ルザミーネと、ウルトラビーストと、グズマとの激しい戦いは、彼女達の失踪という形で幕を閉じた。
コスモッグは姿を変えて動かなくなり、これ以上なにもできなくなったヨウカ達は一度、ルザミーネの部屋を出ていったのだった。
「・・・みなさん、よく無事で・・・!」
「・・・ビッケさん!」
ビッケは安堵の笑みを浮かべながら全員の無事を喜んでおり、彼女のそばには二人の少年の姿があった。
「ツキトくん、セイルさんも!」
「お前らが無事でよかったぜ」
とりあえずツキトとセイルが無事であったこと、アローラの上空に現れたウルトラホールが消えたこと、ウルトラビーストが追い払われたこと、スカル団も逃げていきエーテル職員も落ち着きを取り戻しつつあることなどをきき、表向きでは騒ぎは落ち着いたことを知る。
だが、実際のところ、事件は全て解決していない。
「にしても・・・これからどうすればいいのかなぁ・・・?」
そのことにたいしヨウカも疑問を抱いているものの、この難題を解決する方法が思いつかず頭をかく。
全員、なにか方法はないかと考え込み始めた頃にビッケが口を開いた。
「・・・色々あったでしょう、まずは今日のところはお休みください。
みなさんのために休憩スペースと食事をご用意いたしましたから」
「・・・そうだねー・・・おれもくたくただよー・・・」
「あはは、あたしもちょーっとお腹すいちゃった。
それに何よりも、ニャーくんたちがくたくただと思うよ。
だから休憩には賛成だよー」
ビッケの提案にハウとヨウカが同意し、グラジオも頷く。
「・・・そうだな・・・今疲れた状態のまま行動しても、かえって壁にぶつかりなにもうまくいかなくなるからな・・・」
「色々準備もあるし、まずは腹ごしらえとしようぜ」
「焦ったからといって、それで進めるとは限らんしな」
ツキトとセイルが頷く横で、リーリエはなにかを考えていた。
「・・・」
「リーリエちゃん、どうしたの?」
「・・・あ、ヨウカさん」
そんなリーリエにヨウカは声をかける。
「ほしぐもちゃんのこともあるかもしれないけど、リーリエちゃんも大変な思いをしたでしょ。
だからここはビッケさんに甘えて、たくさん休んだ方がいいよ」
「はい・・・わかってます。
今考えていたのは別のことです」
「べつのこと?」
リーリエは頷くと、隅に置かれた白いシーツのベッドに手を添える。
そのときの彼女の顔は懐かしさを秘めていて、同時になにかの覚悟を決めているかのようだった。
「私、今晩はここで寝ようと思うんです」
「ここって・・・ルザミーネさんの寝室だよね」
「はい。
・・・小さい頃はここで母様とよく一緒に寝ていたんですが・・・それも、今日で本当に最後にしようと、思ってるんです」
「・・・リーリエちゃん」
「・・・」
彼女なりのけじめだろうか。
ヨウカとグラジオが彼女の気持ちを受け取ったころ、ビッケは彼女達を案内しようとした。
「・・・ではみなさま、食堂にご案内しますので」
「はーい」
「はい」
そうして案内された先の食堂で、彼女達は夕食をごちそうになり、それぞれに用意された寝室で眠ることにしたのだった。
ポケモン達も、回復装置で回復している。
「・・・」
夜、エーテルパラダイスの屋上でリーリエは一人物思いに耽っていた。
彼女の手の上では姿を変えたコスモッグが浮かんでおり、リーリエはいつも自分と一緒にいたときのコスモッグの姿を思い出す。
バッグの中で勝手に動いては飛び出して、周囲をきょろきょろするあの元気で好奇心旺盛な姿を。
「ほしぐもちゃん・・・」
「あー、やっぱりリーリエだー!」
「あ・・・ハウさん・・・」
そんなリーリエに声をかけてきたのは、ハウだった。
珍しく髪を下ろしていて、意外と長い髪が目立っている。
「リーリエ、どうしたのー?」
「・・・ちょっと、眠れなくて・・・ハウさんは?」
「んー・・・さっきリーリエの様子がおかしかったから、気になって声をかけようかなって思ってたんだー」
「そうだったんですか・・・」
相変わらず無邪気な顔で笑って、自分に声をかけてきた。
彼はスランプを乗り越えて、前より強くなって自分を助けにきてくれたことを思い出したリーリエは、ハウにお礼の言葉を言う。
「そういえば、ハウさん・・・」
「んー?」
「・・・助けにきてくれて、その・・・うれしかったです。
ありがとうございます・・・」
