ウツロイドの呪縛から、ルザミーネは解放された。
これで一連の件は幕を閉じたかに思われたが。
「じぇるるっぷ!」
「!?」
この戦いに幕を下ろそうとすることを拒む存在が現れた。
それは、このウルトラスペースに住まい、ずっとその能力でルザミーネを縛り付けていたウルトラビースト、ウツロイドだ。
彼らは集団でヨウカ達をとり囲うと、鳴き声のようなものをあげる。
それはまるで、怒りや警戒をあらわしているかのように。
「ウツロイドッ!」
「こいつらに一気にとりつかれたら、やべーぞ!」
「にげよっ!」
もしとりつかれたら、さっきまでのルザミーネのようになってしまう。
そんなことになるのは嫌だ。
そう思い彼らはポケモンの技でウツロイドをはねのけつつ、出口へと向かう。
「マヒナペーアッ!」
「ルナアーラ!」
出口・・・もとい、ルナアーラのもとにたどり着いた彼らは、ルナアーラが開いた別空間への穴に飛び込む体制に入る。
「飛び込め!」
「ぬおっ!」
「せいやぁーっ!」
セイルがかけ声をあげて、グズマとセイル、そしてムーランドに背負われたルザミーネはその穴から元の世界へ戻った。
続いてヨウカとリーリエもその穴に飛び込もうとしたが、ウツロイドがパワージェムを放ってヨウカを妨害した。
「うわぁ!」
「ヨウカさん・・・!」
ウツロイドの妨害によってヨウカが一人取り残されそうになったとき、リーリエは迷わず彼女の手を握り引っ張る。
「りっ・・・」
「・・・ぜったい、離しません!」
「・・・!」
このままでは彼女もここに取り残されてしまう、だから離そうとしたヨウカだったが、リーリエのその言葉を聞いて彼女の手を握り返した。
そんな彼女達にウツロイドが容赦なく襲いかかろうとしたそのとき、どこからか暖かい光が放たれてウツロイドを一斉に吹っ飛ばした。
「ソルガレオ!?」
ソルガレオが駆けつけたのだ。
ソルガレオは彼女達の真下に滑り込みすくい上げると、2人を背に乗せて走り出した。
「・・・!」
あまりの光のまぶしさに目をつむり、ゆっくりあけると、ウルトラスペースではなく日輪の祭壇にいることに気付いた。
「ヨウカ、リーリエ!」
「2人とも大丈夫か!」
「は・・・はい!」
「うん・・・わっ!」
急に電撃の塊がつっこんできたかと思うと、それは彼女のバッグの中に入っていった。
そして、バッグの中から赤いボディを携えて姿を現した。
「ヨウカ、ブジでよかったロトー!」
「ロトム・・・」
ポケモン図鑑の姿に戻った仲間のポケモンをみて、ヨウカはうれしそうに笑う。
リーリエも一緒になってその顔にほほえみを浮かべていた。
「・・・すべて、終わったな・・・」
「ああ・・・」
そんな平和的な少女達の姿を見て、この戦いにようやく終止符が打たれたことに安堵したツキトとセイルは次の目的のために動き出す。
そのため、セイルはグズマの方を向く。
「グズマ、早速仕事をしてもらう。
ムーランドを使ってルザミーネを連れて行くぞ」
「え・・・お、おう」
ムーランドの背にルザミーネを乗せて、まえもってハプウから聞いていた帰りの近道へ向かって歩き出す。
そのときツキトはヨウカとリーリエをみて、彼女達に言う。
「オレ達は先に降りてるからな」
「え?」
「まだ、やることがあるだろ?」
ツキトはにっと笑いながら、いまだに向こう側にいるソルガレオとルナアーラをみた。
そんな彼の動きをみて、ヨウカとリーリエはやりたいことがまだあることを思い出して頷く。
彼女達が頷くのをみたツキトは、セイル達とともに一足先にポニの大渓谷を降りていった。
「リーリエちゃん」
「はい」
ヨウカとリーリエは互いの顔を見た後で、ソルガレオとルナアーラのまえにたつ。
「ソルガレオ、ルナアーラ!」
まずはヨウカが顔を上げて2匹の伝説のポケモンを見つめながら、話しかける。
「・・・あたし達の願いを叶えて、助けてくれて、ありがとう!
