No.958040

フレズヴェルク三姉妹

まささん

4作品を一つにまとめて。

2018-06-27 20:39:18 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:600   閲覧ユーザー数:600

 

 

1.三姉妹の朝

 

FA(ファクトリーアドバンス)社。

元々はプラモデルやフィギュアをメインに販売しているおもちゃ屋であるが、現在ではロボット技術や人工知能の最先端の技術を取り入れたFAガールの製造と販売をしている企業だ。

ではそのFAガールとは何か?

 

フレームアームズ・ガール――それは特殊なナノマシンやAS(アーティフィシャル・セルフ)と呼ばれる人工自我などといった、最新の技術を惜しむ事なく注ぎ込んだ少女型のプラスチック製フィギュアロボットである。ASは未だ研究段階の物である為、一般に市販されているFAガールには搭載されていないのだが。

それはさておき。現在では成長型ASを搭載し、涙らしき物質までをも生成した試作機の轟雷を始め、FAガールの開発は更なる段階へと進んでいた。

そしてここは、そんなFAガール達の研究や開発をしている研究室の一角。

 

ベッド型にしていたFAガール専用の充電ユニット、通称“充電くん”から起き上がる一体――いや、人間と同じ感情、心を持つ彼女達は一人と呼ぶべきか――のFAガール。

「ん、んーっ!」

彼女は体を大きく伸ばした後、充電くんから降りて窓の方へと歩いていく。

窓に近付くにつれて、影から出た彼女の素体を()の光が照らす。

「うん、今日もいい天気ね」

光を見上げる彼女の青い瞳と、腰辺りまである、後ろに束ねた金色のツインテールが輝く。一見スクール水着に見える白いボディスーツには、青いラインが描かれている。

彼女の名はフレズヴェルク=アーテル。フレズヴェルクを基に近接戦闘用カスタムを施したFAガールで、フレズヴェルクの妹のような存在だ。

そんな彼女――アーテルは、まだ研究室どころかFA社の始業時間より前に起床して、一人でのんびりするのが一日の始まりとなっている。

「いつもこんな感じで静かなら良いんだけど……」

そう呟いて振り返った彼女の視線の先には、自分のとは別の充電くんの上で未だにスヤスヤと眠る二人のFAガールがいた。

「……二人が起きるまで、装備の手入れでもしてよっかな」

この静かな間に、ゆっくりと装備品のメンテナンスをするのが良いだろうと、この後の事を考えて、彼女は自分の装甲と武器が収納されているケースを開くのだった。

 

メンテナンスを始めてからしばらくして、眠っていたFAガールの一人が起きてきた。スカイブルーの短髪に紺色のボディスーツと、カラーリングなどの細部は違うものの、その容姿はアーテルと似ている。

「ふぁぁ~~~……おはよ~アーテル~」

「おはよう姉さん」

欠伸(あくび)をしながらやってきた彼女こそ、アーテルの基となった第三世代型FAガールであり、最強を自称する姉フレズヴェルクだ。

「あ、アーテルー、ついでにボクのもメンテしといてよー」

彼女は装甲パーツを磨いているアーテルを見るや否や、自分の装備も一緒にやってもらおうとする。

しかしアーテルはそんな姉に苦い顔をして答える。

「自分でやってよ。私達の装備品ってただでさえ多いんだから」

「えー、いいじゃんかー」

「じゃあもし不具合があっても文句言わないでね?」

引き下がらないフレズに対して、アーテルは笑顔を見せ、そう言い放つ。

「うっ、それは困るなぁー……」

これには流石の彼女も諦めるしかなかった。

「分かればよろしい」

そう言ったアーテルは、再び自身の装甲パーツを磨き始める。

「ちぇー」

 

