No.953452

狙撃銃は女神の懐(プロローグ・第一章(分解))

荒井文法さん

「覚えといて。綺麗な人ほど、何かに汚れを押し付けてるかもしれない」

都内のテレビ局に勤務している僕ーー月本志朗(ツクモトシロウ)が知ってしまったものは、本当に汚いものだったの?

警察の不正を暴くため、大好きな先輩と美人の幼馴染に協力してもらいながら、月本が辿り着いた場所は、薄暗くて、光が届かない部屋だった。

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2018-05-22 23:32:41 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:326   閲覧ユーザー数:326

 

   プロローグ

 

 靴先が何度も同じ軌跡をなぞっている。

 イリカは公園のブランコに座って、小さな振幅で揺れている。

 揺れに従ってイリカの靴先が地面を擦る。さっきまであった軌跡がなくなり、新しい軌跡が作られる。同じように見えるが、全く違う軌跡が地面に刻まれる。その軌跡も一秒後には消えてしまう。

 

 何時間こうして靴先だけを見ているだろう。

 

 時折聞こえていた人の声や足音はすっかり息を潜め、木や草を揺らす風の音が大手を振って歩く。ブランコの鎖の甲高い音だけがささやかに抵抗している。

 太陽が昇るまで、あとどのくらい時間がかかるだろうか。イリカの周りにあるのは暗闇だけである。ブランコのそばにある真っ白い常夜灯がひとつだけイリカを照らしている。

 寒い。雪が降るくらいの寒さだって誰かが言ってたっけ、マフラーを持ってくればよかった、とイリカは思う。これから自殺するのに。

 マフラーがある自宅には誰もいない。イリカの育ての親は三週間前に死んでしまった。とても素敵な人たちだったのに、イリカに泣く時間すら与えず、交通事故で死んでしまった。

 

 イリカの親が死んだ次の日、弁護士がやってきた。

 弁護士は無表情で、事務的に、遺産の相続権がイリカに無いことを淡々と告げた。告げられた言葉の重大さを理解できず、イリカが『分からない』という表情をしていると、弁護士はロボットみたいに口だけを動かしながら言った。

 「今月中に、この家から退去していただきます」

 去っていく姿もロボットみたいだった。

 

 弁護士の話が信じられず、誰かに相談したかったが、イリカが頼れる知り合いは皆無だった。

 ロボット弁護士の話で分かったことだが、育ての親に親族は一人もいなかった。生みの親は、十年以上前にイリカと別れて以来、どこで何をしているのか分からない。親戚もいない。友人もいない。小学校でイジメを受けてから、ずっと学校へ行っていないからだ。

 役所へ行けば助けてくれるかもしれない、と考えた。

 役所を利用するのは初めてだったが、窓口を渡り歩き、たらい回しにされながらも、なんとか自分が置かれている状況を把握した。

 発行された紙切れを見つめるイリカ。

 自分の体温が頭の先から奪われていく感覚。

 ロボット弁護士の話は本当だった。

 

 イリカの戸籍上の両親は、見ず知らずの男女だった。

 

 ブランコの上で思い出した三週間前の出来事が、夜の空気で冷たくなったイリカの体を更に冷やす。心臓が一度だけ大きく脈打ち、少しだけ息苦しくなる。

 おかしい、絶対に間違いがあると、泣きながら役所の職員に訴えた。職員は訝しがりながらも、戸籍の訂正を裁判所に訴えることができると教えてくれた。

 裁判に必要な書類を裁判所に提出し、その審理結果が今日届いた。

 却下、という文字がイリカの網膜を痛めつけ、涙が溢れた。

 他にも小さな文字がたくさん書き込まれていたが、読む気力はひとかけらも残っていなかった。涙に溶けて流れ出てしまったのかもしれない。

 裁判所に却下されたということは、明後日には、この家から退去しなければならない。しかし、お金がない。アパートを借りることができない。アルバイトしてお金が貯まるまで野宿だろうか。いや、その前に、住所不定で身元不明のイリカを雇う所などあるのだろうか。助けてくれる人は誰もいない。誰もいない。誰もいない。誰も――

 

 気付くと、真夜中の公園のブランコに座り、靴先を見ていた。

 自分は死ぬのだろうな、と思った。

 

 ブランコに座っているイリカに、周りの暗闇がおいでおいでと手招きをする。限界まで膨張していた孤独感が、音もなく破裂して消えていく。同時に、すべての感情が停止した。

 どうやって死のうかな、あまり人に迷惑を掛けたくないな、あ、でも、空を飛んでみたいな、できるだけ高い場所から飛んで、できるだけ長く飛んでいたいな――

 空を見上げるイリカ。

 星は見えなかった。

 何もない暗闇の地上に目線を戻す。

 暗闇から笑い声が聞こえる。

 

 暗闇には女神がいた。

   第一章 分解

 

 

   1

 

 「イリカさんっ!」

 「ふぉへっ?」

 奇妙な声を出しながら顔を上げたイリカさん。口の端からヨダレが三センチくらいはみ出してる。はしたない……。

 王都放送の局内の一室、広い部屋に、数えきれないデスクが並んでる。どのデスクにもパソコンが一台、そして、たくさんの書類が乗ってる。天井からは何枚ものプラスティックプレートが吊り下げられてて、その中の一枚には“社会報道部”の文字。そのプレートの下に五つのデスクが集まってるトコがあり、そのうちの一つがイリカさんのデスク。僕の先輩だ。

 イリカさんはいつも、お昼休憩に入ると、ご飯を五分以内に済ませて、残りの四十分間を睡眠に充ててしまう。睡眠後は高確率でヨダレが垂れてる。ご飯を食べた直後だから、ヨダレが過剰分泌されるんだな、きっと。

 「お昼休憩終わりですよ」

 「んー……あー……ほんとだー……」

 イリカさんは、いつも通り時計を見ながら、いつも通り返事をして、いつも通りティッシュでヨダレを拭う。プログラムで動く機械のように、無駄の無い完璧な動きだ。

 イリカさんはいつも机に突っ伏して寝るから、起きた直後の髪は少し乱れてる。

 やっぱりいつも通りに、セミロングの茶色い髪を手櫛で整え始めるイリカさん。子猫が自分の顔を撫でてるような仕草。

 

 か、かわいい……!

 

 この仕草の破壊力といったら、四階からノートパソコンを円盤投げするくらいはある。落ちたあとのパソコンが僕で、投げるのがイリカさんだ。

 イリカさんの指が髪を梳くと、林檎のような桃のような甘いフルーツの香りが漂ってくる。同時に、寝ぼけ眼はパッチリお目々になり、下がってた口角は元の位置に戻る。そして最後に、にっこり笑顔で――

 「ありがと!」

 

 あぁ……僕はこのために会社に来てるんだ……

 

 はっ!

 ち、違う! 仕事! 仕事のために来てるんだよ! 冷静になれ!

 普段通りの顔で、ビジネスライクなビジネスゲームをビジネススーツにビジネストークで……。

 「起きれないなら、目覚ましかけてくださいよ」

 「うん、でもシロウ君、起こしてくれるし」

 「イリカさんが起きないからです」

 「へへ」

 いたずらっ子のように笑うイリカさん。か、かわいい……!