あなた達のこと、絶対に忘れない・・・。
そんな素敵なあなた達と・・・これからも友達だと思いたい、いいかな?」
「ラリオナ!」
「マヒナペ!」
「・・・あはは、ありがとう!」
いいよ、と言ってくれていると感じ、それを信じてヨウカはにっこり笑ってそういった。
「ラリオーナ!」
「マヒナペーア!」
続けてリーリエが前に立つと、2匹の伝説のポケモンは再び鳴き声をあげた。
「ほしぐもちゃん・・・」
特にリーリエが見つめていたのは、進化前であるコスモッグの頃からずっと一緒にいた存在であるルナアーラ。
「あんなに弱くて、小さくて・・・あっさり風にとばされるほどに軽くて。
そのくせに無邪気で好奇心旺盛で、色んなものに自分から飛び込んでいきましたね・・・」
その性格がリーリエを困らせることもあったが、それもまたいい思い出になっていた。
「私にたくさんのことを与えてくれた・・・色んな世界を一緒にみることができたとき。
私・・・思ったんです。
なにもできないくせに、あなたを連れ出して・・・よかった・・・」
守りたい、助けたいという気持ち。
その気持ちを実行できたことで見えた未来に今いること、それがなによりも嬉しい。
リーリエは今、そんな気持ちでいっぱいになっていた。
「マヒナペ!」
「・・・ええ、わかってます。
あなたはもう、ほしぐもちゃんという名前じゃない・・・ルナアーラという素敵な名前があります・・・。
その名前の通りに」
リーリエはそっと、ルナアーラを抱きしめる。
「これからは月の化身として、ソルガレオさんとともにこのアローラを見守り、支えていってください。
私は、あなたのことを忘れない・・・ずっと、あなたを思っているからね・・・!」
「・・・マヒナペーアッ」
ルナアーラはそのリーリエの言葉を受け取り頷くと、名残惜しさも残しつつゆっくり彼女から離れていく。
リーリエは翡翠色の大きな瞳を潤ませながらも、2匹のポケモンを見つめて微笑みを浮かべる。
「・・・またね・・・」
リーリエがそう言うと、ソルガレオとともにルナアーラは去っていった。
ソルガレオは太陽が昇っていく方向へ、ルナアーラは月が沈んでいく方向へ、それぞれ姿を消したのだった。
「・・・アローラ!」
リーリエは、2匹の伝説のポケモンに向かって大きく手を振りながら、笑ってそう言ったのだった。
「まっておったぞ・・・!」
「ハプウさん!」
「ヨウカッ・・・リーリエ!」
「ハウくん!」
伝説のポケモンに別れを告げたヨウカとリーリエは祭壇を離れて大渓谷を抜けた。
大渓谷を抜けたところで待っていたのは、ハプウだけでなくハウもいた。
そばにはマツリカの姿もある。
「おれもねー、ウラウラ島の試練を突破して、大試練も受けてきたよー!
ほらほら、これ証拠のスタンプだよー!」
「へぇー、クチナシさんに勝ったんやねー!」
「うん、なんかダラダラしてて陰気っぽくてー、変なおじさんだったー」
相変わらず、ハウは無邪気故に辛口だ。
そんなハウにたいしては苦笑をしつつも、内心では明るく元気なポケモントレーナーとして復活していることを喜ぶ。
彼の表情や言動をみて、ハウらしさを感じていると、少し遠目のところにいる一人の少年に気付いた。
「・・・無事、だな」
「お兄様・・・!」
「グラジオくん!」
そこにはグラジオの姿もあり、そちらにも駆け寄る。
「・・・お前達、昨日から一睡もしてないんじゃないか?」
「そりゃ、ね・・・気付いたら朝日が昇ってたんだもん」
「時間、忘れちゃってましたね」
「・・・よく頑張ったな」
グラジオがそういってくるので、ちょっとだけ照れつつも、リーリエ達はグラジオが確かエーテルパラダイスの後始末をしていたことを思いだし、そちらはどうなったのかを確認する。
「仕事はいいんですか?」
「ああ・・・ザオボーに全部押しつけてきた」
「あららー」
ご愁傷サマーと棒読みで言いつつ、ヨウカ達は日輪の祭壇やウルトラスペースで起きたことをグラジオにはなした。
「・・・母親も、さっきみた・・・状態は良いとは言えないが・・・それでも、生きていてよかったと思う。
