1 巽陽花登場!
月と太陽に見守られている、アローラ地方。
アローラは4つの島の総称であり、ここはその一つであるメレメレ島の、リリィタウンの外れ。
そこには一軒の家があり、家の中には段ボール箱が積まれていた。
「あぁ、アローラにきて初めての太陽だわ!」
「にゃぁ」
家の中から一人の女性が姿を見せ、彼女のそばにはばけねこポケモンのニャースがいた。
段ボールだらけのこの家にいるということは、アローラに引っ越してきたばかりといったところだろう。
「・・・さて、あのおねぼうさんはまだ寝てるのかしら?
時差ボケはしょうがないけど、ちょっとねすぎよね・・・。
まだ引っ越しの荷物も片づいてないし、ニャース、あの子を起こしてきて」
そういって女性は2階についている窓を見つめると、ニャースにその窓がある部屋へ向かうよう告げる。
ニャースは頷くと階段を駆け上がり扉を開け、その部屋においてあるベッドで眠っている少女に勢いよく飛びかかった。
「にゃあ!」
「ふぎゃあ!」
突然飛びついてきたニャースにびっくりして、少女は勢いよく飛び起きた。
それによりニャースも軽く吹っ飛ばされるが、見事に着地を決め目をさました少女を見上げる。
「うぅーん・・・なんやのぉニャースぅ」
茶色の長い髪をボサボサにさせ、寝ぼけ眼となっている赤い目をこすりつつベッドから降りる。
タンクトップにショートパンツという格好で寝ていたので、そのまま降りてきた。
「おはようヨウカ、目を覚ました?」
「おはよー・・・って、あんな起こされ方したらふつうに起きちゃうよぉ」
母と挨拶をかわしたはふぁーっと欠伸をした。
「さ、着替えて荷物を片づけちゃいましょ」
「うーん・・・ねむいよぉ」
「じゃあ一生段ボールだらけの部屋で過ごしなさい」
「うぇ、それはやだっ!」
引っ越しの荷物で部屋が埋もれて、そのまま過ごすのは流石にかっこわるい。
急いで朝食のフレンチトーストを食べミルクを一気にのみ、部屋に戻ると髪を結い服を着替え、ヘアバンドをつけて段ボールの山をみた。
「はよっとやっちゃお!」
ヨウカは段ボールに一つずつ手を伸ばしそれをあけ、中に入っていたものを取り出してはクローゼットやタンス、引き出しに机に、それぞれ決まった場所に並べていった。
「よし」
そして窓際には、一枚の写真が入った写真立てを飾る。
その写真に写っているのは、ヨウカとその両親の姿だ。
太陽が人々の真上、つまり昼の時刻になるころにヨウカは自分の部屋を片づけ終えた。
10代前半の少女らしく小物が多かったが、それでも綺麗に整理整頓して新しい部屋にしっかりと収まった。
「おわったぁー!」
「あら、ヨウカの割には綺麗に仕上がったわね」
「むっ!
あたしだって、このくらいできるよぉーっ!」
「ふふ、冗談よ!」
からかってくる母に対し頬を膨らませてむくれるヨウカ。
そんな娘の様子が可笑しくて大笑いしつつもお疲れさま、と娘を労い昼食をとる。
昼食として母が持ってきたのは、丸くて砂糖がまぶしてあるパンのようなものだった。
「なにこれ?」
「マラサダという、アローラの名物なんですって!」
「へぇー名物かぁ」
そう言ってヨウカはそのマラサダを一つ手にとってそれにかぶりつく。
「んー、おいしぃ!」
「ホントねー!」
マラサダは初めて食べるが、初めて食べたときあまりに美味しかったのでヨウカはすさまじいスピードでマラサダを一個食べきった。
そのとき、家のインターホンが鳴り、この家に誰かがきたことを告げる。
「誰かしら・・・ヨウカ、でてくれる?」
「うん」
母に言われてヨウカは家の扉に手をかけ、扉を開ける。
するとそこにはサングラスにキャップ、上半身裸の上に白衣を着た男が一人いた。
その姿を見たら普通の人はビックリするところだが、ヨウカはその人を知っているので動じなかった。
「やぁ!」
「あれ、あなたは確か!」
「そうだ、アローラでポケモンの研究をしているククイだよ!」
そう、この人はククイという名前であり、このアローラでポケモンの技について研究している立派なポケモン博士なのだ。
ヨウカはアローラに来る前に、母の紹介でパソコンを使ってククイ博士と通話していたのだ。
「直接会うのは初めてだな、ヨウカ!」
「はい!」
「夫の都合によりこのアローラに来ることになったときはビックリしたけど、思えば貴方と直接あえるのを楽しみにしてましたわ博士。
夫からよく話は聞いてましたし貴方がポケモンリーグに挑んだときの試合、鮮明に覚えてましたもの」
「ははは、あの戦いは僕もしっかりと覚えていますよ!
