水の試練
アーカラの旅を続けるヨウカは今、目の前に出現したあるポケモンに勝負を挑んでいた。
彼女の目の前には緑とピンクの2色の体と赤くて大きな瞳をもつくさタイプのポケモン、カリキリだった。
ヨウカがこのポケモンと勝負している理由、それはこのポケモンをゲットしたいからである。
「いっけ、モンスターボールッ!」
タツくんでうまく戦って、相手がだいぶ弱ったところでヨウカはボールを投げる。
カリキリの入ったボールは地面に落ちて数回揺れた後で動きを止めた。
「やったぁ!」
「カリキリ、ゲットだロト!」
ヨウカは喜んでカリキリが入ったボールを手に持ち飛び跳ねる。
その様子を見たロトムは、最初にこのポケモンを見つけたときにヨウカがいっていたことを思い出してヨウカに確認をとる。
「それでこのこ、センゲンどおりにつれていくロト?」
「うん、可愛いしねーっ!
この子の名前も今決めたよ、カリちゃんだよ!」
「やっぱり、アンチャクだロト」
「いいでしょー!」
そんなやりとりをしてポケモンセンターでそのカリキリを回復させて手持ちに入れて外にでると、ロトムが一方を示す。
「みえたロトよヨウカ、あそこがせせらぎのオカだロト!」
「確かに看板があるね!」
あそこで、この島の最初の試練が行われる。
ヨウカはグローブをしっかりとつけてからそこに足を踏み入れる。
「おぉ、スイレンちゃーん!」
「あ、ヨウカさん」
池の前にいた青髪の少女、スイレンの名前を呼びながら彼女に無邪気に駆け寄るヨウカ。
スイレンもヨウカに気付き彼女に微笑みかける。
「あなたが来るのを待っていました」
「そうなん?」
「実はちょっとあなたにお願いがあるのです」
「え、なになに?」
スイレンの言葉に対し首を傾げていると、まずはあちらをごらんくださいと池を指さす。
彼女の指さした先では、水しぶきがあがっていた。
「あれがなに?」
「なんなのかは、わかりません。
さっきからあれのこと、気にしていたらあなたがきたから、調べてもらおうと思ったんです」
「せやったん?
よし、あたしが調べてみるよ・・・お願いサニちゃん!」
そう言ってヨウカはサニちゃんをだし、水しぶきのでていた場所にサニちゃんを向かわせる。
サニちゃんがその水しぶきにつっこむと、その水しぶきの中から青と白の鱗を持った小さな魚のポケモンが飛び出してきた。
ヨワシはサニちゃんにたいあたりをしかけたが、岩の硬い体を持つサニちゃんはびくともせず、逆にこちらからたいあたりを仕掛けた。
サニちゃんのたいあたりを受けたヨワシは池の中に潜り逃げていく。
「いまのってなに?」
「ヨワシという、アローラのうみにおおくセイソクしているみずポケモンだロト!