アーテルとフレズのやり取りから、またしばらく経ち、(ようや)く最後の一人が目を覚ます。

「うー……んっ!」

充電くんの上で伸びをする彼女もまた、二人に似た容姿をしていた。だが二人と違ってその肌は褐色であり、赤いボディスーツにはアーテルと違った金の文様が描かれている。

彼女はフレズヴェルク=ルフス。フレズヴェルクの射撃能力を向上させたFAガールであり、アーテルと同じくフレズの妹として生まれた。

「やっと起きたのね、ルフス」

「あ、おっはよーアーテ(ねぇ)!フレ(ねぇ)もおっはー!」

「おはよールフス!」

――これで一段と騒がしくなるわね。

いえーい!とハイタッチを交わす長女(フレズ)三女(ルフス)を横目に、次女(アーテル)は小さく溜め息を吐く。しかしその表情は柔らかい。

彼女もまた、この賑やかな姉妹と共に過ごす時間を気に入っていた。

「あ!アーテねーぇ、アタシの装備もお願いしていーぃ?」

「……アンタも自分でやりなさい」

「ええーっ!」

二人揃って装備品のメンテナンスを自分でしない事に関しては、姉妹としてもFAガールとしてもアーテルは頭を抱えるしかなかったが……。

 

× × ×

 

「はい皆さん、おはようございます」

アーテルが自分の装備品のメンテナンスを終えた頃、FA社も業務を開始し、他の研究室にも様々なスタッフが出社し始めている。

そしてフレズヴェルク三姉妹の前にも、彼女たちを担当しているチーム――通称フレズ班のスタッフの一人がいた。

「あれ、大塚はー?」

周りを見渡したフレズは、そのスタッフに問いかける。

大塚冬愛(とあ)。今フレズ達の目の前にいるスタッフとは別の、フレズ班のハード担当スタッフだ。いつもなら彼女もいるのだが、今日はまだ姿を見せていない。

何故ならば――

「あー……それが、他の班から借りたコンプレッサーをまた壊したらしくてね……それで今は絞られてる所……」

と、彼女がいない理由を説明をしたスタッフは溜め息を漏らす。

「なーんだ、いつものかぁー」

「……」

「あっははは!」

これを聞いた三姉妹はそれぞれの反応を見せる。

――ホント、大塚がここ(FA社)に入れたのが不思議ね……。

彼女が何かしらの問題を起こす度に、アーテルは呆れる他なかった。それに巻き込まれるスタッフ――特に轟雷・迅雷班の戸田 加奈子――もさぞ大変な事だろうと同情する。

 

そしてこのフレズ班には、三姉妹の前にいる彼女とここにいない大塚の他に、もう一人別の担当スタッフがいる。

「……それで、私達は何をするの?」

「今日は石塚先輩から、バトルロイヤル形式でのデータを取っておいてって言われてるの」

石塚(はる)。フレズ班のソフト担当。物腰は柔らかそうなのだが、冷静ながらもFAガール――特にフレズヴェルクに対して異常とも思えるほど強さを追い求める。最強を自称する長女の元凶と言えるだろう。

そんな彼女も、今は別の作業で研究室にまだ顔を見せていない。

「よっしゃー!バトルだー!」

バトルが出来ると聞いて、フレズのテンションが上がる。その長女の前に、三女ルフスが立った。

「アタシは今日こそ、フレ姉に勝つ!」

「ふふん!何度やったって、長女であるこのボクには勝てないよ!」

フレズとルフスはこれまでも、何度かデータ収集の為にバトルをしている。その結果は二人が言った通りフレズが全勝。ルフスはそんな最強の長女をいつか超えるのだと、バトルを挑み続けている。

以前フレズは、自身に戦いを挑む妹達を前にある事を言っていた。

『このボクにギリギリまでダメージを与えた轟雷以外を、勝たせるつもりは全然ないッ!例え相手が、ボクの妹であろうともッ!!』

この時の相手だったアーテルは、フレズが持つベリルショット・ランチャーの射撃を()(くぐ)り、得意の近接戦闘に持ち込んだ事でフレズ相手に善戦していた。しかしフレズがこのセリフを言い放った途端に形勢が逆転、アーテルは惜しくも勝利を逃している。

あのバトル以来、フレズは妹達に本気を見せていない。バトル自体は好きだから全力を出す時もある。だがアーテルとのバトルで見せた、強い意志が込められた戦いをしていなかった。

――私だって姉さんに勝ちたい。でもただ勝つだけじゃなくて、“本気”の姉さんに勝ちたいのよ……。

最強を名乗るフレズヴェルクの妹。表には中々出さないが、アーテルもまた、長女とのバトルには特別な思いがあった。

 

起動したセッションベースから光が広がる。

「三人で同時にバトルって初めてだから、すっごく楽しみだな!」

「バトルロイヤル、ね……」

「フレ姉もアーテ姉もまとめて倒して、アタシがナンバーワンになるんだからっ!!」

姉妹それぞれの準備も整ったようだ。

「「「FAガール、セッション!!!」」」

「いっくぞー!」

「やるわ!」

「負けないもんねっ!」

三人それぞれは気合を入れ、バトルステージへと転送されて行った。

 

 

2.バトルロイヤル?