 「なんか、ほっぺたと耳、赤いよ?」

 「そ……! れは……おたふく風邪です」

 「え?」

 「そんなことより、そろそろ出発しないと遅れちゃいますよ、記者会見」

 「分かってるよー。でも、おたふく風邪って――」

 「それは……嘘です。いや、嘘じゃなくて、ジョーク。そう、ビジネスジョークです」

 「ビジネスジョーク?」

 「はい」

 「ふーん」

 イリカさんは、僕のビジネスジョークを追及しないで、出かける用意を始めてくれた。イリカさんの用意が終わるのを、自分のデスクで待つ。

 僕のデスクは、イリカさんのデスクと向かい合ってるから、存分に、心ゆくまで、イリカさんの顔を眺められる。まだですか~、早くしてくださいよ~、という感じで。素晴らしい役得だ。

 イリカさんは立ち上がり、椅子の背もたれに掛けられてたジャケットを着て、用意できたよ、といった感じで僕に微笑む。精神を極限まで統一し、おたふく風邪をガードした。

 イリカさんの左隣のデスクを一つ挟んで、ディレクターのデスクがある。彫りが深くて、ダンディーな髭を生やしたサガミさんが書類を読んでる。イリカさんがサガミさんの所へ向かったので、僕もそれに倣った。

 「失礼します」

 イリカさんが話しかけると、サガミさんは書類から目を離して、僕らを見る。

 「警視庁の記者会見へ行ってきます」

 イリカさんの言葉に、サガミさんは頷きながら片手を軽く挙げて応える。いってらっしゃい、という意味だ。

 喋らず、にこりともしないのに、頷いて片手を挙げるだけで、女の子を二、三人倒してしまいそうなサガミさん。これがハードボイルドというものか……。

 それに比べて、僕は童顔で、ヒョロヒョロで、背も高くない。ヒールを履いたイリカさんと同じくらいの背しかない。以前、サガミさんの寡黙さを真似して男力を高めようとしたら、イリカさんに「下痢?」と訊かれた。ハードボイルドには二度と手を出さないと誓った。

 

 警視庁までは電車で移動だ。吊革に掴まりながら、二人並んで電車に揺られる。

 僕とイリカさんの間で、吊革がひとつ揺れてる。この距離が、二人の親密度そのものだ。電車に乗り込んだとき、思い切ってその吊革に掴まろうとしたけど、予想通りのチキンハートが僕をこの場所に押し留めた。情けなかったけど、がっついてる男は嫌われるからな、という魔法の言葉で自分を立て直す。

 そう、僕はジェントルマン……慎み深く、思慮深い大人の男だから、がっつかず、余裕をもって、この芳しいフルーツの香りを胸いっぱい肺いっぱいに、鼻から口から毛穴から、全ての穴から吸い込んで――

 ……違う、これは変態ジェントルマンだ。全然立て直してないじゃないか。

 隣から漂ってくるフルーツの香りから気を逸らすため、イリカさんに話しかける。

 「今日はどんな夢でした?」

 イリカさんは、お昼寝すると絶対夢を見ちゃう、と公言する夢見る少女だ。ぶっ飛んだ夢が多いから、イリカさんの夢の話はなかなか面白い。一昨日なんかは、イリカさんが牛乳として搾り出され、チーズとして熟成され、消費者に食べられるまでの感動巨編を、前編・後編の二部構成で、身振り手振りを交えて、僕に披露してくれた。

 『私を絞り出してくれたおじさんがすっごいダンディーなの!』

 イリカさんが目を輝かせながら興奮気味に話す。

 『そのおじさんがね、無口なんだけど、絞り出した私を愛情溢れる眼差しで見つめてて、もう私、出荷される前にそのおじさんに飲んで欲しくなっちゃって、お願い私を飲んで、ってお願いしたら、じゃあ一口だけ、って言って、私を少しだけコップに注いでゴクゴク飲んだの。そしたらね、おいしい、もっと飲みたいって言って、何杯もお代わりしちゃうの、きゃーっ!』

 少し赤くなったほっぺたを両手で挟んで、恥ずかしそうに叫んだイリカさん。僕の脳下垂体あたりにグッときたけど、心の中で般若心経を唱えて、事なきを得た。

 そんな回想を一瞬で終わらせて、現実に戻ると、イリカさんは伏し目がちだった。

 「今日のは、少し悲しかったな……。女の子が、空を飛びたい、って思う夢だったんだけど……」

 悲しそうな表情のイリカさん。

 「それって悲しいんですか?」

 「んー、なんていうか、誰も助けてくれないんだなー、っていう感じ」

 なんだか歯切れが悪い。声のトーンも低い。あまり話したくないのかもしれない。僕は「そうですか」とだけ返して、夢の話を終わらせる。

 しばらく無言が続いた。

 この空気を変えたかったけど、何も思い付けなかった。

 電車は走り続ける。

 地下鉄の窓は真っ黒。

 窓に映る自分。

 助けを求める自分。

 ダレモタスケテクレナイ――

 イリカさんの言葉が反響する。

 リズミカルな電車の音と振動が、この空気を削り取ってくれることを祈った。

 「甘いものと、しょっぱいものだったら、どっちが好き?」

 イリカさんが脈絡なく話しかけてきた。

 「断然、甘いものですね」

 すぐに答える僕。

 「じゃあ、帰りはケーキ買ってこう」

 イリカさんが笑う。

 何だかよく分からないけど、とても嬉しかった。

 

 「今回の事件も同一犯ということですが、犯人についての新しい情報などありますか?」

 「えー、まず、先ほど申し上げた通り、同一犯の可能性が高い、ということであって、断定ではありません。犯人については、一刻も早い解決を目指して、捜査に尽力しております」

 警視庁の一室、広い部屋に並べられた沢山のパイプ椅子には、隙間なく記者が座ってる。その後ろには、さらに隙間なく、カメラとカメラマンが乱立。シャッター音とフラッシュが引っ切り無しに部屋を走る。

 「今回で四件めですが、これまでの被害者の方達との間に共通点などありますか?」

 「現在までに、被害者間の関係などは確認されておりません」

 「やはり無差別ということでしょうか?」

 「そのような点も含めて、捜査に尽力しております」

 警察の事件説明に続いて、記者の質問が始まったけど、三件めの事件の会見と同じような問答ばかり繰り返されてる。被害は増えてるけど、捜査の進展はあまりないようだ。

 「万が一、今後も同じ事件が続いた場合、警察側の責任も無視できなくなるのでは?」

 「警察の威信をかけて全力で捜査しておりますが、国民の皆様自身におかれましても、より一層、防犯意識を高めて頂くことで――」

 「国民に責任を転嫁するんですか!」

 「いや、そうではなく、警察としましても――」

 

 「やっぱり、新しい情報なかったですね」

 隣を歩くイリカさんに話しかけた。

 おいしいケーキ屋さんが近くにある、とイリカさんに誘われ、二人で街を歩いてる。勤務中だけど、デートとみなして良いだろう、という暴走を抑えるため、さっき、こっそりトイレで、掌に人という字を書いて呑み込んできた。効果は抜群だ。

 道路脇には沢山のイチョウが並んでる。夏の暑さが一段落して、夜は肌寒いくらいの気温になってきたから、イチョウが黄色くなる準備を始めてる。紅葉の季節だったら最高のデートだったんだけどな……って、もう効果切れ?