イッピキだけだととてもよわいポケモンといわれているロト!」
「・・・まぁ、確かにそうやね」
実際に強くなかったし、と思いヨウカはそのままスイレンについていった。
途中、別の小さな池でも水しぶきが起こっていてサニちゃんをそこに向かわせたが、その水しぶきの正体もやはりヨワシだった。
2回連続でヨワシと衝突するなんて、と思いつつヨウカはまだまだスイレンについて行く。
すると先程までの2つの池より大きめの池がみえ、その水面には水しぶきがたっていたがさっきのより大きい。
「あ、さっきよりも水しぶきが大きいね」
「・・・あれはいきのいい海パン野郎かもしれませんね」
「いきのいい海パン野郎ってなんやのスイレンちゃん」
「・・・また、調べてもらっていいですか?」
「え、うん」
いきのいい海パン野郎という言葉が気にはなったが、ヨウカはまたサニちゃんに指示を出して水しぶきの元へ向かわせる。
その水しぶきから出てきたのはいきのいい海パン野郎・・・ではなく、またまたヨワシだった。
だがそのヨワシは結構強気な性格のようで、サニちゃんにたいしてみずのはどうを放ち攻撃を仕掛けてきた。
しかし、やはり弱くサニちゃんのとげキャノンの前にあっさりと敗れ、水に潜って逃げていった。
「さっきまでと同じヨワシってポケモンだったね」
「サニー」
「ってあれ、スイレンちゃんは?」
気付くと自分の近くにいたスイレンの姿がない。
どこにいったのだろう、とヨウカが首を左右に振ってきょろきょろしだしたとき、スイレンの声がした。
「ヨウカさーん、こっちですよー!」
「スイレンちゃんっ!?」
「いつのまにあんなところにイドウしたロトー!?」
スイレンは池を挟んだ対岸にいた。
自分がヨワシと戦っている間に、あそこまで移動したとは侮れない。
ヨウカはライドギアを使ってラプラスを使い対岸に向かい、スイレンと合流する。
「そういえばこの池には伝説のポケモン、カイオーガの住処があるんですよね」
「え、ほんまに!?」
「まぁ、冗談なんですけどね」
「ありゃ!?」
というやりとりを挟みつつスイレンとともにせせらぎの丘の最深部に到着したヨウカ。
そこには今までのどの池よりも大きい池があり、滝も流れている。
その池の前で、スイレンは立ち止まった。
「はぁ、結構奥まできたけれど、なにがあるの?」
「・・・ここまでつられてきましたね」
「えっ?」
スイレンの言葉の意味を受け取れず、ヨウカはぽかんとした。
そんなヨウカのリアクションに気付いたスイレンは振り返り、彼女にあることを言ってきた。
「キャプテンゲートをくぐった今、貴女にはこのスイレンの試練に挑むことになったのです!」
「えぇーっ!
うっそ、今から試練開始!?」
「はい」
ヨウカはあわてて振り返り、スイレンのいうキャプテンゲートの存在に気付いた。
確かイリマの試練、茂みの洞窟の入り口にもおなじものがあった。
これをくぐったら試練が始まるということなのか、とヨウカは初めて知り、このことをしっかり頭に記憶しようと決めた。
「わたし、スイレンの試練は・・・ここのぬしポケモンを倒すことです」
「ぬしポケモン・・・」
「あの滝壺のところにいるのです、行ってみてもらえますか?
ライドポケモンの力を借りて」
「・・・うん」
ライドポケモン。
陸や空、海を移動するときに、指定されたポケモンの力を借りることができる。
実はメレメレ島でヨウカはライドポケモンを呼び出すことのできる道具、ライドギアをセイルから貰ってた。
その中からラプラスを選択し、ライドボールからラプラスを出すとそのラプラスに乗って水上をわたり、ぬしポケモンのいる滝壺に向かう。
「このあたりかな・・・!」
「どうしたロト?」
不意にヨウカは足を止めてきょろきょろし始める。
鼻の先にあたったのは、雨水。
この場に雨が降り始めているのだ。
「・・・なんやろ、イヤな空気が流れてる・・・そんな予感がする・・・!」
「ヨウカ、アブないロトー!」
「へっ・・・!?」
湖の中から出てきたのは、青い身体を持ったヨウカの数倍はあるであろう巨大な魚だった。
目を光らせ鰭を動かし、大きな口をあけながらこちらに向かってきたその姿に驚きを隠せず、たまらずヨウカは大声で叫ぶ。
「・・・なぁにこれーーーっ!?」
「ロトム、これなんてポケモン!?」
「これはヨワシだロト」
「ヨワシ!?」
それはさっきまでサニちゃんで瞬殺のごとく倒してきたポケモンだ。
それがこうなるとは、まさか進化でもしたのだろうか。
そう思ったヨウカはスイレンに問いかける。
「ちょ、ちょちょちょ、スイレンちゃん、これが今回のぬしポケモンー!?」
「はい、多くのヨワシが集まり、真の力を発揮した姿なのです!」
「んなあほなぁー!
