一年前、マルヴェール。十九歳のフラウは成人の儀を前に控えていました。
「お前がこの国に来て早、十年の年月が経ったのか…。見違えるように綺麗になったな」
「フォン様、私は成人したらアラヴェスタに行って働きたいのです。国を出る許可をいただけませんか?」
「ならん!わしはお前がマルヴェールから出る事を許可せんぞ?」
「なぜ止めるのです?成人したら自分の好きなように決めたら良いと以前、仰ったではないですか…」
「人間などロクな奴がおらんからだ!アラヴェスタに行ったらお前がどんな目に遭わされるか考えただけで虫唾が走る…」
「人間にも良い人はいます。私を襲おうとした傭兵たちから救う為に、身を呈して守ってくださったお方がいました」
「どうせお前の美貌に惑わされて、下心で助けただけだろう?」
「いいえ、その時の私はまだ子供でしたし、獣人の姿でしたので、私の身体が目当てだったわけではないと思います」
「他の男にやるくらいならわしがお前を嫁にもらう!」
「ご冗談はやめてください…。フォン様と私では父親と娘ほども歳が離れていますよ?」
「フラウよ、一つ条件を出そう」
「条件とは、何です?フォン様」
「マルヴェール武術大会で優勝したならば、国を出る事を許可しよう」
フォンの提案で女性のみの武術大会を開催しました。そしてフラウは見事勝ち抜いて優勝してしまったのです。
「まさか、武術の稽古嫌いのお前がここまでやれるとは…。今まで本気を出していなかったのだな?」
「私は争い事が苦手なのです。フォン様から毎朝のように稽古を付けていただきましたので、武術は心得ております」
「わかった…。約束通り国を出る事を許可しよう。だが、人間には気を付けろ。特に男は狼だと言う事を肝に銘じておけ」
「狼は獣人の方でしょう?人間は犬だと、いつも仰ってたではありませんか…」
「それは人間が上官に媚びへつらってヘコヘコしてるだけの腰抜けばかりだと言う意味だ!」
「では獣人の方が犬と言う事ですね。フォン様に逆らう者はいないではありませんか?」
「真に優れた君主と言う者は、忠実なだけの犬は好まぬ。時には君主に間違いを問いただせる者こそが優秀な部下と言えよう。アラヴェスタ国王に仕える騎士は無能な犬ばかりだ!」
「私が心からお慕い申し上げている騎士様は違います。フォン様の仰られる忠実な犬ではありません」
「その騎士を見つけたらここへ連れて参れ。本当に優れた者であるかわしが見極めてやる!」
「私は二度とここには戻りません。アラヴェスタに永住します」
「な、何を申す?お前の故郷はこのマルヴェールだろう!」
「私の生まれ故郷はアラヴェスタです。アラヴェスタの教会が私の実家と呼べます」
フォンと喧嘩別れしてフラウはアラヴェスタへ向かいました。耳を隠す為にフードを目ぶかにかぶって教会のある丘の上を目指します。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第46話です。