なにしろブラストバーン熱いものがありましたからね!」
ヨウカ達は、父の仕事の都合でこのアローラ地方にきたのだ。
ククイ博士と旧友だという父は今メレメレ島のハウオリシティという町で今も仕事をしている。
「それで博士、今日はどのような用件でいらしたんですか?」
「おっとそうでした、今日はヨウカに用があるんです」
「あたしに?」
突然名前を呼ばれて首を傾げるヨウカ。
「でんこうせっかのように早い話だけどヨウカ、トレーナーズスクールに向かってみるかい?」
「トレーナーズスクール?」
「その名前の通り、人とポケモンが一緒になって勉強する場所だ。
君の入学手続きも事前に済ましているし、案内をかねて入学前にきてみるのもいいんじゃないかって思ったんだよ」
「ほぇー」
そんな場所があるんだぁとヨウカは思い、母の方をちらりとみた。
すると母はヨウカがなにをしたいのかを察して彼女に微笑みかける。
「興味があるならいってこればいいわ」
「え、でも」
「あとの片づけはニャースに手伝ってもらうからいいわよ」
それを聞いたニャースは驚きの声を上げていた。
どうやら自分が手伝わされるとは思っていなかったらしい、ニャースはヨウカに助けを求めたがヨウカはそれに気付いていない。
「じゃあ、あたし行ってくるね!
ママ、ニャース、あとよろしく!」
「ええ!」
「ニャー!」
ニャースは必死にヨウカを呼び止めようとしたが、ヨウカはククイ博士についていってしまったためにそれもむなしく終わった。
「おぉー!」
草むらの陰にいるポケモンや真上を飛ぶ鳥ポケモン、木の上にもポケモンが行てヨウカはアローラの自然を感じていた。
「すごーい・・・」
「おいおい、感動するのは勝手だけど立ち止まってると迷子になるぞ!」
「あ、はいはいはーい!」
途中でククイ博士にお勧めの技を問いかけてきた少年と遭遇することがありながらもヨウカと博士はトレーナーズスクールに到着した。
建物の中にはいるとククイ博士はそこにいた壮年の女性に声をかける。
紹介によりこの女性はこのトレーナーズスクールの校長先生であることがわかった。
「じゃあこの子が明日からこの学校に来る転校生ね?」
「はい、巽陽花っていいますー!」
ヨウカがそう名乗ったのを聞いた校長先生は元気がいいわね、とほほえましげに笑い、彼女の入学を許可する。
「そういえば貴女、ポケモンは持ってるの?」
「ううん、あたし自身はまだポケモンもっとらんですよ」
一応家にはニャースがいるけど、あのポケモンは実際は母のポケモンであり彼女自身が所有しているわけではない。
だからヨウカはまだ自分のポケモンというのを持っていなかった。
そんなヨウカにたいしククイ博士は話を進めた。
「そのことなんだがな」
「ふぇ?」
「実は君は、このあとこのメレメレ島のしまキングからポケモンをもらうことになっているんだ!」
「えーっ!?」
しまキングというのが何なのかは解らないが、ポケモンを貰って自分のパートナーにできるという話を聞いたヨウカは驚き、そして目を輝かせた。
「それ、ホントですかー!?」
「ああ、本当だぜ!」
ポケモンが自分のところにくる、と聞いたヨウカはやっほーいとか言って喜び飛び跳ねる。
その喜びようで彼女の気持ちを察したククイ博士はそうか、と笑った。
「にしても、そこまでとびはねるほどポケモンを貰えることを喜ぶとは、君もポケモンは大好きなんだな!」
「はい、もちろんです!」
嫌いなんてあり得ない、といわんばかりにポケモンが貰えることを楽しみにしている。
そんな彼女の様子を見たククイ博士は校長先生と話をした後で彼女をしまキングのところへ連れて行くことをつげ、リリィタウンに向かった。
「ここがリリィタウンなんですか?」
「そうだぜ!」
穏やかな空気に満ちたその町に到着したヨウカとククイ博士。
「で、あたしにポケモンくれるってゆー、しまキングさんはどこにいるんです!?」
「落ち付けってヨウカ。
しまキングのお宅はあの大きな家だ、行ってきてごらん」
「はい!」
一刻も早くポケモンがほしいヨウカは急ぎ足でその大きな家に向かうと、そのドアをノックしようとする。
するとヨウカがノックするより早く、一人の少年がドアの奥から姿を見せた。
「・・・?」
「きみはー?」
「えっ」
程良い褐色の肌に緑っぽい黒髪をまとめた、ヨウカと年の近そうな少年だった。
少年はやや間延びした口調でヨウカに名前を問いかけてきて、ヨウカはびっくりしつつも名乗る。
「あ・・・あたしはヨウカだよ」
「へぇ、ヨウカっていうんだー!
