ライチとツキト
ヨウカがハウ、リーリエ、ククイ博士とともにメレメレ島を旅立ってから約1時間後。
彼女たちを乗せた船は無事にアーカラ島の港であるカンタイシティに到着することができた。
「あらよっと!」
そのかけ声とともにハウは勢いよくヨットから飛び降り、島に上陸した。
それを聞いたリーリエは苦い顔をしつつハウに問いかける。
ついでにいうと、ヨウカも似たような顔をしていた。
「あ、あのう・・・!
そのあらよっとっていうのは・・・ヨットとかけた・・・俗に言うダジャレなのですか!?」
「えぇー!?
普通に言っただけなのにー、ねぇヨウカー!?」
「え、ギャグなん?」
ヨウカまでそういうことを聞いてきたので、ハウは少し顔をむすっとさせてククイ博士に助けを求める。
「バスでぶっとばす、とかね!」
「・・・!」
「えっ」
「ぴゅぴゅぴゅいっ!」
ククイ博士が出した駄洒落にリーリエとヨウカは目を丸くさせぽかんとし、コスモッグだけがそれにたいして爆笑していた。
少しの沈黙の後、ヨウカ達に気づいた一人の少年が声をかけてきた。
「よう!」
その少年は黒髪に黒い目の、褐色の少年だった。
青いベストに黒い短パンをつけ、ヨウカと年は近そうだがかなり体格がいい少年に気付いたククイ博士は彼と軽く口を利く。
このときリーリエは急いでコスモッグをスポーツバッグの中に隠した。
「よう、久しぶりだなツキト!
元気にしてたか?」
「久しぶりっすククイ博士、みての通りオレは元気ですよ!」
「ツキト、さん?」
「ああ、オレはツキト!
元島巡りトレーナーで今はライフセーバー目指して勉強中ってところだ、よろしくな!」
ツキトと呼ばれた少年は明るい笑顔で自己紹介するとヨウカとハウも同じくらいの明るさで自己紹介する。
「そうなんやねー、あたしは巽陽花っていいます!」
「おれはハウ、よろしくねツキトさんー!」
「あはは、タメ口と呼び捨てでいいぜ!」
「じゃあツキトくんって呼ばせてもらうよ!」
「オッケイ!」
そしてツキトはリーリエにも視線を向ける。
「その女の子は、島巡りには挑んでないのか?」
「ああ、この子はリーリエといって、最近助手になったばかりなんだ!」
「そうなのか、まぁよろしくな」
「は・・・はい、よろしくお願いします・・・!」
リーリエはツキトに対して深く頭を下げると、どこからか女性の声がした。
「アーカラ島へのお客さんを迎えてたの、ツキト?」
「お、姉ちゃん」
「ねえちゃん?」
ツキトが姉ちゃんと呼んだ人物をハウとヨウカは見た。
黒い髪と目に褐色の肌、ピンクを基調とした露出度の高い服とカラフルな石でできたアクセサリーを身につけている女性だ。
二人の少年と少女の姿を発見したその女性は、自分のことを名乗り出す。
「ようこそ、私はこのアーカラのしまクイーン・・・名前はライチさ」
「あなたが、しまクイーン!?」
「ああそうさ、そしてこのツキトは私の弟よ」
本人の証言やさっきツキトがライチのことを姉ちゃんと呼んだことから、本当の姉弟のようだ。
「ツキトとライチさんって姉弟だったんだねー。
よく見れば髪とか目の色とか肌の色とか、ちょっと似てるところあるかもー」
「あ、確かに!」
「ははは、そりゃあな!」
そう会話を楽しんでいると電話での会話を終えたククイ博士が、彼らの会話に入り込んできた。
「ライチさん、出迎えにきたんだね!」
「あたし達しまキングやしまクイーンにとっては、島巡りする子達は自分の子供のようなもんだからさ」
「姉ちゃん子供どころか、結婚とかできてないけど」
「うるさいよっ!」
ツキトのよけいな一言に起こったライチはツキトの頭に拳骨をおとした。
その光景にヨウカとハウとリーリエは驚くが、ククイ博士はまたかとつぶやき苦笑していた。
どうやら、ツキトは姉をからかいその度に拳骨を食らうのが日常茶飯事のようだ。
そしてククイ博士は、それを何度もみていてすっかり慣れてしまっているらしい。
「つぅ・・・!」
「ほらさっさとこの島の試練の説明をしな!」
「・・・あーあ、わぁったよ・・・!」
ライチに叱られながらもツキトは頭をなでてバンダナを縛り直すとアーカラ島での島巡りについて話し始めた。
「アーカラ島にいるキャプテンは3人だ!
