さしてきた陰り
「・・・」
その日ハウは、眠れぬ夜を過ごしていた。
ぼーっとした顔で目を半分開け、頭をポリポリ掻きながら起きあがる。
そんな行動に出ながら思い出すのは、今日のこと。
「ヨウカってすごいよねー・・・今回の試練もあっさり突破しちゃったもん。
おれなんかー・・・まだマーマネって子の試練に挑んですらないのにー・・・」
戻ってきた彼女達から、ヨウカがアセロラの試練を突破したことを聞かされた。
ハウもリーリエも、ヨウカの試練突破を自分のことのように喜び祝福した。
祝われているヨウカは照れながらも、アセロラの試練はホントに怖かったといっていた。
もちろんヨウカは嘘は言っておらず本当に怖かったのだろうし、ハウが喜び祝福したことにも偽りはない。
しかし、スランプに陥っている成果もしれないが、そんなヨウカと自分を比べてしまう。
表には出さないが、ヨウカのあの実力をねたみそうにもなる。
ハウ自身もこんな自分はイヤだが、解決策は見つからない。
ヨウカや周囲に当たらないように自分でそういった感情を抑えて、あくまで笑顔を浮かべて明るく振る舞うのが、ハウにできる精一杯だった。
「ライライ達も、おれの分までがんばってるのになぁ」
そう言って自分のポケモン達が入ったモンスターボールを見つめつつ、ハウは廊下を歩いた。
ハウはヨウカやリーリエとともに、アセロラの厚意に甘えてこのエーテルハウスに泊まっているのだ。
「あれ・・・リーリエ?」
ハウはヨウカやリーリエと同じ部屋で寝ていたのだが、リーリエの姿がないことに気づく。
ヨウカは今も眠っているのだが、リーリエだけいない。
「どこにいっちゃったんだろー・・・」
もしかして一人で外にでているのではないか、と思ったハウは念のためモンスターボールを持って行って彼女を探しに行った。
多分コスモッグがひとりで飛び出して、それをリーリエが追いかけていったのだろうと思いながら。
「・・・リーリエー?」
一応リーリエの名前を呼びながら、ハウはリーリエを探す。
外に出て周囲を探っていると、木の陰から白くて大きな帽子が見えた。
「あっ」
その帽子は間違いなく、リーリエの帽子だ。
そう思ったハウは笑顔を浮かべて駆け寄ろうとしたが、次の瞬間に視界にはいった光景に目を丸くして立ち止まった。
「・・・っ・・・!?」
そして、言葉も失ったのだった。
リーリエは、スカル団と共にいた。
スカル団の下っ端に囲まれながらプルメリと向かい合う彼女は、コスモッグを抱きしめていた。
「・・・やっぱり、あんただったんだね・・・。
あたいらがずーっと探していたものを持っていたのは」
「・・・」
「ぴゅ?」
「だ、ダメです・・・!」
腕の中を飛び出そうとしたコスモッグを押さえつけるように、抱きしめる腕の力を強めるリーリエ。
その様子を見ているプルメリの目は、相変わらず鋭い。
「・・・まぁ、あんたがホントにポケモンドロボーなのかどうかは、疑わしいところもあるけどねぇ。
あたいらにも仕事というのがあるんだ。
そのポケモンだけじゃなくて、あんたのことも見つけて・・・」
プルメリの話を遮ったのは、騒ぎ出したスカル団だった。
「うわぁ!?」
「!?」
「なんだい?」
少年の声がして、2人は同時にその方向をみる。
その声に聞き覚えのあるリーリエは驚きと焦りで目を丸くさせて身体をふるわせる。
「アネキィ!
このガキが、オレ達の話を盗み聞いていやしたぜ!」
「ガキ?」
スカル団の一人が連れてきた少年を見て、リーリエはさらにあせる。
彼が連れてきた少年は、間違いなくハウだったからだ。
「ハウさん・・・!」
「ハウ?