 

FAガールは素体がバトルステージに転送されると同時に、専用の装甲と武器が自動的に装備される。

当然だが、三姉妹は同じ規格である為、装甲自体に大きな違いはない。精々、妹二人に専用武装の保持を補助するパーツと、ルフスが背面にも武装用マウントラッチを備えている関係で一部が違う程度だ。

しかしアーテルとルフスは武装が特化型であり、特に近接戦闘型のアーテルにとってこのバトルロイヤルは不利だった。

――私達の基になった姉さんはバランスが優れてる。そして四挺のベリルショット・ライフルを持つルフスは、射撃戦においては姉さんよりも優位に立てる……。私にも一応射撃兵装はあるけど、やっぱり二人を同時に相手するには分が悪い……となると。

装甲パーツなどを装備している間に、アーテルは策を巡らせる。

「……この手しかないわね」

バトルステージに出ると同時に、アーテルは姉妹の共通兵装として装備されているキャノン砲でフレズを攻撃しながら、ルフスに――

「ねぇルフス!私と一緒に、姉さんと戦わない?」

と共闘を持ち掛けた。

 

「へっ……?」

「アーテル!?」

共闘を持ち掛けられた当のルフスは惚け、フレズは自身に放たれた射撃を飛んで回避しつつ、アーテルの提案を聞いて驚愕する。

アーテルは攻撃の手を止める事なく続けた。

「ルフスは姉さんに勝ちたいんでしょ?私もね、本気になった姉さんと戦って勝ちたいのよ」

アーテルが口にした本気の姉という言葉に、ルフスの心が()かれた。

最強の姉フレズが、アーテルとの戦いで一度だけ見せた本気。ルフスはそれを、バトルステージの外からただ見ているだけだった。

――アタシもあのフレ姉と戦いたい!

あの時の姉二人の戦いをルフスは忘れられず、心の奥底でそんな思いが(くすぶ)り続けていた。その夢にまで見た本気のフレズと戦えるかもしれない機会が今、目の前に転がり込んで来たのだ。

「本気になったフレ姉と戦える……」

ルフスの心が揺らいでいるのを感じたアーテルは、もう一押しにと声を張り上げる。

「こんなチャンス、二度目があるか分かんないわよ!」

「……うんっ、分かった!フレ姉、悪く思わないでよっ!」

心を決めたルフスは、両手に持つベリルショット・ライフルをフレズに向け、次々と射撃を始めた。

「嘘だろーっ!?」

 

必死に妹達からの射撃を回避していくフレズ。遂にはスラスターの出力を全開にして、アーテルとルフスから距離を取ろうとする。

だが二人がそれを許すはずもなく、逃げるフレズの後を追っていく。

「これじゃあバトルロイヤルのデータ収集出来ないじゃん!!」

「姉さんを倒した後で、私とルフスが戦えば問題ないでしょ?それに手を組んじゃダメ、なんて言われてないもの!」

そう言いながら不敵な笑みを浮かべるアーテル。射撃をルフスに任せ、自身はキャノン砲から専用武器である二本のベリルスマッシャーに持ち替えて斬りかかる。

「はぁぁぁッ!」

ベリルスマッシャーの形態は一番その威力が発揮されるアックスモード。

「このーっ!」

フレズは身体を(ひるがえ)して右手のベリルショット・ランチャーで受け止め、左手に持つランチャーをルフスに向けて反撃していく。

しかし狙いを定める為に一瞬だが、ルフスを見たのが(あだ)になった。

「姉さん」

「え――」

アーテルに呼ばれたフレズは突如として、後ろから衝撃を受ける。墜落する彼女が見た物は、先ほどと形状が違う、アーテルの左手にあるベリルスマッシャーだった。

 