「そんなー、謝るのはおれだよー。
おれが悩んで落ち込んで、なにもできなかったからー・・・リーリエもコスモッグもー・・・大変なことになっちゃったしー・・・」
「謝るべきは・・・私です」
リーリエはそう言って、手すりを握る手に力を込めた。
母が恐ろしくて、自分では何一つできなかったこと。
母の言っていることは確かであり、親を説得できなければ、トレーナーとしてポケモンと戦う力もなかった。
自分はポケモンが傷つくからバトルが嫌だったのではない、ポケモンとともに傷つきながらも頑張るということができず逃げていただけなのだ。
「・・・私、本当に弱くて・・・頼ってばかりで自分ではなにもしていない・・・。
だから、そのせいで・・・ハウさんやヨウカさんを、危険なことに巻き込んだ・・・」
じわり、とリーリエの視界はゆがんでいく。
ヨウカ達が助けにきてくれたことも、そこで彼女に掛けられた言葉もうれしかった。
だがそれ以上に、リーリエは自分を責める気持ちでいっぱいになっていのだ。
「私は・・・私のワガママで・・・あなた達を巻き込んでしまった・・・!」
その気持ちがあふれ出てきて、リーリエはボロボロと涙をこぼしつつ泣き崩れた。
そんなリーリエにハウはきょとんとしていたが、やがて穏やかに微笑みつつ彼女と向かい合う。
「・・・巻き込まれたと思うのも、巻き込むのも・・・リーリエの勝手だよ」
「・・・え・・・?」
ハウは真剣な眼差しでリーリエを見つめつつ、話を続ける。
「だけどね、巻き込まれていくかどうかを決めたのは、おれ達なんだよー。
いまさっきのことはねー、おれが自分から巻き込まれにいくって決めて、そのために腹をくくったからーここまで来ることができたんだよー。
戦うことだって、できたんだよー」
「・・・ハウさん・・・どうして、そこまでして・・・巻き込まれるって決めたんですか・・・?」
「みんなに、笑顔になってほしいからだよ!」
リーリエに対して向けられたのは、満面の笑顔。
初めて会ったときに見せてくれた、彼の性格を表した笑顔だ。
「そして、そのみんなの中には、リーリエもいなくちゃダメー!
ヨウカもいて、じーちゃんも博士もリーリエも・・・今まで会ってきた人達がいるー!
それが、おれにとっての平和なのー!」
いつもの日常、ハウにとってはそれが大事なものだ。
それが崩れるのは絶対に嫌だ、と思いなおした彼はスランプを乗り越えられたのだ。
「平和のためなら、おれー・・・どんなに辛いことでも意地でも乗り越えられるよー!
どんな相手にだって戦えるよー!」
「ハウさん・・・そうです、ね・・・」
そんなハウの言葉を聞いていったリーリエも、自然と涙がとまり、笑い返していった。
「・・・私も・・・自分の力で・・・立ち向かえるように、強くなりたいと思っていたことを、思い出しました。
だから・・・お互い、頑張っていきましょうね」
「うんっ!」
「・・・私も、もう大丈夫です。
また明日・・・会いましょう・・・おやすみなさい」
「うん、おやすみー!」
月の下でハウとリーリエは、ここで一度わかれた。
そして、ビッケに用意された寝室の一つでは。
ツキトとセイルが一緒に借りていた。
「・・・ああ・・・そうか・・・それならよかった・・・。
ハラさんもお前も、大変だったろうに・・・そっちの力になれなくてすまなかったな・・・」
「そんな気にしないでください、キミがどんな苦労をしていたのかは理解していますから」
「ああ・・・ありがとう、な。
これからのことは、ちょっと考えてから決めようと思うんだ」
「急がなくても、大丈夫ですよ。
僕もキミの両親も、セイルの決断を信じて応援するだけですからね」
「・・・ああ・・・」
「では」
セイルは親友であるイリマと連絡をとっていたのだ。
互いに簡単に状況報告をし終えると、一度そこで通信を切る。
そのときにシャワールームからでてきたツキトが、セイルがイリマと通信をしていたことを知り、自分もまた同じことをしていたと話を切り出す。
「オレもさっき、姉ちゃんと電話してたんだ。
アーカラ島も大丈夫だとよ」
「そうか、よかったな」
「ああ・・・といっても、本番はこれからだと思うぜ」
ウルトラビーストの危険性を考慮して、キャプテン達は各々で判断して万が一に備えて避難をさせたり警告を出したりしていたのだ。
今はウルトラビーストが立ち去っていったので大事は免れたものの、緊迫した空気が完全に解けるのは難しいことだろう。