お前達はもう知ってると思うけど、みんな試練を持ってて手強い主ポケモンをけしかけてくるからな。
3人のキャプテンがそれぞれに持つ試練をすべて達成したら、しまクイーンの姉ちゃんに挑戦できるぜ!」
「その通り、アンタ達がくるのを楽しみにしてるよ。
もちろん、このアーカラ島を隅々まで楽しんでいってね」
それを伝えると、自分にはやることがあるからといってライチはその場を去っていった。
「ライチさんって普段はなにをしてるの?」
「アクセサリーショップの店長さ。
ああ見えて、結構忙しい人なんだぜ」
「そうなんだー」
ツキトは、ハウとヨウカに向かってにんまりと笑った。
「じゃあ、オレがこの町・・・カンタイシティを案内してやるよ」
「よし、あとのことはツキトに任せるよ!
僕もやることがあるから、ここで失礼するぜ!」
「私も博士に同行します」
「ああ、あとはオレに任せて大丈夫っすよー!」
ククイ博士とリーリエを見送ってから、ツキトはハウとヨウカに街案内を開始する。
「・・・という感じだ、覚えたか?」
「うん、おぼえたよー!」
「バッチリ!」
一通りカンタイシティの中を案内したツキトは、二人に覚えたかどうかの確認をとる。
元気のいい二人の返事を聞き、物覚えがよくて助かるぜと笑って言うと、今度はこれからどうするのかを聞く。
最初に返事をしたのは、ハウだ。
「おれー、マラサダ食べにいってくるー!」
「ハウくんはホントにマラサダ好きやね」
「もちろんだよー!
色んな町とか島のーマラサダを食べるのがー、おれの島巡りなんだよー!
というわけでー、まったねー!」
「うん、またねー!」
ハウは早速紹介させてもらったカンタイシティのマラサダショップに直行した。
ヨウカはそんなハウに手を大きく振り、ツキトはさっきよりも豪快に笑う。
「元気のいいヤツだな!
こりゃあ、この島にいるのがますます楽しみになってきたぜ!」
「ツキトくんも、島巡りしていたの?」
「ああ、一年前に一応な。
今はライフセーバー目指して修行しつつ、島巡りやこの島のキャプテン、そしてしまクイーンであり店長である姉ちゃんを手伝ってるんだよ」
「へぇ」
ヨウカにそう話をしつつカンタイシティのある岩山を指さした。
「姉ちゃんはあの岩山を超えた先にある、コニコシティって街のアクセサリーショップを営んでいるんだ。
お前も女の子なら、きっと気に入るアクセサリーがあると思うぜ」
「そうなんや・・・って、その街までどうやっていくん?」
「それはご心配なく」
続けてツキトが指を指したのは、工事中と書かれた看板だった。
それをみたヨウカは首を傾げつつ看板にかかれた文字を読む。
「こーじちゅう?」
「前まではコニコシティへは遠回りするかあの岩山を上るしかできなかったんだけど、今はカンタイシティとコニコシティを繋ぐ洞窟を作ってるんだ。
これで少しは移動が楽になるだろうよ」
「それは確かに便利やね!」
「だろっ。
ま、姉ちゃんに挑みたいならさっき説明したとおりのことをしなきゃいけねぇけどな!