・・・ああ・・・そういえば見たことあるねぇ・・・。
確か、メレメレ島のしまキングの孫だったっけ」
「・・・っ」
そう言われてハウはギクリとした。
さらに立て続けに言われたプルメリの言葉に、ハウは精神的に追いつめられていく。
「あしらいやすいこいつはともかく、ハラは厄介だな・・・あれはしまキングだけあって強いし」
「・・・」
「・・・あたいらのこの行動がバレたらまずいし、ここで口封じしておいた方がいいか」
そう言ってプルメリがエンニュートに指示を出そうとしたとき、リーリエは大きな声で叫び彼女を止める。
「やめてください!」
その声を聞いたプルメリはエンニュートに指示を出すことをやめて、リーリエを見つめる。
「私・・・このこと一緒に・・・あなた方について行きます。
だから・・・すぐそこのエーテルハウスと、そこにいる方々・・・。
そして、そこにいるハウさんには手を出さないでください・・・!」
「・・・」
「も・・・もしも!
あなたがそれでもハウさんに手を出すなら、この身体で防ぎます・・・!」
「り・・・リーリエ・・・」
プルメリはリーリエをじっと見つめた。
リーリエはふるえながらもプルメリを見つめ返しており、やがてプルメリはため息をつきつつ首を横に振った。
「・・・なんだ、お淑やかな割に度胸あるじゃん。
それに・・・万が一あんたにけがさせたまま連れて行ったら、あたいらの身が危ういからね・・・」
そう言ってプルメリはスカル団の下っ端に指示を出して、ハウを解放させた。
ハウはポカンと立ち尽くして、動けなくなっていた。
「・・・いいだろう、あんたに免じて今回はこいつの覗き見のことはなかったことにしてやるさ。
さ、そうと決まったらついてきな」
「・・・条件、守ってくださいね・・・!」
「わかってるって、さぁいくよ」
そう言ってプルメリが歩き出すと、リーリエも彼女達についていった。
この一連の流れをみたハウは、自分の内側で様々な感情が渦巻くが故に、その場から動けずにいた。
「り・・・リーリエー・・・。
リーリエェェ!!」
そう、立ち去っていくリーリエに向かって叫ぶことしか、できなかったのであった。
「・・・そんなことが、あったの・・・!?」
驚きを隠せないヨウカの言葉に対し、ハウは目を腫らしながらこくりとうなずいた。
朝日が昇った頃、ヨウカはハウとリーリエがいないことに気付き彼らを捜しにエーテルハウスを出た。
そして、外で泣き疲れたらしいハウを発見し慌てて彼を起こしここまで連れ戻してきた。
ハウはヨウカがきたことで涙をポロポロ流したのでヨウカはまずそこに驚いたのだが、何があったのかを彼から聞いてさらに驚いた。
一緒になってハウの話を聞いていたアセロラも、不満げに頬を膨らませた。
「むー・・・スカル団ははた迷惑だとずーっと前から思ってたけど・・・なんてやつらなのっ!」
「スカル団・・・やはり叩きのめすしかないようだな」
「セイルさん!?」
そこに現れたのはセイルだった。
セイルは、指先で眼鏡をうごかしつつ話に加わっていく。
「・・・盗み聞きして悪かった。
最近、大勢のスカル団がここに集まっているという情報を聞いたから駆けつけたんだ。
・・・もう、遅かったみたいだがな」
「・・・どうすればいいのかな?」
スカル団にリーリエが連れてかれてしまった。
どうすればいいのかわからずヨウカが考え込んでいると、セイルはジュナイパーを出して彼女に呼びかける。
「まだなんとかなるかもしれんから行くぞ。
スカル団の根城を、俺が知っているから案内してやる」
「え?」
「ポータウンという場所だ。
かつてしまキングがいた場所だと言われてるが・・・しまキングがいなくなった今ではスカル団が占拠し、奴らしか住んでいない・・・既に廃れてしまった哀れな町だ」
「・・・」
ポータウンという場所のことを説明したあとで、セイルはヨウカをみて問いかける。
「どうする?」
「・・・あたし、いってくる!