 「もしかしたら何か掴んでるかもしれないけど、それにしても情報少ないね」

 目当てのケーキ屋さんを探してるイリカさんが、前を見ながら応える。

 イリカさんの横顔は、まつ毛の長さがすごい目立つ。僕の二倍くらいある。

 以前「マスカラすごいですね」と言ったら、「地毛だよー」と返ってきた。とりあえず“天は二物を与えず”を粉砕しておいた。二重のパッチリお目々も備わっているので、イリカさんは人形みたいにかわいい。間違えた。人形なんて比べものにならなかった。

 「殺され方と死亡時刻くらいですよね、こっちに流れてるの」

 勤務中だということを思い出して、ビジネストークを続行する。

 「あとは、二件めのときの目撃証言? 少年がいたってやつ」

 「でもそれは二件めだけですし、全然関係ないかもしれませんよ」

 「んー、あと、被害者全員お金持ちとか」

 「それは強盗目的だからじゃないですか?」

 「でも、お金持ちの家って、すごいセキュリティだよ。侵入するの大変だよー、きっと」

 これまでの事件は全部お金持ちの豪邸の中で起きてる。だけど、防犯システムが働いた事件は一件もない。犯人がどうやって侵入したのか、警察は一切公表してない。捜査が進んでないから、公表できないだけかもしれないけど。

 「そうなんですよね。やっぱ、お金以外の目的があるんですかね。家主は例外なく殺されてますし」

 「お、はっけーん。あそこだ」

 会話をぶった切ったイリカさんの目線を追うと、カフェテラス付きのケーキ屋さんが見えた。

 「なんか、凄いおしゃれですね」

 ケーキ屋さんなんて来たことがないから、自然に出てきた感想だった。

 「気に入った? じゃあ……」

 一呼吸置いて、僕の顔を覗き込むイリカさん。

 「今度は、デートで来よっか?」

 「……え?」

 え?

 今なんて言った?

 デート?

 デートって言った?

 心臓が狂ったように急加速。

 イリカさんは、僕をじっと見つめて……

 「うそ」

 前歯を見せながら、にーっと笑う。

 「さ、早く買って帰らないとね」

 歩くスピードを少し上げたイリカさんに、少し遅れてついてく。

 僕の心は既に地球を三周はしてるはずなんだけど、なかなか戻ってこない。どこへ行ってしまったのか。

 遠くから車の急ブレーキの音が聞こえてきた。

 そうそう、そうなんだよね。

 車も心臓も、急には止まれない。

 

 ケーキを買って、電車に乗って、会社に戻っても、その日はずっと夢の中にいるような感覚で、感情がふわふわして、落ち着きが無かった。

 十分に一回くらいはイリカさんの嘘がフラッシュバックして、一瞬だけ仕事の手が止まる。で、またすぐ仕事を始める。ニワトリがエサを食べてるトコを思い出した。あいつら、落ち着き無いんだ。

 買ってきたケーキを職場の仲間と一緒に食べてるときは、イリカさんと話せないどころか、顔すら見れなかった。どんなケーキを食べたかもよく覚えてない。茶色かった気がする。

 仕事が終わって家に帰ると、もっと酷かった。

 録画してあったテレビ番組を見てても、頭の中は、昼間の出来事の無限ループ。

 あれはほんとに嘘だったのか? もしかしたら、わりと本気だったんじゃないか? ほら、嘘ついたあと歩くの速くなったし、照れてたんじゃないか? いやいや、落ち着けシロウ。そんな希望的観測に頼ってると、また痛い目見るぞ。ほら、高二の夏、グループで夏祭りに行ったとき、ユリコちゃんに「シロウ君てほんと優しいよね。やっぱ、付き合うなら優しい人がいいなぁ」なんて呟かれちゃったもんだから、一週間後に告白したら、え? なんで告白してんの? みたいな目で見られながら振られて、半年間立ち直れなかったことを思い出せ。あぁ、どうしてもっと冷静になれなかったんだ……そもそもあの夏祭りは――

 寝るまでずっと、不毛な議論・妄想・後悔・反省が続いた。

 翌日起きると、少しマシになってた。だけど、気を抜くと無限ループに入りそうな気がしたから、すぐに出かける準備を始める。

 今日はメグと会う約束をしてる。会社は休み。

 メグは僕の幼なじみで、大学に通うために上京した。国内トップクラスの王都大学に合格したくせに、半年で中退。本人曰く『通う必要がないと分かった』だそうだ。そのあとはずっとアパートにこもって暮らす生活を続けてる。生活費はどうしてるのかと訊いたことがあるけど、ネット上でそこそこ稼いでるらしい。親からの仕送りは一切無いと言ってた。

 十五分で出かける準備を済ませて、電車でメグのアパートへ向かう。

 メグのアパートはオンボロで、全体的に茶色くて、駆け上がると崩壊するんじゃないかというくらいボロい階段がある。この階段を踏むと、ギャア、とか、ギョエ、とか、人間のような声を発するので、精神的にも物理的にも恐怖がある。それを十三段登らないといけない。このアパートを設計した人を叱ってやりたい。

 そんなアパートだから、オートロックやドアチェーンなどあるはずもなく、インターホンもない。ドアも、体当たりすれば一発で開く気がする。アパートが崩壊するかもしれないけど。

 そのドアをノック。十秒くらいでドアが開いた。

 「よ」

 「おう」

 おう、と言ったのがメグ。

 彼女はいつも通りジャージ姿で、髪はボサボサ、眠そうな顔をしながら立ってる。

 すっぴんのメグは、少しそばかすがあるけど、キレイだと思う。かわいいというより、キレイ。肌はものすごく白い。きっと、昼間外に出ないからだろう。そこらへんの引きこもりと同じように、メグの昼夜も逆転してる。彼女にとって今の時間は真夜中だ。

 「悪いね、眠いとこ」

 「あいよ」

 返事をしながら、部屋の奥に戻るメグ。

 そこらへんの引きこもりとは違い、メグはモデルみたいにスタイルがいい。ジャージを着た後姿でも、それがよく分かる。小さい頃から、どれだけ食べても太らない体質らしい。遺伝子は本当に不平等だ。まぁ、おっぱいは小っちゃいんだけど。

 半年ぶりのメグの部屋。ワンルームで、玄関から部屋の中が全部見える。蛍光灯をつけてないから、相変わらず薄暗い。メグの部屋の窓の真ん前にマンションが建ってるから、部屋に入ってくる光はくたくたになってる。スキューバダイビングなんてしたことないけど、海の深い場所はこんな感じかも。全然嫌じゃない。きっとメグもそうなんだと思う。

メグの部屋は、光だけじゃなくて、物も少ない。目に付くのは、液晶ディスプレイが三つ乗った机、安そうなパイプベッド、小っちゃいテーブル、僕よりも年上なんじゃないかと思える茶色いエアコンくらいしかない。