「このエーテルパラダイスがスカル団とつながってたことも、まだ完全には解決していない」
「そうだよな・・・」
セイルの腕の怪我をチェックしつつ、ツキトは彼とスカル団の因縁を思い出す。
かつてスカル団のことで揉めて、彼と戦ったことがあるので複雑な気持ちだ。
「さっきグラジオがはなしていたな・・・。
伝説のポケモンであれば、ウルトラホールへいく方法がわかるかもしれないって」
「伝説のポケモン・・・アローラの王朝伝説に出てくる、月と太陽の化身と呼ばれるポケモンか。
確かにそのポケモン達なら、なにかわかるかもしれないな」
「そして、その伝承は、ポニ島に多く残されているという・・・」
その中でツキトは、自分が今考えていることを打ち明けることを決めて口を開く。
「・・・セイル、オレさ・・・今回のことであることを決めてみたんだ」
「・・・奇遇だなツキト、俺もあることを考えていた」
2人は頷きあうと、同じ内容のことをそのまま相手に言う。
それは。
「ウルトラホールからルザミーネも、そしてグズマも連れ戻す」
「その手がかりと方法のために、ヨウカやリーリエに引き続き力を貸す」
というものだ。
「・・・」
「ガァウ・・・」
そして、グラジオもまた、眠れぬ夜を過ごしていた。
換えのそばには仮面がなくなり、顔を見せた相棒と呼ぶべきポケモンがいる。
そんな相棒の体をそっと撫でながら、グラジオは呟く。
「・・・シルヴァディ・・・」
「?」
「・・・新しい姿を得た、お前の名前だ・・・。
もうタイプ:フルでもタイプ:ヌルでもない・・・新しいポケモンとして、お前にこの名前を与えたい」
「・・・グルルルル・・・」
シルヴァディ、と呼ばれたポケモンは喉を鳴らしてグラジオにすり寄る。
そんな相棒に対しグラジオは目を細めた。
「・・・グラジオくん、ここにおったんやね」
「ヨウカ?」
その声とともに姿を見せたのは、髪を解いて上着を脱いだヨウカだった。
グラジオがヨウカに気付くと、ヨウカはふふっと笑いながらグラジオにあゆみよる。
「はなしきーちゃった・・・そのポケモン、名前を付けてあげたんだね」
「シルヴァディ・・・いいなまえロト、キロクするロト!」
「・・・」
全部聞いていたのか、と思ったグラジオは彼女達から少し目をそらした。
そんな彼のリアクションを見たヨウカは、また口から笑いをこぼす。
「ふふっ」
「なんだ?」
「・・・そういえば今更だけど、あたしをメテノから守ってくれたとき・・・初めてあたしをヨウカって呼んだなぁっておもったんよ」
「・・・!」
ヨウカに言われて自分で気付いた。
あのときまでグラジオは、ヨウカのことはずっとお前とかあいつとか呼んでいたのに、名前を呼んだのだ。
「そういえば・・・お前のことをちゃんと今まで名前で呼んだこと、なかったな」
「そうだよっ」
「・・・あのときは、無意識だったんだ・・・だから、自然とお前を・・・」
「いいよ、ぜーんぜんきにしないもん。
むしろ名前で呼んでくれて、あたしはうれしいよ!」
「そうか」
そう笑顔で言うヨウカの顔を見て、これからはヨウカのことを名前で呼んでいこうと思ったグラジオに、ヨウカはこれから彼がどうするのかを確認した。
夕食の席で彼は、伝説のポケモンについて話し、そのポケモンの力を借りてみるといいというアドバイスを送っていたのだ。
その話を聞き、ヨウカとリーリエは伝説のポケモンにまつわる場所があるというポニ島にいくと決めていた。
「グラジオくんは、ここに残るの?」
「ああ・・・ここの後始末をしようと思っている。
あの部屋に閉じこめられたポケモンを助けなければならんしな」
「そうだね・・・」
コールドスリープにされたポケモン達を、あのままにしておけない。
どうやって助け出すのかはヨウカにはわからないが、彼だったらきっと助け出せるだろう。
そんな彼を信じて、ヨウカは自分で決めていたことを
「リーリエちゃんのことなら、あたしに任せて。
絶対に守り通して、ほしぐもちゃんも助けて・・・そして、お母さんも連れ戻してくるからね」
「ああ・・・あんな人でも親だ。
あのままにしておいていいはずがない・・・頼む」
「うんっ!」
「・・・さぁ、もう休め・・・明日からまた忙しいぞ」
「うん」
明日のために、今はやすんでほしい。
