アークはゲイザーにも、今日あった出来事を事細かく説明しました。ゲイザーは黙って聞いています。
「今日の調子で路上ライブを毎日行って稼いだとしても、ピーターを買い戻すのに半年以上かかってしまう計算になります…」
「そんなに経ったらピーター他の人に買われちゃう!」
「しかしレッドドラゴンを仲間にしたと言うのは大収穫だったな。偉いぞ?ナタ!」
ゲイザーはナタの頭を優しく撫でました。
「ナタ、すごいー?怒られるかと思った」
「私もお叱りを受けるかと思っておりました」
「私の父は、私がちゃんと出来た事を一切褒めず、出来なかった事だけを叱りつける教育の仕方でね。私に子供が出来たら、良く出来た事は褒めてやろうと決めていたのだよ?」
「それは良い教育方針だと思います」
フラウが同調しました。
「あのドラゴンは正直、アラヴェスタの街を一晩で焼き払うだけの力は持っているだろう…」
「アラヴェスタの街を火事にしちゃうの?なんかもったいないなぁ…」
「もちろん、私もそんな事にドラゴンの力は使う気はないよ?これはあくまでも、例え話だ」
「レッドドラゴンのご助力があれば、この戦に勝機はあるのですか?」
「アラヴェスタを攻める手駒が揃った。チェックメイトまでの道筋がやっと見えてきた。この戦いはすでに詰んでいる…」
「流石ゲイザー様です。一体、何手先まで読んでおられるのですか?」
「数えた事はないからわからないな…。何百、何千通りもの手順を瞬時に導き出すのだよ?」
「そんなに多くの手数を読めるものなのですかね?私のような凡才には天才の考える事はわかりかねます」
「チェスは単純だが、実際の戦は手駒が多くて複雑な分、手数も増える。何万手先かもしれないな。すまない、何手あるのか数えるのが面倒だ」
「気が遠くなりそうなお話ですね…」
「紙に書き出しても良いが、何日かかるかわからないのでね。一度書き出した事があったのだが、一瞬で閃いた事を全て紙に書き留めるには何週間もかかる事が分かっている。文字数も何万文字にもなるから、読むのも大変だろう?」
「それは骨が折れますね。以前、フラウ様とナターシャ様をお救いした時のように、単純な指示をもらえた方が私にはやりやすいです」
「アーク殿なら機転を利かせてマルヴェールに二人を逃すだろうと読んでいた」
「私の行動も予測済みでしたか?もう言葉にならないです」
「アーク殿の思考は私に近いので読みやすい。逆に国王の思考は愚か過ぎて全く読めない…」
「ふふ、読まなくてもよろしいと思いますよ?どうせ大した思考はしておりませんので」
「国王がフラウの美貌を目にしたら、寝室に連れ込む事だけは容易に読めていたがな…」
「それだけ読めていれば十分だと思いますよ」
翌朝、ゲイザーに指示を受けてアークは、フラウとナタも一緒に、丘の上の教会に向かいました。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第91話です。