 机の上の灰皿から煙が上ってる。

 「コーヒー飲む?」

 灰皿から吸いかけのタバコを取りながら、メグが訊いた。

 「じゃ、もらう」

 「ん」

 メグはタバコを咥えて、ほとんど使われてなさそうな台所へ行く。

 コーヒーを用意するメグを横目に、パイプベッドに座る。ここが僕の定位置。

 机の上の三つのディスプレイはどれもつけっ放しで、どのディスプレイのウィンドウにも沢山のアルファベットが並んでる。なんかのプログラムかもしれない。

 ヤカンを火に掛けたメグが戻ってきて、タバコを吸いながら椅子に座る。

 「どんな情報見つけたの?」

 煙を吐き出してるメグに訊いた。

 「結構すげーよ」

 メグが答える。

 メールにもそう書いてあった。

 一年前、僕が王都放送に就職が決まったとき、メグは内定祝いだと言って“面白い情報があったらすぐ教える券”をくれた。ジョークだと思ってたら、二日前に『結構すごい情報見つけた』とメールが来た。昔から、メグは意外と律儀だ。

 「金持ちが殺されてる事件の情報。出回ってないやつ」

 「どんなやつ?」

 「現場付近で目撃された少年いんだろ? 実はな、そいつの正体、警察分かってんだよ」

 「ほんと? ってか、どこ情報? それ」

 「けいさつ」

 メグがニヤニヤしながら答えた。もしかして、警察のネットワークに侵入したのか、こいつ……。

 「捕まるよ、ほんと」

 「うまくやればバレねーよ。システムいじったりするわけじゃねーし」

 「犯罪だよ」

 「ちょっと情報見て、俺の心の中にひっそり置いとくだけだって」

 「もう僕に教えちゃってるし」

 「そりゃあ……シロウはさ……ほら……」

 メグの声がだんだん小さくなり、何かごにょごにょ言いながら、タバコを灰皿で揉み消してる。

 「……信用、してるし」

 とっくに消えてるタバコを灰皿に擦りつけ続けるメグ。

 なんだ? 褒めてくれたのか?

 メグが黙ってるので、話しかける。

 「んー、まぁ、いや、そういう問題じゃないでしょ」

 「……うっせぇなぁ! 聞かねぇの?」

 「……聞く」

 「素直にそう言やぁいいんだよ」

 メグは、机の上にあったタバコの箱を乱暴に掴んで、中から新しいのを一本取り出した。タバコに火をつけると、いつもより深めに煙を吸って、溜息をつくように吐いた。

 「少年は、少子対策法の養子だとよ」

 台所の方をチラッと見ながら、メグが言った。お湯が沸きそうな音が聞こえてる。

 「もう身元、分かってるの?」

 「それがな、身元は分かってねーらしい」

 「ん? 少子対策法の養子なんでしょ?」

 「たぶん、正式な養子じゃねーんだろうな」

 僕は首を傾げて、よく分かりません、とジェスチャー。

 「俺もよく分かんねー。国のミスとかで戸籍登録されなかったのかもな」

 ヤカンがけたたましく音を鳴らし始めたので、会話を中断し、メグが台所へ向かった。

 少子対策法――最近それ関連の仕事をしてるので、わりと詳しく知ってる。

 制定されたのは十四年前。海外の難民受け入れを、未成年だけ大幅に増やして、少子化を抑えようとしてる法律。受け入れられた子は必ずどこかの世帯の養子になるから、身元が分からないなんてことないと思うんだけど。

 メグが言った通り、もし国のミスで戸籍登録されなかった奴が連続強盗殺人してるとしたら、国はボロクソに責められるだろうな。あ、もしかして、だから警察は公表しないのか?

 メグが両手にカップを持って戻って来た。机とベッドの間にある小っちゃなテーブルにカップを置いて、また椅子に座る。

 気になったことを訊いてみる。

 「それ、いつくらいの情報? 最近?」

 「見つけたのは二日前だけど、データが作成された日付は四件めの事件の直後だから、四日前くらいか」

 「じゃあ、警察隠してるんだ、その情報。昨日の記者会見、なんも言ってなかったし」

 「だろうな」

 メグが置いたカップを取って、熱々のコーヒーを一口飲む。砂糖とミルクがたっぷり入ってる。さすが幼なじみ。

 メグがくれた情報は確かに凄い。凄過ぎて、どうしたもんかと悩む。

 「実はな……」少し前屈みになるメグ。「とっておきの情報はこっからなんだよ」

 まじすか……。

 「冗談?」

 「マジ」

 指の間に挟んでるタバコで、メグが僕を指す。

 「警察な、犯行現場で、その少年取り逃がしてんだよ」

 

 

   2

 

 大きな窓ガラスが割られ、人が入れるくらいの穴が空いている。

 割られた窓ガラスの大きさがが目立たないくらい広い部屋には、何が描かれているのか分からない絵や、異様にキラキラ光る壺など、たくさんの高価そうな物がこれ見よがしに置かれている。悪趣味だが、きっとパーティーを開く部屋だろう。

 被害者の寝室は、この部屋から一番遠い部屋だ。偶然ではないだろう。犯人は、寝ている被害者を起こさないように、この部屋の窓ガラスを割って侵入したのだ。

 「一番の問題は、なんで防犯システムが働かなかったか、ですよね」

 隣にいる後輩が、割られた窓を見ながら言った。

 「そうだな」

 窓からは庭園が見える。庭園の中央には噴水があり、噴水を囲むように、手入れの行き届いた木や花や草が植えられている。初夏の植物の緑色が、とても眩しい。その華やか庭園は、夜になれば、無数の赤外線を蜘蛛の巣のように張り巡らせ、侵入者を絡め取るはずだった。

 庭園の赤外線に触れると、警備会社への通報と共に、暗視カメラが作動する。窓ガラスには振動センサーが設置されていて、作動すると、赤外線と同じことになる。先ほど確認したが、防犯システムに異常はなかった。しかし、事件が起きた昨夜、防犯システムは一切作動しなかった。

 「この家に頻繁に出入りする人物、この家を建てた会社、この家の警備会社を調べないとな」

 私が言うと、後輩が「そうですね」と頷く。

 割られた窓ガラスの周辺では、鑑識課の人間が証拠品や指紋を採取している。まだ時間が掛かりそうだ。

 「ちょっと寝室行ってくる」

 後輩に声をかけ、被害者の寝室へ向かう。

 被害者は五十三歳の家主。結婚しているが、妻子とは別居しており、この豪邸に一人で暮らしていたようだ。

 事件当日、昼間は使用人がいたが、夜は被害者一人だった。翌朝、いつものように使用人が出勤してインターホンを押すと、応答が無かった。不審に思った使用人は、すぐに警備会社に連絡し、鍵を開けて家に入ると、寝室で被害者が死んでいた。

 先ほどまであった遺体は既に移送され、ベッドのシーツに赤黒い染みが残っている。

寝室でも、鑑識課の人間が証拠品を採取している。

 遺体の様子を思い出す。

 ベッドの上で仰向けになって死んでいた被害者。外傷は、左胸への刺傷が一ヶ所のみ。衣服の乱れはほとんど無かった。

 寝室を見渡す。

 寝室のドアの鍵が破壊されている。銃を使ったようだ。

 寝室に荒らされた様子は無いが、机付近にインターネット回線のモデムがあるにも関わらず、PCは見当たらない。

 寝室の壁には隠し扉があり、その中に大きな金庫がある。金庫には何も入っていない。

 ここまでの状況から、犯行の様子を想像する。

 犯人は、何らかの方法で防犯システムを作動させずに邸内へ侵入。寝室の鍵を銃器で破壊し、寝ていた被害者を脅して金庫を開けさせる。金品を強奪したのち、一刺しで被害者を殺害し、逃走。そんなところか。

 分からないことは沢山あるが、特に気になることが一つある。

 気にしなければならない、と脳が震えている。

 被害者の足の裏が汚れていた。

 邸内はとても綺麗で、足裏が汚れるような場所はない。金庫の部屋も、それほど汚れていない。

 どこを歩いた?

