2 守り神と星雲と少女
朝、アローラの日差しを浴びながらヨウカは目を覚ました。
「・・・うぅん・・・」
「にゃー」
目をあけて彼女の視界に飛び込んだのは、大きな瞳に赤と黒のからだを持つ小さな猫ポケモン。
「・・・!」
そのポケモンを見た瞬間、びっくりして飛び起きたが、リリィタウンにて自分にとって初めてのポケモンであるニャビーを受け取っていたことを思い出す。
帰宅してから母に、そのニャビーを紹介したらニャビーはニャースと仲良くなった。
同じ猫ポケモン同士だから仲が悪くなっちゃうんじゃないかと思ったヨウカの心配は杞憂に終わった瞬間だった。
「・・・おはよう」
「にゃあ!」
そんなニャビーにヨウカはへにゃりと笑って挨拶すると、ニャビーもそれに答えるように鳴いた。
素早く顔を洗って着替えて髪を結うと、階段を駆け下りて母にも挨拶をする。
「おはよ、おかーさん!」
「おはよう」
「ニャースもおはよう!」
「ニャー!」
「にゃ!」
テーブルの腕にはトーストとジャムとホットミルクが置かれており、ヨウカは椅子に座るとその朝食に手をつける。
ニャビーも、用意してもらった皿に入ったポケモンフーズを食べた。
「あなた達、一晩一緒に寝てどうだった?」
「あのね、あたし昨日ちょっぴり興奮しちゃったよー!
初めて自分だけのポケモンを手に入れて、それが一緒に寝てるんだもん、興奮しちゃって眠れなかったよ!」
「あら、そんなに?」
「うん!」
カントーで暮らしていたときから、ヨウカは本当にポケモンが大好きな少女だ。
そんなポケモンと今、一緒にいて楽しそうな娘をみて、母も自然と笑顔になる。
そんな会話をしている間にも朝食は食べ終わり、ヨウカはウェストバッグをつけるとニャビーに向かって呼びかける。
「さぁいこ、ニャビー・・・じゃなかった、ニャーくん!」
「にゃ!」
ニャーくん、と呼ばれたニャビーは彼女の声に答えると彼女に飛びつく。
ヨウカは飛びついてきたニャーくんを抱き留める。
そんな二人のやりとりをみた母はニャーくんという単語に疑問を抱いた。
「ニャーくん?」
「この子の名前だよ、ニャビーの男の子だからニャーくん!」
「単純ね」
母の言葉に別にいいでしょ、とむっとした顔で返すヨウカ。
「こういうのは、シンプル・イズ・ベストなの!
というわけで今日も学校行ってくるね!
いってきまーす!」
「はい、いってらっしゃい!」
そう挨拶を交わして家を飛び出す娘を見守る母。
ヨウカは家を出て学校へ向かう途中でもニャビーと笑顔を見せ合っていたことに気づき、暖かく笑う。
「ふふ、あの子がポケモンと一緒にいて喜ぶ姿を見られるなんてね・・・。
あの人にも見せてあげたいわ」
今は仕事で留守にしている夫のことを考えながらも、母は家事をこなすべく家の中に戻っていった。
一方ここは、戦の遺跡の前。
一人の少女がその遺跡への道を進んでいた。
「・・・この遺跡に、なにかがあるんですか・・・?」
少女がそうつぶやくと、彼女の肩にかかっていたスポーツバッグが大きく揺れる。
どうやらさっきのは独り言ではなく、このスポーツバッグの中にいた存在との会話のようだ。
少女はスポーツバッグに引っ張られるように遺跡の方へと歩いていった。
「・・・ここが・・・戦の遺跡ですよ・・・」
「ぴゅい!」
「・・・あっ!」
遺跡の入り口まで続く吊り橋の前にきたとき、少女のスポーツバッグから何かが勢いよく飛び出した。
それは靄のようなものが固まってできた体に顔がついたような姿をした、ポケモンだった。
そのポケモンは吊り橋の向こうに勢いよく遺跡のある方へ飛んでいった。
だが、その直後にアクシデントが発生し、それにたいし少女が悲鳴をあげる。
「あぁ・・・!」
それとほぼ同じタイミングで、ヨウカは遺跡の前を通りかかっていた。
