No.963139

Under Of World ZERO 第1話-本当の世界-

matuさん

核戦争後の崩壊した世界。
生き残った人類は100年もの間、地下深くのシェルターで生活していた。
そんな中、地上を目指す計画が浮上する。
地上探索任務に志願した主人公が地上で目にしたものは人類の天敵とも言える異形の怪物。
そして、ロボットスーツに身を纏った指揮官が姿を現わすのだった……。

2018-08-10 00:20:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:359   閲覧ユーザー数:359

 

 与えられた物だけで何不自由なく生きられたとしても、それだけでは満足出来ない馬鹿共も居るものだ。

 金属製の重たく分厚いゲートがギイギイと錆びた音を立てゆっくりと開き、眼前に広がる景色を前に俺は父の言葉をふと思い出していた。天井のない濃紺のどこまでも続く広い空はわずかに明るみ、木々や草木が荒廃した市街の割れたアスファルトや建物を包む様に、飲み込む様に生い茂っている。何もかもがこの世のものとは思えない。思わず息をのむような美しい景色。しかしながらこれら全てが本当の世界なのだ。大多数の人は目にすることも知ることもない今は失われた、かつての人の世界だ。

 しかし、失うに至った原因もまた遥か昔の人類にある。今から百数年前。全世界を巻き込むほどの大きな戦争が起きた。三度目の世界大戦。核兵器が飛び交い、野や山を燃やし、海を濁し、多くの命を滅することとなったその戦争は地上の環境を著しく破壊した。結果として僅かに生き残った人類は以降、現在に至るまでの約百年もの間、地下深くの都市シェルターでの生活を余儀なくされることとなった。

 地下都市。そこではありとあらゆるものが循環する。食料、エネルギー、水、おおよそ人が最低限生きるに必要なものは全て。今ではほとんどのものが配給され、名前代わりの番号が与えられる。そんな理想の僅か九十平方キロメートル、人口数万人の人々が何不自由なく暮らせる場所となっていた。しかしその中でも一部の人は地上を目指した。科学的に地上の環境がある程度改善されるであろう百年後を目途に秘密裏に。

 そして、その時が来た。都市が直接運営する幾つかの組織から集められた俺を含む志願者十数名で行われる、地上探査任務の決行日が。

防護服とガスマスクに身を包んだ俺達は初めて目にする地上の景色に総じて言葉を失っていた。

「大気の数値はどうかな?」

糸目で長髪を束ねた男が問う。彼は今回の任務の指揮官だ。見るに二十代後半と言ったところだろうか。俺達志願者とは違い固有番号ではなくジャックと名乗っていた。

「想定値よりは少し低いが人体には有害だな」

同じくキングと名乗っていた、金髪オールバックで筋骨隆々な男が答える。そのやり取りを聞き一気に現実に引き戻された。幻想的なまでの景色とは裏腹にここは危険な場所なのだと、大気汚染の影響は未だ人体に害を及ぼす程のものなのだ。

「皆、今聞いた通り空気は良い状態じゃないみたいだからマスクは絶対に外しちゃ駄目だよ。それじゃ任務内容の最終確認を行います。私の班はバイクに乗り目標地点の廃施設まで先導と偵察を」

「俺らはトラックでジャック班がクリアしたルートを走る。施設に着き次第使えそうな物資の積み込みだ」

すっかり緊張の面持ちとなった俺たちは口々に返事をすると事前に指示を受けていた二班に分かれそれぞれ車両に乗り込んだ。ジャックさんの班は俺を入れて五人でそれぞれ一台ずつバイクに乗り、残り十名余りがキングさんの班で五台のトラックに乗ることになっている。

「よし、任務開始だ!」

ジャックさんの号令をきっかけに移動が開始される。地下都市を出て少しすると高速道路の乗り口に入った。コンクリートはひび割れそこに生えた苔や雑草の朝露が陽に照らされ煌びやかに輝く。空も明るみを増し、深い藍色から橙を経て鮮やかな青へのグラデーションに染まる。