まだ治療をしなけれなならないが・・・それでも、帰ってくることができて本当によかった・・・お前達もな」
「・・・はい!」
「うん・・・!」
そのときにグラジオが笑みを浮かべていたのを、ヨウカとリーリエは見逃していなかった。
そして、ハプウやグズマの手を借りつつルザミーネは治療のためにエーテルパラダイス行きの船に乗ったことを聞かされる。
ツキトとセイルは、先ほど通信で受け取った話をヨウカ達にふった。
「よし、今から少しでも寝ておけ。
明日の朝に、メレメレ島に帰るぞ」
「メレメレ島?」
「ああ・・・ククイ博士やバーネット博士・・・そして多くの人がお前達を待っている」
「ヨウカー、おばさんもまってるよー!」
「・・・ママもかぁ。
そうだね、あたしも早くママに会いたいよ。
島巡りのために旅立ったきりだもん」
今回の出来事で、不思議ながらも急に母親に会いたくなっていたヨウカは、その本音をつぶやいたのだった。
ハプウの厚意に甘えて、彼女の家で数時間の眠りについたヨウカ達。
ハプウの母や祖母が作った料理はどれも美味しくて、そのおかげで体はだいぶ回復し疲れもとれた。
「・・・」
「リーリエちゃんっ」
「・・・ヨウカさん」
「おはよっ!」
「おはようございます」
少しはやめに目を覚ましていたリーリエは一人、外でハプウから貰ったお茶を飲んでいた。
そこにヨウカが起きてきて彼女に声をかけてきた。
「おおヨウカ、目を覚ましたか。
そなたもわらわの特製のお茶を飲むか?」
「ありがとう、もらうよ」
「うむ、一緒にごはんも持ってくるからの・・・待っておれ」
ヨウカも起きてきたことに気付いたハプウは、ヨウカの分のお茶と食事を取りに行った。
それをまつ間、ヨウカはリーリエの方をみて笑いかけた。
「・・・ありがとう、リーリエちゃん」
「え?」
突然お礼を言われてきょとんとしたリーリエはおどろきつつも、照れて首を横に振った。
お礼を言う人間も言われる人間も、逆だと思っているからだ。
「そんな・・・私が、礼を言わなければならないのに・・・」
「ううん、リーリエちゃんが声を上げてくれなきゃ・・・あたしは締め殺されてたし、手を伸ばしてくれてなかったら・・・あのままウルトラスペースに取り残されてたよ。
だからね、ありがとう!」
「・・・そんな・・・」
ヨウカにお礼を言われて、リーリエは照れて顔を赤くしつつも、ポツポツと話し始めた。
「私・・・今度はあなたを助けなくちゃと思って、必死だっただけです。
あなたには今回はもちろん、今まで助けてもらってばかりだったから・・・。
だから・・・助けることができてよかったと、そう思ってます」
「・・・あははっ」
そこでちょうど、ハプウがお茶と食事を持ってきたのでヨウカはそれにかぶりつく。
持ってきて貰ったのがパンだったから、ヨウカは食欲が一気にうずいたのだ。
そのとき、ヨウカは眠る前にハウに言われたことを思いだした。
「あ!」
「どうしたんですか?」
「実はね、ハウくんに勝負を申し込まれたんだよ。
メレメレ島に帰ったら、あたしとハウくんで6対6のフルバトルだって言ってた。
ハラさんが、取り仕切ってくれるってね」
「・・・そうでしたね、ハウさん・・・スランプを克服してたんですよね」
「うん、それで強くなったことを証明したいんだって」
自分と最も近い存在だった、友人としてともにいた少年と少女がポケモントレーナーとして勝負をする。
昔と違い今はポケモンバトルに対する意識を感じ、そしてポケモントレーナーという存在にあこがれを持っていたリーリエは、2人のポケモンバトルに興味を持った。
「私・・・そのバトルをみてみたいです!
2人を応援しますから、みせてくださいね!」
「うん、あたしも全力で勝負するよ!
あたしとハウくんで最高のバトルをするから、みてねっ!」
「はい!」
こうして、2人の少女は友情を深めあった。
苦難を乗り越えた先の光は、あたたかいことを、互いが存在しているという事実で確かめ合うのだった。
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もうすぐで…終わっちゃうなぁ。