ま、まさか途中で何度も出てきたのが、このヨワシッ!?」
「まさにその通りです!」
「うっそーん!」
途中で遭遇したあの弱いヨワシが集まっただけで、ここまで強くなってしまうのか。
そのギャップに驚き一瞬パニくるが、どんな状況であろうと相手はポケモンだということを瞬時に思い出した。
「と、とりあえず、みずポケモンってのは同じやね!?
ま、まずはタツくんいってー!」
ニャーくんは不利だし、サニちゃんでは微妙。
だからここはみずタイプの技があまり効かないタツくんを繰り出す。
「タツくん、りゅうのいかり!」
「タン、ベーィ!」
早速タツくんにりゅうのいかりを指示し、その指示を聞いたタツくんは技を放ってヨワシに攻撃する。
その一撃はヒットしたが、ドラゴン技の中でもそこまで威力が高くないその技で倒せるわけもなく、ヨワシはアクアテールでタツくんを攻撃した。
それになんとか耐えたタツくんは今度はずつきとしねんのずつきを連続で打ち込むが、相手は予め使っていたアクアリングで体力を回復させてしまう。
どうすればいいのか、と戸惑うヨウカだが、そう思っている間にタツくんは2度目のアクアテールを受けて吹っ飛んでしまう。
「あぁー、タツくーんっ!」
「このアメのコウカでみずタイプのワザのイリョクがあがっているロト・・・。
これはあまごいというワザでふってるロトね。
・・・そうだヨウカ、さっきゲットしたカリキリをつかうロト!」
「カリちゃんを?」
なんとかキャッチしたタツくんをボールに戻したとき、ロトムはヨウカに先程ゲットしたポケモンを使うことを勧めてきた。
「そうだロト、カリキリはくさタイプのポケモン・・・。
ヨワシには相性抜群だロト!」
「・・・ここは賭けるしかないよね、お願いカリちゃん!」
ヨウカはカリちゃんの入ったボールを手に取るとそれを投げてポケモンを出す。
正直まだゲットしたばかりで、このポケモンでちゃんと戦えるのかという不安はあった。
だがここはこのポケモンで突破するしかない、ヨウカはカリちゃんに早速指示を出す。
「カリちゃん、このは!」
ヨウカの指示にあわせて、カリちゃんはこのはでヨワシに攻撃を繰り出した。
その技はくさタイプなだけあって、ヨワシには効いている。
だがそれで簡単に倒れるはずもなく、ヨワシはカリちゃんにたいし今度はすてみタックルを繰り出してきた。
「あわわっ大丈夫!?」
「カキリリリ!」
あわててヨウカはカリちゃんを心配したが、このカリキリは非常に負けず嫌いな性格らしい。
さっきの攻撃で一気に闘争心が騒いだのか、ヨワシをにらみつけて攻撃の体制に入っていた。
「よし、もう一度このはだよ!」
ヨウカはカリちゃんにもう一度攻撃技を指示して相手にダメージを与えていく。
だが、再びアクアリングで体力を回復してアクアテールで攻撃を仕掛けてくる。
「そうだ・・・カリちゃん、ギガドレイン!」
そこでヨウカはカリちゃんに相手の体力を吸い取り自分の体力を回復させる技であるギガドレインを指示した。
相手がアクアリングで自分の体力を回復させているところからヒントを得たのだ。
すると彼女のねらい通り、ヨワシから体力を奪い取りカリちゃんの体力は一気に回復した。
チャンスだ、とヨウカは思いカリちゃんにまた別の技を指示して、一気にヨワシを倒しにかかる。
「さぁ決めて、リーフブレードッ!」
「カキリィィィッ!!」
くさタイプの鋭い技の一撃が命中し、ヨワシは小さなヨワシに分散して去っていった。
そしてその場には沈黙が訪れる。
「・・・勝てた・・・!?」
「みたい、ロト」
あのヨワシに自分は勝てたのか、と思ってると雨がピタリと止まり、雲が風に流されて去っていく。
雲の隙間から、あの太陽が姿を再びみせた。
「・・・あ・・・晴れた・・・」
「ヨウカ、スイレンのところにもどるロト」
「うん、せやね」
ロトムにいわれてスイレンはカリちゃんを抱き抱えつつラプラスの背に揺られて陸に上がる。
そして、キャプテンゲートの近くにいたスイレンに駆け寄り、ヨワシを倒したことを報告する。
「スイレンちゃーん!