「んぇ?」
そのとき少女の声が聞こえてそっちに向かうと、吊り橋の前に長い髪の少女がぽつんと立っていたので、その少女がなにをしているのかを問いかけるヨウカ。
「なにしてるの?」
「・・・っ!」
ヨウカに声をかけられて少女は一瞬びくっとした後振り返り、彼女に自分の姿を見せた。
「・・・うわぁっ」
その姿を見たヨウカは思わずそう声を漏らしてしまった。
目の前にいる少女は、プラチナを思わせる長い金髪に、大きな翡翠色の瞳を持っており、華奢な肌は透けるように白く、白いワンピースに唾の大きい帽子が似合っている。
ハッキリ言って美少女という言葉が似合うのだ。
同性でもみとれてしまうほどの容姿に口を開けてしまったが、すぐに我に返ると、すぐその困った様子の少女に問いかける。
「えと、どないしたんや?」
「あの・・・た、助けてください・・・ほしぐもちゃんが・・・」
「え?」
少女が指さした先にはオニスズメの大群と、それに囲われて動けなくなった小さなポケモンがいた。
小さなポケモンはこれまた初めてみる姿をしているが、オニスズメにおびえて動けなくなっているのがわかった。
「あぁっ!?」
「私も・・・助けにいきたいんですけど・・・足が、すくんじゃって・・・。
ポケモンさんも、持ってなくて・・・だけど・・・!」
「・・・わかった、待ってて!」
少女の頼みを受け、ニャーくんを肩に乗せたヨウカは吊り橋を渡っていく。
するとヨウカの存在に気づいたオニスズメはヨウカに敵意を向けた。
「ニャーくん、ひのこだよ!」
「フニャーッ!」
そこでヨウカがニャーくんに昨日ハラから教えてもらっていたニャビーの技を指示することでオニスズメを追い払わせる。
ひのこにビックリしたオニスズメが距離を置いたところで、ヨウカはそのポケモンの元に一気に駆けつけ、庇うように多い被さった。
「ぴゅい?」
「大丈夫だよ・・・そぉっと・・・そっと・・・」
ヨウカはそのポケモンを抱えながらゆっくり歩き出した。
そのとき、さっきのオニスズメのボスであろうオニドリルが出現して彼女の行く手を阻むように羽ばたきつっこんできた。
「うぎゃあ!?」
「にゃあ!」
主人のピンチを悟ったニャーくんがオニドリルに飛びかかるが力の差は歴然であり、あっさりオニドリルに返り討ちにされてしまった。
「ニャーくん!」
ヨウカはオニドリルの攻撃によりとばされてしまったニャーくんを片手でキャッチした。
だがそのとき、思い切り足を踏み込んだせいで吊り橋の板が外れそれに連動するかのようにロープが切れ板が離れていく。
「危ないっ・・・!」
「きゃーーーっ!!!」
そのままヨウカは吊り橋から落ちてしまった。
このままでは、谷底に落ちてしまう・・・と思った瞬間、遺跡の方から光が放たれ、それが一直線にヨウカに向かっていった。
「えっ?」
ヨウカはその光に一瞬で包まれ、つっこんできたオニドリルはその光の余韻であろう電撃に打たれて、それにおそれをなして森の方へ逃げていった。
なにが起こったのかわからないヨウカだったが、地面にゆっくりおろされたときにその姿を目撃する。
「・・・あなたは?」
そこにいたのは黒いからだにオレンジ色の鶏冠、黄色い甲良のような腕を持ったポケモンだった。
そのポケモンは少女とヨウカ・・・そして、ヨウカの腕の中にいるポケモンをしばらく見つめた後で遺跡の方へ帰って行った。
「今のって・・・」
「・・・この島の守り神さんです・・・まさか・・・助けてくれるなんて・・・」
「・・・」
今のが、守り神なのか。
パンフレットにも書いてあった・・・アローラの4つの島それぞれに守り神がいると。
今出会ったのがその守り神のひとつなんだ、と知ったヨウカはその守り神がいる遺跡に向かって大きな声でお礼を告げる。
「・・・あ、ありがとねー!
