世界と変わらずそこに浮かぶ。何千年経とうと月は変わらずそこにあり続ける。遙か未来の家族も今頃月を眺めているのだろうか・・・・・・。

 

「・・・・・・北郷?」

「どうしたのだ?」

 

 今までのトーンと違うか細い声に二人が反応する。

 

「・・・・・・なぁ二人とも・・・・・・両親の事好きか?」

「む・・・・・・変なことを聞く。この世に産み落としてくださったのだぞ?」

「私も姉者も両親の事は愛しているぞ。それは北郷も同じだろう?」

 

 愛している。そんな言葉は気恥ずかしくて口走ったことは無いが、あぁ今なら言える。確かに愛していた。父も母も祖父も、違わず等しく愛していた。

 

 月を見上げたまま一刀は言葉を続ける。

 二人は何故このような事を聞いたのか疑問だろう。

 しかし、一刀は今己の心を支配している感情の正体に気づいている。自覚している。

 

「あぁ、俺も好きだった。大好きだったよ」

 

 視線を下げ杯の中を見る。

 中の液体はチャプチャプと小さく波打っている。一刀の腕が小刻みに振るえているためだ。

 

「なぁ二人とも、俺は二人と華琳に言ったよな? 気がついたらここにいたって。どういう意味か分かるか?」

 

 春蘭は首をかしげるが、秋蘭は何かしら考えているみたいだ。

 

「・・・・・・つまり、自分の意志でこの陳留にやって来たわけではないと?」

「ご名答だよ秋蘭。ついでに言うと・・・・・・」

「・・・・・・どうやってやって来たのかも分からない。つまり、帰り方も分からない・・・・・・か。そうか・・・・・・察してやれなかったな」

 

 秋蘭の顔が俯く。

 春蘭は事態が飲み込めていないようだが、一刀の様子に慌てる。

 

「北郷・・・・・・泣いているのか・・・・・・?」

 

 杯の中で波紋が広がる。

 一刀の眼から零れた涙のせいだ。

 

「俺は・・・・・・二度と、会えない・・・・・・。母さんにも、父さんにも、爺ちゃんにも・・・・・・友達にも!」

 

 最後には声が荒くなった。

 秋蘭は相変わらず俯き、春蘭は驚き季衣は眼を覚ました。

 

「俺は独りぼっちだ・・・・・・居場所もない・・・・・・うぅ・・・・・・」

 

 胸に渦巻くこの感情は郷愁と孤独感。寂しい、酷く寂しい。不様にもいい歳をした青年が涙を流すほどに。

 

 秋蘭はこの事を重く受け止めた。

 天の御使いなどと言って保護をしたが、その肩書きを取り払って一刀の状況を改めて考えてみた。

 一刀は学生・・・・・・私塾で勉学に励んでいた一般人だと己のことを言っていた。地位があるわけでもない。

 そんな一般人が何も知らない国に一人放り出され、意味も分からない肩書きを与えられ担ぎ上げられ・・・・・・。それ以前に不審者として捕らえられていたのかも知れない。周りに気を許せる者など一人もいなく、会うことが絶望的な故郷と両親に思いをはせ涙を流している。

 

「辛い・・・・・・な」

 

 小さく呟いた。おそらく自分以外には聞こえていないだろう。

 改めて考えてみると酷い状況だ。一歩距離を置かれていると思ったが・・・・・・これでは気を許せという方が間違いだろう。一刀を生かすも殺すもこちらの自由。一刀のことを気に入っていた秋蘭は少なからずショックを受けていた。

  

「兄ちゃん・・・・・・泣いてるの・・・・・・?」

 

 ごしごしと袖で涙を拭う。が、涙は止まらない。

 

「だから季衣が兄ちゃんって呼んでくれたとき嬉しかったんだ。妹ってことは家族だろ? 家族ってのは無条件で味方してくれるものだろう? 俺の居場所になってくれるだろう? 俺は二度と家族には会えないし、帰るべき家もない!」

 

 季衣は状況が分からず慌てふためく。

 秋蘭は一刀の気持ちを察してやれなかった自分を恥じ、一刀の信用を得られなかった己の未熟さを呪った。

 

「・・・・・・」

 

 春蘭は無言で立ち上がり、どこかへ走っていった。

 