ベリルスマッシャーは三つのモードへの変形機構を有している。

単純な威力重視のアックスモード、近接戦において有利な間合いで戦えるグレイヴモード、そして死角や防御面の外から攻撃出来るサイズモードだ。

始めに二本ともアックスモードで攻撃したアーテルは、フレズが防御して視線を外した一瞬の隙を突き、左手のベリルスマッシャーをサイズモードに変形させると、フレズの死角である背後を攻撃したのだった。

「いっ……たいなーっ!」

地面に叩きつけられたフレズだったが、悪態を付くだけですぐに立ち上がる。

「流石にあれだけじゃ大した事はないみたいね。ルフス!続けて行くわよ!!」

「うんっ!!!」

「もう怒ったからな!そんなに言うならまとめて相手してやる!!」

ルフスの援護射撃を受けて再びアーテルが、今度はベリルスマッシャーをグレイヴモードにして突っ込んでくる。

「甘い!」

フレズは、ルフスのベリルショット・ライフルから発射されたエネルギー弾を、アーテルに向けて弾き飛ばす。これに対処する為に足を止めたアーテルと、エネルギー弾を弾かれた事に驚くルフスを、同時にフレズのベリルショット・ランチャーによる一撃が襲った。

「くっ……!」

「フレ姉いたーい!」

しかし流石はフレズの妹達と言うべきか。長女と同様に、二人とも大きなダメージにはなっていないようだ。

 

フレズ達の装甲や武器の各部にはクリアパーツが用いられている。

これらはTクリスタルシールドというエネルギーを発生させるTCSオシレーター。ベリルユニットとも呼ばれる装備だ。

このTCSオシレーターによる防御力は高く、本来なら装甲の薄い空戦型FAガールでありながらも、相手からの攻撃を少しのダメージで抑える事が出来る。

因みに、TCSが発生させるエネルギーは攻撃にも使用する事が可能で、ランチャーやライフルから発射されるエネルギー弾はこれを転用した物だ。

「幾ら私達の基本装備が同じだからって、ルフスの攻撃を……」

「もー!なんでフレ姉そんな事まで出来るのー!?」

「へっへーん!これが経験の差ってやつだ!」

得意気に胸を張るフレズ。

「今度はこっちから行くからな!覚悟しろよ!!」

 

× × ×

 

「はぁ~、やっと解放されたぁ~!」

フレズ班が使っているバトル用の研究室に、白衣を着た女性が入ってくる。

「あ、大塚先輩」

「お疲れ新人ちゃ~ん」

「その新人ちゃんって言うの、そろそろやめてくださいよ……」

「そんな事より、フレズヴェルク達はもう始めてる?」

大塚は後輩スタッフを気にする事なく、フレズ達のバトルに目を移す。

そんな大塚(先輩)に、彼女(後輩)はため息を漏らしながらも、同じくフレズ達の現状を見る。

「あれ?今日ってバトルロイヤルのデータ取りの予定だったよね?」

アーテルとルフスが互いにフォローし合っているのを見た大塚は、状況が一対二である事に気付いた。

「それが、アーテルの方がルフスを共闘を提案しまして……」

「それでこうなった訳ねぇ~」

しかし三姉妹のバトルを見ていた大塚は、トレードマークとも言える、ニヤついた表情を浮かべる。

「だけど、例えどんな状況であっても、フレズヴェルクの勝利は揺るがないんじゃないかな~?」

「一対二でも、ですか……?」

「まぁ見てなよ!」

大塚の言葉に、後輩スタッフも固唾を飲んでフレズ達のバトルに目を向けた。

 

丁度その頃、ルフスのベリルショット・ライフルから放たれた一撃が、フレズが右手に持っていたベリルショット・ランチャーを撃ち落とす。

『もらったわ!』

その隙をアーテルは逃さず、攻撃を受け止める武器を失ったフレズの右側から、アックスモードにしたベリルスマッシャーで斬りかかる。

だが――

『――ベリルスマッシャーッ!!』

遂に、アーテルとルフスが戦いたいと望んだ“本気のフレズヴェルク”が動き出す。

 

 

3.フレズの本気

 