守り神さーん!」
橋が崩れてなくなってしまったから直接お礼は言えない。
だから橋が直ったら必ず、お礼を言いにこようとヨウカは今誓ったのだった。
「さっきはその・・・ほしぐもちゃんを、この子を助けてくれて、ありがとうございました・・・。
私・・・なにもできなくて、ごめんなさい」
「ううん、いいよ!」
少女とヨウカはしばらく一緒に歩いてトレーナーズスクールを目指していた。
あの小さなポケモンは彼女からほしぐもちゃんと呼ばれており、非常に大切にされているのがわかった。
「では、私はここで失礼します」
「ほえ、あなたはここの生徒じゃないの?」
「はい・・・人と会う約束もしているので・・・では」
少女はヨウカに頭を下げると別の道を進んでいった。
「あの子、大丈夫かな?」
トレーナーズスクールの中に入っていった少女を見送っていると、ハウの自分を呼ぶ声に気づきそっちをみる。
「ハウくん!」
「ヨウカ、おはよー」
「うん、おはよ!」
ハウは初対面だった昨日と同じく、人なつっこい笑みを浮かべながらヨウカに挨拶する。
そして彼に誘われてそれについて行く形で教室に向かう。
「ニャ?」
「んっ?」
教室に入ろうとしたとき、その扉の前に誰かがいることに気づいた。
少し濃い色の肌にブルーグレイの穏やかな瞳、薄い桃色の髪を左耳の方で軽めに結った髪型をした、ヨウカ達より少し年上っぽい少年だった。
少年の方もヨウカ達に気付いたようで、穏やかな笑みを浮かべながら彼女達に声をかけてくる。
「おや、キミがククイ博士の仰ってた子ですね」
「この人はイリマさんっていって、キャプテンをやってるんだー。
トレーナーズスクールの卒業生でーおれ達の先輩でもあるんだよー」
「せやの?
あ、あのあたし、ヨウカっていいます!
この子は昨日しまキングさんからいただきました、ニャーくんです!」
「にゃ!」
「はい、初めまして。
僕はキャプテンのイリマです」
ヨウカはニャーくんを抱き上げながらイリマに自己紹介をすると、イリマも自己紹介で返した。
彼の穏和な態度で安心感を得たヨウカは、その流れに乗ろうとしたらしくさっきから気になってる単語を彼に問いかける。
「それであの、キャプテンってなんやの?」
「初耳ですか」
「うん、あたし最近アローラにきたばっかりなんよ。
だからこの地方のことはあたしようわからんの」
「そうでしたか、では簡単に説明しましょうか・・・今からの授業で」
「はーい!
ヨウカー、話の続きはイリマさんが授業で教えてくれるよー!