「に、兄ちゃん・・・・・・?」

「北郷・・・・・・」

 

 一刀は声を押し殺して泣き、季衣は何とか一刀を励まそうと必死になり、秋蘭はどう声をかけていいかわからずに固まっていた。

 

「兄ちゃん・・・・・・悲しいの?」

「・・・・・・ああゴメン。もう大丈夫だから。秋蘭も・・・・・・みっともない所を見せた」

「いや、察してやれなかった。すまない・・・・・・辛かったろう。いや、今も辛いのか・・・・・・」

 

 さっきまでと違い場の空気は死んでいた。

 気まずい空気が流れ、どう言葉を発して良いのかもわからない。

 押し黙ってしまった三人だが、この嫌な空気を破壊したのはどこかへ走っていった春蘭だった。

 

「姉者! いったいどこにいって・・・・・・」

「すまんな、ちょっと取りに行くものがあってな」

 

 そう言って春蘭がテーブルの上に置いたのは三つの杯。

 その内二つは豪華な飾り付けがされた立派なもので、一つは一刀が使っているものと同じ厨房にある質素なものだ。

 

「私と秋蘭にはこれがあるが・・・・・・季衣、見劣りはするだろうが我慢してくれよ」

「え・・・・・・は、はい」

 

 季衣は質素な方の杯を受け取る。

 秋蘭も杯を受け取り、これで皆一つづつ杯を手にしている事になる。

 

「春蘭・・・・・・どうしたんだ?」

「ん? この杯か? 立派だろう。だいぶ前になるが華琳様に褒美として頂いたものでな」

「姉者、そうではなくて何がしたいんだと北郷は言いたいんだろう。私にもさっぱりだ」

 

 春蘭は皆の杯に酒を注ぎ終えると真剣な眼で一刀を見た。

 その瞳に気圧される。

 

「北郷、私はお前の両親にはなれない。父のように守り抜くことも母のように慈しむことも出来ない。代役はきかない。でもな、家族には成ってやれる」

 

 そう語る春蘭の横で事態が飲み込めたのか秋蘭が優しく笑う。

 季衣と一刀はまだ事態について行けない。

 

「北郷、私はお前の家族に成れると言ったんだ。居場所も華琳様が作ってくださる。私が家族で、華琳様のおられる場所がお前の帰るべき家だ。言うなれば私達は華琳様という主の元に集った一つの巨大な家族のようなものだと思っている。それをもっと分かりやすくしようと思う」

 

 春蘭は杯を掲げる。

 

「ここに義兄弟の契りを行う。私は一刀を義理の弟として迎えよう!」

「・・・・・・あ」

 

 ここで春蘭の意図が読めた。

 

「私もだ。異論無い。喜んで契りを結ぶとしよう」

 

 秋蘭も杯を掲げる。

 

「ボクも・・・・・・いいのかな・・・・・・」

 

 季衣が戸惑っている。

 季衣の元にも杯があるということは、つまりそういうことだ。

 

「季衣も私の妹だ。共に華琳様を支える仲間だからな。問題ないだろう秋蘭?」

「無論だ姉者。あぁ、やはり姉者は最高だ。私では思いつきもしなかった」

 

 季衣はおそるおそる杯を掲げる。

 残るは一刀だけだ。

 

「・・・・・・いいのか。こんな事して」

「言ったろう。家族になってやる。お前は私を倒した男だし華琳様の信も得ている。何より私自身が気に入っているからな。私にはこんなことしか出来ないが・・・・・・迷惑だったか?」

 

 不安そうに顔を曇らせる春蘭。

 迷惑? とんでもない。

 

 あの夏候惇が、義理の弟に迎えると言ってくれている。家族が恋しいのなら家族になってやると言ってくれている。

 こんな・・・・・・こんな嬉しいことがあるか・・・・・・!

