おひねりの雨と、万雷の拍手。
その中で、カクは仮面を外して、大きく一礼した。
「以上を持ちまして、海市を巡る一幕は終了でございます、最後まで皆さまのご高覧に供せました事に、先ずは感謝を申し上げます」
凄かった、もっとやって欲しい、明日も出るのかい?
そんな声に、カクは寂しげな笑みを返した。
「ありがたくも忝いお申し出ながら、このカクは妖怪討伐の旅の途次にある者で、明日には主に従い、ここを立たねばなりません」
落胆の声が、あちこちから響く。
「何事も一期一会にございます、本日皆様の前に、我が変面劇を供せました事に、心から感謝を申し述べ、またいつかどこかで皆様にお目に掛かれる日を……」
本日、この境内をお貸し頂けました、お寺のご本尊様にお祈りしつつ。
「これにて、閉幕でございます」
夕暮れの中、名残惜しそうに観客が帰っていく。
それを見送ったカクは、おひねりを拾いながら、境内を眺めていた。
昔からすると、随分賑やかになったけど、ここは、変わらないな。
耳を澄ますと潮の音が聞こえる。
姫さん、坊さん……。
あんたたちは、安らいでるかい?
ちゃんと輪廻の輪に乗って、どこかに生まれ変わっているかい。
時が変わって、今の話が、ここで起きた事なんて、誰も覚えていないみたいだけど。
あの高台にあるお寺から、遥かに大きく、立派になった海辺の町を見おろして、カクは手を合わせた。
私は、忘れないからね。
「ねーちゃん」
その声に、カクははっとして振り向いた。
「君……は」
洟を垂らした子供が、目の前にいた。
あの子では無い。
でも。
「……どうしたんだい、坊や」
えへへ、と笑って、その子は洟を一啜りした。
良く似てる。
「ききてーことがあるんだ」
「何だい?」
カクの優しい笑顔に、その子は照れたように笑って、とつとつと語り出した。
「ねーちゃんのげき、ひいじいちゃんが、むかし、おれにしてくれたはなしに、すっげぇよくにてた」
その言葉に、カクは胸を衝かれたようにおし黙った。
嬉しさと、なつかしさが、胸の奥から溢れて来る。
「……そっか」
ややあって、カクはそう呟いた。
君は、語り伝えてくれたんだね。
「うん、おれな、ひさしぶりにこのはなしきけて、すっげぇうれしかったぞ、でも、どうしてだー?」
「そうだね」
カクは懐から飴を取り出し、その子の手に握らせた。
ありがとう……洟垂れ君。
「あめー、うめー!」
喜ぶ子供に、カクはにっこりと笑いかけた。
「このお話が、君のひいおじいちゃんのお話と似てても、何にも不思議はないんだい」
そう、何の不思議も無い。
「だって……この話は」
式姫プロジェクト二次創作小説「うつろぶね」 了
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式姫プロジェクトの二次創作小説です。
前話:http://www.tinami.com/view/962971
以上をもちまして、拙作「うつろぶね」は終了になります、お付き合い頂いた皆様に、心から感謝を。