マルヴェールに帰還すると、ゲイザーを召喚しました。アークはテオの出した提案をゲイザーに詳しく話して聞かせます。
「テオドールの奴。一体、何を考えている…」
「断ると噴水広場での路上ライブは活動停止命令が出されるでしょうね…」
「どうやら、起死回生の一手を打って来たようだ」
「やはりテオドール様は策を講じておられるのでしょうか?何か裏があるような気がして…」
「奴の事だから、すぐにダークの正体がゲイザーであると気付くだろう…」
「だとしたらこれは罠ですよね?我々を宮廷に誘い込んで捕らえる為の…」
「こんな見え見えの手に私が引っかかると思っているのか?宮廷楽士などにはならない」
「どのように言ってお断りしたらよろしいでしょうか?一筋縄では行きそうもないです」
「もうメサイアの活動は終了しよう。リスクが大き過ぎる」
「そんな…せっかくファンがたくさん出来て、皆さん楽しみにしてくださっているのに」
「私が現れなければアーク殿とナターシャを捕らえて私をおびき寄せるつもりだろう。危険過ぎる…」
「テオドール様からは悪意を感じません」
「アーク殿の心眼では歪んだ感情までは判断出来ないようだが、ファンはアーク殿に好意を持っていても、そこに潜む恐怖に気付けないようではダメだ」
「アップルパイに毒でも入っていたら、すぐに悪意に気付けますが、ただの毛でしたからね」
「あの毛がどこの毛なのかアーク殿はわかっておられないようですね」
「なんとなく察してはおりました…」
「ナターシャと私は少し食べてしまいましたからね…。フラウは食べませんでしたが…」
「申し訳ございません。以後、気を付けます」
その夜、フラウはゲイザーの胸の中に抱かれながら、三又の槍の形に出来た火傷を指でなぞっていました。
「これ…ゲイザー様がギルバート様から拷問を受けた時の傷ですよね」
「ええ、何かのエンブレムみたいに見えませんか?結構、気に入ってます」
「痛かったでしょう?」
「オズワルドの呪いよりはマシでしたけどね」
「呪いはそんなに苦しむのですか?」
「あれはなんと形容して良いかわからない苦しみです。アーク殿ですら耐えられないそうですし」
「ゲイザー様を苦しめるなんて許せなくて、私は初めて人を殺めてしまいました…」
「あの時は仕方なかったと思います。術者を殺さなければ勝てない場合、そうするしか道はありませんから…」
「私…もしゲイザー様が殺されたら、どんな手を使っても、その犯人を見つけ出して…殺します」
「フラウは私の為にこれ以上、手を汚してはいけません。フラウが私のせいで変わってしまった事が私にとっては辛いのです」
「私にもどうしようもなくて、どうすれば良いのかわからないのです。この気持ちを止める事が出来なくて…」
「私はあなたを利用する為に付き合ったわけじゃないんですよ。あなたの美貌を使えば国王を垂らし込む事も可能ですが、私はあなたにそんな事を指示する気はありません」
「ゲイザー様の為ならなんでも致しますが、あの男に抱かれるくらいなら死を選びます」
「そうするだろうと思いました。だからあの時アークに国王の寝室の窓を見張らせた。あなたが身を投げるのを予測していました」
「私の身体を抱いて良いのはゲイザー様だけですから」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第111話です。