 被害者が歩いた。つまり、犯人が歩かせた。

 どこを?

 先走る自分の手綱を引く。

 明日には、鑑識課の作業も終わる。被害者がどこを歩いたのか分かるかもしれない。それまで聞き込みに専念しよう。まずは周辺の住人たちだ。

 脳にしがみついてくる足裏の映像を振り払うため、咳払いをして寝室を出た。

 

 「牢屋?」

 電話で話している鑑識課の人間が、全く想像していなかった言葉を使ったので、つい聞き返してしまった。

 「そうです」

 「人を閉じ込めておく、あの牢屋ですか?」

 「はい」

 事件から二日後、気になっていた被害者の足裏の汚れについて、鑑識課に問い合わせた。

 被害者はどこを歩いたのか、と尋ねたら、牢屋だ、と言われた。聞き間違えたのかと思ったが、どうやら牢屋で合っているらしい。

 「あの家に牢屋なんてあったんですか?」

 「地下にあるらしいんです、隠し部屋が」

 「らしい、ですか?」

 「はい、私達も写真でしか見てないんですけど」

 「鑑識課が見つけたんじゃないんですか?」

 「えーとですね……私達は被害者の足跡を辿って、隠し部屋の入口までは突き止めたんですけど、その入口、かなり複雑な電子錠でロックされてまして、開けられなかったんです。じゃあ、入口を壊して中に入ろう、ってなったんですけど、核シェルター並みの頑丈さだったんで、そこからは軍の特殊部隊に任せたんです」

 軍が出てきたのか……ちょっと異常だな。

 「そちらに行って、その写真見せてもらってもいいですか?」

 「はい、大丈夫ですよ」

 電話を切ってから、あの感覚に気付いた。気にしなければならない、と脳が震えながら警告してくる、あの感覚。

 この仕事に就いてから時々感じるようになった。具体的に何を警告しているのか全く分からない。危ない目に遭ったこともない。

 仲間に話したこともあるが、虫の知らせってやつだろ、と言われるだけだった。しかし、そういったものではないのだ。数学のテストを解いているときの感覚に近い。確固たる答えがあって、その答えに近づくために脳が震えている気がする。

 鑑識課の部屋に入り、先ほどの電話の相手を見つけ、話しかけた。

 「すいません、お忙しいところ」

 「あ、いえ」

 デスクでパソコン作業をしていた相手は、こちらを一度見て、再びディスプレイを見る。マウスを操作して画面全体に画像を表示させた。

 「これです」

 そう言うと相手は立ち上がり、私に椅子を勧めた。

 「ありがとうございます」

 椅子に座り、ディスプレイに表示された画像を見た。見ているだけで体が冷えてきそうなコンクリートの床と壁、気味が悪くなるほど黒光りする鉄格子が映っている。どう見ても牢屋だ。

 マウスを操作して、他の写真をざっと見ていく。何百枚もあるので、じっくりとは見ていられない。

 「この写真、軍が撮ったんですか?」

 「そうです」

 牢屋の中にはトイレのようなものがあるだけで、他には何もない。使用感も全く無い。

 「この牢屋、使用されてたんですか?」

 「いえ、使われてなかったみたいです」

 「この部屋から被害者の足跡が?」

 「はい。あと、犯人の靴跡も」

 「あ、そうだ、犯人の靴のサイズっていくつだったんですか?」

 「えっと、かなり小さくて、二十三センチくらいです」

 二十三か……犯人が小細工している可能性もあるが、なんとも言えないな。

 ディスプレイを見つめながら考えていると、再び脳が震えるように警告し始める。つい言葉が漏れる。

 「犯人、なんでこの部屋に来たんでしょうね」

 答えを求めたわけではなかったが、相手は腕を組み、短く唸る。

 「犯行前に、この部屋の情報があったんですかね。それで、きっと金目の物があるだろうと思って、被害者に案内させた、とか」

 それも考えた。しかし、核シェルター並みの部屋の中に牢屋がある不自然さが、頭から離れない。相手も同じことを考えているのか、ずっと眉を顰めている。

 「分かりました。お忙しい中、ありがとうございました」

 礼を言いながら立ち上がり、軽く頭を下げた。

 「いえ。報告書は、明後日くらいには出せると思います」

 「よろしくお願いします」

 鑑識課の部屋を出るときも、脳はずっと震えていた。同じような事件が続かないことを祈った。

 もしかしたら、脳も何を言えばいいのか分からないから、震えながら祈っているだけなのかもしれない。

 

 三週間後に二件めの事件が発生した。

 現場からは一件めと同じ靴跡が見つかった。その他にも、防犯システムが働かなかったこと、外傷の特徴など、重なる点が多いため、連続強盗殺人事件として捜査をすることになった。

 「あー、男の子がおったわ」

 二件めの犯行現場から五百メートルほど離れた一軒家。今にも崩れそうな木造平屋建ての玄関前で、老婆がふごふごと口を動かす。

 「男の子、ですか?」

 早朝から現場周辺で聞き込みをしていたが、気付くと太陽は沈みかけていた。強烈なオレンジ色の光に照らされ、老婆の顔の皺が地層のような陰影を刻む。地震が発生したら、後ろの平屋建てもろとも地球へ還る、そんな決意の表れかもしれない。

 「そう。髪が短くて茶っこくてな。今どきの男の子」

 男の子……。

 犯人の靴跡のサイズが目の前をちらつく。

 「周り真っ暗じゃなかったですか?」

 「わしゃ年だでな、散歩のときは絶対懐中電灯を持ってくんじゃ。それで誰かいたもんでな、ビカーッと照らした。ほいだら髪が短くて茶っこくてな。今どきの男の子じゃ」

 「どんな服装でした?」

 「んー……どうじゃったかの……黒っぽかった気がするが、覚えとらん」

 「そうですか……どうですかね、身長は、僕の、この胸の高さくらいはありました?」

 「そうそう、そのくらいじゃ」

 百五十センチくらいか。

 「そのあと、男の子どうしました?」

 「森ん中入ってったわ」

 「急いでた感じとか?」

 「いや、こっちをちょっと見て普通に歩いてったわ」

 そのあともいくつか質問したが、有用な情報は無かった。危うく、老婆の今日の夕食を一緒に考えることになりそうだったので、強引に会話を切り、話し足りなそうな顔をしている老婆と別れた。こういう時、こちらも寂しくなってしまう。仕事なのでどうしようも無い。