そんなグラジオの気持ちを受け取ったヨウカは歩き出すが、途中であることを思い出して立ち止まり、声を上げる。
「あっ、あのねっ!」
「どうした?」
「ハウくんがグラジオくんのこと、喋らないことをカッコイイって思いこんでるよねーって言ってたよ」
「・・・あのやろっ・・・」
ハウがそんなことを言っていたのか、とグラジオは彼に対して少しだけ怒りを覚える。
そんなグラジオに、ヨウカはでもね、と言いながら話を続ける。
「・・・あたし、グラジオくんはかっこつけたりなんかしなくても・・・ほんまにかっこええって思っとるよ!」
「・・・っ!?」
「だって家族を思っていて、ポケモンのことも大事に思っていて、強くなろうとがんばってて・・・。
オマケに勝負はいつも正々堂々と正面からやってる・・・。
きわめつけに、顔もホンマにキレーな顔しとるもん!」
ヨウカがにこにこしながら褒めてくるので、グラジオは少し顔を赤くしてうろたえはじめる。
目線をそらし顔の半分を手で隠したグラジオを見て、ヨウカは言葉を止めてあわて出す。
「え、あたしなにかヘンなこと言った!?」
「・・・お前って・・・やつは・・・」
「えぇー・・・だってホントにそー思っとるもん」
「・・・さっきも言ったが、明日は早い、寝るぞ・・・」
「はーい?」
シルヴァディとともにヨウカを寝室まで送り、グラジオは自分の寝室にはいった後で頭を抱え出す。
顔はさっきよりも、赤くなっていた。
「・・・く・・・」
ヨウカは正直者ゆえに、あの言葉には嘘がない。
だからなおさら、のしかかるものがあるのをグラジオは感じていた。
「んー・・・!
よーくねたよー!」
「スッキリしためざめロトね、ヨウカ!」
「うんっ!」
朝、ヨウカは外にでて思い切り背伸びをした。
シャワーで身体の汗を一気に流しベッドでゆっくり眠り、朝ご飯も食べたので今の彼女はいい気分だ。
ただ一つ気になるのは、昨晩のグラジオのこと。
「・・・ねぇロトム、昨日のことをもっとちゃんと、グラジオくんとお話しした方がいいかなぁ?」
「それは、やらなくてもいいとおもうロトよ」
「せやの?
にしても・・・あんなにあわてることってあるんやね、グラジオくんて」
「・・・」
首を傾げているヨウカに、どう説明すればいいのかわからずロトムは言葉を失った。
そんなロトムを横目にヨウカは、改めてボールベルトにモンスターボールをセットしていく。
「・・・気付けばあたし、手持ちのポケモン、6匹フルになってたんやな」
ここまで頑張ってこれたのも、そしてこれから頑張ろうと決めることができたのも、彼らがいるからだと思い直したヨウカはその顔に自然と笑みを浮かべる。
そのとき、別の方向から誰かが来る足音に気付いてそちらをむくと、白い
活動的な服装に、薄い金色のポニーテールの少女がそこにいた。
少女は風を浴びて顔を上げており、その横顔を見たヨウカはその少女に気付いて名前を言う。
「・・・リーリエちゃん・・・?」
「・・・ヨウカさん」
リーリエは、ヨウカの方を向くと翡翠色の目を細めてにっこりと笑う。
「・・・マリエシティで買ったままの服を、きてみました。
今まで覚悟を決めなければ着ることができないと思ってたんですが、今思い切ってみました。
これは・・・私なりの、ゼンリョクの姿なんです。
・・・その・・・似合ってますか?」
「うん、すっごくかわいいよ!」
「ありがとうございますっ」
ヨウカは今のリーリエの姿に対し素直な感想を告げると、リーリエはさらに嬉しそうに笑った。
そこでヨウカは、リーリエの手首につけられているアクセサリーに気付く。
そのアクセサリーは、彼女と一緒にお店にはいって、同じように気に入って一緒に購入したものだからだ。
「あれ、そのブレスレットってもしかして・・・」
「はい・・・ライチさんのお店で買ったものです」
「そうなんだ、じゃああたしもつけよっと!」
そう言ってヨウカはバッグからアクセサリーを出すと、それを同じように手首につけた。
デザインはリーリエがつけているものと同じだが、使われている石が違うらしい、色違いのものだった。
「あはは、ホントにおそろいになったねっ!」
「・・・はい!」
2人は色違いのブレスレットを見せ合って、笑顔を向けあった。
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ここも、この長編でかきたかったポイントです。