大塚が研究室にやってきたその頃のフレズ達姉妹は、フレズの反撃から何度目かの攻防を繰り広げていた。

三人はそれぞれダメージを受けているものの、HPの半分も減っていない。

FAガールのバトルはHP制である為、手数で一気に押し込むか、一撃で仕留めるような威力の攻撃を当てない限り、極短時間で相手を倒す事は難しかった。

「ぃよ、っと!!」

「くっ!」

ベリルショット・ランチャーを使った近接攻撃を、右手のベリルスマッシャーで受け止めるアーテル。

動きを止めたフレズをルフスは両手のベリルショット・ライフルで狙うが、それに気付いたフレズもルフスに向けて空いている方のランチャーで応戦する。

「このぉっ!」

アーテルも、左手に持つベリルスマッシャーをサイズモードにしてフレズを攻撃した。

しかしフレズは瞬時に上半身を逸らして回避。と同時に、その勢いで回転しながらアーテルを二段キックで蹴り飛ばす。

フレズ達姉妹は武装適性と武器による攻撃力を除いて、防御力や機動力のほとんどが同程度のスペックである。それ故に、フレズに挑む妹達が数の上で有利であっても、攻撃を決めきれない現状では膠着(こうちゃく)状態となるのは必然であった。

 

「いっけぇーっ!」

アーテルがフレズに蹴り飛ばされたのを見たルフスは、両手のライフルを最大出力で撃ち放つ。

「わわっ!?」

防御が出来ないと感じたフレズは、回避を選択する。

だが予想以上の範囲に右手のベリルショット・ランチャーが掠り、その威力で弾き飛ばされる。と同時に、フレズもバランスを崩してしまった。

――今が絶好のチャンス!

体勢を立て直していたアーテルは、ルフスの一撃によって隙が出来たフレズを見て、スラスターを全開にして再び接近する。

「もらったわ!」

アックスモードに変形させた左手のベリルスマッシャーを、最大加速の勢いも乗せた全力で振り下ろす。

幾らフレズと言えども、これは回避出来るタイミングではない。

――もしこの一撃で倒せなくても、すぐに追い撃ちをかければ勝てる……!

ルフスもライフルを構え、再度エネルギーをチャージする。

――消費した分が回復してないからさっきより威力は落ちるけど、アーテ姉の攻撃と合わせたら充分だもんねっ!!

妹達二人は勝利を確信した。本気を引き出せなかったのは心残りではあるが、それでもあの長女に勝てるのだと。

しかし――

「――ベリルスマッシャーッ!!」

そう簡単に“フレズヴェルク”が負けるはずがなかった。

 

「嘘!?」

自分の目に映るものは幻だろうか?それとも不具合か?と、そんな不具合は有り得ないというのは分かっていても、アーテルはそう思わずにはいられなかった。

フレズは右手のランチャーを失い、右側がガラ空きだった。そんなところを狙ったのに、フレズの手にはアーテルの物と同じ武器が握られていて、しかも完全に攻撃を防がれている。

「えーっ!?アーテ姉の武器(ベリルスマッシャー)まで使えるのーっ!?」

フレズが攻撃を防いだ事に驚いたルフスも、思わずライフルのチャージを中断してしまう。

咄嗟(とっさ)にフレズが呼び出したベリルスマッシャー。これはアーテルが生まれる前に、フレズ用の新しい武器として作られた試作品だ。

初めてフレズが使用した際には、調整不足によって持っているだけでエネルギーを消費し、バトルには約一分程度しか耐えられない代物であった。

今はその欠点であった調整も完璧であり、専用にカスタマイズされたアーテルの物に劣らない性能を有している。

「これを轟雷以外に使うつもりは()()()()()()んだけど、なぁッ!!!」

「え――きゃぁ!?」

アーテルの攻撃を受け止めたフレズは、そのまま力任せにアーテルのベリルスマッシャーを押し返し、即座に返す刃でアーテルを地面へと叩きつけた。

「アーテ姉――わぁっ!?」

それに気を取られたルフスも、フレズはランチャーで狙撃する。

「二人とも強くなっててめっちゃ驚いたよ!だから……久しぶりに見せてやる!!」

そう口にしたフレズは、右手のベリルスマッシャーをサイズモードにして、未だダメージで動けないアーテルへと突撃した。しかしランチャーの一撃を凌いでいたルフスが、アーテルを援護する為に二人の間に入る。