リーリエちゃんが助けられる可能性があるなら・・・あたし、とにかく賭けてみるよ!」
「そうこなくてはな・・・」
ヨウカの目を見たセイルはうなずくと、準備ができたら16番道路の先にあるというウラウラの花園にこいと言い残して、ジュナイパーとともにそこへ向かった。
「ハウくんはどうする、一緒にいく?」
ヨウカはハウにも問いかけるが、ハウは首を横に振った。
「おれ、自信ないよ・・・」
「ハウくん・・・」
「・・・おれ・・・トレーナーなのに・・・あいつらを蹴散らすことができたはずなのに・・・。
トレーナーじゃないリーリエに守ってもらったんだ・・・。
じーちゃんよりもずーっと弱いおれがいっても、ヨウカの迷惑だよ・・・」
今のハウには初めて会ったときの明るさはなく、うじうじしてて弱々しい。
そんなハウの姿にヨウカは眉をつり上げつつ、ハウに向かっていった。
「ハウ君の意気地なし!
そんなんだからあなたは、ハラさんといっつも比べられるし、スカル団にもバカにされて、リーリエちゃんもあっさり連れてかれたんだよ!」
「・・・っ」
ヨウカの容赦のない言葉の連続にハウは肩をビクンとふるわせた。
そんなハウにたいし、ヨウカはそれに、と言葉を付け足してくる。
「ホントに、トレーナーかとかトレーナーじゃないからとか・・・それだけ?
リーリエちゃんを連れてかれて、守るんじゃなくて守られて・・・悔しい思いをする理由って、それだけなの?」
「・・・」
「・・・アセロラちゃん、ハウくんをお願い」
「うん、気をつけてね!」
ヨウカはハウのことをアセロラにたくすと、セイルの待っているところへ向かうためにエーテルハウスを出て行った。
残ったハウは、弱気というよりは、なにか思い詰めたような顔になっていた。
「たしか、セイルさんがいってた16番道路ってこの先で、さらに進んだところにウラウラの花園があるんだよね」
「そうだロト!
ボクがアンナイするから、ついてきてほしいロト!」
「オッケー!
それじゃ、スカル団の根城目指して、レッツゴーだよ!」
セイルの待っている場所をロトムと一緒に確認したヨウカは、ポケモン達のコンディションをチェックした後で歩き出そうとした。
「キュュ!」
「うわぁ!?」
「ヨウカッ!?」
そのとき、背後から何かが飛びついてきたのでヨウカは驚きつまづいてしまう。
幸いけがはなかったものの、驚いたことに変わりはなく、自分に飛びついてきたものの正体を確かめようと腕を伸ばす。
ヨウカがつかんだのは、褪せてる黄色の布をかぶったなにか。
その姿に見覚えがあるヨウカは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「あれ、あなたってあのときのミミッキュ?」
「キュ!」
それは、メガやす跡地で出会ったミミッキュだった。
ぬしポケモンではなく、バトルに巻き込まれそうになったのをヨウカが助けた方のミミッキュだ。
だがそのミミッキュがなぜ、ここにいるのだろうか。
「まさかとはおもうけど・・・そのミミッキュ、ヨウカをおいかけて、ここまできたのかもしれないロト」
「え、そうなの!?」
「キィュー」
こことメガやす跡地は遠くはないが近くもない。
「えーっと、あたし今から行かなくちゃいけない場所があるの!
遊ぶのはまたあと・・・」
「キィユゥゥウゥ・・・キュー!」
「えっ!?」
ミミッキュはスカル団の手配所を一枚みせて、それで高い声を出して鳴いた。
ここでスカル団のことを持ってきたということは、とヨウカは今ミミッキュが考えていることを察し、確認としてミミッキュに問いかける。
「もしかして・・・スカル団が相手だから自分もいくっていうの?
それで、あたしと一緒にいきたいから、今からついて行くの?」
「ミッキュ!」
そう言うとミミッキュはピカチュウの頭の部分を動かした。
その動きはうなずいているようだ。
ミミッキュの気持ちに気づいたヨウカは、真剣な眼差しでミミッキュを見つめながらうなずいた。
「・・・わかった・・・あなたの力を貸して・・・!」
「ミキュ!」
そういうとミミッキュはヨウカの腕に飛び込み、ヨウカはミミッキュを抱き上げて歩き出した。
「・・・スカル団、絶対に倒してリーリエちゃんを帰してもらうからな・・・!」
大事な友達のため、ヨウカは歩くスピードを速めた。
今彼女にあるのは、スカル団と戦うという意志だ。
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