テオが国王に剣を振り下ろそうとした腕を、間一髪でゲイザーは掴んで止めました。
「こんな奴、殺す価値もない…」
「生かしておく価値もないだろう?」
「殺してしまったら、そこで終わりだ。こいつには強制労働をさせて、貧しい者の気持ちを理解させるつもりだよ?」
「理解などしないさ?甘やかされて育って腐り切った思考の持ち主だ」
「だからこそ苦労させて、少しでも理解させたいのだよ?」
「それがお前のやり方か…?」
「私のやり方が気に入らないか?」
「いや、お前に従おう。お前は今日からアラヴェスタの新国王になるのだから…」
「私は国王になどならないよ?マルヴェールの女王が私の妻だ。王族の配偶者の私が国王になれるわけないだろう?」
「普通は国王を倒した者が次の国王になるものだぞ?」
「それならお前が国王になれば良い。私がいなくても、謀反を起こして国王を倒していたのだろう?」
「お前が策にかかって城に来なければ、謀叛を起こそうなどとは考えなかったよ?私に一国を治める度量などないからな」
「お前はこれだけの騎士団員を全員説得して味方に付けている。それはお前に人望がある証拠だ。誰にでも出来る事ではないよ?」
「それはお前が強かったからだ。必ず負けるとわかっていたから説得出来たに過ぎない」
「私は強くないよ?私の仲間が強いだけだ。おそらく私はナターシャの使い魔の中では一番弱い」
「ナターシャ?あの子供がお前の主人だったのか」
「ああ、私がリーダーなのではなく、ナターシャが我々の主人だよ?」
「まさか僅か六歳の子供に、この城が落とされたとはな…」
翌朝、テオドールは城門前に国民を集めて演説を行いました。城の前でキャンプをしていたメサイアファンも目を覚まして演説を聞いています。
「皆の者!アラヴェスタ国王はメサイアによって倒された。ダークとはゲイザーの仮初めの姿だったのだ。ゲイザーは悪政を働く暴君を倒した英雄である。この国は今日から生まれ変わった」
「ダークってゲイザーだったの!?」
「騎士団長様はゲイザーは英雄だって言ってるけど…」
演説はまだ続きます。国民は固唾を飲んで聞き入っていました。
「新国王にはこの私、テオドールが即位する。そして補佐官にはユリアーノを任命した。噴水広場にメサイアの像を建てる。ゲイザーの懸賞金は取り下げる。以上だ!」
「テオドール様、バンザーイ!」
「ゲイザー様、バンザーイ!!」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第134話です。