 夏が始まり、夕方になっても生温い空気が体に纏わり付いてくる。汗で束ねられた髪が額に張り付くのが気になっていたが、老婆の情報がその感覚を吹き飛ばした。涼しい風が無くても、暑さは吹き飛ぶものだ。

 課長へ連絡するため、携帯電話を取り出す。もしかしたら、老婆の情報で事件を解決できるかもしれない。携帯電話を握る手は、久しぶりに喜んでいた。

 

 老婆の目撃証言以降、ほとんど進展が無いまま、三件めの事件が起きてしまった。

 捜査に関わる百人以上の人間が警視庁の会議室に集められ、これからの捜査方針を確認することになった。

 捜査会議が始まる直前、初めて見る顔の男が本部長に挨拶し、そのまま本部長の隣に着席した。本部長よりもかなり若そうだが、二人の立ち振る舞いを見ると、階級は同じくらいかもしれない。

 会議が始まり、まずは事件の経緯を振り返った。一人の捜査員が前に出て、パソコンとプロジェクターを使いながら事件の説明をする。被害者について、犯行現場について、証拠品について、老婆の証言について。分かりやすくまとまっていたが、その分、捜査が進展していないこともはっきり分かった。

 三十分ほどの説明に続いて、最新の捜査状況を各担当者が報告した。老婆の証言に基づいて、犯人が歩いたと思われる森の中を捜索したが、有用な痕跡は発見できなかった――報告は三十分もかからなかったが、その報告を作るために、膨大な労力がつぎ込まれている。

 「それでは続いて、これからの捜査方針についてですが……」

 進行役の課長が言った。課長は少し間を置いて、そのまま言葉を続ける。

 「……今日は国王直轄特別部隊のヨコウラさんがお越し下さっています。詳しい説明はヨコウラさんにして頂きますが、今後の捜査は国王直轄特別部隊の指揮下で行われます」

 会議室がざわめく。

 課長は、本部長の隣に座っている若い男に向かって軽く礼をして、お願いします、と口を動かした。

 私の隣に座っていた後輩が、少しだけ体を寄せてささやく。

 「コクチョク、初めて見ます」

 私もそうだった。恐らく、この会議室にいるほとんどの人間がそうだろう。コクチョク――国王直轄特別部隊という部署の存在は誰でも知っている。しかし、その業務や人員構成は誰も知らない。名称から、国王がトップで、国王の護衛をしているのかもしれないな、と想像できるだけだ。

 「只今ご紹介頂きましたヨコウラです。よろしくお願いします」

 ヨコウラの声が卓上マイクに拾われ、会議室に響いた。

 抑揚のない、しかし、明瞭な発音。まるで、

 「先ほどの言葉通り、これからは国王直轄特別部隊が捜査を指揮します」

 ロボットみたいだ。

 「一連の事件が社会に与えている影響は甚大です。可能な限り早急に解決しなければならないと国王は判断され、国直が捜査を指揮することが決まりました。長くても、国王の生誕祭までには解決する予定です。なお、国直が捜査に関わることは機密事項です。今ここにいる人以外には口外しないでください」

 国直が捜査を指揮する事例は今まで聞いたことがなかったが、なるほど、機密事項なのか。

 「捜査に参加するに当たって、国直では、二週間ほど独自に調査しました。皆さんの捜査資料も全て拝見しています。調査の結果、有益な情報を一つ得ることができました」

 会議室のざわめきは既に消え、全員がヨコウラの言葉に集中している。

 ヨコウラは口以外の部分を動かさずに話し続ける。

 「今回の事件は、三件全て、防犯システムが作動していません。そこで、警備会社のシステムを調査しました。その結果、防犯システムに脆弱性があることが判明しました。防犯システムは、外部からのハッキングにより、一時的に解除されてしまう危険性があります」

 会議室にいる人間が一斉にメモを取り始める。

 百人以上の筆音とヨコウラの声が会議室に響く。

 「恐らく犯人は、その脆弱な部分を利用していると考えられます。強盗する人間とハッキングする人間、二人以上が犯行に関わっている可能性が高いです」

 ヨコウラの眼球が僅かに動く。

 一瞬で会議室にいる人間全員の動きをスキャンしたようだ。

 「次の事件が起きるとすれば、過去三件と同じ警備会社を利用している富裕層の家が狙われるはずです。プロファイリングによって、次に狙われる確率の高い家を三軒に絞りました。これ以上被害を増やさないために、今後は、その三軒を二十四時間監視する態勢とします」

 ヨコウラは『被害を増やさないため』と言ったが、つまり、その三軒を囮にするということだろう。恐らく、防犯システムの脆弱性はそのまま残すはずだ。犯人を呼び込むために。成功すれば確かに被害は増えないが、失敗すれば取り返しはつかない。

 「では、三軒の監視を担当する人員をプロジェクターで映しますので、確認をお願いします」

 ヨコウラが言うと、スクリーン付近の明かりが消された。スクリーンには、監視を担当する人間の名前が並んでいる。どうやら三チームに分かれ、一チーム三十人ほどで一軒を監視するようだ。三交代制のようだが、それにしても規模が大きい。監視する敷地が広大なのか。

 「リュウガイさん、どのチームですか? 名前あります?」

 後輩が訊いてきた。

 訊かれる前から自分の名前を探しているが、どこにも見当たらない。

 「無いな。休んでいいってことだろ」

 「ちょっと、うらやまし過ぎます」

 後輩が笑う。

 「殺人犯捜査第三係のリュウガイ警部補、いますか?」

 突然名前を呼ばれ、一瞬固まる。

 ロボットのような声を思い出し、ヨコウラに呼ばれたと気付く。ヨコウラの姿勢は全く変わっていない。座っているロボットのパントマイムをしているのなら、完璧だ。

 「はい、ここです」

 立ち上がりながら答えた。

 「リュウガイ警部補には狙撃チームに参加してもらいます。監視チームとは別の説明をしなければなりませんので、会議終了後、私のところへ来て下さい」

 「分かりました」

 座りながら、無意識にライフルの感触を思い出す。

 ライフルを構えるまでの異物感。

 ライフルを構えたときの一体感。

 スコープを覗いたときの既視感。

 トリガーを引いたときの虚脱感。

 ターゲットを貫くときの安堵感。

 ターゲットが死んでいく嫌悪感。

 「やっぱ金メダリストは違いますね」

 後輩が笑顔で話しかけてきた。ヨコウラは既に監視作業の説明に入っている。

 「金メダル手当とか付くかな」

 「報奨金もらってるじゃないですか」

 ヨコウラの説明をメモしながら、後輩が言った。

 当然、手当なんて付かない。たとえ手当が付いたとしても、人間を射殺したあとの不快感は抑えられない。

 競技としての狙撃も、犯人を射殺する狙撃も、同じ仕事だ。

 より良い社会のため、誠実に行動するだけ。

 ただ、できれば殺したくない、という想いの分、少しだけトリガーが重くなる。

 