ぬしポケモンのヨワシ、倒したよー!」
「ええ、みていましたよヨウカさん」
ヨウカの報告に対しスイレンはにこやかに笑いながらそういった。
「・・・私が丹誠込めて育てたヨワシを、打ち倒すなんて・・・!
驚きです、あなたはすごいんですね!」
「え・・・あ、あはははは・・・」
正直、最初の試練で戦ったデカグースより強かった気がする。
そう思ったが、それでは少しイリマに失礼かもと思ったのでなにも言わなかった。
「これで、スイレンの試練は達成です!
その証として・・・このZクリスタル、ミズZをあなたに授けましょう」
「・・・ありがとう、スイレンちゃん!」
スイレンに渡されたミズZを受け取り、ヨウカはしっかりとそれを握りしめたあとでリュックにいれると、足下にいたカリちゃんの方を向く。
「カリちゃんも、初めてのバトルなのにあたしと一緒に戦ってくれてありがとう!」
「かきりっ!」
ヨウカの声に答えるようにカリちゃんはぴょんぴょんと飛び跳ねる。
その姿を見たヨウカはふふっと笑う。
「そういえば私、赤いギャラドスを釣ったことがあるんですよね」
「え、それはホンマ?
それとも、さっきのカイオーガと同じ冗談?」
「・・・さぁ、どうなんでしょうね?」
ヨウカの問いにスイレンはいわくありげに笑う。
そしてヨウカが思い出したのは、赤いギャラドスの存在。
「赤いギャラドス・・・そういえば昔噂になってたとかなんか、聞いたことあるなぁ」
「ええ、私も話は聞いたことあります。
それは色違いのポケモンだという結論がでましたが、珍しいことには変わりありませんし、それで当時すごい噂になったんですよね」
「でもそのときは、あたしもまだ生まれてなかったんだよね」
「私も同じです」
そんな会話をしつつ、さっきまで試練を行っていた池を見つめる。
思い出すのは、途中で何度も戦った小さな一匹のヨワシと、ここで戦った群でたたかう強いヨワシ。
「でも、ヨワシって一匹だとあんなに弱いのに・・・集まるとあんなことになっちゃうんやね!」
「ええ、それがあのポケモンの強みです。
一匹では弱いけど、たくさんの仲間と一緒なら強くなれる・・・。
それは、とても大切なことです。
・・・まぁ、それを勘違いしてアホなことをしている人がいるのも事実ですが」
「まぁね」
さらっと毒づいたことをこぼしつつ、スイレンはヨウカをまっすぐにみて言った。
「ヨウカさんは、たくさんいると強くなると言う言葉・・・決して変な意味で捕らえないでくださいね」
「それくらい、あたしにもわかってるから大丈夫だよ!」
そんなヨウカのまっすぐな言葉に、スイレンはくすっと笑った。
「・・・初めてあったときと、同じですね」
「え?」
「貴女は、本当に純粋かつまっすぐで、強くて・・・自分の言葉にうそをつかない子だということです」
「・・・ま、あたしはこういうのが取り柄みたいなもんだからねっ!」
自分達の知らないポケモンも、知ってるポケモンでもまだ知らないこともある。
赤いギャラドスの話も、ヨワシの生態も。
自分たちはまだ子ども、大人よりもずっと人生経験が少ないんだなと思い知らされるのであった。
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この試練の難易度は、ウルトラになっても高かった…!