テオは恋人の住む路地裏の集合住宅に来ていました。騎士団の宿舎は女人禁制なので、今夜はここに泊まるようです。
「今夜が最期になるかもしれない…。私の子が出来たら産んでくれるか?」
「またそんな事言って…。せっかくの良いムードが台無しになるでしょ?」
「次に会う時、首のない遺体と安置室で対面することになるだろう…」
「やめてちょうだい!」
恋人は興醒めして、そっぽを向いてしまいました。テオは後ろから恋人を抱き締めます。
「ゲイザーを捕らえる事が出来なければ、遅かれ早かれ私は首をはねられる…」
「ゲイザーって極悪人なんでしょ?連続殺人・強盗・婦女暴行の罪で懸賞金三億って、手配書に書いてあるけど、女友達もみんな怖がってるわ」
「殺人は一回だけだ。強盗も一度だけだが、婦女暴行は私の知る限り一度もないな」
「殺人と強盗一回ずつにしては、懸賞金が多くない?他の犯罪者は数百万から数千万程度よ」
「国王の怒りを買ったからだ。罪状も尾ひれを付けてでっち上げている…」
「正義の騎士団がそんな事して良いの?」
「良くはないが国王の命令には逆らえない…」
「テオは死ぬ前に遊びのつもりで私と付き合ったのだろうけど、私は本気なのよ?」
「私も今は本気だよ?愛してる」
テオが優しくキスすると恋人は少し機嫌を直しました。
「花屋で見かけた時に一目惚れしたんだ」
「テオがいつも花を買いに来るのは恋人へのプレゼントだと思っていたの」
「あの花は独身寮に飾っていた」
「男の人が部屋に花を飾るなんて思わないじゃない?好きだと言われた時は信じられなかったわ」
「騎士団長に昇格して死を覚悟した時にやっと決心がついた。どうせ死ぬなら例え振られても構わないと思って想いを伝えた」
「そう…、それなら国王陛下に感謝しなくちゃね。テオを騎士団長に昇格させてくださらなかったら、私たち付き合ってなかったんだもの」
二人は今までで一番激しく愛し合いました。情事が終わるとテオが鼻歌を口ずさんでいます。
「ふん、ふん、ふー、焼かれて悶えて、エスカルゴー」
「随分とメサイアの曲が気に入ったみたいね?おひねり五万も入れてたし、テオがロック好きなんて意外だったわ…」
「妙に頭に残る歌詞だ…。それとあのダークと言う男の事が気になって頭を離れない…」
「ああ、ファンの間ではダークはゲイじゃないか?って噂もあるの。アークの事好きなんじゃない?って噂してる子もいるわ」
「ダークがゲイ…。はっ!そうか?思い出したぞ!?」
「急に何を思い出したって言うの?」
「この戦を終わらせる日が来たようだ。もし私の策が失敗したら、私は死ぬかもしれないが、上手く行けばこの国は大きく変わる事になる」
「テオ、お願いだから死なないで…。愛してるの」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第108話です。