でもオレも姉ちゃんも、お前達のことを待ってるからな!」
「うん!」
そこで二人は話を終わらせることにし、ツキトは洞窟の方へ進む。
「じゃ、オレはその洞窟開拓を手伝ってくるからここでお別れだ。
これから会ったらまた色々教えてやるよ!」
「うん、またねツキトくん!」
「ああ、またな!」
ヨウカにそれだけを告げるとツキトはその場から立ち去っていった。
「島巡りを経験したトレーナーって色々いるんやねぇ。
あたしはどうしていこうかなぁ?」
イリマはキャプテン、セイルは独学で生態系を調査しているという。
そして今会ったツキトもライフセーバーを目指してると聞いていて、手伝えるということはそれなりに認められているということだ。
ハウは島巡りを終えたらどうするのかなと思いつつ、ヨウカは自分のしたいことを考えようと決めた。
「カントーだったら、ジムリーダーとか四天王とか、チャンピオンとかいるんだけどなぁ・・・。
でもアローラにはそういうのがないっていうし・・・。
やっぱ全部見てから色々と決めていこうかな?」
ヨウカは自分の将来について、考え出した。
「リーリエちゃんっ」
「あ、ヨウカさん」
「ほしぐもちゃんも、一緒なんだね」
「えっ!?」
カンタイシティを進む途中でヨウカはブティックの前で立ち往生しているリーリエとコスモッグを発見した。
ヨウカに言われてリーリエは初めて、コスモッグがバッグから飛び出していたことに気付き、慌ててコスモッグを抱き上げる。
「もう・・・あなたはまた・・・」
「あはは、まぁいいじゃん?
それよりもリーリエちゃんはここでなにしてたの、ブティックに入りたいの?」
「え・・・あの、はい」
ヨウカの言葉にリーリエは頷くと、ヨウカに問いかけてきた。
「あの、ヨウカさん」
「ん?」
「ヨウカさんは、その服・・・どうやって決めてるんですか?」
「んー、せやね・・・」
ヨウカは自分の服を改めて見返しながらリーリエの質問に答えを出す。
「あたしは自分で選んで決めてるよ、動きやすさを一番で。
まぁ、お金はママにだしてもらっとるけどね」
「そう・・・ですよね・・・。
自分で・・・色々決めるのは・・・普通ですよね」
「え?」
「・・・私のこの服は、母様が決めて着せてくれてるものなのです。
・・・だから、ブティックに入って服を見ても・・・どれが似合うかとか、自分じゃ全然・・・わからなくて」
「そういうことやったんか」
通りでリーリエがブティックの前で立ち往生していたのか、とヨウカは納得した。
だが同時に、母にすべて決められてる子なんだなと僅かに思ったが、それは自分の中で少し思っただけにとどめるヨウカだった。
「まぁでも、ブティックはいろんなところにあると思うし、買って着るのはそんな急ぐことじゃないよ。
似合うか似合わないかは2の次で、自分で気に入ったやつで思いっきりいっちゃった方がええと、あたしは思う!」
「ヨウカさん・・・」
「・・・といっても、決める権利はあたしじゃなくて、リーリエちゃんにあるんだけどね!」
「・・・はい」
ヨウカの笑顔からくる言葉に、リーリエは静かに笑った後でコスモッグに声をかける。
「さぁ、ほしぐもちゃんも、バッグに戻ってください」
「ぴゅーい!」
「だめですっ!」
「ぴゅ・・・」
まだ外を見て回りたいと駄々をこねるコスモッグに対し頬を膨らませながらダメだといって叱るリーリエ。
そんなリーリエの反応を見たコスモッグはヨウカの方を向いて助けを求める。
「ね、ほしぐもちゃん。
ポケマメあげるから、リーリエちゃんのバッグにもぐろ?」
「ぴゅ!」
そういってコスモッグにポケマメを差し出すヨウカ。
コスモッグはそのポケマメを喜んで食べ終わると、リーリエに向かっていった。
それをみたリーリエもコスモッグに笑いかけると、コスモッグはリーリエのバッグの中に入っていった。
「無事にバッグの中潜ってよかったね」
「ヨウカさんのおかげですよ」
ヨウカに笑いかけたときに時計が目に入り、リーリエはあることを思いだしそれを口に出す。
「・・・あ、私そろそろホテルしおさいの方にいかなきゃいけないんです」
「なにか用事でもあるの?」
ヨウカの問いにリーリエははい、と答えつつ頷く。
「大事な人と会う約束をしているんです」
「そうなんやぁ、じゃあたしもそろそろ先へいかなあかんから、また会おうね!」
「はい!」
「スカル団には気をつけてねー!」
「はーい!」
そう言葉をかわして、ヨウカは一度リーリエと別れ次の町へ向かう。
その目的はもちろん、アーカラ島の3つの試練を突破することだ。
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新しいキャラとオリキャラ登場。
この小説だけの設定ですので、ご注意を。