 

「・・・・・・ありがとう」

 

 心からの言葉。万感の思いを込めて感謝を。

 春蘭、秋蘭、季衣・・・・・・家族に成ってくれる優しい女の子達に全身全霊を込めて感謝を。

 

「・・・・・・桃園の誓いじゃなく、月下の誓いとでもいうのかな」

 

 一刀も杯を掲げる。

 

「ありがとう」

 

 最後にもう一度感謝の言葉を口にする。

 それが合図だったように四人が一気に杯に中身を飲み下す。

 そして顔を見合わせ笑い合う。

 

「これからも共に華琳様を支えていくぞ、一刀」

「改めてよろしくだな一刀」

「えへへ・・・・・・よかったね兄ちゃん!」

 

 夏候姉妹は一刀を名で呼んだ。

 季衣は太陽のような笑顔を魅せてくる。

 

「よろしく頼むよ。姉貴と姉さん、季衣もな」

 

 一刀は春蘭を姉貴と、秋蘭を姉さんと呼んだ。

 馴れない呼ばれ方をして照れている二人を季衣と一刀は笑い、また暖かな空気が周りに満ちてきた。

 

 

 玉座の間に人影は二つ。

 玉座に腰掛ける覇王と膝をつき頭を垂れる軍師のものだ。

 覇王は静かに軍師を見、軍師は己の運命を受け入れて身じろぎ一つしない。

 

「桂花、何故呼ばれたか分かっているわね?」

「はい。あれだけ大口を叩いておきながらこの結果、言い訳の言葉も御座いません。首をはねられるのも覚悟の上で御座います」

 

 桂花の作戦指揮は完璧だった。しかし、問題は糧食だ。

 彼女は完璧に計算して最適な量を確保した。事実、何も問題が無ければ糧食は十分に足りていた。しかし、季衣というイレギュラーがその計算を崩した。結果、糧食は足りずこともあろうに主を飢えさせてしまった。どう言い訳を重ねようが結果はひっくり返らない。覇王を試したあげく結果を残せないというのなら処断されても文句は言えない。

 

「潔いのね。その前にこれをみてもらえないかしら?」

「・・・・・・これは!」

 

 華琳から手渡された書類を見る。

 それは一刀が用意した糧食の見積もり。それをみて桂花は驚愕する。

 

「これは・・・・・・誰が」

「一刀よ」

 

 その一言で更に衝撃を受ける。

 

「あの・・・・・・猿、が?」

 

 それは桂花が用意した量と非常に似通っていた。違いはほんのわずか、一刀が用意した量の方が若干多い。それは季衣が食べた量をさっ引いてもギリギリ一食分は確保できる。すなわち最後まで華琳を飢えさせる事がなく遠征を終わらせる理想的なもの。

 

「ええ、一人で考えたのではなく色んな者から意見を聞いた結果らしいけど・・・・・・さて、どう

思うかしら?」

「・・・・・・悔しいですが完璧です。過程がどうであろうと結果が全てものをいいます。私は結果をの残せませんでしたが、あの男は結果を残しました」

 

 心底悔しそうな桂花。まさかあの男に負けるとは思わなかった。

 運が無かったといえばそれまでだが、言い訳にはならない。

 

「そう、ちゃんとわかっているわね。言い訳すれば首をはねていたけど・・・・・・。

 桂花、あなたはこのまま私に仕えることを許します。あなたの知謀は惜しい。存分に私のために役立てなさい」

「・・・・・・! はい! ありがとうがざいます!」

 

 死を覚悟していたのでこれは嬉しい言葉だ。

 覇王に仕える・・・・・・これほどまでに喜ばしいことはない。

 しかし気になるのは天の御使いというあの男、北郷一刀。

 

(見定めてやるわよ北郷一刀! ただの運のいいだけの駄男なのか。それとも・・・・・・)

 

 天の御使い。

 華琳が唯一側に置く男。

 運が悪かったとはいえ自分を出し抜いて最上の結果を残したであろう男。

 

 王佐の才を持つ軍師は真なる主を得た喜びと同時に、生まれて初めて男に関心を抱いていた。

 

 

 

 

 後書き的なものを

 ずいぶんと間が空いてしまって申し訳ないです。

 続きを待ってくださっている方もいらっしゃったようで・・・・・・ほんとすいません!

 

 

 更新ペースは相変わらず遅いですが何とか続きは書きますので!

 

 

 

 誰√にするか悩んでるんですけど、私は桂花がデレたら全キャラ中最強だと思ってます、はい。

 いや、思ってるだけで桂花√にするかどうかはわかりませんが^^

 

 

 

 
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