 

「やぁぁぁ!」

左右のライフルを連射するルフス。

「だから甘いって!」

「きゃぅ!?」

しかし弾幕を避けながら接近したフレズのベリルスマッシャーが、容赦なくルフスに叩きつけられた。

アーテルより更に後ろへと墜落したルフスのHPは残り僅か……。それを見たフレズは、狙いをアーテルからルフスに切り替える。

「これで――」

「させない!!」

「おっと!?」

ランチャーを構えていたフレズ目掛けて、アーテルのベリルスマッシャーが飛んできた。これにフレズは驚きながらも、自身のベリルスマッシャーで弾き飛ばす。

アーテルに目を向けると、左腕の保持用ラックをパージしたのか、パーツが下に落ちているのが見えた。

「危ないなぁ……」

「……当てるつもりで投げたもの」

――せめてランチャーが使い物にならなくなれば万々歳だったけど……。

「でも当たらなかった。残念だったね!しかもそれでアーテルの方は、武器を一つ失った!」

――悔しいけどその通りね……でも!

「それでも私は勝つのを諦めないッ!!」

「へぇ……んじゃ、ボクも遠慮なく勝とっかな!!」

 

再びフレズが突っ込んでくる。

アーテルはグレイヴモードにしたベリルスマッシャーで迎え撃つが、フレズはそれを軽々と回避。アーテルの上を飛び越えると同時に、彼女の背部を斬りつけながら一回転して着地した。

「それだけダメージを受けて、ボクに勝てるかなっ!?」

反転したフレズは一気に踏み込んで、ベリルスマッシャーを振り下ろす。アーテルも振り返って同じくベリルスマッシャーで受け止める。

「最後までどうなるか分からないわよ……!」

「いーや、ボクの勝利は揺るがないね!なんたってボクは最強なんだから、さァッ!!」

更に左手のランチャーも振り下ろすフレズ。そのパワーに、堪らずアーテルは片膝を付いてしまう。

――流石にこれ以上抑えきれない……。

「そろそろ終わりにしようか!」

フレズはそう言いながら、再度ベリルスマッシャーを振り上げる。

「ッ!そこ!!」

この一瞬の隙を見逃さないアーテルは、左手で背面に装備されているダガーを取り、フレズへと投げつけた。

「またぁ!?」

距離が近かった事で回避がギリギリだったフレズは肝を冷やす。しかし今度のアーテルの狙いは、ダガーを当てる事ではなかった。

驚いて動きを止めたフレズのベリルスマッシャーを左手で、そして右手でランチャーを掴む。

「あっ、ちょ、離せよアーテルー!」

「ふふっ、離さないわよ!姉さんはここで……私と一緒に負けるもの!」

「は?何言って――……ッ!?」

 

初めはアーテルの言葉の意味が分からなかったフレズだが、先ほど叩き落としたルフスの存在を思い出す。後ろを振り返って見ると、そこには再びライフルのエネルギーをチャージしていたルフスの姿があった。

「またあの一撃を受けたら、流石の姉さんでも耐えられないでしょ?」

「このっ!」

フレズはアーテルを引き剥がそうとするが、近接戦用に特化している彼女のパワーもあり、すぐには離脱出来ない。

――姉さん、こういう時は自分から武器を離すのが早いのよ?

アーテルは心の中でアドバイスをする。当然それはフレズに聞こえるはずもなく、強引に力でどうにかしようとしていた。

「あーもうめんどくさい!」

そう叫んだフレズは右膝のスラスターユニットで膝蹴り。更にアーテルが怯んだところを、普段なら絶対にしないであろう頭突きで額同士を打ちつける。

「うぐっ……!」

アーテルの手が緩んだ瞬間にフレズは飛び上がり、彼女に背を向けて離脱しようとした。だが背後から引っ張られたかのような感覚がしたかと思うと、それ以上飛行出来ない。

不思議に思ったフレズが背後を見ると、背部ユニットの基部にサイズモードにしたベリルスマッシャーの刃が引っ掛けられていた。

「逃がさないわ!」

その視線の先で笑顔を見せているアーテル。その表情は、(はた)から見れば完全に悪役だろう。

そして遂に――

「よーし、今度は当てるよっ!いけぇー!!」

ルフスの一撃がフレズに向けて、撃ち放たれた。

 