「奇麗なものだろう?」

 俺が目を奪われているのに気付いたのか隣を走るジャックさんに声を掛けられた。

「はい、夢の中みたいです」

「そうだね、防護服もマスクも必要無くなって私達人類が地上を取り戻せたらこれが当たり前になる。そんな日もいつか来る」

「当たり前になってしまうにも少し惜しい気がします。この景色を見ても何にも感じくなってしまうのは」

「はは、それもそうだ。でも一筋縄じゃ行かないさ」

「え?」

「運が良ければ……いや、運が悪ければじきに分かるさ」

 彼の含みのあるどこか棘々しい言い方が嫌に引っ掛かった。環境の回復にまだまだ時間が掛かるということなのだろうか。何にせよ俺達にとって地上は未知の世界だ。想像も見当もつきはしない。彼らは俺達よりも地上のことを知っているのだろうから。

目新しいものだらけで長く思われた施設までの移動もあっという間に過ぎてしまった。

 廃施設はどうやら何かの倉庫らしく、他の建物と同様に劣化していてツタに覆われている。入り口のフェンスに掛けられた錠を切り敷地内を見て回ったが特に問題はなく外で待機していたキングさんの班が合流した。何だか拍子抜けだ。というのも志願書には命を落とす可能性があるからと同意書と一切の情報を漏洩しないという誓約書が同封されていたからだ。確かに建物や高速道路は崩れてもおかしくはない有様だったが、あの不安と覚悟は杞憂だったのかもしれない。

「それじゃあ荷の積み込みを始めるぞ。機材類を優先して二から五号車に積んでいけ」

 キングさんがそう言うと積み込み作業が始まった。一号車には何も積まないのだろうか。

「キングさん、自分らのトラックには積まないんすか?」

 同じく疑問に思ったのだろう。キングさんの運転していた一号車の助手席に乗る背の高いツンツン頭の男が訪ねた。

「ああ、そいつにはお守りが積んであるんだよ」

「お守り?何すかそれ」

「良いからお前も早く作業に移れ」

「……了解っす」

 腑に落ちない様子で作業に向かう長身男。彼も志願者の一人だ。おそらく同年代だが見覚えが無いから別組織の人だろう。

お守りとは何のことだろうか?

「よーし、私たちも作業に移ろうか」

「はい」

俺達ジャックさんの班も積み込みを始め、何事もなく作業が完了した。機材は通信機器だと思われるものがほとんどだった。撤収準備を整え帰路につく頃にはすっかり陽が高く昇っていた。帰りは探索を兼ね行き道とは別ルートになる。

「さて、今から帰る訳だけど帰還するまでが任務だよ。皆、気を抜かないでね」

 ジャックさんはそう言うと一瞬キングさんに目配せした。まただ。嫌な引っ掛かりを感じる物言い。彼らは何を知っているのだろう?

俺は不安を抱かずにはいられなかった。しかし、その後すぐに俺達は知ることとなる。彼の物言いの原因、不吉の種を。

 

 俺達がそれを目にしたのは施設から地下都市までの中間地点辺り、緊張や不安が薄れつつあったその時だった。

「何だ……アレ」

目に映る光景に理解が追い付かず志願者の誰もが言葉を失い硬直する。ゲートが開いた時とは真逆の恐怖と絶望が俺達から思考を奪う。地面から這い出たそれは黒い結晶の様なものに覆われた、三~四メートルはある大きなヒト型の何かだった。

「総員、距離を取れ!いつでも逃げられるようにしておけ。そして、目を逸らすな。よく見ているんだ」

 ジャックさんのこれまでとは違う力の籠った言葉で多くの者が我に返った。次の瞬間、彼はバイクのスロットルを捻り一気に速度を上げたバイクがそれに肉薄する。股座を抜けると同時に地面にワイヤーを打ち込み足を絡め取るように旋回するとぐるぐると奴の周りを走り、あっという間に縛り上げてしまった。

「聞こえなかったのかお前ら、下がれ」

 キングさんの乗ったトラックがバイクに跨った俺達の隣まで来てそう言った。茫然としていたジャック班の志願者達は静かに頷き後方のトラックの元へ向かって行った。

「キングさん、アレ何なんですか?」

 下がらずに残った俺はキングさんに尋ねた。

「生き物なんすか」

 助手席の長身男も続けて尋ねる。

「説明は後だ。おい、ノッポ運転代われ」

「え、ちょっと!キングさん!」

戸惑う長身男を尻目にキングさんはトラックを降り、荷台に入って行った。長身男が運転席に移ると荷台から機械が駆動する様な音が聞こえる。そして荷台から出てきたのは奴と同程度の大きさの真紅のロボットだった。

 

 

 

 
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