だから早く教室に入ろうよー!」
「あ、うん!」
二人は一緒に教室に入り、それぞれ自分の席に着く。
担任の先生の挨拶が入ったHRのあとで、イリマはキャプテンのことについて説明し始める。
「キャプテンというのは、各島に存在し・・・それぞれの場所で試練を執り行うポケモントレーナー達のことです。
任期は島めぐりが許される11歳から20歳まで・・・。
そして、島めぐりに挑戦し大試練を突破したものの中から、キャプテンになれるか否かを決めるのです。
現在のアローラには、僕を含め7人のキャプテンが存在し、それぞれ試練に挑んだ過去を持ち・・・また、一つのタイプに精通したトレーナーでもあります。
試練の形はそれぞれ違いますが、一筋縄ではいきません」
「・・・なんか、カントーにもあったジムみたいやね・・・」
キャプテンの話を聞いたヨウカは、ぽつりとそう呟いた。
この地方にはジムの代わりに試練が、そしてジムリーダーの代わりにキャプテンがいるのかと考えていると、イリマがさらに説明をした。
「そして、我々が仕切る試練には、強力な力を持ったぬしポケモンというのが存在します。
島巡りの挑戦者が試練の中で様々な課題を突破し、そしてその最終課題であるぬしポケモンと戦い勝利すれば、試練達成となります」
「島巡り・・・試練・・・!」
それを聞いたヨウカの胸が、段々とあつくなっていた。
授業を続け、お昼の休憩時間に入ったとき。
ヨウカはハウとともに昼食をとろうとしたとき、ククイ博士と会い、食事をしながら会話をしていた。
「お、助手がきた!」
「助手?」
そのときククイ博士は助手の存在を言葉に出し、おーいといってその助手を呼ぶように大きく手を振った。
それに答えるようにその助手が姿を現した。
「あれ、あなたは」
「あっ・・・さっきの」
姿を見せた助手にヨウカは驚いた。
そこに現れたのが、戦の遺跡の前で出会ったあの少女だったからだ。
少女も、ヨウカの姿を見て驚く。
「そういえば自己紹介まだだったよね!
あたしはヨウカっていうんだよ!」
「は、はい・・・ヨウカさんですね。
私はリーリエと申します。
ご紹介にあったとおり・・・ククイ博士の助手を務めています」
「そうだったんだぁ!」
「なんだ、二人とも知り合いだったのか?」
「ええ・・・ちょっと」
少女、リーリエがことの経緯を話そうとしたとき、ヨウカは自分のポケットに何かが入っているのに気付く。
「あれ、こんなものポケットに入れてたっけ?」
「どうしたのー、ヨウカー?」
「うん、これ・・・なんやろ?」
そういってヨウカはポケットに入っていたものをククイ博士達にみせた。
銀色の鉱物が固まってできたような輝く石であり、中心には菱形のくぼみができている。
それを見たハウとリーリエ、そしてククイ博士の顔が驚きの色に染まった。
「・・・それって、もしかして・・・」
「ほえ?」
「ねぇ、それってどこで手に入れたのー?」
なにか知っているような口振りが気になったが、ハウの問いにリーリエが答える。
「実は・・・私とこの子がピンチになったときに・・・ヨウカさんとこの島の守り神さんに助けてもらったのです」
「守り神!」
「カプ・コケコか・・・」
リーリエの話を聞いたハウとククイ博士は守り神の名前を呟く。
「あの守り神さん、カプ・コケコって名前なん?」
「ああ・・・そいつに出会えるとは、君はめっちゃラッキーだな」
「そうなんやねー・・・でも、これとなんか関係あるの?」
手の中にある鉱石が気になるヨウカに、ハウがある提案を持ち込んできた。
「ねぇヨウカー、学校終わったら一緒にじーちゃんとこ行ってみない?
それと守り神についてー、教えてくれるよー!」
「ほんまに?」
「ほんとだよー!
ククイ博士とリーリエもー、きてよー!」
「そうだな、これをヨウカが手に入れたのも気になるしな・・・」
「私も、ご一緒します」
「じゃ、決まりやね」
放課後の予定も決まり、昼食に集中する彼ら。
「・・・」
ヨウカとニャーくんは昼食を食べながらも、主な視線をその鉱石に向けていた。
自分が所有していなかったこの鉱石、彼女はそれに不思議と惹かれていたのだ。
そして、スポーツバッグの中の存在もリーリエも、そんなヨウカを見つめていた。
後に気付いたことだが、これは彼女達にとっては、今後のアローラを大きく左右するほどに運命的な出会いだった。
だが、このときはそんなことなど、誰も知らないことであった。
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ヒロイン登場です。
大好きなキャラクターなので、本格的に出せてうれしいです。