 生活感の無い部屋の中、ひたすら待つだけの仕事。

 明かりを点けてはいけないから、部屋は暗闇。

 ワンセグでテレビを見ても問題無いが、深夜番組は性に合わない。携帯電話でラジオを聞きながら、ペンライトを使って本を読んでいる。

 ラジオを聞きながら本を読んでいると、受験生だった頃を思い出す。友人に『ラジオを聞きながらよく勉強できるな』と言われたことがあるが、むしろ、ラジオを聞いている方が効率が上がる。無音だと、勉強以外のことが頭を過り易くなる。人間の集中力は数十分程度しか保たないと聞いたことがある。集中力の切れた頭を騙し騙し勉強させる方法がラジオなのだと勝手に信じている。

 この一週間、夜九時から朝五時まで、マンションの十二階にあるこの部屋で過ごしている。犯人を狙撃するためだ。

 狙撃チームは、二十四時間を三人の狙撃手で回しているので、一人八時間交代。交代するときに他の二人と少しだけ話をしたが、二人とも国直ではなく、軍に在籍しているらしい。

 事件が起きる確率が高い深夜を私が任されているということは、国直に評価されているということだろうか。プロファイリングでは、今監視している家に犯人が来る可能性が一番高いらしい。

 犯人は防犯システムをハッキングしてから現れる。ハッキング行為が確認された段階で、監視チームと狙撃チームに連絡がくる段取りになっているので、八時間神経を張り詰める必要はない。意外と気楽に待機できる。

 犯人が通ると思われる場所は、無数の赤外線ライトで照らされている。肉眼では暗闇しか見えないが、赤外線スコープを使えば、人の姿をはっきりと捉えられる。

 カーテンが閉められた窓の前には台があり、その上にライフルがセットされている。通常のライフルとは異なり、様々なスイッチやセンサー、計器が取り付けられている。それらの機器のアシストにより、狙撃の成功率が格段に高まる。スコープに映るものは自動的に録画されるため、狙撃時の様子は全て記録として残る。銃身が窓の外を向いているので、私の代わりに外を見張ってくれているようだ。

 持っていた本を閉じる。この部屋に来てから八冊の本を読み終えた。一日一冊以上のペースだ。さすがに飽きてきたが、他にすることも思いつかない。

 フローリングの床に置いてある飲みかけの缶コーヒーを一気に飲み干し、携帯電話の画面で時間を確認する。二時十三分。さっき時計を見てから、まだ三十分しか経っていない。休みの日も、このくらい時間の経過が遅くなればいいのに、と思う。

 突然、持っている携帯電話に着信。メールだ。

 着信音に驚いた自分を笑いたくなったが、メールの送信元が画面に表示されていたので、そんな余裕は消し飛んでいた。

 ラジオを消し、即座にメールを確認。件名も本文も“A”の一文字のみ。

 防犯システムがハッキングされている。

 窓際にあるライフルに駆け寄り、ライフルの横に置かれていたヘッドセットを装着。電源を入れる。

 「こちらT4、応答願います」

 マイクに喋りかけながら、ライフルを用意する。

 「こちらT4、応答願います」

 「こちらT2、異常無し」

 ヘッドフォンから声。

 「T1、同じく異常無し」

 「T3、人影を発見。南西の塀の前、誰か歩いてます」

 カーテンを開け、窓を開ける。ひんやりとした風が顔に当たる。外には街灯や窓の明かりが疎らに灯っているが、月明かりは無い。肉眼では、監視している家を見ることはできない。

 ライフルには既に弾が装填されている。赤外線スコープを覗きながら、ライフルを構える。

 ヘッドフォンから声が聞こえてくる。

 「背は大きくない……細身で、短髪。服は、長袖のTシャツに、ジーンズ、かな。腰に何かぶら下げてる。銃とか刃物かも」

 南西の塀……の前……。

 いた。

 「T4、人影を確認」

 赤外線スコープ越しなので、見ている物は白と黒の二色のみで表される。スコープの中で動く白い人影は少年のように見える。少年は塀に向かって歩いていく。塀まであと十メートルほど。

 突然、少年が走り出す。二メートルほどある塀に飛び付くと、そのまま滑らかに飛び越えた。

 「あ! 塀、飛び越えました! 侵入しました!」

 ヘッドフォンの声が慌てている。

 塀を乗り越えた少年は、落ち着いた様子で敷地内を歩いていく。これで、不法侵入した少年を現行犯逮捕できる。一連の事件との関連性は、その後に調べればいい。

 「T2、確保する」

 「T1も向かいます」

 「こちらT4。T3も向かえ。犯人は俺が見てる」

 「T3、了解です」

 監視チームは全員、南門の鍵を持っている。あと二、三分で、どこかのチームが犯人の所へ到着するだろう。ヘッドフォンからは風切り音が聞こえている。

 やはり、というべきか、狙撃チームなんて必要なかったのではないかと思う。あとは犯人を逮捕して終わり。ライフルの出番は無い。

 スコープの中の犯人が南門の方角を向いた。

 門が開く音に気付いたのか。耳がいいな。

 「こちらT4、犯人が南門の方を見ています。注意してください」

 犯人は立ち止まり、南門の方角をじっと見ている。今の犯人の場所からは母屋が邪魔で南門は見えない。無視してくれることを祈ったが、犯人は南門の方へ向かって歩き始めてしまった。

 「犯人が南門に向かって歩き始めました。あと五十メートル……一分ほどで見えます」

 ライフルの安全装置を解除。

 撃つ気は無いが、手が勝手に動いていた。

 仲間はどう動くだろう? 一旦隠れるだろうか。それとも、一気に確保しようとするだろうか。確保するなら、どのタイミングで飛び出すだろうか。

 様々な状況を思い浮かべ、狙撃する場面を頭の中でシミュレーションした。しかし、やはりライフルの出番は無いように思える。

 突然、身構える犯人。

 ほんの少し遅れて、スコープの画面端に捜査員が入ってきた。三人の捜査員が犯人に駆け寄っていく。一人の捜査員が犯人を正面で牽制しているうちに、他の二人は犯人の横と後ろに回り込む。犯人の後ろに回り込んだ捜査員が飛びかかる。犯人は後ろを振り返らずに、素早い動きで捜査員を避けながら、左膝で捜査員の顔を蹴った。捜査員が地面に倒れる。動かない。その様子を見ていた別の二人は、少し後退して、懐から拳銃を取り出し、犯人へ向けた。動くな、と警告もしている。

 数秒の静止。

 身構えていた犯人が、ゆっくりと両手を上げていく。

 次の瞬間、犯人は姿勢を低くしながら、物凄いスピードで、正面にいる捜査員の足元まで一気に詰め寄る。微かな光、同時にヘッドフォンから発砲音、ほんの少し遅れて銃声。捜査員が一発撃ったようだが、全く間に合っていない。足元に詰め寄られた捜査員が、ぐったりと犯人に覆い被さる。犯人は動きを止めずに、残る一人の捜査員に向けて素早く両腕を上げる。光、発砲音、銃声。捜査員が自分の手を押さえた。犯人が発砲したようだ。残る捜査員の前へ飛び込む犯人。そのまま流れるような上段蹴り。顔を蹴られた捜査員が膝から崩れ落ちた。