 

4.姉妹の頂点に立つ者

 

「またフレ姉に勝てなかった~!」

バトルを終えた三姉妹。セッションベースの前で大の字に倒れるルフスは悔しそうに口にするものの、その表情はどこか晴れやかである。

「あの状況なら勝てると思ったけど、流石は姉さんね」

アーテルは椅子型にした充電くんに腰掛け、目の前で得意気にしているフレズを称えた。

「えっへへ!当然!!でも、最後の一撃にはヒヤヒヤしたよー!アーテルもしつこかったし!」

「姉さんに勝つ為だもの。例え這ってでも、逃がすつもりはなかったわよ?」

満面の笑みでそう答えるアーテルだが、それを見たフレズは、

「バトルでそんな状況になるの嫌だなぁ……」

と若干引き気味に答える。

「まぁ滅多にそんな事にはならないでしょ。私達はともかく他のFAガールだって、這い(つくば)ってでも勝つなんてそうそうないんだから」

――相手を這い蹲らせたいっていうのなら二人いるけど……。

社内のスタッフですら手を焼く姉妹の存在を思い浮かべていたアーテル。

「それにしてもフレ姉凄いよねっ!あの一瞬でアタシ達をまとめて倒しちゃうなんて!」

「姉さんらしく、力でねじ伏せた勝ち方でしょ」

「ちょっと、アーテル酷くない?」

アーテルの悪態には訳がある。それはバトルが終了する直前、ルフスがフルチャージしたベリルショット・ライフルの一撃を放った時の事だ。

 

× × ×

 

「よーし、今度は当てるよっ!いけぇー!!」

ルフスから撃ち放たれた高出力のエネルギー弾が、フレズの眼前に迫る。

回避を選択しようにも、背部ユニットにはアーテルのベリルスマッシャーが引っ掛けられ、逃げる事が出来ない。

――このままボクが負ける?轟雷とのバトルじゃなくて、妹達との模擬戦で……?

「っ――まだ……まだぁぁぁッ!!!」

フレズは叫びながら両脚のスラスターを一瞬だけ全開で噴射し、そのまま両脚を振り上げる。その結果バク転をしたような形になり、背部ユニットから強引にベリルスマッシャーの刃を外す事に成功した。

「うそっ!?」

空中で逆さまになったフレズと、驚きで目を見開くアーテルの視線が交錯する。しかしそれだけでは終わらない。

「ハァッ!!」

「やっ!?」

もう一度フレズは脚部スラスターを全力噴射すると同時に、彼女はお返しとばかりに自身が持つベリルスマッシャーでアーテルの背中を引っ掛け、力任せに迫り来るエネルギー弾の射線上へと放り投げた。

「きゃぁぁぁ!」

突然の事で対処出来なかったアーテルにライフルの一撃が直撃し、これによってHPがゼロになってしまう。

「えぇっ!?アーテ姉!?」

さっきまでフレズがいた場所でダメージを受けるアーテル。それを見たルフスは思わぬ事態に混乱する。

そして――

「あうっ!」

状況を掴めずに動けなかったルフスの額に、フレズのランチャーから発射されたエネルギー弾が命中した。

『WINNER、HRESVELGR』

こうして三姉妹によるバトルロイヤルとは言えないバトルロイヤルは、フレズの勝利で幕を下ろしたのだった。

 

× × ×

 

「あそこで私を投げ飛ばすんだから、力でねじ伏せたって言われても仕方ないでしょ?」

「分かってると思うけど、ボクよりアーテルの方が単純なパワーは強いからな?」

笑顔を浮かべながら言い合う二人。

寝転がったままのルフスは何も言わず、今から二回戦を始めそうな姉達を見ているだけだ。

――アタシはどっちも似たようなものだと思うけど……巻き込まれるの嫌だし黙ってよーっと!エネルギーの残りもそんなにないし!

