ゲイザーがキスをしようとすると、初めてフラウから拒否されました。
「私は醜い心を持っています。あなたを愛すれば愛するほど、自分の心が穢れて行く気がするの」
「あなたは綺麗な心の持ち主ですよ?穢れてなどいません」
「あなたに恋人がいた事を知った時、私はその恋人に嫉妬しました。あなたが恋人の事を大切に想っていた事も聞いて、そんなあなたをますます愛しいと想ったけど、その恋人にはあなたを渡したくなかったのです」
ゲイザーはしばらく考えてから口を開きます。
「私はあなたから母性愛を感じていて、それなのに私はあなたに対して性的な感情を抱いてしまう事に疑問を感じていました」
「私はあなたから身体を求められると幸せを感じます。私はあなたのお母様ではありません」
「母は若い頃とても美しく、聡明な方でした。父はとても厳しく、立派な人でしたが、私への期待が大きく、私に完璧な男になるようにと、幼少の頃より躾けられておりました」
「ゲイザー様のお母様は、さぞお美しかったのでしょうね」
「父はある日、上官の不正を世の中に暴露しました。上官は失脚しましたが、恨みを買って親族が嫌がらせを受けたのです。それによって父は親族から見放され、没落しました」
「良い事をしたのに罰を受けるのが世の中の摂理と言うものなのですね…」
「母は父を見捨てずに、そばにいることを選択して、財産放棄の書類にサインしました。母は元貴族でありながら、貧しい生活を強いられたのです」
「お母様のお気持ちは少しわかる気がします」
「私も国王の怒りを買って騎士団を解雇にされて恋人との婚約を破棄しましたので、父と同じ事をしてしまった。蛙の子は蛙と言う事でしょう」
「ゲイザー様は悪くありません。悪いのはアラヴェスタ国王の方です」
「私は母のように恋人を不幸にしたくなかったのです」
「私ならどんなに貧しくとも愛する人のそばにいられれば幸せを感じると思います」
「あなたを幸せにして差し上げたいのに、私はあなたを悲しませてばかりいます。私はどうしたら良いのでしょう?」
「私は今とても幸せです。あなたがそばにいるだけで…。あなたの昔の恋人には悪いと思うけど、あなたが私以外の人を抱いているのは、想像もしたくありません」
「あなたも昔の恋人も私なんかのどこが良いのか…。金もない、地位もない、泣かせてばかりいる…。そんな男と一緒にいて幸せですか?」
「泣き虫でごめんなさい…。あなたに逢うまではこんなに泣かなかったのに…」
「今日は少し喋り過ぎました。私の生い立ちまで詳しく話して聞かせてしまって、退屈だったでしょう?」
「ゲイザー様の事はなんでも知りたいので、話してくださって嬉しかったです」
「フラウの事も話して聞かせてください。私もあなたの事をもっとよく知りたいです。あなたとはまだ出会って一ヶ月ほどですから…」
「あなたに逢いたくて私も成人してすぐマルヴェールを飛び出して、アラヴェスタに行ったのです。騎士団が街道を行進する中にあなたを見つけた時、私はどんなに心が高揚した事か…」
二人は朝になるまで眠らず、夢中で話し続けました。最後はお互いに求め合って、力尽きるように眠りに就きました。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第45話です。