フラウはアラヴェスタのスラム街に来ていました。マルヴェールからパンの差し入れを持って来たのです。女性の従者を何人か連れていますが、武装した護衛は連れていません。
「皆さん!施しを持って参りました」
「シスター!パンをくれ…」
「一列に並んでください。一人一個ずつ配ります」
「家で待ってる家族の分も欲しいんだ。一個じゃ足りねぇ」
「その家族を連れて来てください。人数分しか渡せません」
「病気で来られねぇんだよ!なあ、頼むよ?」
「では、あとであなたの家に伺わせてもらいます」
「シスターは俺の言ってる事が信用できねぇって言うのか?嘘をついてパンを多くもらおうとしてると思ってるんだな!」
「いえ、病気なら看病しなくてはなりません」
フラウはパンを配り終えると、男について行きました。ボロボロの家の前に来ると、咳き込んでいるのが聞こえて来ます。
「これは…!お薬を調合致しますので、台所を少しお借りしますね?」
フラウは得意の薬草学で咳止めの薬をこしらえました。
「この咳止めシロップを咳が酷い時に、スプーン一杯だけ与えてください。あとは栄養を付けなくては…」
フラウは荷物の中から野菜をいくつか取り出して、ポトフを作り置きすると、家を出ました。
「シスター、ありがとう…。あんたは俺たちの女神様だ!」
「もし今の生活が苦しいなら、マルヴェールへ移住しませんか?食べ物はたくさんありますし薬も私が調合出来ます」
「マルヴェール?聞いた事ない国だな…」
「マルヴェールは獣人の隠れ住む国です」
「獣人だって!シスター、正気か?」
「獣人は温厚で争い事を好みません。武術は好みますが、身を守る為に戦うだけです。嘘だと思うならマルヴェールに見学に来てください」
「取って食われたりしねぇか?」
「大丈夫です。もし気に入ったら移住してくださいね」
こうしてフラウはマルヴェールへの移住者をたくさん集めたのでした。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第52話です。