「いやぁ~流石フレズヴェルク!見事な勝ちっぷり!」

「あ、大塚ー!」

そんな姉妹の前にバトルを見ていた大塚と後輩スタッフの二人がやってきた。

「アーテル、最初に止めなかった私も悪いけど、石塚先輩から頼まれてたのがバトルロイヤルのデータ収集だってのは覚えてるよね?」

「と、当然覚えてるわよ……?」

目を逸らしながら答えるアーテル。

「誘いに乗ったルフスもだよ?」

「はぁーい」

「全く、怒られるのが担当してる私だからって……」

 

「あら、それじゃあ今回はアーテルとルフスにもお仕置きが必要かしらね」

後輩スタッフが呆れていると、研究室にもう一人のスタッフが入ってきた。

「い、石塚先輩!?」

フレズ班のソフト開発担当で、今回のデータ収集を指示していた石塚(はる)だ。

「ちょ、ちょっと待って!私達も!?」

「い、今は充電の残りが少ないから見逃して欲しいなー……なんて」

お仕置きをされるかもしれないとなっては、アーテルとルフスも慌てるしかない。

「データ収集は急ぎではないからいいけれど、テストの予定は決まっているのよ?ここだって、いつでも自由に使えるわけじゃないの」

笑顔で二人に語りかける石塚の声音は柔らかいものであるが、その雰囲気は許されるというものではなかった。

「フレズヴェルク……いいえ、あなた達三人を強くする為にしている事なのよ?」

これを言われてしまうと二人は何も言えない。

「分かってくれたかしら?」

「……そうね、テストの予定を潰しちゃったのはダメだったわね」

「うぅ~……」

石塚の言葉――何よりテストの予定や研究室の使用権を持ち出され、アーテルとルフスは抵抗を諦める。

「んで、お仕置きって何するんだ?」

石塚と妹達の会話を見ていたフレズも、これから二人がされる内容が気になるようだ。

 

「充電くんの刑よ」

「充電くんの刑?」

「な、何よそれ!?」

石塚が口にした不穏なワードにフレズは首を(かし)げ、アーテルは腰にある充電用ジョイントを咄嗟(とっさ)に両手で抑える。

「皆、ユーザーテスト用の轟雷の話は知ってるでしょ?」

「……ええ、世界で一体しか起動しなかった轟雷よね」

「そう、その轟雷をメンテナンスで一時的に回収した時に、データの抽出をしたらその事が記録にあったらしいの」

楽しそうに話す石塚だが、苦い表情を浮かべるアーテル。

ルフスはこっそりと逃げ出そうとしたが、後輩スタッフが見逃さず捕まっていた。

「それでデータを見たスタッフの話だと、何回も充電くんの充電ケーブルを抜き挿ししてたって――」

「いやぁぁぁぁっ!!」

これから自分達に行われるお仕置きの内容を聞いた途端、堪らずアーテルも逃げ出す。

だが、これもルフスと同じく失敗して捕まってしまった。

「はっ、離して!もう聞いただけで十分!やる必要はないでしょ!?」

「いやいやぁ~そういう訳にはいかないなぁ~」

そう言いながら捕まったままのアーテルに迫る大塚。彼女の手には、アーテルの充電くんと充電ケーブルが握られている。

「も、もう反省したから!ね!?」

「アーテ姉、もう逃げられないよ……」

「諦めないでルフス!きっと何か手が――」

 

「えい」

「――――ッ!?」

こんな恐ろしい罰から逃れようと抵抗するアーテルに、大塚は容赦なく充電ケーブルを挿し込んだ。

突然の事に、アーテルは声にならない悲鳴を上げ身悶える。

「ほい」

しかし大塚はそれを気にする事なく、挿したばかりの充電ケーブルを抜いて再びアーテルの充電用ジョイントに挿して、と同じ動作を繰り返す。

「まっ、待って!んっ、お、大塚ぁ!やぁっ!」

「おおーこれ結構楽しいねぇ~」

何度も充電ケーブルを抜き挿す大塚。

これからこの充電くんの刑をされるルフスは自身の充電が残り少ないのもあり、そんな大塚と姉を見て完全に諦めた表情をしていた。

「それじゃあ大塚が遊んでいる間に、私はバトルデータの確認しておくわね」

お仕置きとして充電くんの刑を提案した張本人である石塚も、あっさりとそんな事を言ってログ確認をし始める。

「……アーテルがんばれー」

未だお仕置きを続けられる妹に対し、フレズもとりあえず応援しておこうといった感じであった。

「もっ、もうやめてぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

 
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