 既に指はライフルのトリガーに掛かっていた。

 捜査員を全員倒した犯人は、直立して辺りを見回している。

 犯人の脚にズームし、トリガーを引く。

 火薬の炸裂音。

 何故か、犯人と目が合った気がした。

 大きな瞳、真っ黒な瞳孔に、周囲の光が全て吸い込まれる。

 犯人の右足が上がる。その足元で、地面が弾け飛ぶ。

 直後、スコープから犯人の姿が消えた。

 スコープをズームアウトしている間に、ガラスの割れる音が微かに聞こえた。母屋の窓ガラスを見ると、一枚割れている。

 即刻ライフルから離れ、携帯電話を取りながら部屋を飛び出し、エレベーターの前まで走り、壁のボタンを押す。エレベーターは一階から昇ってくる。足が階段を使いたがる。落ち着け、エレベーターの方が早いに決まってるだろ、と自分の太ももを叩き、捜査本部へ電話をかける。携帯電話を耳に当てようとして、ヘッドセットをしたままであることに気付いた。

 コール音無しで相手が電話に出る。

 「状況は?」

 「悪いです。犯人は邸内に侵入。監視チームが確保に向かいましたが、全員やられました。狙撃も失敗しました。今、現場へ向かってます」

 可能な限りの早口で、一気に報告した。

 「こっちも応援を向かわせたが、たぶん、十分以上はかかる。犯人は一人なのか?」

 「はい、少年のようです」

 「……そうか、分かった。無茶はするな」

 「はい。あ、あと救急車を――」

 「分かってる」

 「すいません、お願いします」

 電話を切ると同時にエレベーターの扉が開く。乗り込み、一階のボタンと閉じるボタンを同時に押した。閉じていく扉を見ながら、先程の光景を思い返す。

 屈強な男が数分でやられてしまった。三人も。油断などしていなかったはず。相手がそれだけ強いということだ。怪我は大丈夫だろうか。酷い状態でなければいいが……。

 そのあとの狙撃。完璧な弾道だった。外れたのは偶然、犯人が足を上げただけ。避けられるはずがない。犯人と目が合うなんてこともない。落ち着こう。

 犯人が侵入した家の見取り図を思い出す。まずは家主の寝室へ行かなければ。

 エレベーターを出ると、全身の筋肉を総動員させて走った。

 息を切らせながら、南門を通る。敷地内の庭は、近くの街灯で微かに照らされている。

 地面に倒れている三人に駆け寄った。三人とも目立った外傷は無く、気絶しているだけのようだ。近くに捜査員の拳銃が落ちている。犯人が撃ち飛ばしたのか。

 ホルダーから拳銃を引き抜き、割れた窓ガラスから邸内に入る。ペンライトをつけ、足音に気を付けながら、最短距離で家主の寝室へ向かった。

 寝室から光が漏れている。部屋の明かりがつき、扉が開いているようだ。

 ペンライトを仕舞い、拳銃を両手で握る。背中を壁に付けながら、寝室の入り口ぎりぎりまで近付く。

 拳銃を構えながら一気に寝室へ踏み込む。

 視線を正面、左――

 ベッドの上に家主が倒れているが、すぐに視線を移動。

 右――

 少年が突っ立っている。

 反射的に発砲。同時に、少年は右肩を仰け反らせながら、左腕を動かす。

 少年の後ろの壁が弾ける。拳銃が叩き飛ばされる。

 少年の左手には火搔き棒。返す刀が顔へ向かってくる。

 背中を仰け反らせて回避。そのまま後ろへ跳ねる。少年は火搔き棒を両手で握り直す。

 素早く振り下ろされた火搔き棒を左へ避け、そのまま壁際まで走った。

 壁に飾られていた剣を取り、振り向きながら、追撃してきた火搔き棒を薙ぎ払う。

 相手の姿勢が崩れる。反撃。

 剣を一気に振り下ろす。犯人はバックステップで回避。さらに剣で突く。

 犯人は最小の動きで突きを避けながら、左手の火搔き棒を顔めがけて振ってきた。

 左利きか。

 状況に似合わない言葉が思い浮かぶ。どうやら脳の一部は、避けられないと判断したようだ。しかし、体は反射的に火搔き棒を避けていた。そのまま床に倒れる。

 体を起こそうとしたが、思うように動けない。足を投げ出したまま上半身を起こし、腕で体を支えながら犯人を見上げる。

 「はあっ、はあっ、はあっ」

 自分の呼吸音に気付く。犯人の息は全く乱れていない。全く相手になっていない。

 脳が白旗を降る。すると、妙な余裕が生まれた。様々なことに意識が向く。

 犯人の茶色い髪は、ヘアスプレーのようなもので固められているようだ。服は上下とも黒。手袋をしている。手術用の手袋のように見える。犯人の後ろにはベッド。家主は倒れたまま動かない。

 犯人と目が合う。子供のような目、鼻、口、顔。かわいいな、と思ってしまった。この子が三人も殺しているのか?

 「突きは、やめたほうがいいよ」

 少年の口が動いた。声変わり前の高い声。挨拶をするような、世間話をするような、自然な発音。憎しみ、興奮、怒り、嘲りのような感情は微塵も感じない。ただ、私にアドバイスをしただけだ。こんな奴に勝てるはずが無い。本能がそう言った。

 「狙撃したのお兄さん? 凄かった。胴体狙われてたら避けれなかった」

 避けたのか。信じられないが、きっと嘘ではないのだろう。

 もしかして、この言葉を言うため、賛辞を贈るため、追い打ちをかけないのか?

 本当にこの子は殺人犯なのか?

 脳が震える。

 「脳が震えるの?」

 少年が言った。

 視線はぶつかったまま。心臓の鼓動が大きくなったが、恐怖は無く、むしろ、声を聞く度に落ち着いていく。

 「なぜ、こんな、こと」

 息を切らせながら出てきた言葉はとても陳腐だった。

 「……優しい人だね」

 少年の声に、ほんの僅か、感情が現れたような気がした。寂しそうな、悲しそうな、狼の遠吠えのような声。

 「僕、少子対策法の養子なんだ。十年前、クリスマスに……」

 そこで言葉を切ると、少年は目を伏せ、火搔き棒を離した。床に落ちた火搔き棒が音を立てて弾む。

 「ごめん、忘れて」

 少年は目を伏せたまま、それ以上は何も言わずに部屋を走り去る。腰のホルダーに収まったナイフと銃がリズミカルに揺れる。その後姿が、太陽をじっと見てしまった時のように網膜に焼き付き、離れなくなった。

 追いかけたいという気持ちとは裏腹に、体の自由はどんどん失われていく。汗も酷い。額の汗を拭うために手を伸ばした。触れた液体の感触に違和感を感じ、手を見る。

 赤黒い。

 そうか、最後のやつ、食らってたのか……。そうだな、うん、もう、突きは、やめよう。

 体から力が抜けていく。上半身を支えていた腕が限界を迎え、再び床に倒れる。

 視界には天井。豪華さだけが取り柄の、品の無いシャンデリアが吊り下がっていた。

 悪趣味だな……

 

 
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