おれねー、ハウ!」
「ハウくん?」
「そーだよー!」
ハウ、と名乗った少年は人なつっこい笑顔を浮かべてふつうにヨウカと話し始める。
「ねぇ、なにしに家にきたのー?」
「あ、あのね、あたしはしまキングのハラさんって人に会いに来たの。
その人があたしにポケモンくれるってゆーから、もらいにきたんよ」
ヨウカの話を聞いたハウはあーって言うと笑顔のままヨウカに話続ける。
「しまキングのハラっていうのはねー、おれのじいちゃんなんだー!」
「えぇ、それホントなん!?」
「ホントだよー!」
まさかこの男の子がしまキングの孫だとは。
身内ならしまキングの家にいても不思議はないが、思っていなかった事実にヨウカは驚く。
すると、二人の話し声に気付いたのか、白髪に白い髭を生やし、黄色い半纏をきた老人が歩み寄ってきた。
「ハウ、お客かな?」
「あ、じいちゃん!」
「じいちゃん!?」
じゃあこの人がしまキングのハラなのか、と思っていると向こうから自分のことを名乗り出す。
「初めまして、わしがしまキングのハラです!」
「は、はい、ヨウカですっ!」
「そうかそうか、君がそうでしたか!
話は伺っておりましたぞ、では早速君にポケモンを渡しましょう!」
「はい!」
「わー、ヨウカこれからポケモンもらうんだー!
じゃあ楽しみなんじゃないー?」
「もちろんだよ!」
ハラに案内されてヨウカは中央広場に向かった。
そこでハラはヨウカと向かい合いながら3つのモンスターボールを手に取る。
彼女がパートナーを選ぶ様子を、ハウとククイ博士も見守っていた。
「さて、わしからきみにポケモンを託しますぞ・・・これからきみとともに過ごすポケモンなので、ちゃんと考えてから決めるように」
「はいっ!」
ヨウカは元気よく返事をする。
「では、紹介いたしましょう!
この3匹がアローラでは初心者向けとされていいる3匹ですぞっ!」
そういってハラは3つのモンスターボールを投げ、その中にいたポケモンを彼女に見せる。
「わぁーっ!」
ボールからでてきたポケモンにヨウカはまた目を輝かせる。
するとククイ博士が一匹ずつポケモンの説明をした。
「右にいるのがくさとひこうを併せ持つモクロー。
真ん中にいるのがほのおのニャビー。
左にいるのが水のアシマリだ」
薄い茶色の羽毛に黒くて大きな目、蝶ネクタイのような葉っぱがついた丸っこいポケモンがモクロー。
黒と赤の体毛に赤い顔に黄色の大きな目、黒くて長いしっぽを持った猫のポケモンがニャビー。
青いからだにピンクの鼻、大きく丸い目をしたあしかポケモンがアシマリだった。
「みんな初めてみるよぉー!」
生まれて初めて見るポケモン達をみて、ヨウカはそのままの意味を告げた。
3匹を繰り返しみながらヨウカは悩みだす。
「うーうんー・・・みんなホントにかわえぇなぁ・・・ちょっと迷っちゃうよー・・・」
どのポケモンにも魅力を感じてしまい、迷いに迷ってしまう。
しばらく迷っていたヨウカだったが、ふとあることを思い出しやがて一匹のポケモンに手を伸ばす。
「でも・・・あたし・・・赤色好きやしこの子にしよっかなぁ?」
そういってヨウカが手をさしのべたのは、ニャビーだった。
彼女が自分のパートナーに、と望んだのがニャビーだと知ったハラは頷くと次の準備に取りかかる。
「君はニャビーを望んだんですな」
「はい」
「ふむ・・・では、次ですぞ」
「つぎ?」
「君が選んだポケモンは、君を選ぶのかをみてみましょうぞ」
ハラの言葉を聞いてヨウカはもう一度ニャビーをみて、ふとあることを思い彼の言葉に同意した。
「・・・せやね、あたしだけで決めたらあかんよね。
だってこの子達も自分の気持ちをちゃんともっとるもん」
「・・・」
そう語るヨウカを、ハラがなにか意味ありげに見つめていた。
そのあとで彼に促され舞台の上でヨウカは立ち、その反対側にニャビーが立つ。
「どーなるかなー・・・?」
これからニャビーの意志を確かめるとき、ハウは内心ドキドキしながらそうつぶやく。
彼も彼で、ヨウカとニャビーがどうなるのかが気になって仕方がないのだ。
「・・・」
「・・・」
ヨウカとニャビーはしばらく見つめ合った。
にゃ、と小さく声を漏らして目線をそらしたニャビーだったが、もう一度ヨウカを見ると自分から彼女に駆け寄った。
「あっ・・・」
「ニャー!」
ニャビーはヨウカに自分から駆け寄っていき彼女の前に止まると、笑顔でヨウカを見上げて鳴いた。
その姿を見た周囲の顔に、笑みが浮かび上がる。
「なんと、ニャビーもまたきみと共にいくことを望んでいるようですな!」
「やったなヨウカ、これでキミとニャビーはずっと仲間だ!」
「おめでとー!」
つまりこの瞬間、このニャビーはヨウカの初めてのポケモンになったのだ。
その実感がわいたヨウカは笑顔を浮かべていく。
「や・・・やったぁーっ!!!」
ヨウカはニャビーを抱き上げてまた跳ねた。
「これからよろしくね、ニャビーくん!」
「にゃ!」
初めて自分のポケモンを手に入れたことの喜びで、ニャビーをしっかりと抱きしめながら大きく笑うヨウカだった。
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今回が第一話ですよ。
主人公のイラストも近日投稿します。