その夜、フォンの邸で住み込みで働いているサラはフォンの寝室へ行きました。
「フォン様、お慰めに参りました…」
「サラよ、お前はなぜ夜な夜なわしの相手をしに来るのだ?若い女がわしのような老いぼれの相手をして楽しいわけがあるまい…」
「王族の方をお慰めするのは侍女の仕事ですから」
「ふむ、サラにはわしに対する愛情はないと申すのだな?」
「フォン様のような高貴なお方を、私のような卑しい身分の女が愛するなど、烏滸がましい事ですので…」
「恥ずかしい話だが、この歳になって初めて抱いたのがお前だったのだ…」
「フォン様の筆下ろしを、私がお手伝いした事になるのですか?光栄です」
「お前は少しフラウと似ている。気の強いところや頭の良いところがそっくりだ…」
「フォン様は少しゲイザー様に似ておられますね。生真面目なところや女性に対して紳士的なところが…」
「男として責任を取らなくては…と思っておってな。わしの妻になる気はないか?」
「私のような身分の低い者を王族のフォン様が妻にすると仰るのですか?」
「王族と言ってもただ単に、この国を創ったと言うだけだからな。わしとてただの国民の一人に過ぎん。今は国王の座を退いておるから、わしはもう王族ではない」
「元国王陛下だったのでしょう?そんな素晴らしいお方がなぜ私など妻にしたがるのです?」
「お前が嫌だと言うなら諦めよう…」
「嫌だなんて思っていません。むしろ嬉しくて言葉にならなくて困っております…」
「お前はゲイザーの昔の女だったのだろう?お前のゲイザーを見る目を見たらわかる…」
「はい、ゲイザー様以外のお方を愛する日が来るとは思ってもいませんでした」
「サラ、わしの妻になっても良いと申すか?」
「私で良ければ…、喜んで。フォン様の妻になります」
翌朝、フォンはゲイザーを呼び出しました。フォンの隣にいるサラは、ずっと付けていたはずの左手の薬指の指輪を外しています。
「急に呼び出して、すまぬ…。お前に大事な話があってな」
「何のご用でしょう?フォン様」
「サラと婚約した。近々、婚礼の儀を執り行う予定だ」
「えっ…フォン様とサラが婚約?おめでとうございます!」
「サラはお前の昔の女なのだろう?嫌ではないのか?」
「いえ、サラには誰か良い人と幸せになって欲しいと思っていたので、フォン様ならばサラを幸せにできると信じております」
「そうか、祝福してくれるか…」
「はい、どうかサラのことを末長くよろしくお願いします」
サラは指輪をゲイザーに返しました。
「これはゲイザー様にお返ししておきます…」
「サラ、絶対に幸せになるんだよ?」
「はい…、フラウ様のように幸せになります」
サラは嬉涙を溢しました。数日後、マルヴェールの神殿でフォンとサラの挙式が執り行われました。ゲイザーとフラウの挙式ほどではないですが、国民も大勢参列しました。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第75話です。